今回は前回の続きですね。
「つまり、あの時俺の携帯の中にいたおかげで、一緒に過去に飛び、そのまま記憶も保持したと」
士道たちはとりあえず千花の家に入り、千花と真那と鞠亜はそれぞれ自己紹介を済ました。
鞠亜とどうやって会話をするか悩んだが、千花の作った3Dプロジェクターなるもので解決した。机の中心に置くと、士道の携帯とつなぎ、少しいじると鞠亜が立体的に現れた。どういう仕組みだろうか?
『はい。ですが、こっちに戻ってきたらフラクシナスのコンピューターの中におり、士道に会いたくても会うことが出来ませんでした』
「で、私たちがフラクシナスに来たタイミングで兄様の携帯に回線をつないで、移動できるようにしたと」
『えぇ、そうです』
「じゃぁ、令姉が言っていたのは鞠亜ちゃんってことぉ?」
『はい。令音に皆さんのことを伝えたのは私です。それに令音はすぐに私の存在に気付き、誰もいないときに話しかけられたので、その後令音と情報の共有をしていました』
「だから、令音さんは私たちのことを知っていたと。そうなると、いよいよ令音さんが何者なのか謎ですね」
「そうだよねぇ。私も一緒に暮らしていた頃はそんな話をしなかったから、あまり深いことは知らないんだよねぇ」
「となると、令音さん本人に聞くしかないか。鞠亜は知らないのか?」
『すいません。何度か踏み込んだ話を聞いてみたんですが、毎回はぐらかされてしまいました』
途中から令音が何者なのかの話になったが、やはり誰も知らない為か、進展はなかった。
『ところで、<フラクシナス>の助力だけで精霊と関わっていくんですか?』
「あぁ、そのつもりだ。ところで、鞠亜は<ラタトスク>の真の目的を知らないのか?」
士道が鞠亜に聞いてみると、鞠亜は少し考えて言う。
『はい、私自身そのことについては知らず、調べてもブロックされて分かりませんでした。さらに言えば、<フラクシナス>のクルーは全員琴里を慕っていて、精霊を救うための集団と思っているようです。あとは琴里と令音の言う通りです』
「ま、一周目の世界のことは五人だけの秘密として、基本行動するのは私たち四人ですかね?」
「そうだねぇ。そもそも一周目のことは言っても信じてくれないだろうしぃ。この四人だねぇ」
『ん?士道に真那、千花、あと一人は?令音はおそらく<フラクシナス>にかかりっきりですし……』
鞠亜が士道たちを見ながら二人の言う四人目を考え始める。
考えにふけり始めた鞠亜に士道は言う。
「四人目は、鞠亜だよ。一周目のこと知っているし、一緒に行動するだろ?」
『え?いいんですか?私もラタトスクの一員ですよ?』
「でも、鞠亜ちゃんは目的を知らされていないんでしょ?」
「そうです。鞠亜さんは私たちの仲間です」
『……分かりました。これからよろしくお願いします!』
それから、いくつかの話をした。
『では、このような方向で精霊に会うということで。だいぶ時間も経ったので、今日はここまでにしましょう』
「そうだな。あまり詰めすぎるのもあれだし」
鞠亜の言葉で、解散の雰囲気になるが、ここで一つの問題が浮上した。
「だねぇ、ところで真那ちゃんは士道君の家に住むのぉ?琴里ちゃんと会ったから、もう一緒に住んでも問題はないけどぉ?」
「いえ、千花さんが問題なければ、これからもここに住もうかと。ちょっと彼女とは問題があるんで……」
千花の問いに、真那は苦い顔をしながらそう答えた。
「わかったぁ、じゃぁ、このままねぇ」
しかし、突然浮上した真那の住む場所問題もすぐに解決した。
琴里との問題ってなんだろう?と言う疑問が士道にあったがそのままにしておいた。
「じゃぁ、俺は家に戻るな。また明日」
『私も士道について行きますね』
「じゃぁねぇー」
「では、また明日です。兄様、鞠亜さん」
そう言って、士道と鞠亜は千花の家を後にした。
~☆~
次の日、学校に来て、帰りのホームルームをして廊下に出ると、
「きゃぁー」
という女子生徒の悲鳴が響いた。
悲鳴のもとに行くと、何故か廊下に倒れている令音がいた。
「大丈夫ですか、令音さん」
「あぁ、大丈夫だ。寝不足で転んでしまった」
