デート・ア・ライブ パラレルIF   作:猫犬

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3話 お悩み相談

士道は誰もいない風呂で、湯に浸かってゆったりしていた。その状態で士道は今日あったことを思い出す。

 

(二人から聞いた話はおそらく本当のことであり本心だよな。だからあの二人は信用できる……はず。でも、あの口ぶりから<ラタトスク>にいる全員を信用できるわけでもないこともわかったからな)

 

結局、士道は士道自身どんな決意を固めればいいのか決めかね、静かな時間が過ぎていく。

そんな静かな時間も、浴場の扉が開く音で途切れる。この浴場は大きく、普通と高温と少しぬるめの三つの湯船があり、高温の湯船の湯気で視界はぼやけ気味だった。その為、普通の湯船に入っている士道からだとドア辺りは見えにくい。

 

(ん?俺と同じで入りそびれた人か?それとも先生か?まぁ、静かにしてればいいか)

 

そんな感じに考え、士道はあまり気にしなかった。先生なら許可を取ったことを伝えればいいので。

入って来た人は、士道がいることには気づいていないようで、シャワーを浴び始める。

そんな様子を士道は静かに見ていた。いきなり声を掛けても驚かせかねないので。たぶん、向こうが士道に気付いて驚く可能性はあるが……。

 

(ん?気のせいだよな?なんか髪長い気がするんだけど……いや、髪長い男子だっているからな……。そう、きっとそうだ。まさか女子が入って来たなんてこと……ないよな?でも、腰近くまで髪を伸ばした男子なんて見たこと無いし……)

 

士道は相手が誰なのか記憶の海から探す。しかし、そんな男子などいなかった。

そんなことを考えていると、シャワーを浴び終え、湯船に近づいて来る。

次第に見えてくるシルエット。長い茶髪と一房の黒髪、何故か身体の前に当てるタオル、そして、

 

「……え?いや、なんで千花!?」

 

思いっきり見覚えのある顔。

千花は何故か男湯に入ってきていて、士道は慌てて後ろを向く。

 

「ほえ?」

 

千花も士道の存在に気付くと、驚いていた。

 

「士道君が堂々と女湯にぃー!」

「いや、ここ男湯ー!」

 

そして、二人の叫びが響いた。もしこの状況を他の誰かに見られたら大惨事になると気づき、士道は千花を見ないように気を付けながら、慌てて風呂場を後にしようと立ち上がろうとする。

 

「待って、士道君。このホテルの大浴場は十一時まで来禅の貸し切りなんだってさぁ。それに私たちが最後みたいだから、慌てて出なくていいよぉ。もう少し浸かっていたいでしょぉ?」

 

そんな士道の行動を千花はいつもの調子で止める。士道的にはもう少し湯に浸かっていたいところだったりするので見透かされている感覚があった。

 

「もちろん、私は気にしないからねぇ。と言っても、もうちょい後ろ向いていてねぇ。さすがに裸は見せないからぁ」

「それでも、出ておくよ。俺の理性が持つうちに」

「ふむ、士道君はここを出ることはできないのだよぉ。なぜなら出ようとしたら私の身体を見ることになってしまうからぁ」

「目を瞑って歩けばいいだろ?」

「なら目を瞑っている士道君に足掛けを食らわそうかなぁ?」

「危ないから止めてくれ!……はぁ、じゃぁお言葉に甘えてもう少し温まらせてもらうよ」

 

千花の危険発言に士道は出るのは困難だと判断して諦める。そして、千花が湯船に入ったのか波が立つ。士道はこのまま入っていればいいのかと思いながら温まっていた。千花ものんびり温まっているので特に話しかけてくることも無く静かな時間が流れ、

 

「……むにゃ、むにゃ……」

「ちょっ!?」

 

唐突に寝息のようなものが聞こえてきた。士道は嫌な予感がして振り向くと、反転させて浮かした洗面器に顎を乗っけてすごくリラックスしていて、千花と目があった。

 

「士道君、どうしたのぉ~?」

「いや、その、寝息みたいなのが聞こえたから、寝たのか、と思ってな……」

 

タオルを巻いて、湯によって光がねじ曲がり、湯気で若干視界が悪いが、それでも千花の姿はよく見えてしまっている為に、士道はたどたどしい言葉になってしまった。

千花はあまり気にしていないのか、体勢を変える気も無いらしくリラックスしたままだった。

 

