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ボロボロになった青龍の機能を六喰が閉じると、こうして青龍に襲われる心配は無くなった。残った青龍は放置しておくわけにもいかず、どうしたものかと悩む。そして、
「でしたら、千花さんに頼んで分解して処分すればいいじゃねーんですか?」
「あぁ、そっか。千花に頼めばいっか……って真那無事だったのか。狂三も。てか、千花探さないと」
「そう言えば、千花さんはどこに消えたんですの?」
「千花は宇宙の藻屑になってしまったのじゃ……過去の女のことは忘れて、主様はむくと付き合うのじゃ」
「私を勝手に殺さないでよぉー! \(>‐<)/」
いつの間にか戻って来た何故か半壊している<ヴァナルガンド>を纏った真那がそう提案し、士道は二人が無事?に戻ってきたことに安堵する。そして、狂三は千花がいないことに首を傾げると、六喰は千花の不在をいいことに士道と付き合おうともくろむ。で、それを宇宙の彼方からあり得ない速度で飛んできた千花がツッコむ。なんでそんな速度で飛んできたのかは謎で、止まりきれずそのまま通り過ぎた。
「今千花さんが通り過ぎましたね……」
「えぇ、第三宇宙速度ぐらいで飛んできましたわね」
「そんなに速度は出てないだろ……速かったけど」
「千花が何処かに消えたのじゃ」
そして、四人はそれを見送ることしかできなかった。まぁ、そのうち戻って来るだろうと思い、真那たちの首尾を聞くことにする。
「で、アルテミシアはどうしたんだ?」
「あぁ、それですが、逃げられてしまいました。まぁ、色々あって<ヴァナルガンド>は壊れちゃいましたけど」
「まぁ、あの人に対して引き分けられたのはある意味運が良かったかもしれませんわね」
同じくスカートの裾が一部破れたりしている狂三がそう言うのだった。
「ほへぇ、まさかここまでやっちゃうなんてねぇ。直す身にもなってよ、もぉ」
そして今度は普通の速度で戻って来た千花が真那の恰好を見てプンスカ怒る。真那はまずいなぁ、と思いながら頬を掻く。
「まぁ、いいやぁ。どうせそれ試作品で、ちゃんとしたのは別にあるからぁ」
「まぁ、そうですけど……」
「とりあえず、地球の時を戻して帰りませんこと?いつまでもここに居るのもあれですし……」
長話になりそうな気がした狂三はそう提案すると、四人も同意する。士道と真那は随意領域を生成し続けなければならず大変だったりするので。
「と言うことで、六喰ちゃん。穴開けてぇ」
「千花の言うことは聞かないのじゃ(プイ)」
「俺からも頼む。そろそろ霊力やばいから……」
「わかったのじゃ。主様の為にやるのじゃ」
「あいかわらず、変わり身はえーですね」
~☆~
時間が止まったままの地球に戻って来た五人は、六喰が地球の流れを止めた場所の高台に来ていた。
場所はどこでもよかったのだが戻って来る地点は六喰が決めたためこうなった。
「じゃ、六喰頼む」
「うむ、なのじゃ。<
六喰は<封解主>を地面に突き刺し、閉じた流れを再び開く。しかし、ここで困ったことが起きるのだった。
なぜだか、能力を発動させたはずなのに流れが戻る気配が無く、世界は止まったまま。
「……むん、困ったのじゃ」
「えーと、何が起きてるんだ?」
「むくの霊力切れなのじゃ。というか、こんな大きなものの流れを閉じたその日に開けるのは無理みたいなのじゃ」
「え……?」
唐突に告げられる、元に戻せないという言葉に士道は言葉を失う。真那たちもまさかの事態に困惑を隠せず、六喰はバツの悪そうな顔をする
『困りましたね。霊力の回復を待っている時間はおそらく無さそうですし』
「そうですわね。先ほど言った通り、わたくしの能力でも無理ですわ」
こうして、何の手立ても浮かばず時間だけが過ぎようとする。
「ところで、霊力封印したら能力が解除されるとかのご都合主義展開は無いのぉ?」
「いや、流石にそんなご都合主義――」
『その手がありましたね。封印すれば霊装も天使も消えるから、もしかしたら解除されるかもしれません』
千花がふとそんなことを言うと、鞠亜は少し考え同意する。前の世界でも、四糸乃の時の雪も美九の時の街の人々の洗脳も霊力を封印したら収まったので可能性はあった。しかし、一つ士道は気になることがあった。
