私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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6話

 

 皇歴2017年

 ユーフェミア・リ・ブリタニアは、エリア11のイレブンに対し、一つの提案を行った。

 

 ――行政特区日本

 

 それは、富士山周辺という限定的な範囲ではあるものの、イレブンに自治権を認めさせ、さらに彼らに日本人という名前を名乗ることを公的に認めた区域を作る、というものであった。

 

 これにより、日本各地で起こっていた小規模なレジスタンスによるテロは消滅。

 ゼロの率いる『黒の騎士団』も、参加を余儀なくされることになる。

 

 なぜなら、この特区に参加しなければ、『黒の騎士団』は日本人からの支持を無くし、自然と解散してしまうからだ。

 

 そう、限定的な物とはいえ日本が復活するというこの特区は、エリア11中の日本人が、そしてテロの消滅という意味では、エリア11中のブリタニア人すらも消極的にではあるが望んだものだった。

 

 そして、コードギアスという物語において、この特区は一応の成功を収めることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ユーフェミアが、特区の成立を祝う式典において、『日本人を皆殺しにしろ』と言わなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、特区は地獄に変わった。

 

 会場にいたKMF達は、その手のアサルトライフルを乱射して集まった日本人を殺害。

 警備に来ていた兵士たちも、その命令に従い日本人を虐殺する。

 

 その牙は会場の外にいた日本人達にも向けられ、ゼロと『黒の騎士団』がブリタニア軍を鎮圧するまで、膨大な人数の死者が出ることになった。

 

 

 これが、外向きの特区日本の結末だ。

 

 もちろん、現実は違う。結末は同じだが、そこに至るまでの過程が大きく異なる。

 ユーフェミアという女性はそんなことを命令する人間ではないし、行政特区は日本人をおびき出すための罠でもない。

 

 黒の騎士団のCEOであるゼロ、彼が自らの『絶対遵守』のギアスを用いて命令したのだ。

 それにより、彼女は自らの意志とは反した行動をとり、結果虐殺を行うに至った。

 

 彼女は、間違いなく被害者だったのだ。

 

 

 

 

 さて、今私の目の前に、そのユーフェミア様がいる。

 猫とニャーニャー言って会話したり、スザクさんの手を引いてウインドウショッピングを楽しんでいるユーフェミア様がいる。

 

「そうよね、スザク君もお年頃なのよね。それなら――」

 

 隣でセシルさんが何か言っているが、意識からシャットアウトする。

 

 私は、彼女を見てとあることに悩んでいた。

 

 

 

 

 彼女に対して行われたゼロの『絶対遵守』は、完全に偶然によって発生したものだった。 

 彼の『日本人を殺せ』という命令、そこに彼の意志は無かった。

 

 彼の持つギアスの暴走。

 彼が冗談で言った一言が力を持ち、ユーフェミア様を縛る『絶対遵守』となったのだ。

 

 

 

 私が悩んでいるのは、この事件を防ぐべきか否かだった。

 

 防ぐ手段があるにもかかわらず防がないというのは非常に冷酷な考えかもしれないが、これを防いだ場合、将来的に世界が滅亡……まではいかないものの、既存の世界の理が崩壊し、よくわからないがとんでもない事態に陥ることになるのだ。

 

 いや、それ以前に、行政特区はゼロの活動が実を成した結果として、世界中のテロリズムを促進することになるだろう。

 コードギアスの外伝に位置する作品『双貌のオズ』は、ゼロの活動によって加速するテロについて描写している。

 『オズ』の時系列は、ゼロがブリタニアに敗北した直後、ゼロが死亡したという知らせが世界中に広まったころの話だ。つまり、世間の認識としてゼロ程の男であってもブリタニアに敗北した、という認識がなされた後の話である。

 

 それにもかかわらず、『オズ』では世界中の激化したテロについての描写がなされているのだ。

 

 

 そう、『ブリタニアに抵抗した』という事実だけで、世界中のテロリストは立ち上がる力を得られたのだ。

 

 

 では、そのゼロが成功してしまったとしよう。どうなるだろうか。

 念のために言っておくが、行政特区はゼロの成功の結果ではない、という意見は無しだ。事実がそうであったも、テロリストたちにとっては、ブリタニアに反感を持つ人々にとっては、ゼロの出した『結果』なのである。

 

 

 そう、成功を収めたという事実が生む力は、抵抗をしたという事実が生む力とは比べ物にならないほど強力な物だ。仮に世界中のナンバーズ達が立ち上がったとしても、ありえないと断じられるものではない。

 

 

 そうなれば、現在のブリタニアによる安定した支配は崩壊し、ナンバーズによる無秩序な自由か、ブリタニアによる苛烈な支配のどちらかを生む。

 

 

「頭が痛い」

 

