デート・ア・ライブ パラレルIF   作:猫犬

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連日投稿4日目
今回は千花視点で進みます。


4話 番外の精霊

私は捨て子で幼い時に孤児院に拾われ、数年後に普通の家に引き取られた普通の人だった。

両親はともに共働きで、私は家にいることが多く、忙しいのか二人が帰ってこない日も多々あった。

だから、五年前に天宮市で大火事が起きた時も、私は家にいた。

私は急いで家を出ようとしたが、家に火の手が回るのが早く、出られない状態に陥り、必死に助けを呼んだが、誰も助けようとはしてくれなかった。まぁ、自分の身を一番に考えるのは当たり前のことだよね。火の手がだいぶ回ってきた頃、両親が家の前に戻って来た。二人は、消防隊の制止を振り切って、家に入ろうとしていた。しかし、消防隊は二人を取り抑えて制止し続けた。

そして、私は煙を吸い過ぎて気を失った。

気が付くと、私はよくわからない場所にいた。

周りは真っ白で、上下左右の間隔はグルグルしていてわからない。

そんな状態で辺りを見回してみると、どこからか声が響く。

 

【おや?君は……あぁ、この火事の被害になっちゃったのか。君の名前は?】

 

声の主は青髪の少女で、私の名前を聞く。

 

「私は千花。あなたは誰?」

【おやおや、千花か。私は澪。で、君はもうすぐ死んでしまうことになるみたい】

「え?私死んじゃうの?私まだ生きていたいよぉ」

 

唐突に告げられた死の危機に、私はそう言った。すると、澪ちゃんは「そう思うよね」と呟くと、慈愛にみちた表情をする。

 

【確かに、このままでは君は死んでしまうよ。君はまだ生きていたいんだね】

「うん、生きていたい」

【そう。じゃぁ、助けてあげよう】

 

澪ちゃんはそう言うと、私の周りに結界みたいなものが現れる。

そして、私は睡魔に襲われた。

 

【大丈夫。次起きた時には、安全な外の景色だよ】

 

澪ちゃんがそう言うと、私の意識は途切れた。

 

 

 

~☆~

 

 

 

目を覚ますと、誰もいない公園に寝ていた。

辺りを見回すと、空の色はだいぶ変わっており、倒れてからだいぶ時間が経ったようで火事も収まっていた。

身体を起こして、両親がいるはずの家に行くと、そこには誰もおらず、焼け落ちた家の跡があった。そして、そばには母親が持っていたはずのペンダントが落ちていた。

そのペンダントに触れると、私が倒れていた間の情景が脳裏に流れ出した。

私が家にいることに気付いたと思われる両親が消防隊の制止を振り切って家に入ろうとしている情景。

消防隊の制止を振り切り、中に入ると、一目散に金目の物を回収し、私が倒れているのに気づくと、無視して家を出ようとした。おそらく、もう死んでしまったと思ったのだと、私はこの時思った。

しかしその瞬間、

 

『あの子、やっと死んだか。あの子ももういないし、これで、ずっと二人で居られるな』

『千花が死んだことで、やっと二人だけの暮らしに戻れるわ。正直邪魔だったんだよね。なんで、あの子を引き取ったんだろ?』

 

二人の心の声が聞こえた。

え?私の死に悲しむどころか、喜んでいる?

私は邪魔だった?

そして、二人が家を出ようと玄関に行く途中で、家が崩落し、二人も炎に包まれた。

そこで、頭に流れた情景が終わった。

真実を知った私はペンダントを捨てて、どこに行くとも考えずにただ闇雲に走った。

 

「うるさい、うるさい」

 

走っている間にも人がたくさんいたが、どこからか声が頭の中に響いていた。

そして、どの声も誰かに対する悪意の声だった。

気が付くと、公園にいた。

そして、ベンチに座って泣いた。私は両親に愛されていなかった。私は必要のない人間だった。

 

どれくらい泣いたのか分からないが、いつの間にか泣き疲れて寝ていたらしかった。

目を覚ますと、頭に柔らかい感触があった。そうか、あれは夢だったのかと思った。

しかし、周りは私が来た公園。私の感覚が戻っていくと、突然頭の近くで声が聞こえてくる。

 

「おや?起きたかい。君はここで寝ていたよ」

 

目の前には眠たそうな顔の女性の顔があった。

あれ?じゃぁ、この柔らかい感触は?