「でも、それは六喰が俺に心を開いていたらの話で……」
「どう見ても六喰さんは兄様に心開いていますよね」
「そうだよねぇ」
「そうですわね」
「そうなのじゃ。ところでむくは霊力封印がよくわからんのじゃが……」
こうして士道の疑問は無かったことにされるのだった。
そして、六喰に霊力封印の方法の説明が行われ、六喰はその説明に納得する。
「なるほどなのじゃ……とぉう」
その結果、六喰はジャンプして士道に飛びつき、そのまま士道の唇を奪うのだった。士道はいつもの如く目を白黒させる。説明後に少しは考え悩むものだと思っていたが、そんな素振りが一切無くキスされたからだった。
すると、六喰の霊装が粒子になって消え、デートの時に買ってそのまま着た白のブラウスと紺のロングスカートの恰好に戻る。そして、辺りの木々も鳥も動き始め、こうしてこの騒動も一段落したのだった。
「ふぅ、これで今回は終わったねぇ。ということで帰ろっかぁ」
「ですわね。と言ってもわたくしはここで失礼いたしますわ。一緒に居たらわたくしまで霊力封印されそうですし」
「いや、どうせ封印できる好感度じゃないんだろ?わかんないけど……」
「はぁ……それは秘密ですわ。それではこれで」
「じゃぁねぇ」
狂三はため息をついてから一礼すると、そのまま影に潜ってこの場を去って行く。
(今回はなんだかんだで狂三に助けられちゃったな。まぁ十香の時もだけど)
「主様、主様。それでこの後はどうするのじゃ?」
「そうだな。とりあえず精霊荘に行くか。六喰もそこに住むでいいだろ?」
「むん、そうじゃな。そこなら主様と一緒に居られるようじゃし、宇宙にも戻れぬしな」
六喰は士道の提案を受け入れると、こうして四人は精霊荘に帰るのだった。
(あれ?そう言えばあの時の光線って結局なんだったんだろ?)
~☆~
「士道、緊急事態よ。何故か精霊荘にライオンが現れたのよ!」
精霊荘に戻ってくると、共有スペースの扉の前に精霊荘に住んでいる精霊達と琴里がおり、開口一番琴里がそう言った。
何がどうなっているのかわからず、首を傾げると、
「ライオンがこんなところにいる訳ないよぉ。ドッキリはやめなよぉ」
千花はさして気にした様子も無く突入していく。もし、本当にいたとしても対処できる自信がありそうだった。
そして、士道も千花を追いかけて共有スペースに入ると、
「ネルー、会いたかったのじゃー」
士道の後ろからついてきた六喰がライオンを視認すると、そう言って飛びついた。そして士道も仔ライオンのネルを見て、狂三の分身に預けていたことを思い出す。
(てか、なんでここに居るんだ?動物園に返さないとまずくないか?)
「って、いつの間にか霊力の封印が終わっているのね」
そして、今更ながら精霊荘の皆が六喰の存在に気付くのだった。
そこから、六喰の自己紹介、精霊達の自己紹介などがなされ、夕食の時間になり、士道と千花で夕食にありあわせの食材で鍋を作り、皆で食べ始める。流れ的に六喰の歓迎会のようになった。
「ところで、千花と六喰っていつ出会ったんだ?前から知ってたみたいなこと言ってたけど……」
「むん?そうじゃな。話しておくのじゃ。あれは――」
そして、士道はなんとなしにそんなことを言うと六喰は話し始める。
六喰の話を要約すると、一年ほど前に本屋に立ち寄った時同じ本に手を伸ばしたのが出会いだった。そこから意気投合して、よく会うようになり、その数か月後、大喧嘩をして会わなくなったらしかった。
(だから、千花に対して反発してたのか。てか、千花は全く六喰を嫌悪してないような……)
「ちなみにその喧嘩は何が原因だったのだ?」
一通り話を聞くと、十香は六喰にそう問う。六喰はその時のことを思い出したのか、苦い顔をする。あまりにも理由がすごいから言わないのかと思うと、
「ただ単に、いろんなゲームを一緒にして私が勝ちまくったせいでへそを曲げちゃっただけだよぉ」
鍋の具材をすくいながら千花は喧嘩?の原因を言う。理由がなんとも言えない為、皆なんとも言えない表情になり、微妙な空気が流れる。
「千花が悪いのじゃ!どのゲームをしても、むくの心を聴くのじゃ!」
『『『あー』』』
