私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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 私は仕事場が火事にあったことないからよく知らないけど、パソコンって火事に巻き込まれるとデータ飛ぶのかな?


50話

「何が目的ですか、ロイドさん」

「んー? 何のことかなぁ」

 

 計測を始めてからしばらくして、コードギアスがその手に反物質を呼び出しているその時、アルマはロイドに小さな声で尋ねた。アルマの言葉に、ロイドはまるでとぼけたかのような声を返すが、彼女はさらに眼つきを鋭くして問い詰める。

 

「とぼけないでください。

 ロイドさん、あなたはあのナイトメアが高い出力を持っていたことを知っていたはずです。この忙しい時に、こんなことをするのは無駄でしかありません。なのに、どうしてこんなことをしたんですか」

「買い被り過ぎだよ。僕が、一体どこであのナイトメアのデータを手に入れたって言うんだい」

 

 ロイドの反応は、まるで本当に知らないかのような反応だった。

 それを見たアルマは、もしかしたら本当に知らないかもしれないという疑惑を、逆にかき消した。

 アルマには、呼吸から返答までの澱みがない、本当に自然なその返答の仕方が、事前に想定されていたために計算されつくしたものにしか思えなかったからだ。

 

「――河口湖」

「河口湖でのデータは、ランスロットの破損で正確に取れていなかったはずだよ?」

「ええ、そういうことになってます。もしかしたら、本当にそうなのかもしれません。

 でも、昨日の夜に復旧したデータの中には、河口湖での画像データと、それの解析データがありました」

 

 ロイドが、道化の様な眼つきを、鋭い物へと変化させる。

 あのナイトメアの解析は、ロイドが個人的に行っていた、いわば趣味の様な物だ。研究員間で共有しているサーバーには、そのデータは保管されていない。

 つまり、アルマは上司であるロイドの端末を勝手にこじ開け、勝手に閲覧したことになる。

 

「勝手に僕の端末を覗くのはどうかと思うけど」

「あの状況では、どれが誰の端末だったかなんてわかりませんでしたから」

「……」

「……」

 

 ロイドの端末とアルマの端末、それらはあまり離れていない場所に設置されている。

 ロイドは、火災とそれの消火を行う際にあったでごたごたで、その二つを含む複数の端末が、近くに転がっていたことを知っていた。知っていたが、自分の端末がどうなったのかにこだわっている場合ではなかったため、特に気にはしていなかった。……今、この瞬間まで。

 

「……まあ、不慮の事故だったってことにしようか」

「ありがとうございます。それで、どうしてアリスちゃんをこの場に呼び出したのか、その本当の理由を教えてもらえませんか」

「いいよ。このタイミングでその札を切ってくるってことは、まだ僕を問いただすのに使える札を持ってるんだよね。それなら、これ以上の否定は時間の無駄でしょ。

 ただ、僕も君に一つだけ質問をさせてもらうよ。それからなら、答えてもいいかな」

 

 まさか自分に質問が飛んでくるとは思っていなかったアルマは、まるで鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてきょろきょろと左右と後ろを確認し、それから自分のことを指さした。

 

「私に、ですか」

「そ、アリス君ではなく、君に対しての質問」

 

 僅かな会話で柔らかくなっていたロイドの視線が、再び鋭いものとなる。

 

「さっきから気にはなっていたんだけれど、君、随分らしくない物言いをするね」

「らしくないとは、どんな意味ででしょうか」

「僕は、人事関係の仕事はセシル君に任せているからあまり君たちのことはよく知らないけれど、でもある程度の人柄は知ってる。

 僕の記憶が正しければ、君はもう少し立場という物を考えて行動するタイプだったはずだ。よほどの事が無い限り、上司である僕を問い詰めるような性格はしていない。自分の立場を危うくする可能性のある行動だと知ってるからね」

「まあ、たしかにそうですね」

「でも、君は僕を問い詰めた。それも、アリス君ただ一人のためだけに。

 最初は、君たち二人が仲がいいからだと思った。けれど、君がアリス君に出会ってからの3週間の間で、そこまでの感情を抱くほどに深い付き合いになれるとは思えない。

 どうして君は、彼女のためにそこまで行動できるんだい?」

 

 ロイドが不思議に思ったのはそこだった。

 いくら何でも、アルマがアリスのためにここまで動くのはおかしい。ロイドが知る限り、アリスには短期間でここまで信頼を得ることができるコミュニケーション能力はない。今回の火災で、吊り橋効果的なものが働いたのかもしれないが、それにしたって限度がある。

 

