私と契約してギアスユーザーになってよ!! 作:NoN
(注)あまり原作の描写をそのまま書くのはどうかと思ったので、後半少し強引に描写を削りました。申し訳ありません。
『シミュレーション終了、アリス准尉の勝利です』
――やっと勝った!
シミュレーション8戦目、そろそろお昼ご飯の時間になろうというとき。ようやく私はスザクさんに勝利した。
『あはは、まさかもう負けることになるとは思わなかったよ』
「私もです。正直、少なくとも今日一日は勝てないと思っていました」
通信越しにかけられるスザクさんの声に、少し誇張しながらも正直に応える。
と言うのも、実は3戦目が終わった時点では、なんとなくスザクさんに勝てそうな気がしていたのだ。
おそらく、私が2戦目を終えた時点で、シミュレーションを始めた直後のスザクさん相手なら勝てたはずだ。
問題となったのは、スザクさん自身も私と同じで成長の余地を残していたこと、それとMVSの存在である。
3戦目を終えた時点で、私は次はスザクさんに勝てると考えていた。
そんな時、研究員の一人からシミュレーション上でのMVSのテストを頼まれた。
MVSとは、
非常に高い切断能力を持っており、その一撃はスラッシュハーケンですら真っ二つにしてしまうほど。
そんな物を、剣術を修得しているスザクさんが手にしたのである。
4戦目は、こちらのMVSごと機体を真っ二つにされた。
内心、勝てるかっ! と絶叫していたものだ。
5戦目からは、MVSはブレイズルミナスで受ければいいことに気が付いたのでどうにかなったが、その分エネルギー消費も激しくなり、先にエネルギー切れで敗北。
ナイトメア・オブ・ナナリーにおいてアリスは逆手の二刀流をしていたので、その身体を持つ私ならMVSで逆手の二刀流が上手くできるだろうと考え頑張ってみたが、6戦目7戦目とあえなく敗北。
8戦目にて、試しに一刀流で戦ってみたところ意外と手に馴染み、長期戦の末にMVS一本分のエネルギー消費の差でスザクさんをエネルギー切れに追い込むことに成功したのだった。
『さて、少し早いけどお昼ご飯にしようか』
「はい、ちょっともう疲れました」
スザクさんの言葉に従い、コックピットから降りる。
長時間コックピットに座っていたからか、身体が固まっていたので手を組んで上に伸ばす。
背中や胸から音が鳴り、どれほど集中してシミュレータに籠っていたのかを実感させられた。
「お疲れさま」
身体を伸ばしたり傾けたりして身体をほぐしている私のところに、水の入ったペットボトルを2本持ったスザクさんが現れる。
スザクさんは、私が身体を起こすのを見計らって左手に持った水を渡して来た。
「ありがとうございます」
「気にしないで。
それにしても、アリスがKMFの操縦をするのは、本当に今日が初めてなのかい?」
「はい、でもスザクさんもKMFの操縦は昨日が初めてでしたよね」
「僕の場合、正規の訓練こそ受けていないけれど、軍が僕たち名誉ブリタニア人を使って実験データを収集するために何度かシミュレータ上で乗せてもらったことがあったんだよ。アリスの場合はシミュレータも含めて今日が初めてだろう? 比較にならないさ」
そう言って、スザクさんは手に持った水に口をつける。
それを見て、私も喉が渇いていたことを思い出し水を飲んだ。
「……それは、そうですが」
「素直に誇りなって。君の実力は本物なんだから。
まあ、昨日乗ったのが初めての僕の言葉だと、信用できないかもしれないけどね」
スザクさんは、その顔に苦笑いを浮かべる。
私は、スザクさんの、その自虐的な言葉に反論するために口を開いた。
「スザクさん、それは――」
だが、その言葉は、直後にこの研究室に入って来た憲兵の様な服装をした男たちが発した言葉に遮られる。
「――枢木スザク准尉、枢木スザク准尉はいるか」
彼等はそう言って、この研究室の中をぶしつけに見回す。
そして、スザクさんを見つけると同時に、彼らはこちらにとびかかって来た。
いくらスザクさんでも、急に複数人に襲われては逃げることができないらしく、あっという間に拘束されることになった。
「――何ですか、あなたたちは」
私が彼らを睨みつけながら問いかけると、彼は私の顔を一瞬だけ見つめてから鼻で笑い、私を無視してスザクさんの方を見た。
