私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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29話

 

「あれ、違ったの? 結構自信があった答えだったんだけど。

 まあいいや。とりあえず未来の知識を持っているのは確かだよね?」

「はい、もう言い逃れできないので言っちゃいますけど、たしかに未来の知識と呼べるものは持っています」

 

 未来人というロイドさんの予測は間違っているが、ギアスもコードギアスと言う物語の知識もばれている以上、言い逃れをすることは難しいだろう。

 ロイドさんの問いかけに、私は肯定して頷いた。

 

「うん、ならよかった。

 僕としては、君が未来の知識さえ持っていれば、未来人かどうかなんてどうでもよかったからね」

 

 ロイドさんはそう言うと、顔をこちらに近づけていつものマッドサイエンティストな笑顔でこちらに微笑んだ。

 

「じゃあ本題に入ろうか。

 ――未来の僕の最高傑作、僕の研究の果て、それはいったいどんなものだったか知らないかい?」

 

 研究キチ――ごほんごほん、研究者らしいぞっとする目で、ロイドさんが私を見つめる。

 そのあまりに狂的――素晴らしい笑みに、ちょっとだけ漏らしそうになった。真夏の夜のホラーより怖い。

 

「あれ、未来で何が起こるかとかじゃないんですか?」

「そんなことには興味ないからね。未来でどんな技術が使われていたのかについては興味があるけど、君に聞いてもわからないだろう?」

「なるほど……」

 

 研究一筋のロイドさんらしい発言だ。

 セシルさんの婚期とかいろいろ聞きたいことがあると思うのだが、研究以外のことはどうでもいいらしい。

 

「それで、早く答えてよ」

「み、未来におけるロイドさんの最高傑作ですか……」

 

 未来におけるロイドさんの最高傑作。そう聞かれて真っ先に考えたのは、ランスロットの完成形とも言えるKMF、ランスロット・アルビオンだった。

 作中屈指のチート機体とも呼べるランスロット・アルビオン、超高速飛行を可能とするフロートシステム『エナジーウィング』を搭載し、ナイトオブラウンズ筆頭であるヴァルトシュタイン卿のKMFを一刀両断できる程の出力を持つその機体の性能は、もはや頭のおかしい領域に到達している。

 おそらく、ロイドさん主導で開発したKMFとしては、これ以上の物はないだろう。

 

 いや、だが最高の性能を持つ機体という意味では、紅蓮聖天八極式の方がふさわしいのではないだろうか。

 

 紅蓮聖天八極式は、ブリタニアが黒の騎士団から鹵獲した紅蓮弐式の発展機、紅蓮可翔式をロイドさんとセシルさんが魔改造した機体である。

 ロイドさんにさえ乗りこなせる人がいないと言わしめたその機体は、ランスロット・アルビオン以上の性能を持つお化け機体であり、未来において発生した黒の騎士団とブリタニアの大決戦に参戦した際には、たった一機で戦場をひっくり返した頭のおかしい機体である。頭のおかしい爆裂娘以上に頭のおかしい機体だ。

 

「その最高傑作という言葉が、最高の性能を持つKMFという意味では、おそらく紅蓮聖天八極式が最高傑作になると思います」

「紅蓮聖天八極式? イレブンみたいな名前の機体だけど、ランスロットじゃなかったの?」

「ロイドさんが主導して開発したKMFでは、ランスロットの発展機であるがランスロット・アルビオンが最も高い性能の機体なのですが、聖天八極式の方が性能が高いのでこっちを挙げました」

 

 ロイドさんは、私の言葉を聞くとため息を吐き、疲れたように口を開いた。

 

「その紅蓮っていうのは、たぶん今日戦った赤い機体のことだよね」

「はい、その通りです」

「つまり、ランスロットはその紅蓮って機体に劣るのか。僕のランスロットよりも、ラクシャータの紅蓮の方が強いと」

 

 ロイドさんが、小さく息をつく。

 