「なるほど、たしかに不自然ですよね」

「ふーん、自覚はあったんだ」

「いえ、自分で気が付くことができたわけではないんです。この間、本国の友人と話しているときに指摘されて、それで初めて自覚したことだったので。

 どうして、私がアリスちゃんに強い親愛の情を抱いているのか、正直に言えば理由はわかりません。でも、ある程度推測はできます」

 

 そう前置きして、アルマはロイドに小さくつぶやくように告げた。

 

「私は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お疲れさまー。アリスちゃん、これで終了だよー』

「はい、わかりました」

 

 コードギアスを量子シフトで送還し、コックピットから脱出する。

 足を捻らないように注意して着地した私に、アルマさんはタオルを渡してくれた。

 

「すみません、ありがとうございます」

「ありがとうだけでいいよー。謝られるようなことはされてないしねー」

 

 次いで、どこから持ってきたのかわからないが、例のキンキンに冷えた白い自家製スポーツドリンクを渡される。

 大きく動いたりしなかったのであまり汗はかいていなかったが、それでも多少は汗をかく程度には体温が上がっていたこともあり、水分が染み込むように体の中に溶けていくのを感じた。

 

 スポーツドリンクを飲み終えて容器に蓋をすると、今度は頭からタオルを被せられた。

 

「それー!」

「わ、わわっ」

 

 アルマさんが頭に被せられたタオルをわしゃわしゃと動かす。

 振り払うわけにはいかなかった私は、アルマさんがツインテールが崩れない程度に汗を拭きとって満足げに頷くまで、アルマさんのなすがままにされていた。

 

 こういう時、どういった反応を返すのがいいのだろうか。

 

「その年だし、まだ化粧はしてないよねー?」

「え、あ、はい」

 

 アルマさんの質問に、つい頷く。

 当時の『私』はそうではなかったが、幼少期における化粧が及ぼす肌への影響を知っている今の私は、特に化粧はしていない。

 肌が荒れるかもしれないからしていない、そうアルマさんに告げると、彼女はにやりと笑ってタオルの端を手にする。

 

「なら、こうだー!」

「ちょ、ちょっとアルマさん、今朝から様子が――」

 

 アルマさんは、今度はタオルの端を丸く持って私の顔を優しく拭きはじめた。

 いくら何でも過保護すぎるアルマさんの様子に何か言おうとするが、タオルで強引に口を閉ざされる。

 

「命を助けてもらったんだから、これぐらいさせて」

「え……?」

 

 同じ空間にいるロイドさんにも聞こえないような細い声で、アルマさんが私に呟く。

 戸惑う私に、アルマさんはさらに言葉を続けた。

 

「あなたのその秘密が、さっきのナイトメアがどれだけ秘密にしなきゃいけないものなのか、私にだってわかる。

 あのナイトメアは、ランスロットを上回る最強の個よ。一騎のナイトメアっていう戦術単位の存在でありながら、戦略単位で全てをひっくり返すだけの力を秘めてる。当然、そんなものが公になれば、その力を手にするために世界中の人達がアリスちゃんを狙うことになるわ」

 

 だから、私が死ぬ寸前まであなたは使わなかったんでしょ。アルマさんにそう言われて、否定することもできなかった私は、「それは……」と言葉に詰まることになった。

 

「でも、アリスちゃんはそれを私に知らせるデメリットを承知で、私を助けてくれた。その後も、私が誰にも言わないって信じてくれた。私は、それが本当に嬉しかったのよ」

 

 まっすぐに私を見つめて、アルマさんは自然な笑みをこぼす。

 ここまでまっすぐ言われると、なんだかこそばゆい。アルマさんを助けたいと思ったからではなく、そんなことも考えずに助けに動いていたために、余計に。

 

「信頼には信頼を返すし、助けてくれたならそれだけの感謝を相手に伝えたい。

 だから、これぐらいのことはさせて。アリスちゃんがしてくれた事に比べたら、本当に些細なことだけど、ね」

 

 私の頭からタオルを外すアルマさん。

 その姿に、私の否定の言葉は使えてしまったかのように喉の奥に閉じ込められてしまった。

 

「そんなこと言われたら、何も言えないじゃないですか」

「いいのよ、何も言わなくても」

 

 アルマさんは、中身の減ったスポーツドリンクの容器を私から奪い、手早く畳んだタオルと一緒に持つ。

 そして、空いた手で私の髪をそっと撫でると、振り返ってロイドさんの方へ歩いて行ってしまった。

 

「あっ……」

 

 何故か、背を向けるアルマさんに左手が伸びる。

 手は空を切ったために何かを掴むことは無かったが、自分でもよくわからない感情に自分が支配されているのがわかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日"は"、ここまでにしようか」

