私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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主観が変化する関係上、俗称と正式名称がごっちゃになって描写されているので、一応明記しておきます。
ランスロットもどき=魔改造されたサザーランド=特派サザーランド です。
本来であれば、このように説明をしなければならないような描写を行っていることは問題ですが、許容していただけると助かります。


48話

 正面から迫る一撃。

 

 スザクは、それを僅かに下がって回避しつつ、踏み込んで反撃する。

 

 正面の敵、奇跡の二つ名で知られる彼――藤堂は、機体を半歩右に動かしてそれを回避し、返す太刀で刃を振り上げた。

 

 藤堂の処刑を執行するために調布を訪れていたスザクは、脱走した藤堂と戦っていた。

 ランスロットのコックピットは、藤堂の剣によりその上部を破壊されており、中にいた彼の顔が外部に晒されている。

 そんなランスロットと対峙する藤堂のナイトメア――月下もまた、コックピットハッチを開け、生身で向かい合うように戦っていた。

 

 スザクは、下から上って来た斬撃を機体を逸らして回避する。

 そして反撃しようとしたところで、それよりも早く藤堂から斬撃が放たれた。

 

 普通の鋼鉄等でできた武器では、ランスロットの装甲を貫通するのは困難であるが、藤堂の振るう刃は、まるでチェーンソーの様に赤熱した刃が回転しており、ランスロットでも油断できない切断能力を備えている。

 

 刃をブレイズルミナスで受け流すスザク。

 スザクの視線から彼の思考を見抜いた藤堂は、受け流されるのに合わせて刀を引き、突きの構えを取る。

 

 三段突き。

 

 藤堂の必殺の連撃が、スザクの駆るランスロットへと振るわれる。

 一度目は避けきれずコックピットの一部を破壊されたが、所詮ナイトメアの振るう剣術は本物には程遠い。スザクは、今度は三撃すべて回避すると、体勢を立て直しつつ一歩身を引いた。

 

 藤堂は、その後退に合わせ一歩踏み込む。

 

 藤堂の駆るナイトメアから、踏み込むと同時に放たれる一撃。

 スザクは、辛うじてそれを回避するが、再び剣を振るには難しい体制を余儀なくされる。

 

 一方的な展開、誰が見てもそうとしか見えないであろう攻防。

 

 もう少しランスロットの操縦に慣れていれば、そう思わずにいられない状況の中でしかし、スザクは勝利を諦めていなかった。

 

 綱渡りの様な戦いを切り抜けつつ、必死にランスロットに意識を同調させる。

 一歩間違えば死ぬであろう領域で剣を振るいつつ、着実に操縦技術を向上させていた。

 

「流石だ、スザク君。君がここまでできるとは思っていなかった」

 

 藤堂の言葉に返事をしたいと思うが、スザクにはそこまでの余裕はない。

 スザクにできたのは、藤堂が上段から振り下ろした一撃を回避しつつ、まるで返事でもするように一撃を返すことだけだった。

 

 機体性能差は歴然だ。しかし、その差を技術で覆されている。

 スザクはその事実を認めつつ、けれども焦ることなく確実に凌ぎ続ける。

 

「どうして……!」

 

 弾き飛ばすようにMVSを振るい、スザクは今度こそ距離を取る。

 スザクは、小さく息を吸って、問い詰めるかのように藤堂に声を吐き出した。

 

「あなたは、筋を曲げてまで、そうまでしてでも生き延びたいんですか!」

 

 そう告げたスザクに、藤堂は剣を振り下ろす。

 振るわれたその剣は、まるで鍔迫り合いの様に受け止められた。

 

「失望したか……ならば、予定通り私を処刑したまえ」

 

 藤堂は、スザクに対し野性的な笑みを浮かべながらそう告げる。

 かつて同じ道場で剣を振るった相手が、今は敵である彼が口にしたその言葉に、スザクの剣が鈍る。

 

「どうした! そのつもりでここに来たのだろう」

 

 確かにそうだ。藤堂が言う通り、スザクは藤堂を処刑するためにここに来た。

 けれども、それはそう簡単にできるものではない。知っている顔を殺せと言われて殺せるほど、スザクは割り切れていなかった。

 

「現状に甘んじるだけの、腑抜けた小僧に成り下がるとは……」

 

