私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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……不正(誤字)はなかった
文字色及び背景変更系アドオンを使用している人は、戻しておくことをお勧めします
実はこの話、何度書き直したのかわからないくらい書き直しました。後半は、今後書き直すかもしれないです。


46話

 場所は、大学の裏門の傍。

 そこに止められていたトレーラーの中に、私たちはいた。

 

「届くのは明後日と聞いていた」

「珍しく、うちの主任のロイドさんが本気を出したので、予定よりも手直しが少なく済んだんです」

 

 そこにあったのは、白く輝く2機のKMF。

 

「ただ、ソフトウェア関連の設定がまだなので、ナイトメアとして本領発揮するにはもう少しかかります。なので、そちらに『クラブ』を引き渡すのは早くても明日になります」

 

 ミリアさんとアルマさんの二人が何か話しているようだったが、二人の会話は、私の耳を通り過ぎるだけで全く耳には入ってこなかった。

 会話を続ける二人の隣で、私は呆然とその機体を見つめていた。

 

 アルマさんにクラブと呼ばれた1機は、おそらく奥にあるKMFだろう。

 ランスロットと同じ白い装甲板に、青い基調の線が入れられたKMF。正式名称は確認していないが、おそらく『ランスロット・クラブ』。本来であれば、ライという青年が乗るはずだったKMFだ。

 

 問題は、手前にあるもう一機のKMF。

 

「それにしても、まさか『クラブ』以外の新しいランスロットを新造しているとは思わなかった」

「技術交換の一件でそちらからの資金提供がなければ、この機体は作られることは無かったと思います。なにせ、うちは万年金欠でしたから」

 

 もう一機は、明らかにランスロットだった。

 普通のランスロットとは異なり、背後にでっかい羽根みたいな追加ユニットがくっついていたり、妙に筋肉質な感じがしていたりするが、外見は一応ランスロットだ。

 

「何か新しいシステムとかはある?」

「ええ。この機体は、元々ロイドさんが趣味で設計していたナイトメアに手を加えたものなので、いくつか面白いものが追加されています。一部のシステムはそのままクラブにも移植できるようになっているので、ロイドさんとの交渉次第では、そちらにお渡しできる技術もあるはずですよ」

「ん、ありがと」

 

 ……ロイドさんが趣味で設計していたナイトメア、この時点で嫌な予感しかしない。

 まさかとは思うけど、輻射波動とか積んでたりしないよね? 紅蓮弐式を鹵獲した時に輻射波動のデータを取ったはずだから、ありそうで怖いんですけど。

 見た感じはなさそうだけれど、ロイドさんが設計したと聞くと、腕がガシャンと変形して輻射波動機構的なものが出てきても驚かない。

 

「それじゃ、さっさと起動させましょうか。アリスちゃんもさっさと乗って」

「は、はい」

 

 考えても仕方がないので、コックピットへ。

 

「ほっ、えいっ!」

 

 装甲の凹凸を足場にランスロットを駆け上がると、肩に降り立ったところで私は一息ついた。

 何らかの足場を用意したりせずとも、KMFの膝などを足場にするだけで機体に飛び乗れるだけの身体能力。今更ながら、自分の身体能力に驚かされる。

 

 アルマさんも、流石にこんな状況では身体能力を隠す気がないのか、階段の手すりを足場にして、ランスロットの背後にある端末が置かれた場所に飛び移る。

 

「二人とも……体力余り過ぎ」

 

 きちんとした道を通って移動しようとしているのは、ミリアさんだけだった。

 

 アルマさんにコックピットを開けてもらい、シートの上に滑り込む。

 外部からの指示を聞くためのインカムは、既にアルマさんから預かっている。ランスロットのマイクが捉えた外部の音声を流すコックピットのスピーカ―とは別に、指揮車両――今回の場合はこのトレーラーから発せられた指示は、このインカムから聞こえてくる。万が一、戦闘でインカムが外れてしまった場合は、勝手にコックピット内部の音声に混じる様になるそうだ。

 

 コックピットの形状等には、細々とした変化はあったものの、あまり大きな変化はなかった。計器類もそうだ。

 唯一の大きな変化といえば、機体のコンディションを表示する計器の横に、もう一つモニターが増設されていることぐらいだろう。

 

『テスト、テスト。チッ、チッ。ワン、ツー、スリー。……大丈夫かな?

