私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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31話

 

 さてそんなわけで――

 

「ようこそ、アッシュフォード学園へ。あなたがアリスちゃんね」

「はい、初めましてミレイ・アッシュフォードさん。特別嚮導派遣技術部所属、アリス准尉です。スザクさんがいつもお世話になります」

 

 そういうことになった。

 

 お昼を少し過ぎた辺りのアッシュフォード学園。

 部外者である私が学園内に入る許可を取るため、また先に学校に行ったスザクさんと合流するために窓口へと向かうと、そこにはこの学園で生徒会長を務める女性、ミレイ・アッシュフォードの姿があった。

 名前からわかる様に、彼女はこの学園を経営する一族の人間。つまり、事実上生徒のトップに立つ存在である。ちなみに、外伝含めてコードギアスシリーズで最もハチャメチャな人でもある。

 

「あはは、そんな硬くならなくていいのよ。自分の部屋みたいに気楽に気楽にー」

「そうだよアリス。ミレイ会長はあまり堅苦しいのには拘らない人だから、そうやって肩肘張らなくてもいいから」

「そう言われても、そんな簡単にできるようなものでもないんですが……」

 

 私の言葉に、スザクさんは苦笑い。

 そういえば、スザクさんはどちらかというと真面目なタイプだ。表面上はともかく、内心では結構慣れるのに苦労したのかもしれない。

 

「それに、比較的ブリタニア人に近い顔立ちをしているといっても、私はナンバーズですよ。ミレイさんは構わないかもしれませんが、他の人達が何て言うかわかりません」

「大丈夫! スザク君と違って、君は生徒ではなく来客。スザク君の時は生徒間の問題ってことで手が出しにくかったけど、あなたの場合は権力振るい放題なんだから!」

 

 それでいいのか生徒会長。

 

「いい? 権力というのは使うためにあるの。陰湿な真似を、それもアリスちゃんみたいな小さい子にしようとする人たちなんて、絶対に許すわけにはいかないわ!」

 

 おー! と拳を振り上げるミレイさん。権力は使うためにあるとか、完全に生徒会長のする様な発言ではない。

 

「……思っていたよりも、個性的な人ですね」

「う、うん。でもいい人だから。僕が学校になじめるよう、色々してくれたしね」

 

 コードギアスでミレイ・アッシュフォードを見たことはあったが、あまりスポットを当てられる人ではなかったので、ここまですごい人だとは思わなかった。

 

「さて、挨拶もしたところだし、そろそろ生徒会室に行きましょうか」

「はい、よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げ、スザクさんとミレイさんの後を追う。

 向かう先は生徒会室。スザクさん曰く、ほぼ全員の生徒会メンバーが揃っているらしい。

 

「ところで、アリスちゃんは軍でどんな仕事をしているの? アリスちゃんの年で軍にいるなんて、なかなかあることじゃないわよね」

「普段は、KMFのシミュレータで新武装のデータ取りをしています。詳しい話はしていいのか判らないので言えませんが、面白いものも結構あって楽しいですよ。

 年齢に関しては……まあ、ナンバーズという事で察してもらえるとありがたいです」

 

 私がいかにして特派に入ることになったのか、それは言うわけにはいかないので少し誤魔化す。

 間違っても、ロイドさんと取引したなんて言うわけにはいかない。というか言えない。なんと説明すればいいのかわからないもの。

 

 私の言葉に、ミレイさんは険しい表情を浮かべた。

 

 この表情……もしかして、騙されて無理矢理仕事をさせられていると思われたのだろうか。

 

「あ、別に強制されているわけではないですよ。むしろ感謝してるくらいです。

 お金もお家も戸籍も無かった私に、特派の主任であるロイドさんは、寝る場所と名誉ブリタニア人としての戸籍、生きるための仕事を用意してくれたんですから」

 

 少し大げさに言ったが、これは私の本心だ。

 もし、あの時ロイドさんに追い出されていたら、まともにご飯を食べることも、屋根のある建物で寝ることも難しかっただろう。あまり態度には示さないけれど、本当に感謝してる。

 

「ごめんごめん、別にあなたの主任さんについて何か思うことがあるわけじゃないの。ただ、名誉ブリタニア人だというだけで、不遇な扱いをされるのは軍隊でも変わらないのかなって、そう思って」

「それは、しょうがないことだと思いますよ。ナンバーズは、手続き一つで名誉になれてしまいますから。万が一のことを考えれば、敗戦国の人間をまともな位置につけるわけにもいかないでしょう」

 

 この辺は、名誉ブリタニア人という立場上しかたがないものだ。

 名誉ブリタニア人に高価な武器を持たせて戦わせるという事は、WW2で例えるなら、日本をボコる時に航空機のパイロットをドイツ人にする様なものだ。実際に発生するかどうかは別として、司令官たちから見れば意図的な誤射が怖すぎる。

 

「なるほどね。ブリタニアが能力主義なことも考慮すれば、負けた側が不遇な扱いされるのは仕方ないのかもしれないわね……。

 ああ、ごめんなさい。嫌な話をさせちゃったわ」

 

