私と契約してギアスユーザーになってよ!! 作:NoN
うん、仕事中にこんなことを考えるなんて、私疲れてるな。
「お疲れさまー、アリスちゃん」
「お疲れ様です、アルマさん。研究データは大丈夫そうでしたか?」
「あははー……今朝バックアップしておいた分は、本国のサーバ―にあるから無事だったけどー、他はちょっと考えたくないかなー。……考えたら死にたくなりそう」
最後の言葉が猫被ってない辺り、どれだけ大変なのかが伺える。
調布の収容所からトレーラーに乗って戻ってきた私は、鎮火された研究室で壊れた機材の整理をしつつ、死にそうな顔をした研究員さん達を眺めることになった。
特にセシルさんの顔色はすごかった。セシルさんは書類関係の管理をしているので、今回の火災でどれ程の書類が焼失したのか想像してしまったのだろう。明日あたり、比較的その辺の管理も兼ねて仕事をしているロバートさんやジェレミーさん、アルマさんなどは、きっと地獄を見るだろう。
「というか、データ以上に機材が大変だよー。データは時間さえあればどうにかなるけどー、機材は買う必要があるんだよねー。ランスロットを2機も組んじゃったから、財政的にピンチなんだよー」
「ノネットさん達に、一部でも立て替えてもらうこととかはできないんですか?」
「できなくはないだろうけど……いくら技術提携してるからって、そう簡単にラウンズの方々にお金をせびるわけにはいかないってー」
肩を落としながら、アルマさんは私の隣で肩を落とす。
私達以外は誰もいない廊下に、アルマさんのため息がこだました。
今、私とアルマさんは自分たちの部屋へ向かって歩いている。
現在の時刻は11時過ぎ。本当はもう少し手伝っていたかったが、戦闘で疲れているだろうとセシルさんの言葉で、スザクさんと私は休むように言われ帰されたのだ。
アルマさんも一緒に部屋に戻ろうとしているのは、私たちと同じように疲れていると判断されたためだ。炎の中で、研究員さん達全員を外へ運んでいたのだから、疲弊しているのは当然だろう。
「あー、お金と時間が欲しい。1000万入ったジュラルミンケースとか落ちてないかなー、一日48時間になったりしないかなー」
「48時間もあったら暇なだけですよ。でも、たしかに時間が欲しいと思うときはありますね。以前は、週末に寝だめしたくないとか思ってましたし」
「ミドルスクールくらいのアリスちゃんが言うセリフじゃないよー、それー」
何でもない話をしつつ、お互いに笑い合う。
私は、アルマさんの話しに相づちを打ちながら、自身の部屋の前までたどり着いた。
「それじゃー、今日一日お疲れさまー。ちゃんとベッドで寝て、ゆっくり休んでねー」
「はい、お疲れ様です。お休みなさい、アルマさん」
ドアの前でお互いに軽く手を振り、挨拶をして別れる。
部屋に入って、ドアの向こう側からアルマさんがいなくなったのを確認してから、私はドアの前を離れた。
そして、一直線に備え付けのトイレに向かい、トイレのドアを背もたれにして座り込む。
「……よかった。取り繕える程度には、良くなってるみたい」
私は、若干吐き気がする自分を抱きしめた。
手を見れば、そこには起きた時にあった赤色はない。あの光景を忘れたわけではないし、赤色に対する恐怖がなくなったわけではないが、少なくとも幻覚を見ることは無くなった。
紅蓮弐式と戦って、スザクさんを助けることができて、少しずつ自分に自信を持てるようになり始めたのがわかる。
このまま前に進めば、もしかしたら自分は元に戻れるかもしれない。突然異常をきたす様な自分を、元の自分に戻せるかもしれない。
根拠は何もない。
けれども、今の私には自分が元に戻れるという奇妙な自信があった。
ふと、腕に触れた腹部が、微かに動いていることがわかった。
腹部は、私がそう認識するのを待っていたかのように、小さな音を奏でる。
「……お腹の音を鳴らすって、腹ペコキャラか、私は」
誰かが見ているわけではないが、なんとなく恥ずかしくなった。