 まるで挑発の様な言葉、それがどんな意図で発されたのかを考えるよりも早く、スザクはその言葉に反論をしていた。

 その言葉は、彼にとって必ず否定しなければならない言葉であったからだ。

 

「今の社会を否定しても、意味がありません!」

「何?」

 

 外から力によって世界を変えることは、間違っている。

 いかに今の社会が間違ったものであったとしても、スザクにとって社会とは、正しき手段によって変えられなければならないものだった。否定して、力によって変えられてはいけないものだった。

 なぜなら、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「認められて、変えていける力を持つことこそが!」

 

 それこそが、唯一の正しい手段。

 スザクにとっては、それが真理だった。

 

「本気か!」

「当たり前です!」

 

 スザクのその言葉を聞いた藤堂は、ふっと小さく口元を歪めてスザクを見る。

 

「ならば、君はその道を貫け」

「え?」

「勝つにしろ負けるにしろ、すべてを出し切らなければ何も獲得できはしない。それは国でも個人でも同じこと。スザク君、君のその思いが本物であるなら、自ずと道は開けるだろう」

 

 藤堂がスザクを押し込み、直後に後退する。

 それが藤堂なりの激励だと気が付いた時、既にスザクの視界から彼の顔が消えていた。

 

「はい……!」

 

 それでも、聞こえないとわかっていても、スザクは彼に返事をせずにはいられなかった。

 

 その直後、収容所の塀を越えて一機のナイトメアが現れる。

 その機体は、ランスロットと同じ純白の装甲を身に纏っていた。

 

「特派サザーランド、どうしてここに……っ!」

 

 さらに、その後ろから深紅の機体も出現する。

 黒の騎士団から鹵獲したはずのナイトメア、紅蓮弐式だ。

 

「……まさか」

『スザク君、話は後でするわ。今はその二機は敵よ、気を付けて!』

 

 嫌な予感が脳裏に浮かびそうになった時、四方からこちらに接近する四機のナイトメアがモニターに映った。

 

 どこか見覚えがある陣形。

 アリスが、彼女自身の訓練のために行っていたシミュレーションで、対峙するグロースター4機に行わせていた円を描くような動き。

 アリスは近接戦闘が苦手であるとはいえ、それでも最新鋭機であるランスロットに乗っていながら手も足も出ずに敗北した連携攻撃。

 

 彼女曰く、名前はたしか――旋回活殺自在陣。

 

『枢木准尉、ハーケンブースター解除っ! パスワードは"僕の好物"!!』

 

 とっさに、ロイドさんの声に従ってパスワードを入力する。

 それによって解放されたのは、スラッシュハーケンの加速機能であるハーケンブースター。

 スザクは、四肢からすぐさまスラッシュハーケンを放つと、ハーケンブースターを稼働させた。

 

 空中で軌道を変えたスラッシュハーケンは、加速しつつ四聖剣の駆る月下へと突き刺さる。

 

 ただのスラッシュハーケンであれば、彼らのうち一機か二機は回避したかもしれない。

 だが、軌道を変え、加速し、意識の外側から回り込んできたその一撃は、それを初めて見る四聖剣たちには回避できなかった。

 

 ――同時に、それを知っていた"彼"には対応ができた。

 

 四聖剣たちの月下へとスラッシュハーケンがつい刺さった直後、同じく加速したスラッシュハーケンが死角からランスロットへと突き刺さる。

 

「ぐっ!」

 

 カメラを死角に向ければ、そこにはこちらへと直進する特派サザーランドの姿が。

 咄嗟にブレイズルミナスを向けようとするが、それを読んでいたかのようにもう一つのスラッシュハーケンが腕へと突き刺さった。

 

「なら!」

 

 構えるのは逆の手。

 だが、それももう一つのスラッシュハーケンで逸らされる。

 

 後退しようとランドスピナーを動かすが、それすらも読まれていたかのように、ランドスピナーにもハーケンが突き刺さった

 

 まずい。

 

 手数が足りない。

 スザクが生き残るためには、手札が足りない。

 もし、スラッシュハーケンがもう少し早く巻き取れていれば違ったかもしれないが、現実はそうではない。

 

 こちらに突き進む光の一撃。

 今のスザクには、その現実を覆すだけの力はなく――

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

 

 スザクが戦闘を始める少し前。

 

 追いかけるアリスから遠く離れた政庁、その敷地の端に止められた一台のトレーラー。

 アリスだけではなく、もう一人、彼女なりに戦っている人間がいた。

 