「汚らしいイレブンめ、ようやく尻尾を出したな。
枢木スザク准尉、貴様をクロヴィス殿下暗殺の容疑で拘束する」
スザクさんを連行してゆく男たちが、扉の向こう側、研究室の外へと消える。
私は、心を落ち着かせるために、小さくため息をついた。
――神聖ブリタニア帝国第3皇子にして、ここエリア11の総督であるクロヴィス・ラ・ブリタニアの暗殺
それが、スザクさんにかけられた疑惑の正体だった。
「馬鹿げてる。明らかなアリバイがあるのに」
先日のシンジュクゲットーでの戦闘、その終了直後にクロヴィス殿下が殺害されたらしい。
そうだというのなら、スザクさんが犯人なわけがない。スザクさんはその時、ランスロットに乗っていたのだから。
この研究室には、その時採取した機体のデータが存在している。確固たる証拠が存在しているのだ。
そうであるにもかかわらず、スザクさんがクロヴィス殿下を暗殺した犯人として逮捕された。
あまりにも杜撰な捜査、それに強い怒りを覚える。
だが、実は私はスザクさんのことはそれほど心配していなかった。
なぜなら、この事件はコードギアスという物語のストーリー上に存在した事件であり、スザクさんに無罪判決が下され、生きて帰って来ることが確定しているからだ。
――けどまあ、万が一のために、念のため証拠集めだけはしておこう
この騒動に研究室内が騒然としている中、私は近くにいた研究員の人に声をかける。
「あの、すみません」
「……あ、はい。なんでしょう」
「先日のシンジュクゲットーにおける戦闘、その時のランスロットのコックピット内の映像をまとめておいてもらうことはできませんか」
私のその言葉に、研究員の人は少し表情を硬くして、目の前のコンピュータを操作してから応えた。
「……わかりました。私たちの方で、枢木准尉の無実の証拠を集めておきます。
ですので、アリスさんは先ほどの事をロイ……いえ、セシルさんにお伝え願えますか」
――研究以外のこういう件に関しては、ロイドさんは部下にも信用されていないのか
「了解です」
短く返し、此処とは別の場所で書類の整理をしているであろうセシルさんに、このことを伝えに走る。
――が、その為の一歩を踏み出したところで、私は勢いよく転倒した。
……満足に歩くことすらできない私が、走るなんて無理な話でしたね。
そして、その次の日。
『まもなくです、まもなく時間となります。
御覧ください、沿道を埋め尽くしたこの人だかりを。
――みな待っているのです。クロヴィス殿下殺害の容疑者、名誉ブリタニア人の枢木スザクが通るのを。
元イレヴンを、今か今かと待ち構えているのです!』
研究員の人に協力してもらいパソコンの画面に映したテレビの映像、私はこの場にいないロイドさんとセシルさん、ランスロットの整備などの仕事がある人達を除いた特派の人達全員でそれを見つめていた。
「酷い演出ですね。冷静な声を熱狂的な方たちだけで覆い隠して、真実を捻じ曲げる」
私は、自らの思いを口に出さずにはいられなかった。
私は、コードギアスという物語の知識から、これが演出されたものだと知っていた。
後に黒の騎士団の情報関係の責任者に任ぜられる男、今はHi-TVというテレビ局の、エリア11トウキョウ租界支局報道局に所属しているスタッフ、ディートハルト・リートによって演出されたものだと知っていた。
知っているが故に、私は報道の醜悪さ、大衆の真実を誇張し偽りへと変えるそれへの憤りを隠すことができなかった。
私の言葉を聞いた研究員の人の一人が、そんな私の言葉を諭すように告げる。
「マスコミとはそういう物だよ。全てではなく、物事の一側面を知らせるのがマスコミという物だからね。
むしろ、まだ嘘を伝えていないだけこれは誠実だよ。私たちのように、スザク君が無実だと冷静にとらえる人もいれば、この熱狂的な人たちがいるというのもまた事実であるのだから」
「それは……理解しています」
研究員の人の声に、言葉を詰まらせる。
『おっ、見えてきました。枢木容疑者です。枢木スザクが、まもなくこちらに――』
テレビに、スザクさんを乗せた護送車両の姿が映った。
それを伝えるナレーターの声の影に、スザクさんを罵倒する群衆の声が混じる。
――人でなし!
