デート・ア・ライブ パラレルIF   作:猫犬

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なんだかんだで、連日投稿することにしました。そういうわけで最終章1話目。


最終章:千花ホープ
1話 事の始まり


「少しは休んではどうですか?」

「ん?別にまだ平気だし、きりがいい所まではやってしまいたいかな?」

 

三十年と半年ほど前、零音はただの極々普通の人間だった。と言っても年齢はまだ十八なのだが、プログラム系にやたらと強い為普通に仕事をしている。零音は黒い髪を一つに束ねて、機械の図面が映されたディスプレイを見てカタカタとキーボードを叩き、エレンはコーヒーのカップを持ってきてそう言った。

 

零音はエリオットたちと共に離れた空間を繋げて転移を行うシステムの研究をしているしがない研究員だった。零音はカレンと同じ高校にいたのでそこから、エリオット、ウエストコット、エレンの三人と出会い、DEMインダストリーを設立し、その後も研究員もスカウトして、一時的にではあるが空間を繋げる機械を完成させた。

 

そして、零音は機械の中に入って最終調整をしていると、突然施設が大きく揺れて、その衝撃で機械の電源が入って、誤作動を起こして装置が動き出してしまう。

結果、零音は間違って繋がってしまった隣の世界――隣界に飛ばされてしまった。

零音が飛ばされた場所は、だだっ広い空間だった。

 

「ここは?」

 

零音は首を傾げながら、とりあえずここが何処なのかわからないまま、辺りを見渡す。そして、零音の前には巨大な木がそびえ立っていて、零音はとりあえず触れてみた。この樹が何かわかればここが何処なのかわかるかもしれないから。

すると、自身の中に何かが入って来るかのような感覚があり、あまりの膨大な量に零音の意識が耐え切れず、零音はその場で意識を失い倒れたのだった。

 

 

 

~☆~

 

 

 

零音の意識が戻り、気が付くと辺り一面荒廃した場所にいた。まるで、隕石でも落ちてそこにあった空間をえぐり取ったかのような。そんな場所の中心で辺りを見回していると遠くからヘリコプターが飛んで来てすぐそばに着陸する。そして、三人の人間が降りてくる。

その三人はエリオット、ウエストコット、エレンであり、ここは元々いた世界なのだと分かり、零音は安堵した。

しかし、続く言葉でその安堵は砕け散った。

 

「ようやく逢うことが出来たな。精霊よ」

「零音が消えてから半年……やっとですね」

「ああ、出来れば彼女と一緒に……」

「えっ?」

 

再会できたかと思ったのも束の間、三人はまるで零音のことを初めて見るかのような目で見ていた。そして、零音のことを“精霊”と呼んだことからも三人は零音を零音と認識していないことが分かってしまった。それと同時に“精霊”が何なのかわからず零音は困惑を隠せずにいた。そんな零音のことなど関係なく、ぞろぞろと銃を持った人間たちが零音を包囲する。

 

何故、銃を向けられているのかわからず、零音はその場を逃げるようにして去った。慌てていたから宙を駆けていることも気にしている余裕は無く、零音の速度が速い為追いかけようにも誰も追いつくことが出来なかった。

零音が隣界に消えてから半年経ったこの日、空間を歪め破壊する災害“空間震”の最初に起きた日――ユーラシア大空災が起きた日として人々の記憶に残ったのだった。

 

 

 

~☆~

 

 

 

その後零音は訳が分からぬまま、人が全くいないような森の中の泉に辿り着き、そこで零音は何故三人が零音を見ても気が付かなかったのか理解した。泉に反射していたのは、白っぽい髪の高校生ぐらいの少女だったから。おぼろげに零音の面影があるにはあるが……。

 

「あれ?誰?……って私か」

 

自分の姿を見て零音が一瞬気付かなかった為、三人とも気が付かなかったのだとわかり、どうしたものかと困惑する。また、さっきまで自分が空を駆けていたことに今更気づき、すでに人間ですらないことにも気付いた。