「やっぱり、間に合いそうにないかぁ……スペック差は十分あるんだけどねえ。

 アリスちゃんは相変わらず反応はいいけど、判断力が良くないかな。動き方にあまりにも筋がない。データ的には詰めは上手いはずだから、もっといい動きしてもいいはずなんだけど……」

 

 アルマは、トレーラーの出入り口を警戒しつつ、端末の操作を続ける。

 端末に映されたのは、新型のランスロットや紅蓮弐式、特派サザーランド(ランスロットもどき)の三機のスペックと、新型ランスロットの現在地。手元には数式で埋め尽くされた小さなメモが数枚置かれている。

 

「とりあえず、収容所到達前に再接敵するのは不可能ね。現状だと滑空が限界のランスロットが空を飛べるようになって、かつランスロットもどきがアサルトライフルやその銃弾、MVSを捨てていなかったら辛うじて間に合う可能性はあったけど……都合よくカタパルトでもない限りどうしようもないし」

 

 計算は終わったので、計算結果をミリアにメールでとばし、端末に映されていた各種データを消す。

 調布への連絡はミリアの役割なので、アルマにこれ以上の仕事はない。再計算が必要にならない限り、アリスのナビゲート以外の役割はこれで終わりだろう。

 アルマは、端末の傍に置かれたメモを剥がし、ゴミ箱に放り投た。

 

 とはいえ、この状況で腰を下ろすほど、彼女は怠惰ではない。

 

 トレーラー内にあった飛行ユニット関係の書類の束を手に取る。

 もし、現在こちらから調整できる範囲で短時間でもいいのでランスロットを飛ばすことができれば、それだけでアリスの選択肢が広がる。機体の調整はほぼ済んでいるので、彼女がアリスに対してできる手助けはそれ以外にはなかった。

 

「せめて、カウンセリングの資格でも持っていれば、もっと有意義なことができたかもしれないのに……」

 

 インカムのマイクを切りつつ、小さくため息を吐く。

 経験不足もそうだが、今のアリスが一番問題にすべきことは、機体の性能等ではなくアリス自身のメンタルだ。いくら高スペックのナイトメアを用意しようとも、それをデヴァ――パイロットであるアリスが使いこなせなければ意味がない。

 少なからずパイロットと接する機会がある人間であるならば、少しでもパイロットの精神について勉強しておくべきだった。アルマはそんなことを考えて、少し前までの自分が恨めしくなった。

 

 どうにかできるかもしれない状況で、しかし知識が足りずどうにもできないもどかしさ。

 

「もう二度と、こういった思いはしないために頑張って来たんだけどね」

 

 アルマは、自分に聞こえるかもわからないような小さくそう呟きつつ、画面にプラズマ推進モーターのデータを呼びだし、手元の書類と見比べながら脳を働かせる。

 

「できれば飛行ユニットに手を付けたいけど、下手に弄って操縦感覚を狂わせるわけにはいかないし……どうにかして、感覚に影響が出ない程度に弄るしかないわね。弄ってどうにかなればだけど」

 

 フロートシステムのランスロット導入に関する調整を行っていたアルマは、フロートシステムとは別の飛行機構であるプラズマ推進モーターに関して、若干の知識があった。とはいえ、あくまで若干、内部のシステムに関して専門の人間ほど詳しいわけではなく、知り尽くしているとは間違っても言えない程度の知識しかない。

 普通に考えれば、そんな人間がどうあがいたところで、専門家たちがどうしようもなかった『プラズマ推進モーターによるナイトメアの自立飛行』は不可能だとわかるだろう。一般的な常識を持つ人間であれば、誰もがその考えに行き着いて、その不毛ともいえる行為に見切りをつける筈だ。どうにかしようという発想にすら至らない可能性もある。

 

 ただ、アルマは、『どうしようもないから諦める』というのがどうしようもなく嫌だった。

 正確に言えば、『自分ができる可能性』がある事象を、失敗しても不都合になるわけでもない物事を、"たぶんできない"や"おそらく不可能"という曖昧な判断基準を理由に諦めるのが嫌だったのだ。

 

 たしかに、彼女は専門家ではない。

 現時点では、知識が足りていない箇所も多いだろう。

 飛行ユニットの原理を知り尽くしているわけではない。

 