 うん、アリスちゃん聞こえる?』

「はい、問題なく聞こえます」

『大丈夫みたいね。もし聞きにくかったら、何時でも言ってちょうだい』

「はい」

 

 正面にあるモニター、光の消えたその黒い画面に血だらけの自分が映ったような気がして、そっと目を閉じる。

 

『起動パスワードはランスロットと同じだから、まずは起動させて』

 

 鍵を差し、起動パスワードを入力して、この新しいランスロットを起動させる。

 ユグドラシルドライブが唸りをあげて回転し、エナジーフィラーの電力をKMFの全身に伝えた。

 当然、コンピュータにも電力が流れ、コックピット内部にあるモニターにも光が灯る。

 

 瞼を照らす光から、モニターが鏡ではなくなったことを確認して、私は閉じていた目を開いた。

 

『計器のほとんどは、普通のナイトメアと同じだから説明は省くわね。話しておきたいのは、機体のコンディションを表示する画面の隣に追加されてる、小さなモニターに関してよ』

 

 アルマさんが言ったモニター、そこに目を向けると、なんだかよくわからない数字がズラッと表示されていた。

 

「なんですか、これ」

『――個体識別情報を照合……確認。

 調整に使っていたメンテナンス用のサブモニターね。背中のプラズマ推進モーターの出力や温度、追加された新機構に関する数値が表示されているわ。

 さっき外から見た時、背中におっきな羽があったでしょ。あれが、今回試験的に追加された飛行ユニット、プラズマ推進モーター』

 

 ランスロットの背中に追加された大きな翼、アルマさん曰く、それはプラズマ推進モーターを搭載した追加パーツらしい。

 プラズマ推進モーターという言葉には、聞き覚えがある。確か、ナイトオブスリーであるジノ――ジノ・ヴァインベルグ卿の専用KMFであるトリスタン、その試作機であるブラッドフォードに搭載されていた飛行システムだったはずだ。

 

『――マンマシンインターフェイスの確立を確認……確認完了。

 フロートシステムには劣るけど、現在実用化されている飛行システムの中では、ナイトメアを飛ばすのに最も優れた飛行システムよ。調整難度の問題で、現状ナイトメアをそのままの形で飛ばすのは半分机上の空論扱いされているけれど……っと』

 

 そう告げるアルマさんの声に混じって、キーボードを叩く音がインカムから聞こえてくる。

 しばらくすると、サブモニターの画面から光が消え、先ほどまで映っていた数字の羅列の代わりに、機体のコンディションを表示するモニターに表示されているものと同じ安易的な機体のモデルと、少し雑に描かれた追加ユニットのモデルが表示された。

 機体のモデルの方には、まるで人間の筋肉の様なもの緑の線でいくつも描かれている。追加ユニットの方には、機体との接続部分とブースター周りに緑の光が塗られていた。

 

『……突貫で作ったから少し雑だけれど、これでだいぶ見やすくなった筈よね。

 今新しく表示されたのは、右にある普段のモニターと同じ、各部の調子を表したものよ。緑色の部分が赤くなったら、危険な状態だと思ってちょうだい』

「……了解です」

 

 余りにもアルマさんの仕事が速いので、少し固まってしまった。

 さっき端末に触れてからこの数十秒で、機械的なデータをここまで見やすくしたのが、あまりにも驚きだったのだ。ある程度ひな形の様な物があったのかもしれないが、それにしたって早すぎる。

 

『――ユグドラシル共鳴を確認……ノイズは微弱、許容範囲内。

 プラズマ推進モーターの方は、さっき言った通りね。まだ調整不足だから空を飛ぶことはできないけれど、加速用のブースターくらいにはなるはずよ。

 もしかしたら、使い方によっては跳躍時の負担を軽くする程度のことはできるかもしれないわ』

 