士道が駆け寄って、起こすと周りの生徒は、平気そうだと判断し、離れて行った。
「君たちのサポートの為に、物理を担当する副担任と言う形でここにいるよ。では、行こうか」
「物理準備室ですか……行かないという選択肢は?」
(正直言って行きたくない。あれをやりたくないし)
士道が困ったような顔をするが、令音が士道の後ろの方を見て、
「いや、来てもらうよ。それに彼女も来たことだし」
そう言われて、士道も職員室の方を見る。
そこにはタマちゃん教諭がこっちに向かって歩いており、その後ろには白いリボンの赤いツインテールが見えた。
琴里が士道に気付くと、こっちに向かって走り出し、
「おにーちゃぁぁぁぁん!」
そう言って、飛びついてきた。
よく見ると来賓用のスリッパを履き、制服の胸に入校証を付けており、正式な手順を踏んでいたようだった。
士道は琴里を受け止めると疑問を口にする。
「なんで琴里がいるんだ?」
「あ、五河君。妹さんが来ていたから呼ぼうと思っていたんですよ。それにしても、可愛い妹さんですね」
タマちゃん教諭が士道の問いに答えた。
「はぁ」
「先生、ありがとうなのだぁー」
「いえいえ、では私は行きますね」
そう言って、歩いて行った。
とりあえず琴里に問う。
「で、なんでいるんだ?」
「それは後で言うよ。おにーちゃん」
琴里がそう言うと、教室の扉が開き、
「士道君。日直の仕事終わったから帰るねぇ。じゃぁねぇ」
千花が現れると、そう言って廊下を走って帰っていった。
「千花ー、廊下は走るなー」
走っていった千花を注意するが、そのまま階段で見えなくなった。
「とりあえず、行くのだー」
そう言って琴里も歩き出したのでついて行く。
物理準備室に着き、中に入ると、様々な機械があった。
「本当にここ準備室なのか?これは一体?」
「……備品だが?」
疑問を疑問で返された。
あ、このやり取りやったなぁとか思っていた。
「ところで、元いた先生は?」
一周目では、スルーされた質問をもう一回。
確か、元々は善良で目立たない初老の人がいたはずだった。
「……ああ、彼か。うむ」
令音はあごに手をやり、小さくうなずく。
「…………」
「…………」
「あぁ、家の事情で辞めたよ。ついでに言えば、昨日のうちに私は教員としてここにいたよ。いろいろあって会わなかったが」
「あ、そうですか」
(あれ?ちゃんと返された)
そう言って、令音が中に入る。
ドアの前に立っていると、黒のリボンに変えた琴里が言う。
「いつまで突っ立っているのよ、士道。もしかしてカカシ希望?止めておきなさい。あなたの顔じゃ何も追い払えないわ」
やはり、リボンがマインドセットのスイッチなのか、キャラが変わった。
「おまえ、どっちが本性なんだ?」
「嫌な言い方するわね。女の子にモテないわよ」
「……おい」
「統計だと、二十二歳までに女性と交際できない男の半数以上は、一生童貞らしいわ」
「じゃぁ、まだ俺には未来があるな。それにしても、どこの統計なんだ?真那も知っていたけど」
そんなことを言うと、琴里は無視して続け、腕を組む。
「未来や可能性ばかり口にする人間は一生無理よ。あぁ、お兄ちゃんに春は来ないのねぇ」
「つまり、士道君と私が付き合っても問題ないとぉ。琴里ちゃんからの了承ゲットぉ」
琴里の発言の直後、士道の後ろから声が聞こえた。
振り返ると、そこには帰ったはずの千花がいた。まぁ、声を聴いた時点で分かってはいたが、どうやら千花も呼ばれていたらしい。
「ちょっ、待ちなさい。そういう意味じゃ……」
「あっ、千花。日直の仕事任しちゃって悪かったな。その、ありがとな」
「いえいえ、私も日直だったしぃ。あと、図書室に本返しに行ってたぁ」
琴里が焦って言うが士道が千花にお礼を言い、椅子に腰かけていた令音が、
「そろそろ、いいかい?」
少々呆れながら言う。
「そうだねぇ」
士道たちも椅子に腰掛ける。
ところで、さっきの千花の言葉ってなんだったんだろ?と言う疑問を残しながら、令音に聞く。
「で、ここで何を?」
「あぁ、これだ」
そう言って、令音はパソコンのディスプレーを見せる。
画面には<ラタトスク>の文字が映り、ポップな曲と共に『恋してマイ・リトル・シドー・改』のロゴが映る。
