デート・ア・ライブ パラレルIF   作:猫犬

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5話 少女の秘密

「兄様、大丈夫でいやがりますか?」

「う、んん」

 

誰かの声で意識が戻って来て瞼を開けた。

未だに視界は薄暗く、どれくらい気絶していたのだろうか?

そんなことを考えていると、士道の視界には安心している真那の顔が映った。

 

「はぁ、よかった。どうやら無事のようですね」

「あぁ、真那か。心配かけたか。うっ」

 

地味に痛い首を抑えながら起き上がる。周囲は士道が樹を失う前とあまり変わってはいなかったが、ASTは全員地面に倒れていて、昏睡状態になっているようだった。

 

「まさか、所用で離れている間にこんなことになっているとは。で、兄様はここで何を?」

「ああ、ちょっとな。それより千花は?」

「<ガーデン>ですか。彼女ならこの巨木の上に飛んで行きましたよ。ASTの方々は皆眠らされたので、おそらく今動けるのは真那たちだけですね。なので、兄様はここにいてください。真那一人でケリをつけやがります」

 

そう言うと、真那は顕現装置の操作を始める。

 

「待ってくれ!俺も行く。千花を止めたいんだ」

「何を言ってやがりますか。民間人の兄様を危険に巻き込めねーですよ。だからおとなしく待っていてください」

「頼む、千花を救うために。千花は何かがおかしかった。それに、この粉は何故か俺には効かないみたいだし」

「えぇ、それは見ていれば分かっていますが……はぁ、わかりましたよ。その代わり、真那のそばを離れねーで下さいよ」

 

士道が引かないことを察し、時間もあまりなさそうなので真那は頭を掻きながら妥協する。

 

「ありがとう、真那」

「はい!じゃぁ行きますよ」

 

そう言って真那は随意領域を周囲に張り、二人の身体を巨木の天辺に向けて上昇させていく。

 

 

 

~☆~

 

 

 

巨木の天辺に着くと、太陽の光で周りが明るくなる。そして、適当な足場になりそうな枝に着地する。

 

「ここの何処かに千花が」

「えぇ、おそらくは中心かと。中心の方から霊力を感じます」

「そうか、じゃぁ行くか」

 

そう言って、二人は歩き出す。

少し歩くと、周りを警戒しながら真那が聞く。

 

「で、兄様は一体何者なんですか?あの粉も効いていないようですし」

「いや、俺にもよくわからん。千花が言うにはあの粉は悪意がない人には効かないんだってさ。俺に悪意ってないのかねー」

「なるほど、了解しやがりました。兄様に悪意がねーのかは真那には分かりませんが、無事でよかったです。ですが、まずは彼女からですね」

 

そう言いながら、この巨木の中心を見る。見た限りでも中心まで数百メートルはありそうだった。

枝の上を歩いて、だいぶ中心に近づくと、周囲の警戒をしていた真那が再び口を開いた。

 

「ところで、どうやって彼女を止めやがるつもりなんですか?」

「ん?とりあえずは、対話を試みて止めたいと思ってる」

「本当に可能なんですか?いつもの彼女なら言葉が通じるかもですが、今の彼女に通じねーかもしれませんよ」

「それでも、やらなきゃいけないんだ」

「そうですか……わかりました。でも、兄様に危険がせまったら真那が彼女をやりますからね。おっ、そろそろみたいですね」

「おう」

 

話しながら進んでいると、巨木の中心に大きな穴が見えてきた。

そして、

 

「おや、もう起きて来ちゃったんだ。もう少し寝ていればよかったのに。まぁいいか」

 

穴の前には千花がいた。

 

「さぁ、いますぐこんなことは止めやがってください。抵抗はお勧めしませんよ」

「真那ちゃんこそ、そんなことやめなよ。人間じゃ私は倒せないよ。できれば士道君の妹なら傷付けたくないし、帰ってよ」

 

千花が何もない空間から、スコップを出す。

 

「交渉決裂でいやがりますか。では仕方ないですね」

 