 口に出さずにはいられなかった。

 なんだこれは、何故人を一人助けようと考えるだけで世界規模のテロを想定しなければならないのか。

 

「頭痛が痛い」

 

 間違った言葉だが、頭が痛いでは足りない私の心境を的確に表していると言えた。

 

「うん、アリス君の気持ちはよくわかるよ」

 

 傍にいたロイドさんが、私の言葉に賛同する。

 その言葉に、そういえば皇族が護衛なしにふらついている現状も、かなり頭が痛い事態だなと思った。

 

 

 

 しばらくして、スザクさん達がその足を不穏な方向に向ける。

 そう、その先はシンジュクゲットー。ついこの間までテロリストがいたとされ、それなりの規模の戦闘があった場所だ。

 

「あの人、自分の立場についての自覚あるんでしょうか」

「あるとは思うよ。最近まで学生だったあの人には、それが足りてないだけで」

 

 何も知らないセシルさんを置いてけぼりにして、ロイドさんと会話をする。

 

「ところで、ロイドさん」

「ん、何?」

「なんで私たち、スザクさんをストーカーみたいに双眼鏡で観察なんてしてるんですか」

「決まってるでしょ。あそこがゲットーだからだよ」

 

 流石に、軍のトレーラーをテロリストがいるであろうゲットーに向かわせるわけにはいかないらしい。

 そのため、私たちは租界とゲットーとの境目にある大きなショッピングモールの屋上で、スザクさんとユーフェミア様を双眼鏡で監視していた。

 

 ちなみに、ロイドさんの双眼鏡は自前の豪華なもので、私の双眼鏡はトレーラーに備え付けられていた黒い武骨な物だ。

 

 セシルさんは此処にはいない。先ほど言ったように、トレーラーの中に置いてけぼりにした。

 

 ロイドさんの双眼鏡を見て、そういえばロイドさんは伯爵だったなと思い出した。

 

 普段の姿が普段の姿なだけに、そう見えなくて困る。

 

 白衣着て膝の上に置いたノートパソコンを叩いてる姿なんて、明らかに伯爵が見せる姿じゃない。

 

「あ、殴った」

 

 視線の先では、ゲットーにいた学生に絡んでいたツンツン頭の日本人、私の記憶が正しければ黒の騎士団の一員である男に、スザクさんが殴られていた。

 その後、激昂した様子を見せた男に再び殴りかかられる。

 

 今度は不意打ちでなかったためか、スザクさんはその一撃を受けることなく、逆に男を投げ飛ばした。

 

 ――おー!

 

 流れるような動き。体術を嗜む人間の動きだった。

 私の心の中に、感嘆の声が浮かぶ。

 

 少なくとも、あの動きは私にはできないだろう。

 

「アリス君、ちょっといいかな」

 

 スザクさんの鮮やかな投げ技に見惚れていると、ロイドさんが私の身体を小さく揺すった。

 

「あ、はい。なんでしょうかロイドさん」

「あそこ、今スザク君がいるあの場所。

 軍、というより純血派によって非常線が敷かれたみたいだから、戦闘が始まる前にスザク君とあの方を迎えに行くよ」

「非常線ですか、純血派が?」

「たぶん、純血派の内ゲバじゃない? あのオレンジ卿のこともあるし」

 

 なるほど、そういえばコードギアスでもそんな描写があったことを思い出した。

 

「なら、迎えに行った方がいいですね」

 

 私は双眼鏡から手を放すと、私を置いてトレーラーに向かうロイドさんの後を追った。

 

 

 

 

 

 

「スザク君!」

「セシルさん!?」

「ここは危険よ、乗って!」

 

 スザクさんの傍で、トレーラーが勢いよく止まる。

 そして、セシルさんが助手席の扉を開き、スザクさんにトレーラーに乗る様に告げた。

 

「純血派の内ゲバなんだよ、さっさと逃げよ。

 ――ああそれと、釈放残念でした。また付き合ってもらうよ」

 

 ロイドさんも、スザクさんに逃げる様に告げる。

 それにしても、ロイドさんはもう少し嬉しそうに釈放を祝ってもいいと思うんですが。

 

「しゃ――」

「待ってください!!」

 

 ロイドさんの言葉に続いてスザクさんにお祝いの言葉を言おうとしたら、スザクさんの声に遮られてしまった。

 

 一瞬、スザクさんが決まりの悪そうな顔をしたが、彼は表情を引き締めて言葉を続ける。

 

「あ、ごめん、アリス。

 ……ランスロットの戦闘データをとる、いい機会ではないでしょうか」

「えっ!?」

「おほー」

 

 スザクさんの言葉に、セシルさんが驚いたような声を、ロイドさんが興味深そうな声を上げた。

 

「スザク……」

 

 そして、ユーフェミア様はその言葉に心配そうな声を上げる。

 