そういえば、起きてから何も食べてない気がする。食事どころではなかったので、すっかり忘れてた。
「でも、この時間に食べると太るし……」
随分余裕だな、私。
夜食を食べるかどうか悩むなんて、つい数時間前までベッドの上で震えていたとは思えない思考だ。
ついおかしくって、口から小さく息が零れる。
「……寝よっか」
私は、そのまま汗を流すためにシャワーを浴び、夜食を食べることなくベッドに入った。
朝、食堂で朝食をとる。
メニューは軽くサンドイッチを1つ。本当は、お腹がすいていたのでもう少し量を食べたかったが、何となく嫌な予感がしたので軽いものにした。
時間も早いために、食堂には人影はほとんどない。
特派の研究員の内、特に調子がひどい人たちは病院に搬送されている、ということもあるだろう。
普段は5、6人ほどいる人影も、今日は片手で足りる程度しかいなかった。
「おはようございます、アルマさん、ロバートさん」
「あれ、おはよー、アリスちゃん」
「おはよう、アリス」
そのわずかな人物のうちの二人、アルマさんとロバートさんに声をかける。
返事をする二人の声には力がなく、その眼は充血で真っ赤に染まっていた。
近くに座っていいかと、一言断ってから席に着き、サンドイッチに手を付ける。
サンドイッチの中身は、卵とツナマヨ。半分に割ってからそれを食べ、もう半分を皿の上に置いてから二人に話しかけた。
「調子が悪そうですが、大丈夫ですか?」
「んー、やっぱりそう見えるー?」
「ははは、鏡は見ていないけれど、君の目でもわかるってことは相当ひどいんだろうね」
ロバートさんは軽く笑っている。
普段の様な冗談なら、私もつられて笑ったかもしれないけれど、今日はそんな気分にはならなかった。
「昨日はいろいろありましたし、無理をしている様でしたら休んだ方がいいですよ。あんなことがあった直後ですし、セシルさんも一日くらい休んでも許してくれるはずです」
何故なら、はっきり言って、今の二人の様子は明らかに普通ではないからだ。
目を真っ赤にして顔色の悪い二人は、誰がどう見ても不健康そのものだ。
「いやー、それをしたいのは山々だけど、やることいっぱいあるからねー。新しいランスロットの調整もあるし」
「僕は、病院に行った他のみんなの調子を見なきゃいけないしね。昨夜のうちにメールとかで何人かの現状は聞けたけど、一部の重傷者、例えば直接刺された彼女とかは様子を見に行く必要があるし」
刺された彼女……ああ、チーズケーキさんのことか。
二人の理由がそうなら仕方がない。襲撃の危険を考えれば、あのランスロットの調整は一刻も早く終わらせなければならないし、病院へ見舞いや手続きに行く役も誰かしら必要だろう。
なんとか私が二人の仕事を代わりたいが、知識量や外見年齢的な面で不可能だろう。
「そうですか……それでも、お二人とも無理しないでください」
「わかってるってー。ロバートはともかく、私はそこまで無理はしないよー」
「ああ、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だ、問題ない」
……二人とも、これはネタで言っているのだろうか。
とりあえず、心配しなくていいようなので、とりあえず私は意見を引っ込めた。
「どちらかというとー、無理してるのはアリスちゃんじゃないかなー?」
「アルマさん達ほど、無理はしてないですよ」
「言ったなー、このー!」
じゃれ合うように怒ったアルマさんが、私のこめかみに中指の第二関節を当てて軽くぐりぐりと刺激する。
少し痛かったが、若干身体がこっていた様で同時に少し気持ちよかった。
「わっ、い、痛いですってアルマさん」
「ふふー、バイオニクスと医療サイバネティクスをかじっている私には、アリスちゃんのこりの場所などお見通しなのだー!」
寝不足だからだろうか、妙にテンションの高いアルマさんに、顔や頭、肩などを揉みしだかれる。
抵抗しようと思ったが、結構気持ちよかったので思わず身を任せてしまう。
