デート・ア・ライブ パラレルIF   作:猫犬

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遂に本編最終回です。


本編最終話 パラレルIF

零音は一年程経った日に真哉と出会い、それから付き合い始めて、数年の時を経て結婚し、三人の子供が生まれた。

そうして十数年の年月が経った。

 

千花が隣界を消滅させたことで、誰も精霊になることは起こらなくなり、元の世界とは違う点が多々あった。この世界には、精霊という存在も、空間震という災害も無かった。精霊がいないのでASTも<ラタトスク>も存在せず、DEMもただの企業となっていた。

 

そして、この世界が一人の少女の消失で成り立っていることを誰も知らない。

 

四月一日、午前七時。

 

「兄様、そろそろ起きてください!」

 

崇宮家の二階の士道の部屋に真那の声が響いた。しかし、士道は一向に目を覚ます気配が無く、真那はカーテンを開けて日の光で起こしにかかると、士道はもぞもぞと動いて布団の中に潜る。

 

「はぁー、早く起きてくださいよ~。姉様が起こしに来ちゃいますよ」

「休みの日ぐらいゆっくり寝させてくれー」

「……兄様。真那との約束忘れたんですか?」

「……ん、ん~」

 

真那がジト目で布団に潜っている士道を見るが、士道はそのまま二度寝を始めてしまう。

真那はため息をついて、どうしたものかと考える。そして……。

 

「とぉー」

「グフッ!」

 

真那は何のためらいもなくその場で跳躍して士道の腹の上に着地した。いわゆるドロップキックであり、士道の腹にクリティカルヒットして士道は激痛に飛び起きる。急に体を起こしたことで真那はバランスを崩すと、そのまま後方に倒れ込み、

 

「おっとっと」

 

何故か床に着地しつつ数歩後退するだけで済み、転倒することは無かった。

士道は腹をさすりながら、真那にジト目を向ける。

 

「朝っぱらからドロップキックは命に関わるからやめてくれ……というか、なんでそんなことしたんだ?いつもは揺すってたのに……はっ、まさか反抗期が」

「考えた結果、ぴかーんと天命が降りただけですよ。起きたので、先に降りてますよ~」

 

真那は言うだけ言うと、士道に何か言われる前に逃げていった。士道は「はぁー」とため息をつくと、寝間着から普段着に着替え始める。着替えている間に、そう言えばドロップキックで起こされたことが昔にもあったような気がした。

しかし、真那が以前にドロップキックで起こしたことは無かったため気のせいだと思うと、階段を下りてリビングに行く。すでに朝食が出来ているのか料理のにおいが漂っていた。

 

「おはよぉ、士道。よく眠れた?」

「おはよう。寝起き以外は問題なかったよ」

「ふーん、一体どんな起こされ方したの?」

 

キッチンから皿に乗せられたトーストを運びながら、澪は挨拶をして、士道の返答から真那の方を見る。ちなみに真那は何食わぬ顔で皿を運んでいた。テーブルに朝食が全部並ぶと三人は座り、食べ始めるのだった。

 

崇宮士道は春から高校一年生になり、真那は中学一年になる。士道の上には大学一年になる姉――澪がおり、五人家族なのだが、士道が中学に入学する頃には、零音と真哉は仕事で家を空け、三人で生活するのが多くなった。家事は当番制にしており、今日は澪が朝食の担当のため士道は起きるのが遅かった。

 

「ところで、今日って何かあったっけ?」

 

士道は最後の一口のトーストを口に入れると、さっきの真那の発言を思い出してそう問う。真那はそれで士道が忘れているのだと察し、じーと士道を見る。

 

「兄様、真那との約束を忘れたんですか?」

「えーっと、ああ、あれだよな。うん」

「……あれとは何ですか?」

 

士道は全く約束のことが頭にないが、ここで覚えてないと言えば真那が怒りそうなので、覚えているように取り繕う。

 

「えーと、そうだ!春休みだから、部屋の掃除で手伝うんだったな」

「いえ、そんな予定はねーですよ。それに、真那の部屋は一昨日片づけをしたんで」

 