 そう言ったミレイさんは、暗い顔を一変させて小走りで数メートル先にあった扉の方へと進んでいった。

 

「スザクさん」

「うん、いつもはもっと明るい人なんだけれど……何かあったのかな?」

 

 スザクさんに聞いてみれば、思った通りの返事が返ってくる。

 おそらく、ミレイさんが若干暗いのはカレンさんが捕まったからだろう。アッシュフォードは、権力争いで敗れたとはいえ名のある家、生徒会の一員であるカレンさんのことが伝わっていてもおかしくはない。

 

「ハイっ、とうちゃーく! 前来たみたいだから知っているかもしれないけれど、ここが私たちの生徒会室よ。

 ささっ、入って入って!」

 

 私の知ってる妙に高いテンションに戻ったミレイさんは、私の腕をがしっと掴むとスザクさんと話していた私を連行する。

 

「ちょ、みっ、スザクさーん!」

 

 とっさにスザクさんに助けを求める。

 しかし、スザクさんは苦笑いをするだけで助けてはくれなかった。

 

「ごめんアリス、この学園ではミレイさんが一番強いから」

「そんなー!」

 

 ――うらぎりものー!

 

 いや、私に危害が及ぶことはないから傍観しているのだと思うので、別に本気でそう言っているわけではないが。

 

 ミレイさんに連れられ、生徒会室の扉を潜る。

 そこには、前来たときに会ったシャーリーさんと、蒼髪の青年、そしてゼロの姿があった。

 もちろん、ゼロの服装は何時もの仮面姿ではなく、アッシュフォード学園高等部の制服姿だ。

 

 私とゼロ、お互いに目が合い、彼が固まった。

 

「久しぶり、アリスちゃん」

「お久しぶりです、シャーリーさん。えっと……だいたい二週間ぶりになりますか」

 

 固まっているゼロに気が付いていないのか、シャーリーさんが私に話しかけてきた。

 さっと周囲を見てみれば、周りの人の視線は私に向いているようで、固まっているゼロを見ている人はいなかった。

 

「河口湖の事件の後、あの時ホテルにいたと聞いていたので心配していたんですが……大丈夫みたいですね。無事で良かったです」

「ごめんね、心配かけちゃったかな。

 大丈夫、この通り私は元気だよ!」

 

 そう言って、シャーリーさんは視線をゼロに移した。

 流石に驚いていたのは僅かな時間だけだったようで、シャーリーさんの視線が向いた時には、ゼロは普通の表情に戻っている。

 

「アリスちゃんはルルに会ったことはなかったよね」

「はい。でも、スザクさんから話は聞いてます」

 

 一応、普段の日常会話でゼロのことは聞いているし、徒会の人に関しては今日の朝に生スザクさんからいくらか聞き出している。

 

()()()()()()、アリスです。よろしくお願いします」

()()()()()()、ルルーシュ・ランペルージだ。スザクから話は聞いてるよ。俺にも君ぐらいの年の妹がいるから、妹とも仲良くしてもらえると嬉しいかな」

 

 お互いに、笑顔で握手をする。

 握手を終えて手を離した私は、握手した手とその手の中にある紙をそっとポケットに入れた。この紙、いつ書いたんだろう。

 

「あとは……」

 

 私は、ゼロから視線を外し、蒼髪の青年に視線を向ける。

 

「リヴァルさん、で合ってますか?」

「ああ! スザクから話は聞いてるぜ!

 俺は、リヴァル・カルデモンド。よろしくな!」

「はい、リヴァルさん。よろしくお願いします」

 

 これで全員、この部屋に入る生徒会の人には挨拶をしたことになる。

 

「ここにいない生徒会メンバーも何人かいるけど、あの子たちについては会った時に話しましょうか。

 ――それでは、ようこそ! アッシュフォード学園生徒会へ! 今日はお祝いよ!」

 

 とーう! と、ミレイさんが生徒会室にあったクローゼットを開ける。

 そこには、ずらっと大量のコスプレ衣装が並んでいた。

 

 そういえば、ミレイさんってお祭り騒ぎとコスプレが好きだったんだった。

 

 コスプレ衣装を見たこの部屋にいる全員が、微妙そうな表情をする。

 

「会長、この間アーサーの歓迎会をやった時に、コスプレはしたじゃないですか。またするんですか」

「当然よ!」

 

 ミレイさんの自信満々な答えに、質問をしたシャーリーさんがため息を吐く。

 そりゃあ、そういった趣味が無い人は、コスプレなんて辛いだけだろう。着てるうちに乗り気になってくるかもしれないが、いざ着始める瞬間は辛いに違いない。

 

 ――生徒会、結構大変なんだなぁ

 

「なに自分は関係ないって顔してるの? アリスちゃん、あなたもよ」

「えっ」

 

 対岸の火事だと思っていたら、ミレイさんがこっちにも火種を飛ばしてきた。

 ミレイさんの手にあるのは、きぐるみパジャマみたいな雄ライオンのきぐるみ。

 