……このマッサージ、本職の人並みにうまいんじゃないだろうか。私が、あまり高級なマッサージを受けた事が無いから、そう感じるだけかもしれないけど。
「はあ、程ほどにしときなよ。あまり朝食にかけている時間もないんだから」
「おー、わかってるわかってる。でも心配なのー、揉んでる時の様子を見た感じ、若干反応が鈍いみたいだからねー」
「……っ!」
とっさに、顔を揉むアルマさんの手を振り払い、アルマさんの顔を見る。
アルマさんは、いつもの猫を被っているときと同じような柔らかい顔をしていたが、その眼つきは比べ物にならないほどに鋭かった。
「そう、見えますか」
「うん、アリスちゃんのことはよく見てるからねー。普段と様子が違ったら、うちの人間ならすぐわかるよー」
アルマさんの言葉を聞いて、私は曖昧に微笑んで返す。
――そう、アルマさんの言う通り、今日起きてから、私の身体は少しおかしかった。
今朝起きてから、私は妙に身体が
遠いと言っても、直接的に反応が鈍くなったわけではない。
五感も正常、身体を動かすことに関して、何一つ変化はない。
では何が変化したのかと言えば、単純に、今まであった『身体を意識して操作する感覚』が強くなったのだ。
とはいえ、この身体になってからそこそこ時間が経っている。なので、その感覚と付き合い続けていた私にとって、前と同じように体を動かすのは難しくない。難易度的には、自転車から補助輪が外れたような、その程度の変化だ。
つまり、私の反応が少し鈍っているのは、僅かに身体を動かしにくくなったことが原因ではない。
では、何が原因なのか。
その理由を、起きて数分間身体を動かして確認していた私は、何となくだが理解していた。
私が鈍い原因は、この『アリス』の身体を、より細かく動かせるようになっていいたことだった。
語弊を覚悟で言えば、オートマチックトランスミッションがマニュアルトランスミッションになったような感覚だ。正確にはハンドルを弄っているようなものなのだが、そう言った方がわかりやすいだろう。
身体が動かしやすくなっていることに、慣れていない私が戸惑っている。これが、反応が鈍い原因だった。
「すみません、寝起きで頭が少しぼけっとしているんです」
「寝不足かー、アリスちゃんを働かせている私たちが言えた話じゃないけど、夜更かしは身体によくないよ?」
「ロイドさんに掛け合って、昼食の後に昼寝の時間でも確保するか?」
「いえ、幼稚園児でもないですから大丈夫です」
「恥ずかしがらなくてもいい。E.U.の一部では、シエスタと言って公的に昼寝時間を確保している地方もあるんだ。現在は廃止傾向にあるみたいだが、昼寝というのは大人がやっても普通のことだよ」
「そーそー、恥ずかしがらなくても大丈夫だって」
「いえ、その……大丈夫ですから」
別に寝不足が問題ではないので拒否しようとするが、二人とも心配性なのか妙に押しが強い。
何とか抵抗したものの、最終的に二対一で押し負けそうになった私は、心配する二人をよそにさっさとサンドイッチを食べて食堂を脱出した。
食堂を出た私は、部屋で歯を磨いた後、火災で荒れてしまった研究室へと向かった。
電気系統に異常があるかもしれないので、念のため電源が落とされてただのドアとなってしまっている自動ドアを主導で開け、部屋の中に入る。
部屋の中には、ロイドさんとジェレミーさん、あとはセシルさんとアルマさんがいた。
此処にいない研究員さん達の中で、ロバートさんとスザクさんを除く残りの人たちは、全員病院で検査もしくは治療を受けている。
「おはようございます」
室内に入ると、セシルさん達が挨拶を返してくれる。
私は、セシルさんから簡単に今後の予定を聞いて、昨日に引き続き壊れてしまった機材等を運び出すために、私は焼けた端末に手をかけた。
「おめでとう!」
「わっ」
瞬間、後ろから捕縛される。
声と視界の端に映る白い裾から、それがロイドさんであることがわかった。
中学生くらいの私に対し、背後から襲い掛かる成人男性。
どう見ても事案である――冗談だけど。
「ようやく来たねアリス君。君が来るのをずっと待ってたよ」