 つまり、飛行未満のことなら役に立つ、という事だろうか。

 それなら、色々と使えるかもしれない。

 

『――パイロットのストレス反応……いえ、この状況ではしょうがないわね。

 その分、エナジーフィラーの消費が激しくなるかもしれないけれど、今回ランスロット側に新しく追加された新機構で全体的に燃費が良くなったから、あまり気にして使わなくてもいいわよ』

「新機構……? わかりました」

 

 さっきから何度か耳に入る新機構という言葉に、少しだけ興味がわいたが、そんな話をしている時間はなさそうなので、今度聞くと頭の中のメモに記録して、今は考えないことにした。

 今は、一刻も早く紅蓮弐式達を追跡することの方が重要だ。

 

 そう考えていたちょうどそのとき、トラックの背後が開き、外への道が繋がった。

 

『――ステータス、フェイズドライでバックアップ。

 さて、アリスちゃん、出撃準備はできたわ。いつでも出れるわよ』

「了解です」

 

 脚部を大きく開き、重心を落とす。

 手首と指を軽く動かし、思った通りに動くことを確認してから、そっと止まっていた息を吐く。

 

「アリス、ランス……」

 

 そうして心を落ち着けたところで、ふと、ちょっとしたことが気になって操縦桿の動きを止めた。

 

「アルマさん、このランスロットの名前って何ですか?」

『ん? 名前? ちょっと待ってね……。

 えーっと、名前は決まっていないみたい。型番も形式上Z-01/Aってついてるけど、特に何か意味があったりはしないから、本当に適当につけられただけ見たい』

「Z-01/A……なるほど、ロイドさんらしいですね」

 

 出撃時に機体の名前を言うべきかと思って聞いてみたが、特に機体の名前があるわけではないみたいだ。

 Z-01/A、たしか、ランスロット・エアキャヴァルリーとランスロット・フロンティアがそこに位置していたはずだ。あれ、フロンティアは違うんだっけ? 流石に型番まで――しかも同一の型番が2機存在する不自然な状態――となると、合っている自信がない。アルビオンがZなのは覚えているんだけど……。

 

『……ああ! 機体の名前がはっきりしないから、なんて言って出ればいいのかわからないのね。別に、そんなことにこだわらなくてもいいのに。

 そうね。時間もないし、とりあえず暫定的にランスロット・ヴァルキリー……いえ、一応空を飛べるからエアヴァルキリーとでもしておきましょうか。これだけ変わっているのに、ただのランスロットなんて締まりが悪いでしょ』

「え、あ、はい? すみません、ちょっと考え事をしていました。何がどうしたんですか?」

 

 少し考えているうちに、アルマさんが何かを言っていたようなので聞き直す。

 いい加減、この癖はどうにかしたいんだけれどなあ。

 

『あれ、インカムの調子が悪かったかしら?

 とりあえず、暫定的にだけれどこのナイトメアの名前はランスロット・エアヴァルキリーとするわ。良い?』

「あ、はい。わかりました」

 エアヴァルキリー……誤字……うっ、頭が。

 機体の名前、変わっちゃったけど大丈夫だろうか。……いや、厳密に言えば、このランスロットはランスロット・エアキャヴァルリーとは別の機体だし、特に問題はないだろう。そのうち、プラズマ推進モーターではなくフロートシステムを装備した、本当のランスロット・エアキャヴァルリーが出てくるはずだ。

 というか、名前が変わったくらいでは、大きな問題にはならないと思いたい。

 

「それでは――」

 

 MEブースト。

 その言葉を小さくつぶやいて、私はユグドラシルドライブを全力で稼働させる。

 

 プラズマ推進モーターに火が灯り、機体が前へと押し出される。

 さらに、今まで通りランドスピナーも加速、スリップ音をたてた。

 

「アリス、ランスロット・エアヴァルキリー、発進します」

 