六喰の言い分を聞くと、千花以外のメンバーは心当たりがあるようでそんな声を漏らす。その結果、悪いのは千花なのでは?と皆思い、千花に視線を向ける。鍋からすくった豆腐を食べていた千花は、飲み込むと反論をする。
「あの時は仕方ないんだよぉ。あの頃はまだうまく心聴きが制御出来てなかったんだもーん」
「そうだ。結局心聴きってなんなんだよ。千花のは読心術じゃなかったのか?」
「いや、まぁ、読心術だけどぉ……心聴きの方がかっこいいかなぁ?とか思った訳でぇ」
「つまり、結局は読心術なのか?」
「うん。広義的な意味だとねぇ。それと、今は六喰ちゃんの話でしょぉ」
話が逸れたが、こうして千花の秘密がまた一つ暴かれたのだった。
「で、結局どうするんだ?いつまでも喧嘩してるわけにはいかないだろ?これからは一緒に暮らすわけだし」
「それなのじゃが、後でむくと勝負するのじゃ!それではっきりさせるのじゃ!」
「分かったよぉ。受けてたっちゃうよぉ」
そして、六喰の案に千花は乗り、夕食後二人の戦いが行われるのだった。
ちなみにネルは動物園に居たのだが、結局六喰に懐いてしまい、動物園に帰るのを拒んだため、なんやかんやして精霊荘に番犬ならぬ番ライオンとして住むことになったのだった。
~☆~
「何この状況……」
「さぁ?よくわかりません」
『無表情の六喰ちゃんに、真剣な表情の千花ちゃんだねぇ』
夕食後、お風呂に入ってお風呂から上がった七罪と四糸乃とよしのんは共有スペースの空気に首を傾げるのだった。
二人の決闘はテレビゲームで、いろんな作品のキャラによる大乱闘するゲームのタイマンだった。千花は黄色いネズミで、六喰はピンクの悪魔を使っているのだが、よしのんが言った通り、二人の様子がおかしかった。
「六喰さん、なんで無表情なんですか?」
「……」
「反応が無いわね。千花ー」
「今いいとこだからちょっと待ってー」
『あ、こっちは反応があったや』
とりあえず、千花に言われた通り、戦いが一段落するまでソファーに腰を下ろして観戦しながら待つ。それから数分後、ピンクの悪魔がネズミを吸い込んだ状態で場外にダイブして、六喰の勝利で終わった。ちなみにこの勝ち方は友達を無くすのでやらないように。
そして、リザルト画面になると、六喰は唐突に天使を出して、自身に当てた。
「なにしてるの?」
六喰の行動に二人は六喰の能力を知らない為また首を傾げる。すると、六喰の表情がほぐれ、
「むくの勝利なのじゃー」
「にゃー、負けたぁー」
勝利に喜ぶのだった。そんでもって千花は悔しがる。
「で、何が起きてたわけ?」
とりあえず、普通に会話ができそうなので、七罪は早速聞いてみる。六喰は、ハッとすると、七罪たちに説明する。
「むん、千花が心を読むから、むくの心を閉じて考えを読ませないようにしたのじゃ」
「六喰ちゃんの天使で感情消してただけだよぉ」
「……天使使ってまでってどこまで本気なのよ……」
六喰の勝ちへの執念に七罪は若干呆れ、四糸乃も苦笑いを浮かべる。
「これで、むくは千花を許せるのじゃ。それに、こうすれば心聴きされないから勝てるのじゃ」
「別に制御できるから、いちいち天使使わなくていいんだよぉ。まぁいいやぁ」
これで六喰が勝てたから過去の清算が付いて、これからは仲良くやっていけそうだった。
「七罪ちゃんと四糸乃ちゃんもやるぅ?」
「そうね。でもどうせだからみんなも誘ってくるわ」
「そうですね。皆でやった方がゲームは楽しいですしね」
千花が誘うと、二人はそう言って他のメンバーを誘いに行く。
共有スペースに残された二人は、もう一戦にやって待とうとすると、六喰が何かを思い出したように口を開く。
「そう言えば、千花はちゃんと心聴きの説明をしなかったが、本当にしないのか?」
「ん?あぁ……言ってもどうにもならないしねぇ。ただ心配事を増やすだけだから言わなくていいかなって。どうせ、今は問題ないんだしぃ」
「むん、千花がそれでいいならむくもそれ以上は言わないのじゃ。主様ならおそらくは心配するじゃろうしな」
六喰がそう言うと、対戦が始まり、その数分後皆が集まるのだった。
これで、九章は終わりです。
ちなみに、黄色いネズミとピンクの悪魔があのゲームだどよく使う・・・というか、それ以外あんま使わない・・・
では、また土曜と日曜の狭間に。