私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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33話

 

 ――マオ

 

 彼は、C.C.より『心を読むギアス』を発現させられたギアス能力者である。

 昔は普通の少年だったが、ギアスをOFFにすることができなくなって以来、周囲の人間の心を無差別に読んでしまうようになってしまっていた。

 

 そのため、彼は自分の世界に閉じこもる様になり、唯一心を読むことができないC.C.に依存するようになる。

 

 十数年前、詳しいことは知らないが、マオはC.C.に契約を果たすことができないと認識され、ぽいっと捨てられたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「C.C.……?」

 

 ぽつりとつぶやかれたその言葉。

 私は、その言葉に嫌な予感を隠せなかった。

 

「久しぶりだね、C.C.。元気だったかい?」

「あの、私はC.C.という人ではないんですけど……どなたかと勘違いしていませんか」

 

 そして、その予感は的中する。

 マオは、狂ったような顔で――いや、実際に狂っているのだろう。私に微笑みかけた。

 

「……? 何を言っているんだい、C.C.。僕のことを忘れたのかい?」

「いえ、ですから、私はC.C.という名前じゃないです。あなたとも会ったことないですし」

 

 ゆっくりとこちらに歩み寄るマオから離れるように、少しずつ後ろに下がる。

 

「――嘘だッッ!!!」

 

 突然、マオは叫ぶと、急に私との距離を詰め、私の腕を掴んでコンクリートの壁に叩きつけた。

 

「痛っ」

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッッ!!!

 全世界の誰もがわからなくても、僕にはわかる!! 君は僕のC.C.でない筈がない!!!」

 

 反対の手で、もう片方の腕を掴まれる。

 

「髪の色が違っても、瞳の色が変わっても、背が縮んでも、声が高くなっても、手足が細くなっても、君の身体のなにもかもが変わっても、僕がC.C.を見間違うはずないだろ!!!」

 

 腕を握る力が強くなり、手首が少しずつ悲鳴を上げる。

 

「痛いっ、離してっ」

「ねえ、C.C.。本当に忘れちゃったのかい? 僕だよ、マオだよ。

 ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、ねえッ!!

 ――忘れたなんて言わないよね。言うはずないよね、C.C.」

 

 マオは、ゆっくりと私の顔に自らの顔を近づける。

 逃げようともがいたが、その外見からは考えられない筋力で抑え込まれていて、逃げることはできなかった。

 

「ほら、君の心はこんなにも静かだ。汚れた声一つない、真っ白な無音の世界。

 こんな声をしているのは、君だけなんだよ。君以外居ないんだ、C.C.」

 

 ――そして、彼は私の頬を舐めた。

 

 背筋が震える。頬に生まれた奇妙なぬくもりに、逃げ出したくなる。

 

「ふふふ、君は甘いね、C.C.。

 11年間、僕はずっといろんな人の声を聞いてきたんだ。でも、君みたいに純粋な心の持ち主はいなかった。

 誰もが汚れていて、誰もが穢れていて、誰もが汚物にまみれていたんだ。

 その僕が、君を見間違うなんてありえない。ありえないんだよッッ!!!」

 

 ――このっ!

 

「離して!」

「離すわけないじゃないか! ようやく君を見つけたんだ! もう、君を離したりなんてするもんか!」

 

 強引に振りほどこうとするが、私の手がマオの手から離れる気配がしない。

 普通の人間の身体能力を超えた私の手が、ただの人であるマオの手から離れない。

 

 ――あったまきた

 

「いい加減っ、離せって言ってるでしょっ!」

 

 右足を、思い切り上に振り上げる。

 狙うはアレ。もう手加減する気はない。

 

 放たれた蹴りは、風を切り空を裂き、そして急所に直撃した。

 

「――っ!!?!?!?!?!?!」

 

 マオが悶絶し、私を掴んでいた両手の力が抜ける。

 私は両手から手を剥がすと、マオを背負いつつ身体を捻って、思い切り地面に叩きつけた。

 背負い投げだ。高校の体育の授業で習ったことが、こんなところで役に立つとは思わなかった。

 

 倒れたマオのその上に乗り、地面に押さえつける。

 

「ごふっ!」

「私は、C.C.じゃないです! 証拠もありますから!」

 