 ブレーキを外し、ランスロットを勢いよく加速させえる。

 プラズマ推進モーターによる加速を得たランスロットは、いつも以上の速度でトラックから跳び出した。

 

『通行可能なルートのナビゲートは私がするわ。できるだけ指示通りに進んでちょうだい』

「了解です」

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◇ ◇ ◆ ◆

 

 

 

 

『はい、そこからハイウェイに乗って。

 通行止めしている人がいるかもしれないけれど、もしいても無視して通り過ぎていいわ。ついさっき、ミリア主任が政庁に行って、公道の利用許可を取って来たみたいだから』

「了解です。特に人はいないので、そのまま先に行きますね」

 

 通行止めの一環として道は塞いであったが、機体を跳躍させてそれを飛び越える。

 

『そこから先は、調布まで特に分岐とかはないわ』

「つまり、紅蓮弐式と会うまでまっすぐ進めばいいわけですか」

『ええ。計算上では、最短で5分、遅くても15分以内に会えるはずよ』

 

 アルマさんの言葉に、疲れかけていた身体がスッと冷えた。

 いや、実際に身体が冷えたわけではないのかもしれない。おそらく、冷えたと錯覚しただけだろう。

 紅蓮弐式にまだ遭遇してもいないのに、もうこれだ。笑うしかない。

 

『……アリスちゃんは、強いわね』

「はい? 何がですか」

 

 封鎖されたハイウェイに乗り、ナビゲートが必要無くなったところで、今まではきはきとした声でナビ役をしてくれていたアルマさんが、急に声を暗く小さなものに変え、私に話しかけてきた。

 

『アリスちゃんをこんな状況に追い込んだ私が言うのも変な話だけど、アリスちゃんは……だって、その……本調子じゃないでしょ』

 

 アルマさんらしからぬ、曖昧な物言い。

 その、彼女なりにかなり配慮した表現に、少しだけ胸が暖かくなる。

 

『新たなトラウマを抱える原因の一翼を担った人に、何一つ悪く言うことなく従って。

 ……紅蓮弐式にトラウマを持っているのに、その紅蓮弐式と戦うようにさせられて。

 それなのに、アリスちゃんは、文句の一つも言わない』

 

 もし、私が以前の肉体でここにいたら、今この瞬間どんな顔をしていただろうか。

 普段あまり表情の変わらないこの顔も、こんな時ぐらいは役に立つのだと思った。

 でなければ、この真剣な状況で笑ってしまうところだったのだから。

 

 もちろん、嘲笑うような、そんな意味の笑顔ではない。

 今作りそうになっている笑顔は、あくまでもこの暖かさから生まれた笑みだ。

 

『――仕事だから?

 そんな大人の事情を押し付けて、私はあなたを――』

「アルマさん」

 

 でも、もうそろそろ止めたほうがいいだろう。

 これ以上言葉にするのは、聞いている私よりも、口にしているアルマさんの方がつらいはずだ。

 

「少し、話を聞いてもらえますか」

『……ええ、わかったわ』

 

 ランドスピナーが大地を駆けるかすかな振動を感じながら、小さく深呼吸。

 

「私は、自分で言うのも変な話ですけど、かなり仕事に熱心なところがあると思います」

『……』

 

 アルマさんは、私の言葉を黙って聞いてくれていた。

 

「仕事のため、そんな言葉で自分をないがしろにできるタイプです。雨ニモマケズ、風ニモマケズ、雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ……宮沢賢治のあれじゃないですけど、雨が降っても風が強くても、暑くても寒くても仕事に励む様な、そんな人間です。

 だからですかね。私は……仕事で人を殺すことになっても、その瞬間だけは、何一つ思わずに人を殺すことができていました。もしかしたら、自分を『仕事に熱心な人間』であると定義することで、心を守ろうとしていたのかもしれません」

『……っ!』

 

 マイクの向こう側で、アルマさんが小さく息を吸うのが聞こえた。

 まあ、自分のことながら歪んでいる自信はある。

 

「だから、私は今日この瞬間まで、仕事として以外の心情でKMFに乗ったことは一度としてありませんでした」

 