「ほら、着て着て!」

 

 ぐいぐいと押され、生徒会室の中にあった一室へ。

 そこでミレイさんにあれやこれやとなすがままにされていると、気が付けばライオンのきぐるみを着せられていた。

 まさに匠の技。ミレイさんがこの技を習得するまでに、いったい何人の生徒が犠牲になったのだろうか。

 

「どう? きつい所はない?」

 

 ミレイさんに聞かれたので、試しに両腕をぶんぶん上下に振ってみる。

 比較的ゆったりとした造りになっているようで、特に窮屈に感じたりすることはなかった。

 

「だ、大丈夫みたいです」

「そう、よかったわ。スザク君からはあなたの身長しか聞けなかったから、一応ゆったりとした造りのものを選んだのだけれど、少し心配だったのよ」

 

 そう言いながら、ミレイさんが部屋の奥から大きめの姿見を持ってくる。

 靴屋さんとかに置いてある全身を映せる鏡、それを豪華にしたようなやつだ。

 

「どう? 似合ってるでしょ」

 

 ミレイさんは、私に鏡を向ける。

 鏡には、ライオンのきぐるみを着た私の姿が映し出された。

 

 なんだかデジャブを感じる。

 金髪で背が低くてライオン。こんなキャラクターを、どこかで見たことはなかっただろうか。

 

「……ミレイさん。碧のカラーコンタクトってあったりしますか」

「ええ、あるわよ。ちょっと待っててね」

 

 ――あるのか。

 

 自分で聞いといてあれだが、カラコンがあるのにはびっくりした。

 私はコスプレに詳しいわけではないのでわからないが、コスプレでカラコンをするなんてことは、ガチ勢がすることなのではないだろうか。

 

「はい、これね」

「ありがとうございます、ミレイさん」

 

 受け取ったカラコンを付けて、もう一度鏡を見る。

 そこには、若干目の色が違うものの、見覚えのある姿のライオンがいた。

 

「どうしてカラーコンタクトを付けたの?」

「この格好でカラーコンタクトを付けると、昔やったゲームのキャラクターそっくりになるんです」

 

 そう、某同じ顔がいっぱいいるライオンである。

 アホ毛を付けて、髪の毛を少し弄れば完璧だ。

 

「へえ、随分かわいいキャラクターね」

「昔は、一番のお気に入りキャラクターでした」

 

 昔から、私はこういったデフォルメ系のキャラクターが好きだった。

 2頭身キャラとかも結構好きで、運命の虎闘技場や某7体の竜を狩るRPGとかにはすごく嵌った覚えがある。

 

 ……ふむ。

 

「がおー」

 

 両手を挙げて、小声で吠えてみる。

 声が違うので少し違和感があったが、結構かわいい感じだ。

 私は、あまりコスプレには興味はなかったが、たまにする程度ならこういうのもいいかもしれない。

 

「ふふふ、アリスちゃんは可愛いわねー」

 

 ――っ!?

 

 背後から聞こえた声に、さっと振り返る。

 ミレイさんは、そんな私の姿を見ながら優しく笑っていた。

 

 恥ずかしい。思っていたよりも似ていたことに感動して、ついミレイさんのことを忘れてしまった。

 

「……忘れてください」

「だーめ、せっかく可愛かったんだから、忘れちゃうなんてもったいないもの。しっかり覚えておくわ」

 

 くっ、殺せ。

 気分は、まさにくっころ女騎士だ。これ以上の辱めを受けるなら――というくっころ騎士の気持ちがわかる気がする。

 

「さて、着替えも終わったことだし、そろそろ行きましょうか」

「ライオンとはいえ騎士(セイバー)、正にくっころです」

 

 二日連続で穴を掘って蹲りたい気持ちになりながら、私は更衣室と化している一室から生徒会室に出た。

 

 

 

「あれ、ナナリー? 授業は終わったの?」

「はい。つい先ほど終わったので、ミレイさん達がいると聞いて来ちゃいました」

 

 

 

 ――出て、私は固まった。

 

 

 

 

 ウェーブがかかった栗色の髪。

 小柄な体と閉じられた瞳。

 そして、目を引く豪華な車椅子。

 

 今の名は、ナナリー・ランペルージ。本名は、ナナリー・ヴィ・ブリタニア。

 コードギアスという物語において、アリスが命を懸けて守った少女。

 コードギアスという物語において、ゼロが命を懸けて守ろうとした少女。

 

 足が動かず目が見えない。そんな障害を持ちながらも、懸命に生きる少女の姿がそこにはあった。

 

 胸の内から、身に覚えのない強い感情が沸き上がる。

 おそらく、私の人生において何よりも強い感情。

 

 

 慈しむ様な慈愛でもない。

 心の底から生まれる仁愛でもない。

 至上の信頼の上に立つ親愛でもない。

 

 

 

 ――その感情は、明らかに"嫌悪"だった。


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