 痛みに悶えている隙に、体中を弄る。

 流石に銃はなかったが、バタフライナイフとポケットナイフが見つかったので没収する。

 ついでにマオの腰のベルトを外して、紐代わりに使い腕を縛った。

 

「ぉ……ぁ……う……あ……」

 

 おなかを抱えて蹲るマオに、サッカーボールを蹴る要領で蹴りを入れる。

 まったく、乙女のほっぺたを舐めるなんて何て奴だ。

 

 ――さて、どうしようか。

 

 勢いでぶっ飛ばしてしまったが、このまま放っておくわけにもいかない。

 

 マオは、ブリタニアと敵対している中華連邦の人間だ。

 中華連邦は、ブリタニアと戦争しているわけではないが、ここエリア11のテロリストたちに武器弾薬、場合によってはKMFすら供給し、独立運動を影から手助けしている。

 コーネリア殿下がそのことを知らない筈がないので、もし政庁付近でマオが捕縛されるようなことになれば、明るくない未来が待っているはずだ。

 

 ――さすがに、私はそこまで非道にはなれない。

 

 マオはとっても悪い奴だが、現状は何か犯罪を犯したわけではないのだ。

 スパイをしていたわけでもない彼が、身に覚えのない罪で捕まるというのは、なんとも目覚めが悪い。

 

 ……それに、なんで私をC.C.と勘違いしたのかにも興味がある。

 

「無駄な苦労を背負ってる気がする……」

 

 はぁ、とまたため息。このため息は、今日何度目になるのか……思い出したくもない。

 

 私は、ぐったりと倒れているマオを背負うと、大通りを避けながらゲットーの方に足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここなら、たぶん静かなはずです」

「ああ、ありがとう。この辺りは人がいないみたいだから、かなり静かで心が休まるよ」

 

 ゲットーと租界の境界。

 イレブンの人達は選民思想のブリタニア人を恐れて近寄らず、ブリタニア人の人達は過激なイレブンを恐れて近寄らない、そんな場所。

 私とマオは、その一角の廃墟と化した競技場、そのベンチに隣り合って座っていた。

 

「君は……C.C.ではないよね」

「はい、彼女ではありません」

「そっか……まあ、外見違うからね」

 

 マオは乾いた笑みをこぼし、小さくため息を吐く。

 その表情は、首を斬られたサラリーマンのように見えた。

 

 ここまで歩いている間に、私は自分にマオのギアスが効いていないことに気が付いた。

 おそらく、私の脳に潜んでいる魔道器『ネモ』が原因だろう。

 彼女は、コピーとはいえC.C.のコードを持っている。コード持ちにはこの世界のギアスは効力を発揮しないので、ネモのコードがマオのギアスを無効化したのだろう。

 

「それに、途中でアッシュフォード学園の前を通った時に確認しましたよね」

「あそこにC.C.がいるって話かい?

 周囲の人間の心を覗いた感じそうなのかもしれないけどさ、僕にはC.C.の心が読めないんだ。目にしていない以上、必ずいるとは限らないだろ」

「状況的には完璧でしょう。あなた自身も、自覚しているでしょうに」

 

 初めて会った時の様に、C.C.と連呼して私にくっついてこないのがその証拠だ。

 外見が違っても私をC.C.と断定してきた彼が、今の私がC.C.でないことに納得した。これは、私以外にC.C.と呼ばれる存在がいることを認識しなければ起こりえない筈だ。

 

「私をC.C.と呼ばない時点で、C.C.と呼ばれる人がいたと認識しているのは間違いないと思いますが」

「ああいや、君をC.C.だと思っていないのは別の理由だよ」

「別の理由?」

「C.C.が、あんな暴力的なことをするはずないだろ。

 僕の急所を蹴って投げ飛ばしたのはいい。もし彼女が変質者に襲われたなら、やってもおかしくないだろう。

 ――でも、C.C.なら絶対に最後の追い打ちはしない。彼女は、そんなに野蛮じゃない」

 

 右足を、マオの左足の上に思い切り振り下ろす。

 

「ぉぅ!?」

「せめて暴力的と言ってください。内心ではそう思っても、言葉には出さないのがマナーというものでしょう。

 まったく、そんなんだからC.C.に捨てられたんじゃないですか」

 