 

 ロイドさんにそう言われ、私とアルマさんは仕事に戻ることになった。

 私は雑用に、アルマさんはデータの復旧に、それぞれの仕事に戻る。

 普段とは異なり、私とアルマさん、そしてセシルさんしかいない研究室で、私は黙々と片付けに勤しんでいた。

 

 ちなみに、ロイドさんはここにはいない。

 午後になってから、ロイドさんはスザクさんの方へと行ってしまったのだ。

 

 ロイドさんの名誉のために言っておくが、仕事をサボって出かけたわけではない。

 スザクさんがユフィさんの騎士に就任する、その手続きのために、スザクさんの所へと出かけたのだ。

 

 ――スザクさんが、ユフィさんの騎士に指名された。

 

 その連絡が特派に届いたのは、昨夜遅くのことだった。

 どうやら、昨日の調布での活躍がテレビ局によって中継されていたらしく、それを見たユフィさんがスザクさんを自身の騎士にしようと決心したらしい。

 

 私は、コードギアスの物語でそれを知っていたから別に驚かなかったが、セシルさんやアルマさん、ロバートさんの驚きようは凄かった。

 

 なぜなら、スザクさんはイレブンである。『私』の世界的に言えば、植民地支配が公的に存在していた時代に、王家の血を引く人間が植民地にいた人間を側近にしたようなものだ。もう少し過激に言えば、黒人奴隷を人間として取り立てたに近い。

 流石にそこまでナンバーズは差別されていないと思う人もいるかもしれないが、これに近い状況が現実だ。コーネリア殿下があまり過激な植民地政策を行っていないために錯覚しがちだが、それぐらいナンバーズを差別している人間は多い。

 例えば、コードギアスの作中では、日本人を差別するブリタニア人が数多く存在する。学園などの教育機関では当たり前のように虐められるし、下手をすれば路肩で屋台を営んでいるだけで難癖をつけられたりする。

 もちろん、個人差はある。ゼロやアッシュフォード学園生徒会の面々(ニーナを除く)の様に日本人に対し背別意識を持っていない人はいるにはいる。けれども、大多数がナンバーズに対する差別意識を持っているのが現実だ。

 もっとも、それは仕方がないのかもしれない。ブリタニアは競争を国是としている国だ。それを考えれば、植民地の住人は明確な下位の存在として彼らの目に映るだろう。

 

 そんなナンバーズであるスザクさんが、ユフィさんの騎士に指名されたのだ。セシルさん達が驚くのも無理ないだろう。

 

 ちなみに、ロイドさんはあまり驚いていなかった。ナンバーズに対する差別意識の薄いロイドさんにとって、スザクさんがユフィさんの騎士に指名されたことは、そこまでおかしなことではないと思っていたのかもしれない。それに、ユフィさんとスザクさんの仲について、何となく見破っていた節があるし。

 ただ、せっかく手に入れたおもちゃを取り上げられるかのような表情はしていたけど。

 

 そんなわけで、スザクさんは騎士就任の式典に出席するため、この場にはいない。明日にはアッシュフォード学園で騎士就任パーティーがあるそうなので、明日も欠勤するみたいだ。

 

「よっこいしょっ、と」

 

 煤けた金属製の机を肩に乗せながら、私はそんなことを考えていた。

 なにせ、今できる雑用と言えば、そこそこ重い荷物を運ぶだけの簡単なお仕事である。

 流石に金属製の机と端末をまとめて運んだりすることはできないが、端末と机の二回に分ければ簡単に運べる私にとって、ただ軽い肉体労働を続けるだけのこの時間は暇でしかなかった。

 

「セシルさん、これは何処に持っていけばいいですか?」

「そうねえ……少なくとも室内の配線を確認するまでは邪魔になるから、外に敷いてあるビニールシートの上に置いてもらえるかしら」

「わかりました」

 

 セシルさんに言われた通り、煤けた机を外に持っていく。

 綺麗にすればまだ使えそうなものも、そうでないものも関係なく外に運び出す。細かく仕分けている余裕なんてないからだ。

 

 端末に関しては、私には壊れているかどうかの判別はできなかったので、サーバーを弄っているアルマさんの傍に置いてきた。

 割れた照明やガラス等は、量があったので3重にした紙袋の中にまとめてある。きちんと処理すれば一般のごみで捨ててもいいらしいのだけれど、使えなくなった机や端末を処分するための業者が明日来るそうなので、その人達にまとめて渡す予定だ。

 

「よいしょっ……これで全部かな?」

 

 運び始めて30分。

 研究室の中からは、一部を除き机の一切がなくなっていた。残っているのは、端末と一体型のタイプのみだ。

 