今後どうしようかと思いながら過ごして、世界中を回って元に戻る術を探した。そして、世界は絶えない争いに生まれる怒り・憎しみと、世界は見るに堪えなかった。

一年ほど経ったある日。結局元に戻る術が見つからず見た目も一切変わらず、のんびりと世界を見て回っていた零音は複数人の男に囲まれた。もちろん今の自分がただの人間に遅れを取る訳もなく、いとも簡単に切り抜けることが出来るので慌てることは無かった。

そして、零音に男の一人が触れようとし、零音はその直前にその手を叩くと、男の腕がありえない方向に曲がり、男は腕を抑えてうずくまった。それを見ていた男たちは零音に怯え、

 

「ば、バケモノ」

 

と言った。確かにバケモノだと零音は自身で理解していたが、人に言われるのはどうも嫌で、その瞬間立ち眩みがして視界が歪み、顔に手を当てて一瞬気が飛んだ。次に気付いた時には男たちは見る影も無くなっていた。

まるで、元からいなかったかのように。

直後、再び眩暈がして、さらに虚脱感もあって壁に手をついて息を整える。すると、高校生ぐらいの一人の少年が現れる。

 

「そこで何をしているんですか?」

 

零音は突然現れたことに驚きと共に警戒する。加えて今は体調が最悪なので。

その反応に少年が、警戒されていることに気付いた。その為警戒を解くという意味も込めて、両手を上げる。

 

「別に僕は君に危害を加える気は無いよ。僕の名前は崇宮真哉。君は?」

「……零音」

 

争いが絶えないこの世界で、生きることを諦めず、憎しむこともない人間――崇宮真哉。それが、真哉との出会いだった。

零音は警戒を解くことは無かったが、一応そう呟く。真哉にはちゃんと聞こえていたようで、何度か名前を呟くとハッとする。

 

「って、こんなところで喋ってる暇はないんだった。体調が悪そうだけど大丈夫?」

「……平気。問題ない」

 

真哉は零音が体調を崩しているのだと判断するとそう問う。零音は体調が悪いのを隠そうとしてそう返答をする。真哉はジト目で零音を見ると、

 

「うん、体調悪そうだね。家近いから休んでいきなよ」

「いや、平気だから」

「はいはい、強がらない、強がらない」

 

零音が体調不良になっていると見抜いてそう言った。零音も最初は渋ったが、真哉からは悪意のようなものは一切感じず、本当に心配しているようで、もし真哉が騙していたらその時は即座に逃げようと決めてついて行く。

真哉の家に着くと真哉はドアを開けて中に入り零音も中に通された。

 

「適当に座ってもらっていいよ。あと、お茶どうぞ」

 

真哉はとりあえずお茶を零音に出すと、零音はありがたく受け取って近くにあった椅子に座らせてもらうのだった。

 

 

 

~☆~

 

 

 

それから零音は真哉と仲良くなり、気が付けば五年ほど経っていた。

真哉の両親は争いに巻き込まれて亡くなっていたらしく、「行く当てがないのならここに居ていい」と言ってもらって、お言葉に甘えてそうしていた。

零音は真哉との生活が心地よく、次第に真哉に惹かれていた。その頃には、零音は自らの力をコントロールできるようになり、生活に支障が出ることは無かった。そして、二人は結婚して二人の子供を産んでいた。真哉は零音の言う冗談を信じて間に受けるので、真哉の最初の二文字と、何でも“信”じることから“シン”と呼び、これからもそんな生活が続くと思っていた。

 

しかし、現実は非常だった。真哉は零音の目の前でエレンによって殺された。いや、零音が殺してしまったようなものだったのかもしれなかった。

 

 

 

~☆~

 

 

 

二人はその日、家でのんびりしていた。

昼過ぎ頃、家のドアをノックされてドアを開けるとそこには、エレンがいた。その腰には一振りの刀が下げてあった。

 

「やっと見つけましたよ。精霊」

「……ッ!」

 