 けれども、アルマは基礎となる知識は習得している。

 足りない知識もあるが、足りている知識もある。

 飛行ユニットの原理を知り尽くしているわけではないが、おおまかな理屈はわかっている。

 

 ――なら、どうにかできるかもしれない。

 

 できないからと諦めて、わからないからと目を瞑る。

 それが何をもたらすかを経験していた……()()()()()()()()アルマは、また同じことを繰り返さないためにも、必死に資料を頭に叩き込んだ。

 

 そんな時、端末の画面がランスロットのコンディションをしめすものに切り変わり、アルマのインカムの向こうから声が聞こえてきた。

 

『――――』

「ん? ちょっと待ってて……ほいっと。お待たせ、どうしたのアリスちゃん」

 

 距離があるためか、珍しくインカムにノイズが走る。

 ブリタニアの高度な無線技術の環境下では、距離があるとはいえあまり見ないノイズという現象に、スッとアルマの目付きが鋭くなる。

 

 通信状況を確認するために、アルマは資料を端末の横において、キーボードに指を走らせた。

 

『――――』

 

 タイピングが止まる。

 アルマは、アリスのその言葉を聞いて、わずかな間だがその動きを止めた。

 

 ――記録を止めてほしい、ねえ。

 

「……」

 

 アルマは、無言で制服のポケットから小型の記憶媒体を取り出す。それから端末を操作して、今までのランスロットのデータをそれに移し、以降のデータの保存先をその記憶媒体に変更した。

 

「……はい、センサーを潰すわけにはいかないから、記録の方を誤魔化しといたわよ。

 リアルタイムの情報やそっちのランスロットの記憶媒体はともかく、こっちの記録の方は手違いで記録できないようにしておいたから」

『――――』

 

 アルマは、普段の素の様子を装いながら、微かに胸を痛めつつ、アリスにしれっと嘘を吐く。

 いや、公的な媒体の記録を誤魔化しているのは確かなので、嘘ではないだろう。単に、私的な媒体で記録をしているだけだ。

 

 そんな時、端末からアラートが鳴り響く。

 アルマがモニターに視線を戻せば、そこにはランスロットのコンディションを示す内容が映し出されており、コックピットハッチが手動で開かれたことを示す警告文が表示されていた。

 

「ちょ、ちょっとアリスちゃん!?」

 

 ランスロットは、構造的に外から開けられるようにはできていない。つまり、ハッチを開けたのはアリスということになる。

 記録を誤魔化してほしいといわれた時点で、何かとんでもないことをするとは考えていたが、流石にこんなことをするとは考えてもいなかったので、思わず叫んでしまった。

 慌てて端末を操作して、端末のモニターにランスロットの後部カメラの映像を表示させる。

 

「えぇ……」

 

 思わず困惑の声が零れた。

 そこに映されているのは、紫の装甲を纏ったナイトメア。そして、そのナイトメアの頭部に膝をつくアリスの姿だった。

 紫のナイトメアは、少し前に火災の中で見たあのナイトメアに非常に酷似……いや、全く同じ姿をしていた。

 

 紫のナイトメアの姿を見て、先ほど無線に起きたノイズの正体に行き着く。

 おそらく、ノイズは量子シフトが原因だろう。アリスの操るあのナイトメアは、量子シフトという転送技術を用いてその場に出現している。実際はどうかわからないが、少なくともアルマにはそのように見えた。アルマはその手の専門家ではないので詳しくは知らないが、量子シフトは、一時的な重力変動や若干の通信異常等、転送場所に大きな痕跡を残すとされていたはずだ。短距離ではそこまで影響はないだろうが、今のような長距離通信の場合、その影響は色濃く出るだろう。

 

 乗り換えるつもりだろうか? アルマの中に、そんな考えが過ぎる。

 

「アリスちゃん、もしかして乗り換える気?」

 

 せっかくランスロットに乗せたのに、乗り換えるのであれば意味がない様な気がしたのでアルマはアリスに声を上げる。

 

『――――』

 

 しかし、アルマの耳に帰ってくるのはハイウェイを駆ける風の音だけだった。

 当然だろう、今大地を駆けるランスロットと紫のナイトメアは、普通の人間であれば振り落とされてもおかしくないほどの速さで進んでいる。環境に合わせて音量を上げているならばともかく、コックピットの中での会話を想定した音量では聞こえる筈がない。

 

 そこまで考えて、アルマはある疑問に行き着いた。

 

 ――何故、ランスロットはその速度で走っていられるのだろうか?