 邪魔なものがなくなった室内は、普段よりもかなり広く見えた。

 

「アリスちゃーん、手が空いてるー?」

「あ、はい。アルマさん、何かありましたか?」

「これー、外に持って行ってくれない?」

 

 アルマさんが指を指す先には、記憶媒体が引っこ抜かれた端末がいくつか置かれている。

 

「どこか傷んじゃったみたいでねー、ちゃんと動かないんだよー」

「廃棄ってことですか?」

「そーそー、記憶媒体は壊れてるからって捨てられないけど、データが残ってない部分は邪魔だし捨てないとねー。……これが私物だったら、分解してパーツ単位でチェックするけど」

 

 アルマさんが何か小さい声で言ったように聞こえたが、何と言っているのかはっきりとは聞こえなかった。

 それにしても、もったいない主義の自分としては、記憶媒体以外まるごと捨ててしまうのは少しもったいなく感じてしまう。ばらばらにして再利用しちゃダメなんだろうか。

 まあ、壊れている可能性がある程度存在するようなパーツを仕事で使っちゃいけないとかあるのかもしれない。アルマさんが捨てると言うのだから、さっさと捨ててこよう。

 

「記憶媒体の方はどうするんですか?」

「うーん、ちょっとロイドさんと相談かなー。私がデータを復旧できないことが、この記憶媒体からデータを復旧できないことを意味しているわけではないしー。捨てるにしてもー、完全にデータが戻せないことを確認するか、物理的に粉々にでもしないと捨てるわけにはいかないよー」

「なるほど、研究成果が漏れでもしたら大変ですもんね」

「おー、そのとーり! ……こうすれば、少なくとも敵国には渡らないからね」

「敵国には、ですか?」

「……あー、うん。まあ、貴族社会では味方が味方とは限らないから」

 

 貴族の黒い話を聞いた私は、大変だなーと他人事のように思いつつ、苦笑いをしながら壊れた端末を手にした。

 

「とりあえず、外に持っていきますね」

「おー、場所は駐車場ねー。エニアグラム卿のところと共用だから、多少場所には気を遣って置いてよー」

「はーい」

 

 アルマさんの声に返事をして、端末を担いで外に向かう。

 そういえば、ミリアさん率いるノネットさんの専用機開発チームも、多少被害を受けていたんだっけ。こっちがこんなだから、すっかり忘れてた。

 

 駐車場の近くに移動し、置く場所がないか辺りを見回す。

 何台も車が置かれていたので、目当ての場所はなかなか見つからない。

 10秒と少し、目的の場所が今いる位置から見えるところにはないということを確認すると、車の陰になって見づらいところにミリアさんの後ろ姿が見えた。

 

「ミリアさーん」

「ん?」

 

 こちらを振り返ったミリアさんに、端末を担いでいない方の手で手を振る。

 アルマさんの言葉が正しければ、ミリアさんが壊れた端末を何処に置けばいいのか知っているだろう。

 

「アリス? ……えー」

 

 私を見つけたミリアさんの表情が、「何バカなことやってるんだろ」みたいなものに変わる。なんというか、死んだ魚の目とジト目のちょうど真ん中くらいの表情だ。

 

「こんにちは、ミリアさん」

「おはよう、アリス。それはあっち」

 

 ミリアさんが親指を背後に向ける。

 ひょっこり向こう側を覗けば、そこには一台のトレーラーと何人かの大人、その傍で台車を押す女性の姿が見えた。

 

 ……台車、そっか台車があったなら担ぐ必要はないよね。

 ミリアさんの表情の原因はこれだろう。台車を持ってくればいいのに、わざわざこんな重いものを肩に担いで持ってくるのは馬鹿んぽすることだろう。

 

「中に人がいるから、彼らに渡して」

「はい、ありがとうございます」

 

 まだ、壊れた端末はいくつもある。

 次に持ってくるときは、どこかで台車を借りよう。

 

 ミリアさんにお礼を言って、トレーラーへ。

 

「すみません」

「ん? ああ、アリス君。昨日は大丈夫だったかい?」

 

 トレーラーの中で私から端末を受け取ったのは、昨日ほんの少しだけ言葉を交わしたミリアさんの所の研究者の人。彼に対し「ひどい目にあいましたけど、何とか大きな怪我はせずに済みました」何て答えながら、持っていた端末を渡す。

 そして、ふと、本当に何となく、特に理由もなく、ちょっとした好奇心でトレーラーの中を覗き込んで――

 

「もう二度と、火災には会いたくな――え?」

 

 ――そこで、銀髪の青年を眼にした。


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