「前回のデート・ア・ライブ。
エレンの足止めを買った折紙は頃合いを見て魔力遮断装置を使って自身とエレンのCRユニットを使えなくした。その頃、アルテミシアの攻撃をかばった士道は霊力暴走が一段階進み、私たちは士道から放たれた霊力爆発に巻き込まれた。しかし、ギリギリで来た千花と、何故か敵のはずのアルテミシアによって助かった。そして、私はこれ以上の被害を抑えるために“あれ”を使うことにして皆を残して一人士道を追った。まさか、皆が追いかけてくるとはこの時思わなかったけど・・・。
場所は変わって真那の方は天使の能力を発動させて、狂三との戦いに決着が付いた。そして、事態は一転し、真那たちも私たちのもとに向かう」
~~~~~
精霊たちのもとから一人離れ、士道はショッピングモールの屋上(エレン達に吹っ飛ばされていない、別館の方)に立っていた。
琴里は少し遅れて追いつくと、士道は意識が混濁しているのか、その場を動かずぼーっとしていた。
そして、琴里はポケットを取り出すと、指紋認証だのパスワードだのを解除していつでもボタンを押せるようにする。
ボタンを押せば、衛星軌道上を飛んでいる<ダインスレイフ>の砲門から放たれる光線によって士道の存在を消滅させ、最悪な事態だけは防ぐことができる。
「ごめん、なさい、お兄ちゃん」
琴里は頭ではわかっているが実行するのにためらいがあり、なかなかじっくに移せなかったが、時折士道が苦しそうに声を漏らす。
琴里は苦しそうにしている士道を見て、目をきゅっと瞑ると、震える声で、琴里は言葉を溢し、
「こんな幕引きにしかできない私を、許して」
ボタンを――
「琴里、こんなところで何をしているの?」
押せなかった。押す直前に、琴里の後ろから響いた声によって。
振り返るとそこにはエレンの足止めをしていたはずの折紙がおり、どうやら撤退してきた途中で琴里を見かけて追いかけてきたようだった。
折紙は状況が呑み込めていないようで、琴里と士道の間を往復して見ていた。
「で、これはどういう状況?士道は一体……あと、あなたはそれで何をする気だったの」
そして、琴里に疑問を問うと、琴里が手にしているデバイスが何なのかと首を傾げる。
琴里ははぐらかそうかとも思うが、折紙に対して隠し通すのは困難だと分かっているので観念する。
「士道を殺すのよ」
「なっ……それが<ラタトスク>のやり方なの?勝手に士道を巻き込んでおいて、それにこっちじゃ最初は士道と真那だけで千花の霊力を封印したんでしょ?それなのに、勝手に出しゃばっておいて、危険になったらお払い箱な訳?」
折紙は怒りをあらわにして、そう言うと、琴里だって本当はそうしたくないと涙を流す。そこからはもう、琴里が頑張って押さえていた感情が溢れ出す。
「私だって、本当はこんなこと、したくないわよ。でも、このままじゃ、さっきの霊力爆発の比じゃない、大規模な爆発を起こしてしまうのよ!」
「……ッ!?」
「だから、せめてその爆発が起きる前に士道を殺せれば、たぶん爆発の規模が抑えられるのよ」
「でも、それじゃ、士道は……」
「それでも・・・お兄ちゃんだって自分のせいで多くの人を巻き込むのは嫌なはずだから」
琴里は涙を流しながら説明し、折紙は琴里の言い分が分からなくは無かった。士道の性格を知っているが故に琴里が言った通りだから。
「それでも、他に何か方法は無いの?今日やってきたことは無駄だったの?キスをすればパスが戻るんじゃ」
それでも、士道の死ぬことを折紙は許容できず、そう言った。
しかし、琴里は静かに首を横に振って否定する。
「もう手遅れなのよ。士道の周りにある霊力の放流のせいで霊装も纏えない私たちじゃ、近づくことも無理だわ」
「そう……じゃぁ、なんでこうなる前に止めなかったの?そもそも今回の発端だって、多くの精霊の霊力を封印してきたたことが原因なんでしょ?なんで、士道に霊力の封印をさせ続けたの?」
「それは、そうする以外に道が無かったのよ。士道をただの人間に戻すためには……」
「それはどういうことなのだ!?」
そもそも何故士道に霊力を封印させたかのという話になり、琴里が説明をすると、どたどたという足音と共に十香の声が響き、千花を除いた精霊達全員が集まっていた。
待つように言っていたのに来てしまったことに琴里が驚く。
「あなたたち、なんで……」
「あんな顔をしていたら放っては置けないだろう。それで、シドーを元の人間に戻すためとはどういうことなのだ?」
「それは……」