――イレヴンめ!
――クロヴィス殿下を返せ!
心無い罵声。
その言葉を聞いていると、私の脳裏にふと、「これが普通のブリタニア人だったらこんなにも罵倒されるのだろうか」という考えが浮かんだ。
クロヴィス殿下無き今、軍は純血派と呼ばれる一派が統率している。
純血派の理念は、軍の人間は兵士一人に至るまでブリタニア人が務めるべき、というもの。
観衆の中にも、これに近い思想、ブリタニア人とそれ以外を差別すべきという思想を持っている人間は多いだろう。
そう考えると、あの場にいるのが普通のブリタニア人であったなら、きっとあんなにも罵声が飛び交うことはなかっただろうに、と考えてしまう。
「スザク君が無実だって、私たちは知っているのに……」
スザクさんに対する罵声が聞こえたのか、テレビを見ている私たちから少し離れた場所で仕事をしていたセシルさんがそう呟いた。
セシルさんのその言葉を聞いたロイドさんが、少し疲れたような口調でセシルさんに告げた。
「法廷が僕らの証言を取り上げないって決めたんだ。仕方がないよ」
「でも……」
セシルさんが、何か言いたげに言葉を途切れさせる。
そんな様子に気が付いたロイドさんが、不思議そうな声色で彼女に問いかけた。
「ねえ、それって博愛主義? それとも人道主義?」
「こんな時に言葉遊びですか」
「君だって知ってるでしょこういうケース、サミットで
そう言って、ロイドさんは小さくため息をついた。
言葉の上では何でもないように言っているが、ロイドさんにも何か思うことがあるのだろう。
それが、
『怨嗟の声が、怒りの声が揚がっています。殿下がどれほど愛されていたかという証の声です。
――テロリストを裁く、正義の声なのです!』
アナウンサーの男性が、強く謳い上げる。
……この放送を見ていると、強く感じる。
何のための名誉ブリタニア人制度なのだろうか、と。
ブリタニアには、名誉ブリタニア人制度というものがある。
これは、植民地出身者であるナンバーズであっても、役所に書類を提出しさえすれば簡単なチェックを受けるだけで、法的にブリタニア人と同等の権利を持った存在である『名誉ブリタニア人』になれるというものだ。
そんなものがあるにもかかわらず、純血派のような存在が、名誉ブリタニア人を差別するような風潮が存在している。
心の中に、小さくない感情が沸き上がり始めた。
その直後、テレビの画面が切り替わる。
『事件を解決したジェレミア辺境伯自らが、代理執政官として指揮を執っています』
スザクさんに罵声を浴びせる群衆の絵から、護送車とその護衛を指揮する純血派のリーダー、オレンジ卿……ではなく、ジェレミア・ゴットバルト卿に映像が切り替わる。
瞬間、私の中にあった負の感情が一気に萎んだ。
――何故か。
別に彼に一目ぼれしたとか、彼の美貌に見とれてしまったからとかではない。
彼は、コードギアスという物語の果てにオレンジ農家を営む事になる。
その理由、それを今思い出したからだ。
――彼が、オレンジ農家を営むようになる理由は、今から起こるとある事件が原因である。
その時、画面の向こうの護送車が、その動きを停止させる。
『これは、どういうことでしょうか。
枢木容疑者を乗せた護送車が停止しました。これは予期せぬことでしょうか。
ここで停止するというのは、予定にありません。何かのアクシデントでしょうか?』
「――来る」
興奮のあまり、画面の前で今から事が起こることをつい口にしてしまった。
画面が再び切り替わる。
そこには、いかにも豪華な青と白の二色が眩しい車が前方から走ってくる姿が映されていた。
『――こ、これは!? クロヴィス殿下専用の御料車です。
見えますか、正面から向かってきます』