「お、おはようございます、ロイドさん。えっと、なにかありましたか」
ロイドさんの良く通る若干高めの声が、室内に反響する。
耳元にかかる声がくすぐったい。というかうるさい。どうせ作った声だろうし、もっとテンション下げてほしい。
「――トレーラーの記録を消したのはよかったけど、ランスロット自体の記録を消し忘れたのは失敗だったね」
ロイドさんの小さな声が、私の耳に届く。
「……あ」
声が漏れる。
今更気が付いても遅い。いや、ある程度話を通しているロイドさんにバレたのだと考えれば、まだマシな方だと言えなくもない。
「――今ならセシル君もここから離れられないし、ちょっとついて来てもらうよ」
小さく、すぐ後ろにいるロイドさんだけがわかる程度に小さくうなづく。
小声で話してくれているということは、私のコードギアスのことを意図的にばらす気はないのだろう。
ロイドさんは、私が頷いたことに気が付いたのか、回していた腕を離して私を開放してくれた。
「いやー、昨日の火災で、君の身体データが吹き飛んじゃってね。再検査のためにちょっとついて来てくれるかな」
「え、データ消えちゃったんですか。
……わかりました。復元するよりも再度調べたほうが早そうですし、よろしくお願いします」
若干めんどくさそうな表情を作りつつ、ロイドさんの演技に合わせる。
普段、私は仕事中にこういった負の側面の表情をする事が無いので、少しやり過ぎたかもしれない。まあでも、セシルさんの方を見れば、苦笑いをしながら「いってらっしゃい」とでもいうように手を振っていたので、たぶん問題ないと思う。
そんなことを考えながら、ロイドさんの方へと振り向くために、視界をぐるっと回した瞬間。
――アルマさんと、目が合った。
「あ、ばれてる」
即座に気が付いた。
比較的事務仕事の多いセシルさんに比べ、より研究者的な立場に近いアルマさんは、実験等で私と話している回数が多い。
セシルさんが気が付かなかった私の作った表情も、アルマさんならすぐに気が付いただろう。
アルマさんは、ランスロットに接続していたノート型端末からケーブルを引き抜くと、端末をシャットダウンかスリープか何かをしてこちらに歩いて来る。
「ロイドさん、ちょっと……」
背伸びしながら唇をロイドさんの耳によせ、アルマさんが私のことを知っていることについて簡単に伝える。
それを聞いたロイドさんは、面白そうなものを見たかのような眼つきをすると、やさしく私の頭を軽く撫でてアルマさんの方へと顔を向けた。
「うん、確かにそうだ。なら……アルマ君、少し手伝ってもらえるかな。アリス君も、同じ女性同士なら問題ないでしょ?」
「私ですかー? まー、今ちょうど区切りがいい所まで来たのでー、別に問題ないですよー」
「なら決まりだね。ここだと落ち着かないから、外のトレーラーに行こうか」
アルマさんが、わたしよりもはるかに自然に返答する。
さすがアルマさんだ。普段から猫を被っているからか、こういった時の反応が自然にできている。
そんなことを考えている間に、ロイドさんはさっさと外に行ってしまった。
「身体データの測定……あいつが刺されててよかったわね」
「アルマさん?」
「ごめん、独り言だから気にしないでー。
ロイドさんを待たせるのも悪いし、私たちも早く行こーか」
念のためセシルさんに外に行くことを断ってから、私とアルマさんも建物の外に止められたトレーラーへと向かう。
トレーラーにたどり着く前に、アルマさんに昨日説明し忘れたギアスについても含めて、先ほどロイドさんと話したことを簡単に説明しておく。
「ふーん、聞いた感じだと、ロイドさんの目的はあのナイトメアの解析かなー?」
「一応、以前あのKMF――コードギアスについては、ギアスと一緒に簡単に説明していたんですけど……」
「河口湖の時のでしょー。あれもあれで信じられない光景だったけどー、『ザ・スピード』だっけ? それについて一緒に説明していたら、ギアスの規模を拡大させるナイトメアとしか認識されないんじゃないかなー?