 だが、正直マオの言葉は否定できない。

 今日の私は、少し普段よりも暴力的だ。お昼にあんなことがあったせいで、ストレスが溜まっているのだろうか。

 

「僕がC.C.に捨てられた? そんなわけないだろ。

 僕はC.C.と約束したんだ。C.C.が欲しいものを手に入れたら、僕の所に帰ってくるって」

「だったら信じて待っていればいいじゃないですか。

 信じられなかったんでしょう。本当に彼女が帰ってくるのかどうか」

 

 その言葉に、マオは言葉を詰まらせる。

 否定するマオだが、この日本にいる時点で彼はC.C.の言葉を信じていないのは明らかだった。

 

 なんだろう、本当に今日の私は口が悪い。

 

「――うるさいッッ!

 君に僕の何がわかるって言うんだ!!!」

 

 マオは、私の方を見て喚き散らす。

 

「君は人の心を聞いたことがあるのか!

 君はすぐ傍の人のの醜い顔を見たことがあるのか!

 君は親に捨てられたことがあるのか!」

 

 ――ないだろ!! 君にはないはずだ!

 

「ちやほやされて、のほほんと生きてる君が! 君が僕を語るな!」

 

 ぜぇぜぇと、呼吸を乱して胸ぐらをつかむ。

 叫んでいるうちにマオのバイザーは外れ、その下にあったギアスの瞳が私を睨みつけていた。

 

 そんな彼を見ていて、私は、なぜマオに対する口が悪かったのか分かった。

 

 思うようにいかない心にストレスが溜まっていたのもある。

 身に覚えのない嫌悪感のはけ口を探していたのもある。

 

 

 しかし――私がコイツを嫌う一番の理由は、たぶん同族嫌悪だ。

 

 

「――まるで、自分が一番不幸な人間みたいな言い方ですね」

 

 指を伸ばし、私を睨みつけるマオを――死なない程度に加減しながら――全力で引っ叩いた。

 もちろん、すごく痛いように、手は振りぬくのではなく頬の表面で止める。

 

 ――マオを見ていると、まるで昔の自分を見てる気分になる。

 

 母が死んだあの頃、鈍い音と共に車に吹き飛ばされたあの日からしばらくの間。

 誰よりも自分が一番不幸な気がして、唯一の肉親である父親以外が幸せそうで憎たらしくて、自分以外の誰もが幸福に見えた、そんな時期があった。

 

 目の前のマオは、そんな昔の私だ。

 被害者ぶって、かわいそうで、そんな自分に構ってほしくて、自己憐憫に浸る自分。

 目の前にいるのは、そんなかつての自分だ。

 

「人の汚い所を人より知っているからって、なんでそんなに不幸な顔をするんですか」

「黙れ! お前に何がわかる!」

 

 マオの拳が、私の頬を打つ。

 その分の痛みを返すように、私は彼に平手を張った。

 

 本当にイライラする。

 甘ったれたマオにも、()()()()()()()()()()()()

 

「人の汚い所ばかり見て、それが見えないからってC.C.を持ち上げて、勝手に逃げ道にしてそれに縋って。

 彼女に迷惑をかけていると、そう自覚してるくせに目も向けない」

 

 どの口が言うのか。自分もそうだった癖に。

 

「人の醜い部分を見ているのが、自分だけだと思いましたか?

 C.C.だけは綺麗な人間だと思いましたか?」

 

 閉じた世界に引きこもり、他者をまるで見ようともしない。

 

「――そんなわけないでしょう」

「――僕のギアスを持ったことがないお前が、知ったような口を利くな!」

「だったら、それを理由に人に接してもらおうとしないでください! 自分の知識だけで人を定義して、勝手に人を嫌うなんてしないでください!」

 

 紡がれる言葉が、ブーメランの様に心を抉る。

 

「どんなに心の優しい人でも、必ず汚い感情はあります。人が人である以上、誰しも悪い感情を持っています」

 

 結局、私は、マオを説得して過去の自分を正当化しようとしているだけだ。

 私は、他者の綺麗な側面を知ることで、他者を否定する自分を変えられた。その変化を、マオを説得することで肯定しようとしているだけだ。

 