そして、琴里は話した。士道の中の霊力を満たしたのち、霊結晶として体外に排出させることでしか、完全に士道の中にある霊力を空にすることが出来ないのだと。
そして、全ては五年前に精霊に自分がなってしまったせいだと。
精霊たちは静かに話を聞いていた。琴里は皆に責められることを覚悟した。
「ん?でも、それって妹ちゃんのせいでは無くない?」
「うん。それに、そんなこと言ったら私たちだって、士道がそんな危険と隣り合わせだと考えずに封印させてきちゃったわけだし……」
しかし、誰一人として琴里を責めることはしなかった。
琴里があっけに取られていると、十香は琴里のそばに寄って琴里を抱きしめると問う。
「琴里は、本当はどうしたいのだ?」
「私は、お兄ちゃんを助けたい……」
「……私も同じだ!」
「ええ、それに私の質問に琴里は近づけないから無理だといった」
すると、折紙は今一度確認の意味を込めてそう言う。
折紙が考えていることが分からず、琴里は一応頷く。
「なら、あの放流を止めればもしかしたら」
「え?」
そして、琴里を含め、折紙を除いた精霊達は首を傾げた。
しかし、折紙は特に意に介することなく続ける。
「私が<ブリュンヒルデ>でこじ開けるだけのこと。そして、穴をかいくぐってキスをすれば治らない?」
「確かに、キスをすればまだ止められるかもだけど……」
「そう……ならやるだけのこと」
折紙は琴里の言葉を聞くと、琴里は<ブリュンヒルデ>の最大出力でやれば穴は開けられるかもしれないと思った。しかし、問題が一つ。
「でも、単騎で今の士道に近づくのは危険すぎるわ」
「それでも、これしか霊力の放流に穴を開ける手段が無い。それに、士道はいつも危険を冒してまで私たちを助けた。だから次は私の番」
今の士道に近づけば怪我をするのは目に見えていて、琴里は止めようとするが、折紙には止まる気はさらさらなかった。そして、琴里は折紙が止まる気が無いのだと諦め、
「分かった。頼む――」
『琴里、あの人たち鍵を複製していました!』
折紙にかけようとすると、遮るように慌てた様子で鞠亜の声が響いた。
折紙も鞠亜の慌てように飛び出すのをためらっていると、琴里が手にしていたからアラームが鳴り響く。
『<ダインスレイフ>起動コードを承認しました。目標への攻撃を開始します』
「……ッ!」
琴里は息を呑んで、手にしているデバイスを見ると画面には確かに承認されたことを証明する文字がかかれていた。
精霊たちは驚いた表情をしながら、琴里がボタンを押したのかと思い、琴里を見る。
「まさか、琴里。今の流れでボタンを押したというの?」
「まさかッ!私は押してないわ」
琴里は慌てて否定すると、慌ててデバイスを操作するがもう操作を受け付けず、空が一瞬瞬き、士道の真上から光が降り注いだ。
「士道ッ!」
琴里は叫び、精霊達も叫ぶが、叫んだところで何も変わることは無く、士道は光に包まれた。
<ダインスレイフ>を喰らってはただでは済まず、琴理の炎で治れる可能性は皆無だった。その為、皆士道のことを諦め――
「はぁー、本当にこんな兵器があるんですね。真那もびっくりですよ」
――かけると、光が収まり真那の声が響いた。
声の方を向くと士道の真上に真那が浮いていた。自身の真上で大鎌を回転させて<ダインスレイフ>の魔力を吸収したことで身の丈の何十倍もの大きさの霊力の刃が形成されていた。
狂三が提案したのは普通に飛んで行ったら間に合わないと判断したため【一の弾】で加速させるというモノだった。真那としてはありがたい提案ではあったが、あまり天使の力を使いたくないはずの狂三に聞くと、必要なことだからと、気にしないようで、あとは二人で飛んできた感じだった。
そして、光が降り注ごうとし時には士道の真上にたどり着き士道を護った訳だった。
真那はその場で横に一振りすると、霊力の刃が真那の中に収束され元の刃の大きさに戻る。
「真那、あなた、それは……」
「こまけー話はあとです。まずは兄様の方です」
琴里が真那の恰好だの、魔力を吸収したこととか聞こうとすると、真那は言葉を止めさせ、真下に居る士道に目を向ける。そして、大鎌を振りかぶり、思いっきり士道を包む霊力にぶつけた。
結果、士道を包む霊力は大鎌に斬り裂かれ膨大な量の霊力が大鎌に吸収される。結果、士道の周囲を包む霊力が無くなり、今なら近づくことが可能となる。折紙がしようとしていたことが真那によって行われ、士道はその場に未だたたずんでいたが、流石に時間がだいぶ経っているせいか苦しそうだった。