「さすがの私もお風呂で寝たことは数回しかないよぉ~」

「寝たことあるのかよ……それで、千花はいいのか?俺にその、見られても?」

「ん?タオル巻いてるから問題ないよぉ。私はタオルを信じてるからぁ」

「なんで、タオルにそんなに信頼をおいているのかは謎だけど……タオルはそんなに万能じゃないぞ?」

 

千花の謎のタオルへの信頼に、若干困惑するが気にしたらいけないと思うのだった。

そして、そう言えばと士道は気になることがあったことを思い出した。

 

「そういえば、なんで屋上に居たんだ?それも貯水タンクの上で気配を消して」

「え?気づいていたのぉ?」

 

千花は士道には気づかれていないものだと思っていたが為に驚き聞き返す。士道自身あの場では気づいていたが、千花が自らの意思で気配を消してるようだったので士道は声を掛けなかった。正解だったのかは士道には分からなかったから、今聞いた感じだった。

 

「もちろん、言いたくないなら別にいいけど……なんか悩みがあるなら、力になれるかはおいといて聞くぞ」

「いや、悩みでは無くて、ただあそこで寝てただけだよぉ。星もよく見えたしねぇ。それと、悩みがあるのは士道君の方でしょぉ?」

 

洗面器から顔を離し、士道の顔をちゃんと見てそう聞く。千花の表情からして、鎌をかけたわけではなくて、確かな確信があるようだった。よくよく考えれば、千花は読心術を体得してるから秘密とかはすぐばれることを思い出した。

士道は頭を掻き、ばれているのなら隠すのも悪いと考え、今日十香に会ったこと、それと十香に言われたことを話した。

千花は静かに相槌を打ちながら、しっかり聞いていた。

 

「なるほどねぇ。それで、士道君は自分がやってきたことが間違いだったんじゃないかと思った訳だねぇ」

「あぁ、皆を危険な目に何度も遭わせてるわけだし、封印してなければそんな目にも遭わなかったんじゃないかと思うとな……」

 

気まずいがために後半は目を逸らしながら言うと、千花はそんなこと思ってるんだ、と小さく呟いた。小さかったこともあって士道の耳には届かず、そのまま話が続く。

 

「でも、みんな今の生活には満足してるし、自分の意思で戦ったんだから士道君は気にしすぎだよぉ。それに、みんななんだかんだで無事なんだからぁ」

「でも、それも結果だろ。間違えば怪我もしたし、死んでいたかもしれない。そう考えると、俺のしてきたことはただの偽善だったとも思えてくるよな」

「んとぉ、一つ聞いていい?」

 

士道が自嘲気味な態度になり、千花は首を傾げる。千花が何について引っかかっているのか分からず、首を縦に振って言葉を促す。

 

「あのさぁ、士道君は精霊の皆を助けたこと後悔してるぅ?」

「……いや、後悔はしてない。それが最善なんだと思っていたから」

「じゃぁ、それでいいんだよぉ。それに、偽善だと言われるんならそれを突き通して、偽善じゃなく善意だと証明すればいいんじゃないのぉ?」

「言うのは簡単だけど、それを証明することなんてどうすれば……」

 

千花の言葉を聞いて、士道は悩むがそれを証明する方法なんて思いつかなかった。千花は分かっているのか?と思いまた洗面器に顔を乗せて、ぐでーとしている千花に目を向ける。千花は士道に見られているのに気づくと顔を上げる。

 

「私を見てもその答えは教えられないよぉ」

「千花は自分でそれを見つけろって言うのか?」

「ううん、私もその方法知らないもーん。というか、それってその人の主観で決まるんじゃないのぉ?その人が鰻だと思えば鰻だし、穴子だと思えば穴子ってことになるだろうしねぇ」

「その例えは……なんか分かり難いな」

「私は鰻と穴子の違いが全く分かりません!見た目似てるし、かば焼きにして並べれば見分けつかなくない?」

「いや、そんなことドヤ顔で言われても……」

 

士道は千花のよくわからない例えと謎のテンションに困惑するが、なんとなく千花の言いたいことは分かった気がした。

 

「ちなみに私の区別の仕方は売ってる商品のラベルを見るだねぇ」

「つまり、偽善だと思えば偽善だし、善意だと思えば善意になるってことか」

「ありゃ?普通にスルーされちゃったぁ。まぁ、そういうことだねぇ。士道君は自分で決めたことを曲げずに、自分の思った通りにすればいいんだよぉ。それが、士道君に救われた私の考えかなぁ」

 