士道が言ったものは違ったため、真那はバッサリと切り捨てる。士道には一切の心当たりがなくお手上げになると、諦めて聞くことにする。

 

「悪い。やっぱり心当たりがないや」

「はぁー、そうですか。今日は真那の買い物に付き合ってくれるって話だったのに……」

 

真那は、しょぼんとしながら、約束が買い物だと言った。しかし、それを聞いても士道はそんな約束をした覚えが全く無かった。

 

「やっぱり、そんな約束した記憶が無い……」

「あー、そうですか。どうせ真那の約束なんてそんなものですかー」

 

真那は士道に忘れられていたことに対して拗ねて文句を言うと、さっきから二人の会話を聞いていた澪が口を開く。

 

「あのさー、真那。士道にちゃんとそれ伝えたの?士道が約束をないがしろにすると思えないけど?」

「もちろん、言いましたよ。昨日の夜に兄様の部屋に行った時に。まぁ、兄様は机に突っ伏していましたけど……でも、『うーん』って返答がありましたし」

「「……」」

 

真那は昨日の記憶を思い出してそう言い、二人は言葉を失った。士道が突っ伏している、うーんと伸ばして返事をしたことから、一つの結論に至ったから。

 

「明らかに士道寝てたでしょ、それ」

「そう言えば、昨日風呂あがった後、勉強して途中で寝落ちしたっけか」

「でも、返事はありましたし……」

「それ寝言とみた。士道のスキル舐めちゃダメだよ!」

「はっ!」

「スキルってなんの事だよ……。あと、真那のその反応はなんなんだよ」

 

澪が言ったことに対して、真那は納得し、士道は納得がいかなかった。そんなスキルを士道が持っている自覚がないから。

 

「と言うことで、約束に関して士道は知らなかったってことだね」

「……」

「つまり、理不尽に怒られたと言う訳だな」

「……ッ!」

 

真那はいたたまれない空気に対してバッと立ってリビングから逃げて行った。そして、

 

「ごちそうさま。……真那!ごちそうさまは!?」

 

澪が逃亡していった真那を追いかけてリビングを出て行った。真那に注意する手前、ちゃんと自分は言うあたり律儀だなぁ、と士道は思いながら三人分の皿を持って洗いに行くのだった。

 

「まーなー」

「ちょっ!」

「今日も平和だな」

 

 

 

~☆~

 

 

 

「兄様、こっちですよー」

「ちゃんとついて行くから、そんなに引っ張るなって」

 

士道と真那は駅前に来ていた。結局、真那に改めて出かける約束をされ、今日は特に予定が無かったからと二つ返事で了承した。ちなみに澪は大学の用事とかでこの場にいない。それと、家を出たら家の隣にアパートみたいなのが建っていることに対して謎に思い、真那も同様の反応だったが、買い物が優先だったようで真那に引っ張られた為、気にしないことになった。

真那の買い物は新しい服や新生活の為の日用雑貨などで、完全に士道は荷物持ちの立ち位置の感じだった。

 

「というか、なんで俺と来たんだ?別に友達と行けばよかっただろ?」

「それに関しては、運悪く都合が悪かったんで。それに、兄様と一緒に出かけたかったですし」

「はぁー。まぁ、いいけど」

 

真那のテンションの高さに士道は疑問を持ちながらも、よくわからないので考えるのを諦める。

そうこうしているうちに、駅近くのショッピングモールに二人は入り、早速真那は洋服店に足を向ける。

 

「兄様、これはどうですか?」

「そうだな……もっと女の子っぽい恰好にしないか?」

 

真那がいくつか興味を持った服を手に取って試着室に入り、早速一着目を着て出てきた。それは、ハーフパンツにシャツ、その上に黒地のパーカーという、いつもと変わらないような恰好だった。

だから、士道は首を傾げながら率直な感想を言うと、真那は不服そうな表情をする。

 