エレンは零音を見るや、腰の刀を抜いて振るう。

突然のことに零音が動けないでいると、間一髪のところで真哉が零音に向かって飛びこんできてそのまま外に転がり出たことで、結果的に刀を回避することができた。

 

「なるほど、人間と一緒に暮らしていた訳ですか」

「アンタ一体何なんだ?」

 

エレンが納得すると、真哉はエレンを警戒しながら問いかける。いきなり襲われたわけだから、真哉は驚きを隠せないでいる。

 

「あなたはその精霊が何者か知らないようですね」

「精霊?なんのことだ?」

「なるほど、それの正体を隠されたまま生活していた訳ですか。では、ここで一つ提案しておきましょう。その女を置いて立ち去ればあなたには一切危害を加えないと」

 

エレンがそう言うと、零音はこれ以上真哉を危険にさらしたくなく真哉に「逃げて」と言おうとする。

しかし、その前に口を開く。

 

「断る!」

「やはり自分の命は大事ですよ――」

「「えっ?」」

 

二人とも真哉が逃げると思っていたがために、エレンの提案を拒んだことに驚く。

しかし、いつまでも驚いているわけなくハッとすると、エレンは気を取り直して刀を構える。

 

「仕方ないですね。では、気絶して居てもらうことにしましょう」

 

エレンはそう言って、刀の峰を真哉に向けて振り下ろす。峰だから死ぬことは無いのだが、自分のせいで真哉が傷付くのは見たくなかった。

 

「ダメー!」

 

だから、零音は取り乱して叫んだ。叫んだところで何も変わらないとわかっていても、零音には叫ばずにはいられなかった。

そして、零音を中心に強風が吹き荒れた。それによって真哉は風に乗って少し離れた位置に飛ばされ、エレンも体勢を崩して刀が真哉に当たることは無かった。

自身から吹き荒れた風が真哉を護ったことに零音自身が驚いて目を丸くすると、真哉も離れた位置から目を丸くしていた。その瞬間、いつしかの男たちの怯えた顔がよぎった。

零音はそもそも自分が人間でないことを真哉に知られるのを恐れて今まで言えなかった。もし知られれば愛想を尽かれるかもしれない、もしかしたら怯えられるかもしれない、拒絶されるかもしれない。

そんな怯えが零音の中を渦巻いていた。結果、零音の意識がエレンから離れてしまう。

そのため、接近してくるエレンにも気づかなかった。

 

エレン(アイクには連れてこいと言われていましたが、もし危険であると判断できる場合は処理しろと言われましたからね。今の風は確かにまだ危険ではないかもしれない。しかし、次の手が危険でないという保証はない。それに……身体さえ残っていれば解析はできますからね)

 

そして、零音が気付いた時にはすでに刀の攻撃圏内だった。

真哉に嫌われるぐらいだったらこのまま死んでしまえれば楽かなと思ってしまう。そして、エレンの刀が突き刺さり、周囲に血が飛び散った。エレンは驚愕の表情を浮かべて手にした刀を放して数歩後退する。

 

それは真哉が零音をかばって刺されていたから。

 

「怪我は無いかい?」

「えっ?シン君?」

 

零音は目の前の光景が信じられず、驚きの声を漏らす。刺された真哉は零音に傷がないことを確認して微笑みを浮かべる。

零音は理解できなかった。バケモノであり、今までそれを隠し続けていた自分をかばったことに。

 

「な、なんで……」

「気づいたら、身体が、動いてたんだ。それに、愛してる人を、護るのにそれ以上の理由は、いらないだろ?」

 

真哉は刺さった刀を抜き、身体の力が弱まったのか前のめりに倒れ、そのまま零音の上に倒れ込む。そして、口から血が流れだす。

エレンは動揺していて、その場を動けなかった。

零音は慌てて体を起こして、真哉の傷を治さないといけないと慌てるが、傷は一目で手遅れだと分かってしまった。

この村にはそこまで高度な医療設備が無いから。

 

「シン君、しっかりして!今すぐちゃんとした病院に連れて行くからね」

 