 

 現時点のランスロットでは、コックピット外から機体を操作することはできない。今後そう言った機能を搭載する予定ではあるが、現状ではそれは不可能だ。

 故に、こちらの声が聞こえなくなるほどの速さでハイウェイを駆け抜けさせることは、コックピットの外にいるアリスの操縦では不可能なはずだった。

 

 端末の画面を切り替え、再びランスロットの状態を表した画面にモニターを切り替える。

 モニターに表示された内容を読み解けば、ランスロットには、コックピットハッチが明けられてから一切の操作が行われていないことがわかった。つまり、今ランスロットは一切の自発的行動を行っていない、ということだ。

 

 いったい、何が起きてるの?

 

 アルマは、後部カメラの映像に画面を戻す。

 映像は、先ほどとほとんど変わらない。唯一変化があったのは、紫のナイトメアの頭部に乗るアリスの位置が少し下に下がった程度だ。おそらく、あのナイトメアの体勢が多少変化したのだろう。

 一瞬、インカムに鳴る風の音は普通の風の音で、実際はナイトメアは走っていないのではないかと考えたが、アリスの髪が後ろに揺れるのを見て、その考えを切り捨てることになった。

 

 そんな時、画面の様子が大きく変化した。

 まるで、紫のナイトメアがしゃがみ込んだかのように、アリスの位置が画面下に移動したのだ。

 ……いや、違う。あのナイトメアがしゃがんだのではなく――

 

「あ、あははははははは!」

 

 それに気が付いて、アルマは思わず笑い声をあげた。アリスが一体何をしようとしているのか、アルマは気が付いたのだ。

 

 まさか、ナイトメアで()()()()()をしようとするとは、アルマは思ってもいなかった。

 盲点、いや、普通のナイトメアでは不可能なので、盲点とは言い難いだろう。

 

「ははは、うっそでしょ! そんなのありなの!!」

 

 アルマは、笑いながらランスロットのセンサーで観測した紫のナイトメアのゲインを確認し、それが可能な出力を持つことを確信する。

 バンバンと端末のキーがない部分を叩き、呼吸困難と手の痛みで涙が出そうになるほど連打し続けた。

 

『――ザ・スピード』

 

 インカムに、アリスのハッキリとした声が響く。

 そうして、紫のナイトメアによって、ランスロットが弾丸の如く放り投げられた。

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 迫る一撃。

 それが突き刺さるよりも早く、インカムから音が響いた

 

『――(中って!)

 

 それは、まるで言葉を圧縮して再生したかのようなノイズ。

 瞬間、特派サザーランドはまるで車に撥ね飛ばされるかのように吹き飛ばされる。

 

「今のは……」

 

 高い機動性を生かして包囲から抜け出し、スザクは一瞬だけカメラを空中に向ける。

 そこにいたには、背中に翼の様なユニットを背負ったランスロット。それが、空の彼方からヴァリスを構えていた。

 

「まさか……アリス?」

 

 ナイトメアを用いた空中からの狙撃。そんなことができるのは、射撃を得意とし、かつ飛行系技術のシミュレーションを数多くこなしている彼女以外には考えられない。

 

 特派サザーランドの脱出機構が作動し、コックピットが収容所の外へと飛んでゆく。

 ランスロットならともかく、そのスペアパーツで改造した程度の特派サザーランドでは、ヴァリスの直撃を防ぐことはできなかったのだろう。

 藤堂や黒の騎士団たちも、アリスの放つヴァリスを回避しつつ撤退してゆく。

 

 一番弱い機体に乗っていたためか一度も狙われることのなかったゼロを筆頭に、スザクには見覚えのない4機のナイトメア、藤堂さんの駆る機体が煙幕をばら撒きながら逃走する。

 紅蓮弐式だけは、アリスが紅蓮弐式を執拗に狙い続けたために、他のナイトメアに置いていかれる形になりかけたが、結局その紅蓮弐式も煙幕に紛れて逃げてしまった。

 

『スザクさん、無事ですか!』

「ありがとうアリス、おかげで助かったよ」

 

 ゆっくりと地面に近づくアリスのランスロットを眺めながら、スザクは操縦桿から手を放す。

 すぐ傍に倒れる特派サザーランドを見ながら、彼は安堵の息を零した。






今更ですけど、『調布』ではなく『チョウフ』ですよね。

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