「真那はこれが落ち着くんですよ。似合ってないですか?」

「いや、似合ってることは否定しないけど。でも、もう少しあるだろ?」

「うーん。じゃぁ、これですかね?」

 

真那はそう呟いて、試着室に入って行き、他の服に着替え始める。その間に、士道は適当に服を見て待つ。

そうして、数分が経つと真那が出てくる。

 

「おっ、やっと出て……」

「えーと、どうでしょうか……」

 

士道は着替えに時間がかかったことに対して、悪態をつこうとするが、途中で言葉が止まる。真那は真那で、落ち着かなそうな様子で頬を赤らめて俯いている。

真那の恰好は青いブラウスに白のロングスカートという真那にしては珍しいもので、いつもは一つに括っている髪も下ろしていた。だからこそ、いつもと違う真那に士道はドキッとした。

反応が返ってこない為か、真那は士道の方に視線を向け、それで士道はハッとした。

 

「いいんじゃないか?」

「ほっ、そうですか……でも、なんか落ち着かねーんで着替えて来ますね」

「お、おう」

 

真那が試着室に引っ込んで行くと、士道は「ふぅー」と息を吐く。

(なんで、俺こんなにドキドキしてるんだろ?別に髪を下ろしてるのは家でも見るのに。あんな格好は見ないけど。制服は制服だし)

 

「次はこんなのどうでしょうか?」

「あぁ……いい感じだな」

 

次に着た真那の恰好は黒いワンピースに、紺のカーディガンを羽織っていた。

士道は真那の恰好を何処かで見たことのあるような気がしていた。さらに言えば、先ほどの真那の恰好にも既視感があったが、どこで見たのかは思い出せない。

 

「兄様、どうかしましたか?」

「いや、なんかその恰好何処かで見た気がしてな」

「あっ……いえ。そうなんですか?」

 

既視感を真那に伝えると真那はよくわからないのか首を傾げる。

それから、真那がいくつもの服を試着していき、時間が過ぎた。

 

 

 

~☆~

 

 

 

「兄様、あの集団はなんでしょうか?」

「ん?」

 

洋服店で何着か服を買い、その後も必需品を買ったりして夕方になっていた。真那は出かける際に着ていたラフな格好をしている。

そして、家への帰り道。とある児童公園の前を通ったところで、真那が公園の方を指差して士道に問うと、士道はそっちに目を向ける。

そこには、ベンチで寝ている少女がおり、その周りで不良四人がたむろしていた。

 

「完全にあれだな」

「あれ……ですか」

 

このままだと少女は不良の手にかかりそうで、士道は真那に荷物を渡して少女のそばに寄る。真那は士道の考えを察して、特に何も言わずに荷物を受け取る。

 

「何をしているんですか?」

「ん?あんたには関係ないことだよ」

「寝ている人に対して一体何を?変なことはしない方がいいんじゃ?」

「だから関係ねぇっつってんだろ」

 

士道は話し合いで解決を図るが、唐突に現れた士道に不良たちは聞く耳を持たず、武力行使で来て殴り掛かった。士道はさっと躱すと、「正当防衛だからいいよな?」と判断して、殴りかかってきた一人の腕を掴み、背負い投げて地面に叩き付ける。

 

「このっ!」

 

士道に投げられた不良を見て他の不良たちは怒り、二人同時に殴りかかって来る。物騒な世の中なので、真那と澪を護るためにも、そういった術を士道は持っていたが、別に喧嘩慣れしているわけでもない。だから、絶対に勝つ自信がある訳ではないのだが……

 

「たぁー」

「(ちょっ。飛び蹴りって……)」

 

真那も澪も勝手に自衛出来てしまうのが現状。唐突に一人の横から真那が飛び蹴りをかまして転倒させると、飛び蹴りをした真那に内心ツッコミながら、殴りかかって来るもう一人の腕を掴んで背負い投げをして無力化する。

 

「あと一人だな」

「ですね……あれ?」

 