そう思って体を起こすと、私の頭は女性の足の上、つまり膝枕をされていたらしい。

 

「いや、よく眠っているようだったからね。起こすのも悪いと思ったが、一人にしておくのも嫌だったからね」

 

女性はそう言う。私は両親に捨てられた直後だったこともあって、警戒していた。

そんな私の警戒を察すると、女性は肩をすくめる。

 

「そんなに警戒しなくていいよ。それに何かするなら、寝ている間にすると思うけど?あぁ、私の名前は村雨令音。普通の企業のしがない社員をしているよ」

 

なんだろうか?この人からは全く誰かを恨むような悪意の声が聞こえてこなかった。

だから、私はこの人を信じられるような気がした。

 

「……そう。私は千花。小学六年生です」

 

これが、私と令姉こと村雨令音との出会いだった。

 

 

 

~☆~

 

 

 

その後、令姉の家について行き、一緒に暮らした。

令姉は仕事が忙しいのか、昼間は仕事に行っていたが、毎日夕方には帰って来た。

そして、学校に通わせてくれたので寂しいことはあまりなかった。

頭に響いていた悪意の声も、ある程度は制御して聞こえなくできるようになったので、学校では普通に表面上だけの友達を作り、生活を送っていた。

と言っても、初めてあった人にはこの力を使って悪意の有無は確認したし、深い仲にもなる気もなかった。

まぁ、そんな感じで日々の生活を続けていた。

中学に進学すると、廃部寸前の科学部なるものに入部した。

令姉が理科系に強かったこともあって、私も理科系科目が好きになっていたからだ。

そして、令姉の帰りが少し遅くなったがその頃にはもの作りが趣味になり、色々作っていた。

そんなある日、自転車がパンクしているのか困っている人がいた。

それがみーちゃんだった。みーちゃんと仲良くなった私はそれからちょくちょく遊んだりしたけど、みーちゃんが高校生になると疎遠になってしまった。アイドルを始めちゃって忙しくなったから。まぁ、そもそも勧めたのは私だけどねぇ。

そして、私が高校生になると、令姉の仕事の都合で、遠くに行くと言い、私にここに残るか、ついてくるかを選ばせてくれた。

私は、ここに残ることを選んだ。

いつかは独り立ちをするべきだと思っていたから。

令姉は「そうかい、夏休みには一度戻って来るね」と言うと、仕事に出かけて行った。

それからは自分で家事をしたが、問題なくできた。

夏休みには令姉は帰って来て、休みを取って遠くにも連れて行ってくれた。

 

 

夏休みが終わると、令姉は再び家を空けた。

それから一週間ほど経つと、庭になぜか元々植えられていた葡萄の木に一つの濃い紫色の葡萄が生っていた。

時季が少し早い気もしたが気にすることもなく、おいしそうだったから食べた。

うん、あの葡萄の味はすごくおいしかった。

で、それから私は精霊になっていた。

原因はあの葡萄だと分かったよ。いつもと違っていたし。

その翌日に空間震が起きて私は忘れ物に気付いて、まだ空間震は来ないと思ってシェルターに入らなかった。そして、私の目の前で空間震が起きた。ぎりぎり範囲外だったことで巻き込まれることは無かった。

顔を上げると、空間震で作られたクレーターの中心には魔女みたいな恰好の少女がいた。

なんであんなところに?と思っていると、空から人が飛んで来て、少女に向かって銃を撃ち始めた。少女は箒にまたがって逃げ、私はなんであの子が撃たれているのか分からず困惑していると、そのうちの一人が私に気付いて近づいてきた。

 

「こんなところにいたら危ないわ」

 

そう言って、私の周囲に随意領域が張られて遠ざけられてしまう。遠ざけられる間に、私は随意領域の中で暴れたがびくともせず、再び少女を襲おうとして、

 

「ダメェー」

 

叫んだ。直後、私の中から霊力が溢れ、随意領域を破壊した。そして、いつの間にか私はメイド服を纏い、自身の姿に困惑した。向こうも私という新たな精霊の出現に困惑していた。

そして、頭の中に<死之果樹園>の扱い方が流れ込み、私は理解して決めた。

あの子を護ろうと。

そう、私を助けてくれた令姉のように。

私は地面に<死之果樹園>を突き刺すと、周囲の木を一気に成長させた。結果、巨大な木がたくさん増えて視界不良であの人たちは翻弄されて、少女はいつの間にか消え、私もいつの間にか知らない空間にいた。

 

「ん?新しい子が来た?……あれ?千花?」

 

そこには澪ちゃんがいた。澪ちゃんの目の前には二、三メートルほどの立方体があり、私がここに現れることが意外だったのか驚いていた。

しかし、なんとなく状況を理解したのか、少し考えると、口を開く。

 

「うん、これは何かの縁だしいろいろ話しておこうかな」

 

そうして、精霊があの人たち――ASTに襲われていること、澪ちゃん自身も精霊であるが他と異なり霊力で身体を形成されていることなどなどが話された。

 

「まぁ、そう言う訳であの子たちを護ってほしいかな?もちろん、何人かは自分でなんとかできるんだけど、自衛向きじゃない子もいるからさ」

「ふーん。まぁ、いいよぉ」

「あれ?もっと悩んだりしないの?」

 

澪ちゃんは私が即答したことが意外だったのか驚いていたけど、そんなに驚くことかなぁ?どうせ、あの魔女っ子ちゃんを見た時から決めてたしねぇ。それに、澪ちゃんからは悪意っぽいのを感じないし、前に助けてもらったから信用できるかなぁ?