(つまりは俺の思うように十香と接して、十香に信用してもらうしかないか。ん?それって結局いつも通りってことか?まぁ、自分を偽って接したらダメか)

千花と話したことで、十香に告げられた一つの答えは出た気がした。しかし、まだ<ラタトスク>との関係性をどうすればいいのかという問題を抱えていた。このままの状態では、絶対に突っ込まれる。

 

「士道君、<ラタトスク>の問題に関してはそもそも存在してないはずだよぉ?」

「え?どういうことだ?」

「いや、だって私も士道君も<ラタトスク>とは協力してないじゃん」

「……あっ、そういえばそうだった」

 

千花に言われて気付いたが、こっちの世界じゃ士道も千花も真那も四月の時にキッパリと<フラクシナス>とだけ協力すると明言していたことを思い出した。なんだかんだで一周目と記憶が混濁していたからそうだといつの間にか思ってしまっていた。

 

「つまり、<ラタトスク>との協力関係問題は……」

「うん、無いねぇ。士道君も忘れん坊さんだねぇ」

 

千花は士道の悩みが解決したことで安心したようで顔が綻ぶ。士道も安心すると、湯船の端に頭を乗せ、足を延ばしてリラックスする。

 

「士道君の悩みが解決したところで、私の悩み聞いてもらっていい?」

「あぁ、俺の悩みを聞いてもらったし、俺で力になれるのなら」

「おー、士道君ならそう言ってくれると信じていたよぉ。そしてなんと、この悩みは士道君にしか解決できないものなのですぅ!」

 

千花は士道の目を見てそう発言し、士道だけしか解決できない、という部分に士道は何故?と首を傾げた。

 

「私の悩み、それは……」

「それは?」

「目の前にタオル一枚の女の子がいるというのに、士道君の反応がおかしいということぉ。普通もっとドギマギするはずなのに、最初以降はずっと落ち着いているし、こうなると私を異性として見ていないのでは?と思えてきちゃっておりまぁすぅ」

 

千花のテンションはいつも通りなのだが、目は一切笑っておらず、このままだと千花の霊力が逆流する可能性が士道の頭によぎった。

 

「いや、平常を装てるだけで内心はずっとドキドキしてるぞ」

「本当にぃ?私はみーちゃんや夕弦ちゃんみたく胸大きくないしぃ、四糸乃ちゃんや七罪ちゃんみたいなロリでもないんだよぉ」

「なんで比較対象にロリが入るんだ?」

「だって、士道君ロリコンじゃん」

 

千花は真顔でそう即答した。千花の中では士道の性癖がロリコンで固められているようだった。

 

「いや、俺ロリコンじゃないからな!ノーマルだからな!」

「……まぁ、そういうことにしておくとしてぇ。じゃぁ、私の身体に興味あるってことでいいのぉ?」

「……」

「おぉ、悩んでるねぇ。正直に答えてくれたら士道君がしたいことさせてあげなくもないよぉ」

 

千花は士道の思っていることが分かっているようだが、士道の口から言わせたいがために、そんなことを言う。

士道の頭の中では、色々な想像が浮かんでいたりした。

 

「……興味はある(ボソッ)」

「えー、よく聞こえないなぁ」

「千花の身体に興味はある」

「ふふっ、よく言えましたぁ」

 

千花は士道の口から言わせることに成功して、満足そうな表情をする。

 

「まぁ、言ったからって士道君が考えてるようなことはしないけどねぇ。さすがに十八禁展開はしません!ちゃんとタグ見なよぉ」

「え?」

「……え?」

 

千花の宣言に、士道はつい声を漏らしてしまい、その反応に千花も驚き声を漏らす。千花としても冗談のつもりだったし、士道も冗談だとわかっていると思っていたりしていた。

 

「あっ!いや、なんでもない。うん、なんでもない」

「だよねぇ、さすがに士道君がそんなこと考えているわけないよねぇ」

「もちろん、さすがにそんなことは考えてないよ……あっ」

「だよねぇ……で、そんなことってなーにぃ?」

 

士道は言ってから失言に気付き、千花も気付いているようでそう聞き返す。ついでに底に手をついてゆったりと距離を縮めてくる。その際に谷間が見えて、士道は慌てて目を逸らした。

 

「いや、そのー」

「はぁ、机の引き出しの一番奥と百科事典のケースの中に隠してる“お宝”の読み過ぎだよぉ。そんなの現実じゃほぼ無いよぉ」

「はっ!何故それの場所を!?」

「【記憶樹(メモリツリー)】だよぉ」

 