「これは……」
研究員の一人が、呆然とした様子で呟いた。
車は護送車の前で止まり、そこから黒い仮面にマントの様なものを羽織った男が現れる。
『な、何者でしょう、この人物は。
自らをゼロと名乗り、護送車の前に立ちはだかっています』
ゼロ、この仮面を被った不審者こそ、コードギアスという物語の主人公である。
彼もまた、私と同じでギアスという特殊な力を持っている。
彼の力は『絶対遵守』、たった一度だけだが、他者に強制的に命令を下すことのできる力だ。
彼は、ジェレミア卿の合図に従い空から降りてきたKMFによって自身の周りを囲まれるが、おびえたような素振り一つしなかった。
当然だ。彼は、自身を撃たせない為の『武器』を持ってきているのだから。
彼が指を鳴らすと、護送車の後方部分に、何らかのカプセルの様なものが出現する。
「――毒ガスだとっ!?」
テレビを見ていた研究員が、驚いたようにそう言った。
そう、護送車から出てきたカプセルは、先日のシンジュクゲットーで毒ガスが入っているとされ、捜索されていたカプセルである。
彼は、今この瞬間、周囲にいる全ての市民を人質としたのだ。
私は、席を立って、テレビの前から外に出るためのドアの方に向かった。
「どこに行くんだい?」
ロイドさんが、愉快そうに私に問いかける。
「ロイドさん、思い出したことがあるので、外出してもいいですか」
私の言葉に、何かを勘違いしたのか、セシルさんが思いつめたような表情で私に何かを言おうとする。
だが、ロイドさんに手で止められ、口をつぐんだ。
「いいよー、怪我はしないようにね」
ロイドさんに許可を貰えたので、ロイドさんに頭を下げると私は研究室を出た。
それにしても、
この直後、ゼロによってジェレミア卿は『オレンジ』というありもしないスキャンダルをでっち上げられ、『絶対遵守』の力によりゼロ達を「全力で見逃す」事になる。
その光景を、ロイドは愉快そうな顔で不満そうに笑いながら見ていた。
ザ・スピード。
その力を使い、ゲットー中をを目にも留まらぬ速さで跳び回る。
目的地は、崩れた劇場らしき施設。コードギアスにおいて、ゼロが、仲間であるテロリストたちと仮の拠点として使っていた場所だ。
私が思い出したのは、スザクさんがゼロに救出されたのち、その劇場でゼロと少し話して別れた後、彼には自分の足で法廷に向かう様子を見せながら、実際はそこまでたどり着けなかった、ということだ。
その描写はつまり、スザクさんはかなり消耗しているということを示している。
その為、私はスザクさんを迎えに行こうと考えたのだ。
20分ほど跳び回った結果、額に赤いバンドをした数人の集団が入り口近くで集まっていた劇場を見つけることができた。
流石に真正面から入るわけにはいかないので、裏手に回る。
すると、ちょうど劇場から出てきたスザクさんを見つけた。
「スザクさん、迎えに来ました」
「っ!? アリス!? どうしてここに……」
「だから、迎えに来ました。
スザクさんの身体は、純血派の『事情聴取』のせいでかなり消耗していると思ったので」
私の言葉に、スザクさんは困ったように笑う。
「あはは、ありがとうアリス。
――でも、車もないのにどうやって僕を送ってくれるつもりだったの?」
「それは、スザクさんをおぶって……あ」
そこまで口にして、私は自分の身体が前とは異なり子供になっていることに気が付いた。
これでは、スザクさんをおぶって支えることなど、到底できない。
「あはは……」
私は、スザクさんに笑ってごまかす。それだけしかできなかった。
――結局、シミュレータが終わってからも外すのを忘れていた私のインカムを使い、セシルさん達を呼ぶことになった。