 正確に言えば、河口湖の1件だけは例外だ。しかし、それを今口にするのは少し憚られた。

 ミリアさんが聞いているかもしれないこの状況で、コードギアスのことは言えなかったからだ。

 

「そして、それは今もそうです。

 私は、仕事の一環として、この戦場に立っています」

『……ごめ――』

「でも」

 

 何か口にしようとしたアルマさんの言葉を、少し強引に遮る。

 言葉を遮ることはあまり好きなことではないのだけれど、今回ばかりは許してほしい。

 

「すみません、遮ってしまって。でも、ごめんなさい。最後まで言わせてほしいんです。

 私は、今まで仕事として戦ってきて、それは今も例外ではありません。

 でも、今日この日この瞬間だけは、仕事"だけ"を理由にここに立っているわけではないんです」

『……え?』

 

 間の抜けたアルマさんの言葉に、ついに笑顔が零れてしまった。

 

「数時間前までの私なら、きっとそうは思えなかったと思います。

 あの時、アルマさんが悩む私を助けてくれたから……だから、私はここにいられるんです」

『私が?』

 

 あの時、火事の中でアルマさんを助けるか悩んだあの一瞬、私はアルマさんに助けられた。

 正確には、助けられたというより、アルマさんを見捨てるように決断させられたと言うべきなのかもしれないけれど。

 

「正直に言います。

 さっきの火事の時、アルマさんが私を突き飛ばさなかったら、私は、最終的にアルマさんを見捨てる選択をしていたと思います」

 

 私は、このランスロットを操縦している間、どうしてアルマさんを助けたのかをずっと考えていた。

 

 私は、アルマさんが大切な人だと感じている。けれど、それは自分を危険に曝してまで助ける程ではなかった。

 コードギアスを呼び出すテレポート技術『量子シフト』は、ロイドさんクラスの天才なら、映像越しに見るだけで量子シフトが行われたと理解できるほどわかりやすい現象だ。仮に直接見ることが叶わなくても、後から観測機器で調べるだけで、量子シフトが行われたことを見破ることができるほどに痕跡が残りやすい。

 

 というかそれ以前に、コードギアスがクレーンを殴りつけた際にできた、拳の跡が壁に残っている。

 

 コードギアスの存在が露呈するというリスク、自分の安全を失うというリスクを冒してまで、アルマさんを助けるなんてリターンを得たいだなんて考えていなかった。

 

 おそらく、アルマさんを助けるか悩んでいたあの時、アルマさんのあの行動がなければ、私はアルマさんを見捨てていただろう。何度も考えて、私はその結論に至った。

 

 ――不思議な話だ。

 

 アルマさんを見捨てる選択を取ろうとしていたのに、私ではなくアルマさん自身がその選択をしたら、途端に見捨てられなくなったなんて。

 

「別に、アルマさんが嫌いだったってわけじゃないですよ。ただ、あれを使うことが、私にとってそれだけリスクのある行動だったんです。

 けれど、私はアルマさんを助けました。何も考えず、反射的に行動してしまったんです」

 

 きっとそれは、理屈抜きに考えた私の本心だったんだろう。

 リスクだとか、危険だとか、そんな考えを抜きにした、私の本当にしたいことだったんだろう。

 

「だから、私は此処にいます。

 ……アルマさん。アルマさんは何一つ言わないで隠していましたけど、私は知ってるんです。奇跡の藤堂を処刑するために、スザクさんが調布にいるってこと」

『――っ! 誰から聞いたの?』

「秘密です。

 もし、あのランスロットもどきと紅蓮弐式が、二機とも調布にたどり着いたら、スザクさんは殺されてしまうかもしれません。いえ、間違いなく殺されてしまうでしょう。

 だから、私は今、ランスロットに乗っています」

 

 どれほどの危険を冒すことになっても、いつかひどい目に合うとしても、それを無視して考えた時、今この瞬間の私は、特派のみんなに死んでほしくないと考えている。それが、損得を抜きにした、私の本当にしたいことだ。