「仕方ないなー。【木人形(ツリードール)】」

 

そう言って、真那はレーザーブレードを構え、千花は持っていたスコップを足元の木に刺す。

すると、辺りの木が動き、そこから複数体の木でできた人形が生成される。

【木人形】の生成が終わると、【木人形】が真那に向かって突っ込む。真那はレーザーブレードを振るい、【木人形】を切り裂く。

しかし、倒しても辺りから【木人形】がどんどん生成されていく。

 

「兄様は彼女を。この人形は私が相手をします」

「わかった。頼んだぞ」

 

すると、真那は人形の相手をしながら、道に向けて叫んだ。真那に返し、士道は千花に元に行く。

千花の五メートルほど前に来ると、突然足元から植物が伸び、二人の間を遮る。

 

「せっかく、眠っている間に世界を綺麗にしようと思ったのに。仕方ないからそこで世界の行く末でも見ていなよ」

「一体、おまえの身に何があったんだよ?いつもの千花に戻ってくれ!」

 

千花は士道の言葉を聞いて、どこか遠くを見た。

 

「いつもの私、か。じゃぁ、世界の浄化をしている間に、一つ話をしようかな?」

 

そう言うと千花の足元から植物が伸び、千花はその植物に触れる。

すると、木の範囲が広がり始めた。

 

「まず、私は千花であって千花ではないよ。私はこの子の天使、サマエル。本来ならこの子は十の悪意を絶って吸収し、その十の悪意を植物という形に還元して浄化していた。しかし、今日千花はその身体に十一の悪意を内包し、限界量を超えた。その瞬間、彼女の周囲にいた人の心の底にあった小さな悪意すらも無条件に強制的に吸収し始めていった。このままでは彼女は吸収した悪意によって取り返しのつかないことになっただろう。だから私が彼女と入れ替わり、暴走するのを抑えた」

「つまり、暴走しそうな千花を守っていると。じゃぁ、なんでこんなことをするんだ?サマエル、おまえが千花に溜まった悪意を還元すれば……まさか」

「どうやら分かったみたいだね。そうだよ、還元しようとしたよ。でも、ダメだった。そう、この木が千花に溜まった悪意を還元した結果だよ。そして、どんどん悪意を吸収していき、千花の心を抑えるのも大変なんだよ」

「つまり、還元しても吸収する範囲が広がり続けて還元しきれないってことでいやがりますか?だから、木は成長を続けたと」

 

真那は【木人形】の相手をしながら二人の会話を聞いて、その状態でサマエルに問う。

 

「うん、正解。だから私は考えた。人間を永遠に眠らせれば悪意の吸収を防ぎ、これ以上の増加を抑えられるのではと。そして、それは正しかった。今は吸収の速度が低下してきた。だから、私はこの子を救うためにすべての人間を眠らせる。まぁ、すべての人間を眠らせた時、私の人格は霊力を使い切って消えるかもだけど。でも、この子が手を汚すよりはマシだから……」

 

サマエルの言葉を聞き、士道と真那は言葉を失った。

千花は悪意の還元をしただけで災厄の精霊になるかもしれず、サマエルは千花を守るためなら消えてもいいと。

 

「こんなのは間違っている。二人ともただ悪意と戦っただけなのに……」

「ふふ、ありがとうね、士道君。まぁ、千花を救う方法はあるけど」

「方法って何なんだ?」

「簡単だよ。士道君、君がいればね。だから、士道君。協力してくれるよね?」

 

サマエルはそう言って、手を出す。

 

「どういうことなんだ?」

「させませんよ。それでは、兄様が危険でいやがります」

 

士道の後ろにはいつの間にか真那が来ていた。

どうやら、【木人形】はすべて倒したようで、サマエルも真那に対しては【木人形】は意味がないと判断し、生成をやめたようだった。

 

「はぁ、仕方ないですね。やはり、ここであなたを倒すしかないですか。あなたを気絶させ、この負の連鎖を絶ちます」

「まぁ、そうなるよね。真那ちゃんは人を救うのがお仕事だし」

 