 マオを救おうとか、そんなことは考えていない。

 正にエゴ、自己中心的な感情の極みだろう。

 

 

「あなたがしていることは、人の一側面だけを見て、勝手に人に失望しているだけです!」

 

 私がそこまで言ったところで、マオは私の顔面を掴んで、座っていたベンチに叩きつけた。

 

「いい加減黙れよ、お前。

 正論ばっか語って、勝手に人の価値観を押し付けるなよ」

 

 マオの言葉に反論しようとするが、手に口を押えられていて言葉が出せない。

 

「同情してるのか何なのか知らないけどさ、何様のつもりだよお前。

 どんな優しい人にも、汚い所はある?

 人が人である以上、誰しも悪感情を持ってしまう?

 だから、無差別に人を嫌うのは間違っているって?

 違うね。間違ってるよお前」

 

 マオが言葉を紡ぐたび、少しずつ頭の痛みが強くなる。

 

「――それだから、僕はみんな嫌いなんだよ」

 

 そこで初めて、彼が私とは違うことに気が付いた。

 

「君はさ、汚い感情を持つ様な人にだって、綺麗で優しい人がいるって言いたいんだろ。

 そんなのは知ってるさ。僕のギアスが人の悪感情しか読み取れないとでも思ってるのかい?」

 

 そう、マオは――

 

「僕は、どんなにいい人でも、汚い感情を持っているから嫌いなんだよ」

 

 そう静かに吐き捨てると、マオは私から手を離してどこかに歩いて行く。

 

 残された私は、その場に寝そべって、しばらくの間何も考えずに空を見ていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――おまけ――――

 

 ※注意

 ・以下の話は、今回のシリアスを完全にぶち壊す話です。

 ・酷い下ネタ展開です。シリアスの欠片もありません。

 ・重ねて言いますが、本当に()()下ネタです。人によっては、不快に思う人もいると思います。

 

 下ネタ的なノリが嫌いな人は、今回の話はここで終えてください。

 

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 ―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件が起きたのは、ナリタ山の一件終わってから、二日目の朝のことだった。

 

 特派の一般研究員たちが使っているチャット、そこに2枚の画像が貼られたのである。

 

 

 

 一枚は、アリスがチ○○にしゃぶりついている画像。

 もう一枚は、アリスがマ○○を舐めている画像だった。

 

 

 

 当たり前だが、犯人はすぐに特定された。

 一見匿名性があるように見えるこのチャットだが、それは皮だけで本当は匿名性はない。

 この画像を誰がアップロードしたのか、それは誰もが知ることができる造りになっているのだ。

 

 

 ――犯人は、ジェレマイアだった。

 

 

 一瞬誰もが某チーズケーキ好きが犯人だと思ったが、そうではなかったのだ。

 

 時々暴走するとはいえ、あの真面目な男がこの様な暴挙を犯したことに、誰もが驚きを隠せなかった。

 

 さっそく、研究員達は彼を拘束して吊し上げ(物理)た。

 当然だ。人に対する思いやりを備えた彼らには、ジェレマイアの罪状を裁判で判決するなんて思考はない。

 悪・即・斬である。年頃の少女にこんなものを咥えさせる画像を作るなど、万死に値する行いだった。

 

 ただ、彼らには一つの疑問があった。

 

 ここ特派のスケジュールを知り尽くし、どんな仕事も泣き言一つ言わずにこなす男である彼が、何故こんなことをしたのか。それが、一切わからなかったのである。

 普段の彼であれば、こういった画像を作ろうかという考えを持つことはあっても、それを実際に行うことは無かった筈なのだ。その程度の良識はあった筈なのだ。

 

 そんなわけで。

 

「で、ジェレミー、どうしてこんなことしたのー?」

 

 天井から吊るされた彼に、代表としてアルマが問いかけた。

 

「私は……わた、わたしは……こんなことをするつもりはなかったんだ……」

 

 吊るされているジェレマイアは、呆然とした様子でぶつぶつと小さくつぶやいている。

 アルマは、彼を瘴気に戻すために、彼の頭に右斜め45°でスパナをぶつけると、以前握った弱みを駆使して強引に吐かせることにした。

 

 

 