 

「それで、澪ちゃんはこんなところで何してるのぉ?というか、ここどこぉ?」

「ん?ここは隣界だよ。向こうに精霊が居続けるのは世界の理に影響を及ぼすからね」

「ほへぇ。じゃぁ、私も向こうとここを行き来することになるのぉ?」

「たぶんね……そう言えば、なんで精霊になってるの?霊結晶(セフィラ)はもう無いはずだけど?」

 

今更ながら、私が精霊になっていることに澪ちゃんが気にしてるけど、今更だよねぇ。というか、原因はあの葡萄だと思うけどねぇ。

 

「令姉に聞いてよぉ。あの葡萄植えたの令姉でしょぉ?」

「葡萄?なんのこと?大体ただの人間になってる令音じゃ精霊は生み出せないよ」

「えっ?ほんとぉ?じゃぁ、あれなんだったんだろぉ?」

「謎はあるけど、それは令音に確認してね。さて、そろそろ千花はあっちに戻る頃みたいだね」

 

澪ちゃんがそう言うと、辺りの雰囲気が変わっていて、どうやらあっちに戻る時間が来たみたいだった。

結局、精霊になった原因はよくわからず、謎のままだった。

 

「そうなんだねぇ。あれぇ?ところで澪ちゃんはあっちに飛ばないのぉ?今の感じだと私だけみたいな感じだけどぉ」

「残念ながら私はあっちに行けないよ。私の霊力は今極端に少ないからそんな状態で現界したら瞬く間に消滅しちゃうよ」

「なるほどねぇ……じゃぁ、私の中に入ってみるのはどぉ?それなら、身体に負担は無いでしょ?」

 

なんとなく、澪ちゃんをここに一人にしておくのが嫌で、そんな提案をしてみた。まだまだわからないことばかりだから、澪ちゃんが居てくれると心強いしねぇ。

 

「……うん。たしかにそれならいけるかも。それに、できれば私もあっちに戻りたいしね」

「うん、そうしよぉ」

 

澪ちゃんは逡巡した後、私の提案に乗ってくれた。そして、私の身体に手をかざすと霊子になって私の中に入った。

 

『うん、安定してる感じだ。これなら十分行けるね……あっ、一つ頼んでいい?』

 

私の中に入ったのはいいけど、なんか中から声がするって変な感じぃ。まぁ、そんなことはどうでもいいかなぁ。

 

「それで?どうしたのぉ」

『うん、あの立方体を千花の植物で固定しといてほしいんだ』

「……うん、いいけどぉ。あれはなんなのぉ?」

『あれは……いわゆる危険な存在が封印されたモノかな?私はずっと出てこないように番をしてたから』

「ふーん。まぁ、よくわからないけど、澪ちゃんがそう言うのならやっとくねぇ。<死之果樹園(サマエル)>――【速樹(プラント)】」

 

とりあえず、ポケットから種を出して地面に撒いて成長させ、【速樹】で立方体を包囲して、<死之果樹園>で突くと、【速樹】が立方体を縛った。

これで、澪ちゃんの頼みは終わり、それと同時に私は向こうに帰された。

 

何故か空間震は起こさずに済み、ASTに襲われることも無く私の家に帰ることができた。

こうして、精霊を救う精霊がその日誕生したのだった。

 

 

 

~☆~

 

 

 

「って、感じなことがあったんだよぉ」

 

千花はそう言って話を切り、お茶を飲んだ。その間に士道は千花の話を頭の中で整理した。

(令音さんが俺たちの本当の母さんで……父さんは死んでて……別に俺は捨てられてたわけじゃなくて……結局のところ、零奈が世界を終わらせようとしてるってことなのか……というか、まだ分からない部分も多々あるし)

 

「んと、昔あったことはなんとなくわかったけど、千花はその後澪の指示で行動してたのか?それと、俺に会ったのも」

「んとぉ、基本的には私の意思で動いてたよぉ。というか、私と会う前の澪ちゃんの身の上話も、零奈のこともその時は聞いてなかったんだよねぇ。だから、あの時は士道君のことも全く知らなかったわけだよぉ」

「そうなのか?……じゃぁ」

「うん、じゃぁ、その後の士道君に会うまでの話をするねぇ」

 

疑問が尽きない士道を見て、質問攻めに遭うと判断したのか千花はそう切り出し、その後の話を始めるのだった。




ちなみに今回の話の大部分はかなり前からできてました。具体的には、一章が終わった頃には。
で、なんだかんだで、加筆修正の末このタイミングになりました。よくよく考えてると、一章終わりに出すと、ごちゃりそうでしたので。

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