 

「『大切なのは何を感じたかではなくて、自分はどうしたいのか』。

 この前、ユーフェミア様が言っていた言葉です。ギアスがばれるとか、紅蓮弐式にトラウマを抱えているとか、精神的にあまり良い状態ではないとか、そんなことはどうでもいいんです」

 

 そう、大切なのは、何をしたいのか。

 

「私は、特派のみんなを助けたい。短い付き合いだけれど、特派のみんなに死んでほしくない。傷ついてほしくない。それが、『私のしたいこと』です」

 

 そこまで言い切って、私は口を閉じた。

 コックピットの中が静かになり、ランドスピナーとコンピュータ、ユグドラシルドライブ以外の音が消え去る。

 インカムの向こう側にいるアルマさんも、しばらく何も言わずに黙っていた。

 

 十数秒ほどお互いに黙り込む。

 

 それから、インカムからふっとため息を吐く音が聞こえて、アルマさんが先に口を開いた。

 

『……ふふ、そうなの。

 アリスちゃんぐらいの子供に心配されるなんて、大人として恥ずかしいわね。私たちって、そんなに頼りなさげに見える?』

「……え?

 ああっ! いえ、別に頼りにならないとか考えているわけじゃないです。単純に、私が勝手に助けになりたいと考えているだけで……」

『あはは、冗談よ。そんなこと全く思っていないから、心配しなくていいわ』

 

 アルマさんは、先ほどの暗い声からは考えられないような明るい声で、快活そうに笑った。

 

『私が勝手に心配し過ぎていただけだったみたいね。戦闘前に、テンションが下がりそうなことを言ってごめんなさい』

「いえ、戦闘が終わったらアルマさんには言おうと思っていたので、ちょうどいい機会でした」

 

 切っ掛けになったアルマさんには、元々言おうと考えていたので、言うのが早くなっただけだ。

 今日の昼頃まで精神的な不調で倒れていた人間を心配する気持ちもわかるし、意外と責任感のあるアルマさんがそれを気にするのも当然のことだろう。

 

「私が精神的に不安定なのも事実ですし、心配されるのも当然です。アルマさんが気にすることでは――」

 

 ちょうどその時、視界の端にあったレーダーに、2機のKMFの反応が映った。

 明るい方向に向かっていた心が、スッと冷たく変わるのを感じる。

 

『へえ、意外と早かったわね。もう少し時間がかかると思っていたのだけれど……プラズマ推進モーターの加速分かしら』

「そうですね。あと、向こうが2機一緒にいるのもあると思いますよ。なにせ、あちらのランスロットもどきは、直線的な速度は従来のサザーランドに毛が生えた程度しかありませんし」

 

 視線の先に、点のような大きさだが、赤と白、2機のKMFが映る。

 紅蓮弐式とランスロットもどき、先にいるのはその2機だった。

 

『どうする? アリスちゃん』

「もちろん」

 

 腰の後ろにあったヴァリスを引き抜き、インパクトレールを最大値に設定する。

 すると、ヴァリスの装甲の一部が、まるで開くように展開され、より威力の高い一撃を放てるように変形した。

 

「――狙い撃ちます。接近戦は、あまり得意ではないですから」

 

 狙うは、どちらかというと足が遅く、より運動性能の低いランスロットもどき。

 両眼を見開き、直撃するように手早く狙いを定める。

 

「ランスロット、MEブースト」

 

 ユグドラシルドライブの出力を引き上げ、プラズマ推進モーターの出力を上げることで機体をほんの数瞬だけ僅かに浮かせる。

 これで、路面から伝わる僅かな機体の揺れは収まった。

 

 ――誰が乗っているのかは知らないけれど、手加減をするつもりはない。

 

 私は、全神経を一点に引き絞り、その引き金を引いた。




誤字なんて無かった!(目逸らし

ロイドさんが戻ってきたら、名前はエアキャヴァルリーになります。もっとも、新造機なので本来のエアキャヴァルリーとは別物ですが。

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