真那はそんな士道を心配そうに見るが、真那では士道を元に戻せないので、琴里たちに視線を向ける。
「つーこって、あとは任せますけど、千花さんは?」
「アルテミシアと戦ってるわ。なんか、私たちを捕まえる気みたいだったから足止めしてるわ」
「なるほど……じゃ、真那はそっち行きますね。あとは任せます」
真那はそう言うや否や、周囲の霊力を感知して千花がいる場所に飛んで行く。
「と言っても、まだ士道から時々霊力が出てるわけで危険は変わらないわね。せめて、霊装を纏えればよかったんだけど……」
「……おお、そう言えばこれがあったな」
そして、琴里が士道を見てどうしたものかと思うと、耶倶矢が何かを思い出したかのように、服のポケットに手を突っ込み、種が入った瓶を取り出す。
「それなんですか~?」
「説明。三分間だけ夕弦たちの中の霊力を増幅させる種です」
「士道をこっちに連れてくるときに真那から預かっていたモノだ」
美九が疑問を口にすると、二人はそう説明し、ふたを開けると、パクッと種を食べる。
「行くぞ、夕弦」
「呼応。行きます、耶倶矢」
そして、そう言うと二人は限定霊装を纏う。耶倶矢が琴里に瓶を投げ渡すと、二人は士道に向かって飛んで行った。
~☆~
千花はエレンとアルテミシアの二人を相手にしていた。普通に考えれば千花が負けそうなのだが、拮抗していた。
「これが、あなたの本来の力なの?」
「なるほど、確かに<ガーデン>という識別名が付くのには納得ですね」
三人のいる場所はだだっ広い原っぱだったはずが、今ではたくさんの植物が咲き、或いは生えていた。全て千花の能力で成長させたもので、木々があるだけでも、CRユニットを満足に動かせなくなっていた。と言っても、エレンは邪魔なら斬り裂いて進むし、アルテミシアは障害物があっても十全に力が発揮できるタイプなので、木々を植えまくることに意味があるのかは謎だった。
「今日はこの辺の霊力がすんごく満ちてるから、楽に成長させられるねぇ」
能力で植物を植えまくった千花は、<死之果樹園>を振り、エレンがブレイドでガードすると、千花が植えた【砲花】から花粉でできた砲弾が放たれ、エレンは随意領域で護ると花粉が周囲に舞う。そして、いくつも咲いている【砲花】から何発も放たれ、エレンは全て随意領域でガードすると、辺りに花粉が立ち込め視界が悪くなる。また、花粉には睡眠作用があり随意領域を消すわけにもいかず、長時間の随意領域使用を余儀なくされた。
アルテミシアはエレンの援護をしたいところだったが、何体もの【剣木】を装備した【木人形】と【速樹】を装備した【木人形】に邪魔されていた。
「にゃはははぁ、どうしたこんなものなのかぁ」
千花がどこぞの小物の如く、そんな笑いをすると、エレンは<ロンゴミアント>を放って花粉を吹き飛ばしつつ【砲花】を消し飛ばし、アルテミシアはレーザーブレイドの出力を上げて刃を伸ばして【木人形】を一掃した。
「これで邪魔なものは消えましたね」
「あらかた植物は片付いたけど、まだ抵抗するの?」
そして、エレンとアルテミシアは千花を挟んで逃げ場のないような位置取りに立つ。千花は頭を掻いて苦笑いをすると、どうしようかなぁ、と考える。千花の目的は二人を倒すことでは無く、精霊達が士道を元に戻し終わるまで邪魔させないことなので、
「まだまだ、捕まってあげないよぉ」
千花はそう言ってポケットから【光種】を出して、地面に叩き付ける。【光種】が割れると、まばゆい光が辺りを包み、二人は手で目を覆い、千花はまだ切り倒されていない木々の中に潜る。二人は随意領域で光を遮断して追いかけるが、木々の間には【速樹】やら二人が通るタイミングで伸びる【剣木】などのトラップがあった。しかし、そんなもので足止めされる二人でなく、全て斬り伏せる。
(それにしても今のところ出てくる植物って全部前に使ったことがあるものだけど、これ以外にもあるのかな?見たことあるのとか、聞いたことがあるやつだから簡単に対処できたけど……)
アルテミシアがそんな疑問を持つと、千花が木々を抜け、少し遅れて二人も追いつく。
「やっほぉ、ちゃんと追いかけて来てくれたねぇ。と言う訳で、本邦初公開だよぉ。<
そして、千花がそう言って地面に<死之果樹園>を地面に突き刺すと、周囲から一斉に植物が成長し、瞬く間にたくさんの木々が生い茂り、足元は赤と青の花に囲まれた。
実のところ、千花がいなかった理由は種を至る場所に植えまくっていた為だが、二人はそんなことを知らないので今の一瞬で植えたのだと勘違いしていた。