「ごめん、ユフィ。ここでお別れだ。

 僕は行かなきゃならない。ランスロットなら、止められるはずだから」

 

 そう言って、スザクさんは顔を引き締めた。

 

 

 

「――だから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――MEブースト』

「ランスロット、発進!」

 

 ランスロットの脚部に付いた車輪、ランドスピナーが音を立てて回転し、ゲットーの大地を蹴る。

 その力でランスロットは加速、白煙を上げて、純血派の機体が戦闘を行うコロッセオへと疾走していった。

 

「相変わらず、いっつもスザクさんは全力疾走で発進しますね」

「僕は、そういうの好きだけどね。ランスロットの全力を発揮してくれているから」

 

 私のつぶやきに、ロイドさんが答える。

 その言葉に、やっぱりロイドさんは研究者だな、という事実を再確認させられた。

 

「あら、そういえばあの子はどこに行ったのかしら」

 

 セシルさんが、周囲を見回してそんなことを言った。

 

 ――あの子?

 

 そう言われて、私は周囲を見回す。

 少なくともトレーラーの側には、あの特徴的なピンク色を捉えることができなかった。

 

 ロイドさんと顔を見合わせる。

 

「セシル君、たぶんスザク君を追ったみたいだから追いかけようか」

「スザク君を!?」

 

 スザクさんを追う、それはつまり、戦場の真っ只中に向かったことを意味する。

 

 ――姉妹は似ると言うけど、もう少し自身の身の安全を考えて欲しいなあ

 

 彼女の姉であるコーネリア様、皇女なのに最前線をKMFで駆ける女性を思い浮かべ、小さく溜め息をついた。

 

 運転手である研究員の人、オリヴァーさんがコロッセオへとトレーラーを発進させる。

 

 トレーラーは何事もなくコロッセオに到着したが、道中にユーフェミア様の姿は無かった。

 

 つまり、ユーフェミア様はもうコロッセオの中にいることになる。

 

 事情は知らなくても一般人が戦場に向かったとは認識しているセシルさんと、事情を知るロイドさんはコロッセオに向かって走っていった。

 

 研究員の人に車の番を任せ、私もセシルさん達の後を歩いて追う。

 

 だが、まあ色々と遅かったようで、私が着いた頃には戦闘は終わり、ロイドさん以外がユーフェミア様に傅いていた。

 

 どうやら、自身の生まれを暴露した様だ。

 

「少し遅かったみたいですね」

「残念でした。もう戦闘は終わっちゃったみたいだよ。

 はあ、ユーフェミア様が途中で割って入らなければいいデータが取れたはずなのに……」

「ロイドさん! その言葉は不敬ですよ」

 

 相変わらず研究一筋なロイドさんらしい言葉に、セシルさんが注意するように言う。

 

「でも事実は事実でしょ。ここにいるパイロットは腕もいいみたいだし、こんな良い戦闘データはなかなか取れないんだからさ」

 

 そう言って、ロイドさんはため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 総督府から来たヘリコプターがユーフェミア様をピックアップし、純血派のKMFが引き上げた後、スザクさんをトレーラーに乗せた私たちは、今後間借りすることになる大学へとその足を向けていた。

 

「スザクさん、釈放おめでとうございます」

 

 何か考え事をしている様子で窓の外を見つめるスザクさんに、遅いかもしれないがお祝いの言葉を告げる。

 

 するとスザクさんはこちらに視線を向け、少しうれしそうな顔で返事をした。

 

「うん、ありがとう。

 ……さっきはごめんね、お祝いの言葉を遮っちゃって」

「いえ、私の間が悪かっただけですから気にしないでください」

 

 私のその言葉に、スザクさんはほっとした様子で表情を柔らかくした。

 

 ――私は、そんなことで腹を立てるほど子供に見られているのだろうか。

 

 少し腹が立つ。

 腹が立ったので、スザクさんをからかってみることにした。

 

「ところでスザクさん。ユーフェミア様とのデートは楽しかったですか?」

 

 スザクさんがむせたように咳をする。

 

「あ、アリス!?」

「猫にむかってにゃーにゃー言ってるユーフェミア様、かわいかったですよね」

「い、いったい何時から見てたのさ」

 

 スザクさんが、恥ずかしそうに頬を染める。

 

 ……なんだか、スザクさんが頬を染めるとそっち方面を連想してしまう。

 私がアリスとなる前は、腐女子ではなかったはずなんだけどなあ。

 

「何時からデートを始めたのかはわかりませんが、釈放された時間から考えてかなり最初の方からです。

 たしか――『何なりとお申し付けください、お姫様』でしたっけ、かっこよかったですよ」

 

 その言葉に合わせ、私は微笑むような笑顔を作る。

 

 それを聞いたスザクさんは、恥ずかしそうに頭を抱えて顔を隠した。


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