もしそうなら、今回の一件はロイドさんにとって予想外だったでしょーねー。ランスロットをあの速度で投げ飛ばせるってことはー、あのナイトメアが最低でも従来のナイトメアの数倍の出力を持っていることになるんだしー」
「なるほど。もしそう言った認識のされ方をしていたのなら、確かに呼び出されるのは当たり前ですね」
もし、アルマさんの推測が真実なら、納得のできる話だ。
私が河口湖で見せたのは、コードギアスの速度と近接武装の切れ味だけ。私のギアスの効果を知っているロイドさんの視点で考えれば、コードギアスの売りはギアス伝導回路――ロイドさんはこの名前を知らないので、正確には何らかのギアス増幅装置を備えていること――であると考えてもおかしくない。
そんな、実質的に速度が売りのナイトメアが、圧倒的なパワーを見せたならどうだろうか。
コードギアスの機体出力は、ナイトメア・オブ・ナナリーに登場するKMF、筋力増強系のギアス『ザ・パワー』を持つダルクのKMFには遥かに劣るが、それでも圧倒的なものがある。ナイトメア・オブ・ナナリーのランスロット相手ならわからないが、この世界のランスロットと比較した場合、その差は歴然だろう。さすがに天と地ほどと言えるほどの差はないが、腕相撲をしたら余裕で勝てる自信はある。もっとも、ランスロットが腕相撲をできるかどうかわからないけど。
昨日の戦闘において、私は『ザ・スピード』による多少の小細工を行ったとはいえ、KMFでKMFを上空に投げ飛ばして見せた。それは、ロイドさんには本当に驚きのことだったんだろう。
「まー、どーせ危険なことはされないだろうしー、行ってみれば何をしたいのかわかるでしょー」
何が起こるかは、結局は開けてみなければわからない、と。
のんきにのんきなことを口にするアルマさんに肯定を返して、私はロイドさんの待つトラックへと歩いた。
「それじゃあ、早く量子シフトしてよ」
トレーラーに入って一番に、私はロイドさんにそう言われた。
普通、いきなり本題に入ったりしないと思うのだが、何事も一直線のロイドさんには通用しないらしい。
というか、予想はしてたけど量子シフトはバレてるのね。
「はい、少し待ってください」
いまさら断る理由もない、正確には断ってもあまり意味がないので、ロイドさんの言葉に従いコードギアスを量子シフトする。
いちいち動かしてセッティングするのも面倒なので、データが取りやすいように、昨日ランスロット・クラブが置かれていた位置に、端末が接続しやすい体勢で出現させた。
「おぉー」
背後にいたアルマさんが、小さな声を漏らすのが聞こえる。
そんなアルマさんとは反対に、ロイドさんは特に驚いた様子もなく大量のコードの束を取り出した。
「規格はブリタニアのだよね。それともE.U.系?」
「ベースはブリタニア製なので、たぶん規格はブリタニアのものを使用していると思います」
「なるほど」
手に持っていたケーブルの半分近くを、ロイドさんは端末のキーボードの上に放り投げた。
それから、ノート型端末を起動し、それらのコードのうち何本かをノート型端末に突き刺す。
普段からランスロットの調整を見ていた私は、何となく何をしたいのかがわかったので、遠隔操作でコックピットのハッチを開けた。
「……ベースはってことは、中華連邦かどこかで改造でもされたの?」
「詳しくは知らないですけど、ブリタニアの宗教団体の技術が使われているみたいです」
私の記憶が正しければ、コードギアスやマークネモにはエデンバイタル教団の技術が使われていたはずだ。
エデンバイタル嚮団とは、ナイトメア・オブ・ナナリーの世界におけるギアス嚮団的な存在のことである。
「宗教団体、ね。こんな技術を持った宗教団体があるなんて、想像もできないんだけど」
「餅は餅屋、物事はその道の専門家に任せるのがいいって言いませんか」
「……ふーん、異常な機動力はその辺から来てるのかな?」
ロイドさんが散らかしたコードを束ねているアルマさんをよそに、ロイドさんはコックピットの中を覗き込む。
――そして、固まった。
「ロイドさん?」
何かあったのかと心配になったので、ロイドさんの背後に移動してコックピットを覗き込む。
考えていたのとは逆に、コックピットの中には特に異常は無かった。前に見た時と変わらない内装だ。
「……へえ」
コックピットを見つめるロイドさんの表情が、別人のように変貌する。
その口角は三日月の様につり上がっており、目は好奇心一色に染まっていた。
「アリス君」
「はい」
「今日はコックピットはいいや。内部を見るには、色々と設備が足りてないみたいだからね。
とりあえず今日はスペックの方を確認したいから、まずはこれに乗ってくれる?」
そう言いながらコードをポケットにしまうロイドさんを見て、どうしてロイドさんが固まったのかを理解した。
コードギアスは、搭乗者の両腕を機体と融合させて操作するという特殊な操縦方法を採用している。また、他のKMFに採用されているメモリー型の電子錠を採用していない。つまり、ぱっと見える範囲では、接続端子が存在していないのだ。
ロイドさんはそれを見て、一般のノート型端末では解析するのは難しいと判断したのだろう。
「了解です」
ロイドさんの指示に従い、コックピットに乗り込む。
直接操縦するのは久しぶりだな、なんてのんきなことを考えながら、私は両腕をコックピットに沈めた。
ロロのギアス強すぎワロタ。
最強疑惑のあるこの主人公でも、不意打ちされたら勝てないかも。