士道のお宝の場所を千花が知っていた理由を聞くと、何故か納得いきそうになるが、寸での所で気づく。大抵のことがあの時の【記憶樹】で知られてしまっていることに。

(つまり、あの時一緒に居た真那にも・・・)

 

「俺のプライバシーは?」

「ドンマイ」

「はぁー」

 

士道は千花に色々知られてしまっていることを改めて実感しため息をつく。

すると、ガチへこみしている士道に千花は見かねてある提案をする。

 

「仕方ないなぁ、士道君はぁ。じゃぁ、士道君のお宝の中にあったシチュの一つをやってあげるよぉ」

「え?いいのか?」

「別に私は士道君としてもいいしねぇ。士道君のこと好きだしぃ。しかも、今は二人きりであり、人も来ないよぉ」

「ん?でも、時間が経てば先生たちも来るだろ?」

 

千花の言いようだと、絶対に誰も来ない自信があるようで士道は疑問に思った。千花は士道の疑問に対する答えを口にする。

 

「誰もこの浴場には入ってこられないよぉ。扉はツタで縛ってあるからねぇ。開けれるのは完全状態の精霊ぐらいだよぉ。まぁ、扉を破壊すれば入れるけどぉ……」

「なるほどな……」

「それで、どうするのぉ?士道君は私とここでしたいのぉ?」

 

千花の何度目かの問いに士道はそろそろ自分の理性を止めきれなくなりそうだった。

 

「俺は……」

「俺はぁ?」

 

士道はどう答えればいいのか迷いながらも言葉を紡ごうとし、千花は士道がどう答えるのかと見ていた。

その際に、何かを覚悟しているかのような、そんな目を千花はしていた。

(千花はなんでそんな目をしているんだ?まさか、そういうことをする覚悟を決めたっていうのか?)

千花が何を覚悟したのか分からず、そんな予想を立てた。そして、その覚悟の目を何度か見たことがあるような気もした。まるで、精霊たちを護るために誰かと戦う時のような。

(誰と戦う?ここには俺と千花だけ。つまり……俺?なんで……)

そして、士道はつい数分前に千花が言った言葉を思い出した。

 

“士道君は自分で決めたことを曲げずに、自分の思った通りにすればいいんだよぉ”

 

(思った通りにするのであれば、千花がそんな目をするのはおかしい。つまり、俺が千花に何かしたら……決めたことを曲げたことになる?俺が決めてることは……精霊達を護りたい、全員救うまでは……あっ)

 

「そうだったな」

「ん?士道君が一人で勝手に完結したぁ」

 

士道が結論にたどり着きそう溢すと、千花は士道の答えを察したようで、いつもみたいな温和な感じに戻る。

 

「俺はしないよ」

「それは、私には魅力が無いってことぉ?」

「違う、確かに千花のことは好きだし、そういうことをしたいと思わないとは言わない。でも、俺は決めてるんだ。精霊の皆を救うまではそういうことはしない。だから、千花と今そういうことをするのは、ダメだ」

 

士道は自身の気持ちを固め、はっきりとそう言った。千花はうんうんと頷く。

 

「いやぁ、良かったよぉ。ここで士道君が私にそういうことをしたいって言ったら、私もそれなりのことをしなくちゃいけなくなるところだったよぉ。さて、そろそろ出ようかぁ」

「だな、ここ男湯だし、千花がここ出るのを誰かに見られたら問題になっちゃうだろうな」

 

二人はそう言って風呂を出るのだった。もちろん、千花が先に出てある程度着替え終わったら、士道も出て着替えたが。

士道が服の袖を通し終え、荷物をまとめるとふとした疑問が浮かんだ。

 

「ところで、俺がそういうことしたら、何をする気だったか気になるんだけど?」

「それは秘密ぅ」

「教えてくれないのか?」

「秘密ぅ」

「……まぁ、言いたくないならいっか。今なら誰もいないな」

 

そう言って、士道は扉をくぐり、周囲に誰もいないことを確認すると、千花もさっと扉をくぐるのだった。




タグはR15なので、そういうことは起こりません。というか、15と18の境界線がいまいちわからないし、そもそも書けない気がする。

なので、そういうのをR18の方で書いてと言われたとしても書けません。

次回からは十香とちゃんと絡みます。前回、今回出てきてないし。
あ、そろそろクリスマスの番外編書かないと。書き終わるかな?構想と時間が~

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