零音は涙を流しながら、真哉の身体に触れる。この村の設備でダメならもっと良い設備のある病院に連れて行く。幸い零音なら空を駆けていくことが出来るし、先ほどの強風で身体を運ぶことだってできる気がして、それなら間に合う可能性は十分にある。

しかし、真哉は首を横に振る。

 

「もう、手遅れだよ。どんな、医療技術でもね。それは、もう自分で分かるよ」

「諦めないで!絶対助けるから!」

「いいよ。それより、ちゃんと、言いたいことが、あるんだ」

「後で聞くから、今は……」

「いいから、聞いてくれ!」

 

真哉は零音の瞳を見てそう言うと、それ以上言うことが出来なかった。

 

「……実はな。君が人間じゃないことは知ってたよ」

「えっ?」

「ははっ、やっぱり気づいてなかったんだね。五年も一緒に居るのに全く見た目は変わらないし、実はあの日も見てしまったんだ。君と最初に出会ったあの日、男の人の腕を軽く叩いただけで曲げてしまったのを。そして、君が顔を手で覆った瞬間周囲にいた男たちが君の影の中に沈んでいくのを」

「えっ?それじゃ、なんで?」

 

あの日のことを見られていたことに驚く。さらには人外な力を行使していたことにも。それと共に、なんであの時自分に関わったのかが分からなかった。

真哉は苦笑いを浮かべて頬を掻くと、言葉を続ける

 

「最初は驚いたよ。でも、君は壁に手をついて辛そうにしてたし……それに、君を見た瞬間、君に一目惚れしてたんだよ」

「そうなの?」

「うん、確かに最初の頃は少し恐怖もあったよ。でも、君は一切それを表に出すことも無かったから。だからかな?僕のことを気遣ってくれる君にどんどん惹かれていったんだ」

「……うん」

「だからね。僕にとって、君はバケモノなんかじゃなくて、ただの一人の女の子だよ。あの日からずっとね」

「でも……」

「それに、今こうして泣いてくれてるじゃないか。化け物だったらそういう風に泣いたりなんてしないよ……あれ?なんだか視界がぼやけて来ちゃったな。できればもっと顔が見たいな」

 

零音は涙を溢して真哉の言葉を聞いた。そして、真哉に顔を近づける。

 

「どう?見える?」

「うん、よく見えるよ。でも、出来れば最後に見る君の顔は泣き顔じゃなくて、笑顔がいいかな?」

「うん……」

 

零音は泣きながら頑張って笑顔を作る。しかし、涙でぐしゃぐしゃになってしまい、ちゃんと笑顔を作ることはできず、不格好な笑顔になる。

そんな零音の顔を見て、真哉は笑みを溢す。

 

「ふふっ、まあ、どんな君でも愛してるよ」

「うん、私も愛しているよ」

 

そして、零音から真哉に触れるだけの短いキスをする。そして、真哉の顔から離れる。

 

「もっと喋りたいけど、そろそろ限界かな?……あっ、最後に言いたいことがあった……」

「零音が幸せに暮らしてくれるのが僕の最後の願いかな?あと、士道と真那のことは任せた、よ」

 

真哉が最後にそう言うと、そこで意識を失った。

エレンは、真哉の最後の言葉を聞いて両手を口に当てて驚愕の表情を作っていた。

しかし、零音の視界にはエレンなど入っておらず、ずっと見続けていた。

 

「まさか……零音、なんですか?」

 

少し経って、真哉の言葉にあった名前を聞いたエレンは恐る恐るか細い声を漏らすと、零音はエレンの方に視線を向けた。

 

「うん、そうだよ。エレン。でも……もうこの世界に興味は無いかな?シン君がいないこんな世界なんて――」

 

しかし、零音は虚ろな目でエレンを見てそう言った。

 

真哉の死。

 

それは零音が絶望するのには十分だった。

 

「――もう無くていいよ」

 

直後、零音の周囲に黒い霊力が放出し、零音は反転した。




最終章千花ホープ始まりました。しかし、数話は過去編故に千花はまだ出てこない・・・。

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