あと一人相手にすればいいと思い、四人目の方に目を向けると、不良が少女の身体に手をかけ、さっきまで寝ていたはずの少女がバッと身体を起こして、腕を掴んだ。目を瞑っていたのにまるで見えていたかのような動きで、そのまま流れるような動きで残り一人を組み伏せる。

 

「のんびり寝てたんだから、そのまま放置しといてよぉ」

 

少女がのんびりとした口調でそう言うと、不良四人は逃げていった。

少女は青いブラウスに黒のロングスカートという恰好で、茶色の髪をポニーテールにして、黒の眼鏡をかけていた。そして、音楽でも聴きながら寝ていたのか耳かけのイヤホンをしていた。

 

「あれ?」

「はて?」

 

そして、二人は少女の顔を見ると、何処かで会ったことのあるような既視感を感じた。しかし、思い出すことが出来ず思い出そうと必死に思考していると、少女は伸びをしてから、

 

「それにしても相変わらず仲良いねぇ、二人ともぉ。久しぶりぃ、と言うのも変かなぁ?どう思う、士道君、真那ちゃん?」

 

唐突に二人にそう聞く。しかし、二人とも少女のことなど全く知らない訳で反応に困る。何故、士道と真那の名前を知っているのか分からないから。

そして、何処かで会ったか聞こうとすると、唐突に頭痛が起きて額を抑える。

 

『ちょっとぉ、そこは寝ている少女に襲い掛かるとこでしょぉ』

『ふふ、驚いている士道君かわいいなぁ』

『あぁ、見ちゃったのかぁ』

『最後の質問にはちゃんと一人を選んで欲しかったかな?』

『……むにゃ、むにゃ……』

『ありがとねぇ』

『色々あるけど、皆をちゃんと助けてくれてありがとねぇ。私だけじゃ、精霊皆を助けることはできなかったからさぁ』

『これは願掛けだよぉ。と言う訳で、じゃぁねぇ』

 

それは、記憶であり、頭痛は記憶が膨大な量だったからだった。結果、士道は前の世界――“千花と過ごした約九ヶ月”の記憶を思い出した。

真那の方も頭を抑えている辺り、同様の現象が起きたようだった。

 

「「千花(さん)?」」

 

だから、目の前に“存在が無くなったはず”の千花がいることに対して、士道と真那は千花の名前を呼ぶ。すると、千花は「あれ?」と何故か首を傾げていた。まるで、この反応が予想外なように。

 

「鞠亜ちゃん!これどういうこと?なんで、二人とも記憶があるのぉ?誰?ってなるはずだったよぉ」

 

千花はそう言って、耳元に付けているイヤホンを抑えてそう口にした。

すると、何か言われたのか「あぅ」とか言っていた。

 

「えっ?どうなってるんだ?それに、鞠亜もそこにいるのか?」

「あっ、そうだったぁ」

 

士道の問いを聞くと、千花はポケットからスマホを出し、イヤホンを引っこ抜く。

 

『ただいま戻りましたよ。久しぶりですね。士道、真那』

 

すると、千花のスマホから鞠亜の声が響く。色々訳の分からぬことが多すぎて、士道と真那が困惑する。

 

『ところで、千花。挨拶を忘れていますよ』

「あっ、そうだねぇ。私たち帰ってきたもんねぇ」

 

混乱している二人を他所に、鞠亜の言葉を聞いた千花は納得すると、二人の顔をしっかりと見る。

それで、二人も疑問を脇に置いて千花を見る。

 

「ただいまぁ。二人ともぉ」

「「ああ(はい)!おかえり(なさいです)」」

 

 

 

これは、澪が繰り返した千の並行世界(パラレル)と精霊達の願いが収束したことで生まれた少女と紡いだもしも(IF)の世界の物語。




これでパラレルIF本編は完結です。およそ、一年半の間お読みくださり、ありがとうございました。
たぶん張った伏線は全部回収したつもりですが、なにか残っている可能性も?

次回から特別編ですが、ゲームと映画の内容が普通にあるので、知らない方は読まないことを奨めます。

では、そういうわけで。ノシ

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