しかし、結局はただの奇怪な植物なだけで、恐れる必要が無いとエレンは考え、千花に腰の砲門を合わせ<ロンゴミアント>を放つ。
千花はそんなエレンを見ても慌てることは無く、
「ちゃんと言ったのになぁ。本邦初公開ってぇ」
のほほんとした調子で言い、その場から動くことなく<死之果樹園>を抜くと<ロンゴミアント>は徐々に威力が衰え、千花のもとに届く頃には<死之果樹園>で触れるだけで消滅した。
「なんですか、今のは?何もない所で威力が減衰した?」
エレンは目の前で起きた謎の現象に困惑を隠せないでいると、アルテミシアは、ああ、と何かに気付いたのかそんな声を漏らす。
「この辺り一面に咲いてる花の影響かな?エレンの光線が飛んでる間、なんか光ってるように見えたけど」
「正解だよぉ。この花は【
アルテミシアの分析が正解だと認めると近くにある木から栗のようなイガイガの実を手に取り、エレンとアルテミシアの間に投げる。二人は嫌な予感がして、【針実】から距離を取ると、【針実】は地面にぶつかり四方八方に針が飛ぶ。
「これまた危険なものと厄介なものが出てきたなー。というか、一体何種類植物があるのやら」
「ん?この【針実】は栗を品種改良したやつだよぉ。それぇ」
「言いながら危険物を投げないでください!」
千花がナチュラルに【針実】をまた手に取って投げると、エレンは随意領域で覆って破裂しないようにして、地面に置いてツッコんだ。そして、千花は植物を駆使して戦闘を行い、二人は対応していく。
数分繰り返すと、空が瞬き、一筋の光――<ダインスレイフ>が降り注ぐのが三人の視界に入った。
「なんですか、あれは!?」
「ん?あっちって、精霊が走っていった方のような……」
二人は手を止め、困惑すると、その間に千花はインカムで鞠亜に連絡を取る。
「鞠亜ちゃん、あれ撃ったの誰か分かるぅ?琴里ちゃんが撃ったわけじゃないよねぇ。あと、士道君無事ぃ?」
『ええ、琴里も議長も撃っていません。<ダインスレイフ>自体はなんとか間に合った真那が対処してくれました。それで、そっちに向かいましたよ。撃ったのが誰かはまだわかりませんが、おそらく
「なるほどねぇ……ちゃんと忠告しといてあげたのに、やっぱり予想通りになっちゃったかぁ。あっ、私はもう引き上げるから、真那ちゃんに伝言よろしくぅ――」
千花は鞠亜に真那への伝言を言うと通信を切る。エレンたちの方も、士道たちの状況が確認できたのか通信を切っていた。
「さて、なんだかおもしろいことになってるみたいだから、そろそろ終わりにしようか」
「ん、気が合うねぇ。私も用事がわんさかできたからちょうど終わりにしたかったんでよねぇ」
「なるほど、では押し通るまでです!」
「いえ、それは無理ですわ。わたくしが阻止しますので」
そして、三人とも戦いを終わらせようとそう言うと、影から狂三が現れるのだった。
そう言えば、一切千花の出す植物の説明を入れてなかったので一応今回出た植物の説明を。【植物魔物】以外は今までに出したのは今回出しましたので。
【
巨大な花の植物で、近くに何かあるとそこに向かって花粉の弾を放つ習性がある。しかし、敵味方の区別が無いので、時々味方に飛ばしたりもすることがあるのが難点。
【
ただのやたらと鋭くて硬い木。育った後はずっとその場に生っているだけ。
【
木でできた人形。勝手に動き、勝手に攻撃するが、<死之果樹園>で触れたモノにしか攻撃をせず、身体の一部分が地面についていることが絶対条件。地面から離れると速攻でただの物体と化し、<死之果樹園>でいじれば直ったり直らなかったり。
【
うねうね動くツタ系の植物。<死之果樹園>で触れたモノを標的とする。
【
割れると強力な光を放つ実。ただただ眩しいだけ。千花自身も眩しくて目を瞑っている。だいたい使う時は逃げる時であり背を向けているので、千花的には問題ない。
【
植物を一気に成長させる技だが、使ったり使わなかったりする。大量に植物を育てる時に使う傾向にあり?
【
ありとあらゆるエネルギーを吸収する習性のある花。得たエネルギーは地面に流して周囲の植物を成長させるのに使われている。
【
見た目が栗みたいな実を成す植物。衝撃を与えると、針を周囲に飛ばす。
こんな感じの設定です。【植物魔物】に関しては本編(6章)で一応概要は描写しましたし。
ちなみに、<死之果樹園>の説明はまだ書きませぬ。まだまだ秘密がありますので。
あっ、活動報告更新しました。