「これは?」
「えぇ、確認されている精霊はみんな女の子だから、少しでも女の子に慣れておくのよ。現実で起こりうるシチュエーションをリアルに再現してあるわ」
「で、なんで改?無印は?」
「えぇ、本当は無印にしようとしたんだけど、朝彼女に会った時に教えたら、改造したいって言ってね」
そう言って琴里は千花を見る。
千花は何故かニヤニヤしながら言った。
「いやぁ、ちょっとねぇ」
「まぁ、とりあえず、やりなさい」
そう言って、琴里がゲームをスタートさせた。
『おはよう、お兄ちゃん!今日もいい天気だね!』
そんなセリフと共に少女が寝ている主人公を踏んでいるCGから始まった。
改、だからなのか、音やイラストがよりきれいだった
「こんな展開はねえだろ」
士道は思わず突っ込んでしまった。
「どうしたんだい、シン?」
「いや、こんな展開は無いかと」
(いや、琴里がやっていたか)
「気にするな、それより」
令音が画面を見るよう促したので見ると、三つの選択肢が現れる。
「選択肢よ。そこから行動を選びなさい。それによって展開が動くわ」
琴里が補足すると、士道はとりあえず選択肢を見る。
「おはよう。愛しているよ、リリ子」愛をこめて抱きしめる。
「思わず、おっきしちゃったよ」妹をベッドに引きずりこむ。
「かかったな!」踏んでいる足を掴み、技をかける。
「なんだよ。この選択肢は?」
「あ、制限時間付きよ」
琴里が無情にも言う。どんどん時間が減っていく。
「そぉそぉ、より危険を感じるために、間違えたら士道君の黒歴史が自動的に流出するよぉ――」
「いい仕事するわね。あ、私たちが依頼したわ」
追い打ちをかける千花。改って自動流出機能が付いたことらしい。
千花の言葉にかぶさって、琴里は千花を褒める。
(なんでそんなことを?でも、これって何もしないが正解なんだよなぁ)
そんなことを考えながら、時間がゼロになるのを待つ。
時間がゼロになると、
『んー……あと十分……』
『だめー、起きるの!』
至極まっとうな会話が流れた。
「なんで、正解が分かったの?」
正解を当てたことで驚く琴里。
「だって、あんな選択肢ないだろ。二つは問題ありだし、妹に手を上げるのはダメだろ。それに、普通無い制限時間があったし」
琴里の方を見て、ごくまっとうに返す。さすがに、知っていたとは言えないし。
「そう、じゃぁ次に、って何これ?」
突然琴里が画面を見て慌てて言う。画面を見ると、神無月を縛って痛めつけている琴里の映像が映った。
琴里の顔は楽しそうだし、神無月も笑顔だった。兄として心配な光景だった。
「ふふ、士道君にだけペナルティーがあるわけないじゃん。士道君をいじめるつもりなら、それなりのリスクは琴里ちゃんにも追ってもらうよぉ。慌てる琴里ちゃんかわいいなぁ」
(千花さん、そんな声で怖いことを言わないでください)
慌てる琴里、微笑む千花、呆れる士道、無表情の令音。
すると、琴里が冷静さを取り戻し言う。
「令音、そう言えばやることがあったわね」
「ん?特にないはずだが?」
「ケーキ、一つ」
「そうだった。用事があったよ」
「じゃぁね。二人とも。もうそのゲームはやらなくていいわ」
「では、さらばだ」
琴里とケーキ一つで買収された令音は出て行った。
「なぁ、千花」
「ん?なぁにぃ?」
「あれって本当にあったことで、流出させたのか?」
琴里のあんな痴態があるとは思いたくないが。
「あれはあったことだよぉ。でも、流出はさせてないよぉ、プライバシーの保護の観点からぁ」
(あ、本当にあったことなんだ)
「ついでに言えば、システムの改造はほぼ鞠亜ちゃんがしてくれましたぁ」
『士道を守るためです!しかし、まだ少ししか改造が出来ていませんでしたが』
いつの間にか画面に入っていた鞠亜が胸を張る。
「そうか、じゃぁ……帰るか」
「うん!」
『はい、そうですね』
そう言って、物理準備室から出る。
というか、士道の黒歴史も流出可能にしたってことは二人に知られているのか?
(これからは気を付けないと……)
次回からは、二章に入ります。
デート・ア・ジャッジメントで9位だったキャラですよ~
では、来週に。