 

 ジェレマイアが、こんな画像を作ろうと最初に考えたのは、昨夜のことだった。

 特派の友人と公園で撮った写真に、フランクフルトを咥えたアリスが写っていたのだ。

 

 もちろん、そんな考えを実行することはなかった。

 その考えは、あまりにも非人道的で非人間的な行いだったからだ。

 

 ――しかし、その思いは大きく変わることになる。

 

 事が起きたのは、日付変更直前の深夜のことだった。

 そんなに夜中に、急に電話がかかって来たのだ。

 

「ん? 誰だ、こんな時間にかけてくるなんて」

 

 携帯を手に取り、通話ボタンを押す。

 

 そして――

 

 

 

 

「――そこからの記憶は曖昧だ。

 誰かに何かを言われて、そして何かに追い立てられるかのようにおかしくなって……それで、気が付けばこの画像を作っていたんだ」

「誰から連絡がきたのかは、本当に分かんないんですかー?」

「……すまない、わからない。

 ただ……何となく、ストーカーっぽい男の声だった気がする」

「なるほどー、なるほどねー」

 

 アルマは腕を組み、わざとらしくうなづく。

 そして、しばらく考え込むと、ため息を吐いて研究員たちの方に振り向いた。

 

「とりあえず、めんどくさいので無罪でいいですかー?」

「いや、いいわけないだろう。もし、このことがアリスちゃんにばれたら、ごめんなさいではすまない事態になるぞ」

 

 アルマの言葉に、研究委の一人が声を上げる。

 

「いやー、それは理解してますけど、だったらどうするべきだって言うんですかー。

 ジェレミーって嘘つくタイプじゃないですから、さっきの言葉は嘘じゃない筈ですー。そうなると、この画像は彼が自分の意思で作ったわけではないってことになりますよねー」

 

 アルマの言葉に、研究員の何人かが頷く。

 たしかに、真面目で勤勉であるジェレマイアは、徹夜明けで様子がおかしい時でさえ、嘘を吐くことは一度もなかった。

 その認識は、ここ特派の研究員の中では常識と言っていいほどのことだ。

 

「とすればー、ジェレミーは携帯電話越しに、誰かにマインドコントロールを受けたことになりませんかー?

 これ、今回はアリスちゃんのコラ画像で済みましたけど、もしかしたら研究データすっぱ抜かれてたかもしれませんよー」

 

 その言葉に、研究員たちの目の色が変わる。

 ここ特派に勤める彼らにとって、研究データは命よりも重いものだからだ。

 

 するするとジェレマイアを天井から降ろしながら、アルマは言葉を続ける。

 

「正直、今回の一件は、ジェレミーをコンクリ詰めにしている場合じゃないと思うんですー。

 ジェレミーの罰を決めるのは、マインドコントロールに関する対策ができてからでもいいんじゃないですかー。

 ――今は、それよりも優先すべきことがあります」

 

 アルマの言葉に、研究員たちは頷く。

 

 研究員たちは、少し集まって話し合うと、とりあえず今日の仕事を早く終えるために動き始めた。

 

 研究員たちが居なくなると、その場にはジェレマイアとアルマだけが残った。

 

「……ありがとう、アルマ」

「お礼はいいよー。実際ちょっとシャレにならない問題だったしー」

 

 礼を言うジェレマイアに、アルマはそっけなく返す。

 そう言いながらジェレマイアの袖を引くと、彼女は部屋の隅に移動した。

 

 部屋の隅に移動したアルマは、周囲で聞き耳を立てている人がいないことを確認すると、口元をジェレマイアの耳に寄せる。

 

「一つ聞きたいことがあるんだけど、ジェレミーは、アリスちゃんの物を舐める写真をどこで手に入れたの? 私やあいつはもってるけど、ジェレミーはその写真もってなかったよね」

「……すまない、思い出せない」

「OK、ありがと」

 

 ジェレマイアが答えると、その言葉に満足そうにアルマは頷く。

 

 そして、アルマは何かを手帳にメモると、ジェレマイアの肩を叩いてその場を後にした。 

 

 

 

 

 

 ちなみに、アリスの改変画像は、某チーズケーキ好きの人が責任をもって処分すると言って回収しました。


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