そう言って、二人は武器を構える。

 

「やめろー」

 

そして、士道が叫ぶ中、二人は激突した。

 

 

 

~☆~

 

 

 

一方、フラクシナスでは。

 

「司令。未だにあの巨木は成長を続けて、天宮市を覆い尽くし、粉による被害は風に乗って周囲の街にまで広がっています」

 

コンピュータを操作していた椎崎は被害状況を告げる。

<フラクシナス>は巨木の上を航行しており、粉による被害を受けておらず、この事態を分析していた。

そして、琴里は司令席に腕を組んで座り、この状況に困惑していた。

 

「えぇ、これはまずいわね。あの木を<ミストルティン>で破壊しても、二次被害になりそうよね。それで、精霊の方は?」

「どうやら、DEMからの魔術師(ウィザード)一人と戦っているようだ。ん、これは?」

 

令音は二人が戦っているモニターを見ていたら、一瞬他の人を見た気がした。

 

「どうしたの、令音?」

「ん、なんでもない」

 

しかし、見間違いと思い琴里には言わなかった。

 

「司令、緊急事態です。陸自の駐屯地から高密度の熱源反応が確認されました」

「何!?モニター出して」

「はっ」

 

箕輪がモニターに映像を出すとそこには、

 

「これって、輸送機よね?中にDEMから持ち込まれた無人兵器でも入っているのかしら?場合によってはこちらも動くわよ。神無月、一応準備をしておいて。それから――」

「了解しました」

 

そう言って、神無月はヘッドセットを付ける。

琴里は各員に指示を飛ばすと、モニターを再び見た。

そこには大きめの輸送艦が巨木に向けて飛んでいるのが映っていた。

 

 

 

~☆~

 

 

 

二人の戦いは激しかった。

基本はレーザーブレードとスコップがぶつかり合い、たまに装備のミサイルなどが飛び、サマエルもポケットから出した種を使って応戦していた。

悪意を吸い取ってしまう千花をどうやって救えばいいのか。

どちらも一歩も引かない中、士道は千花を救う方法を考えながら二人の戦いを見ていた。

すると、戦いに変化が起き始める。

最初は五分五分だったのだが、徐々に真那が押され始めていた。

最初は、真那が消耗してきたのかと思われたが、徐々にサマエルの動きが良くなっていたのだった。

そして、士道は一つの可能性に気づいた。

 

「まさか……?」

 

確かな確証はないが、もうこの可能性に賭けるしかなかった。

 

「二人ともやめろー」

 

あらん限りの声を出して士道は叫んだ。

その直後、遠くから何十発物ミサイルが飛んできた。

ミサイルは木に着弾し大きく揺らすが、倒れる気配がなく、戦っていた二人もミサイルに気付き防御する。

士道も飛んできた一発をギリギリで回避するが、その破片が右腕を傷つける。

腕の痛みをこらえていると、傷口から炎が出てきた。

 

「うおっ!……あれ?熱くない。……傷が治ってる?」

 

士道が驚いていると、徐々に炎が消えていき、右腕の傷がふさがっていた。

 

「これは一体?俺になにが?……それよりも」

 

今起きた現象に気になりながらも、ミサイルが飛んできた方を見る。

そこには四足歩行で随意領域を足場にして空を走る獣のような機械がいた。

四メートルほどの大きさの白色の装甲で、四本の足には鋭いクローが付いており、形状をあえて動物に例えるなら、虎だった。

その機械を見た真那は、驚愕の声を上げていた。

 

「あれは対精霊殲滅無人兵器『白虎』。まだ整備中だったのでは?」




改変と悪意で千花の瞳の描写を増やしました。
一応、書いておきました。
原作でもどの精霊も瞳の色が書いてあったので・・・・・・。

あと、一章はほぼ書き終わったので、この一週間以内には上げたいと思ってます。(もしかしたら、一部書き直して出せなくなるかもですが)
もし、そうなったら後書きとかで報告します。

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