「それで、最高傑作を『最高の性能を持つKMF』って言い方に言い直したってことは、君としての最高傑作はその紅蓮聖天八極式っていうのじゃないんだよね。いったい何なの」

 

 ロイドさんの疲れたような問いかけに、私は小さく頷く。

 そう、元の世界では誰一人として同意を得られなかったが、私自身の認識としては、ロイドさんの最高傑作はランスロット・アルビオンや紅蓮聖天八極式ではなかった。

 

「私は、ロイドさんの最高傑作はKMFではなく、フレイヤ・エリミネーターと呼ばれる兵器だと思っています」

「フレイヤ・エリミネーター?」

 

 確かに、ランスロット・アルビオンや紅蓮聖天八極式は強力だ。一騎当千の言葉が相応しく、一機で戦場をひっくり返すだけの性能を持っているだろう。

 だが、コードギアスの物語において、ランスロット・アルビオンや紅蓮聖天八極式は最重要戦力的位置づけはなされなかった。それ以上に驚異的なものが存在していたからだ。

 

「今では考えられないかもしれないですけど、近い将来、今のKMF対一般兵器、KMF対KMFっていう戦場のあり方が大きく変わるんです」

「へえ、ナイトメアが戦場の主役ではなくなるってこと?」

「はい。

 ――大量破壊兵器『フレイヤ』、一撃で帝都ペンドラゴンを吹き飛ばす様な兵器が開発されて、KMFが主役から退場することになります」

 

 『Field Limitary Effective Implosion Armament』、略してF.L.E.I.J.A.(フレイヤ)。どこからJが生まれたのかは知らない。

 簡単に言えば、環境汚染が起こらない核兵器である。

 アッシュフォード学園に在籍しているとある女生徒が考案、開発したこの兵器は、効果範囲や起爆時間をほぼ完璧に制御できる超お手軽核兵器で、KMF対KMFというある種中世の延長線上とも言える戦い方が主流であった戦場を、大量破壊兵器が跋扈する戦場へと一気に覆した。

 

「ということは、そのフレイヤ・エリミネーターというのはフレイヤって兵器の発展形か何かかい?」

「いえ……いや、ある意味そうなのかもしれません。

 フレイヤ・エリミネーターというのは、私の知る限り未来において唯一開発されたアンチフレイヤ兵器です」

 

 戦場の在り方を大きく変えたフレイヤ。

 そんなフレイヤの対抗兵器として、ロイドさんとその女生徒が突貫で生み出したのが、フレイヤ・エリミネーターだ。

 槍型の形状をしたこの兵器は、使用直前の19秒以内に周囲の環境データを入力し、かつ入力した環境データに基づき実行されるプログラム、その実行時間である0.04秒が正しい位置で経過出来るようにフレイヤ本体に突き刺す必要があるという恐ろしいリスクがあるものの、フレイヤの反応を完全に抑え込むことができるというすさまじい兵器だ。

 これだけ聞けばただのハイリスクなゴミ兵器に聞こえるが、環境データを自動で入力するプログラムを組むだけで、この兵器は直接突き刺す必要があること以外リスクのない便利なものに変わる。

 いつでも自動で環境データを入力する事ができるようになるだけで、最も大きな制限となる19秒と0.04秒がなくなるのだ。あとはうまいことフレイヤの弾頭に命中させることができるよう、KMF側のモーションプログラムを整えれば、最後の制限もなくなる。

 それに、このフレイヤ・エリミネーターの理論は、将来的にフレイヤが電力利用されたときにも活用できる。

 万が一事故が起きたとしても、このフレイヤ・エリミネーターと同じ機能をするものを突き刺すだけで、その反応を安全に止めることができるのだ。

 

 それらのことについて色々話すと、ロイドさんは複雑そうな顔になった。

 

「なるほどね。僕の趣味には反する兵器だけど、たしかに僕の最高傑作と言える兵器かもしれない。

 まあ、君の口ぶりからして、僕主導で開発された兵器じゃないみたいだけど」

「うっ、はい。確かにフレイヤ・エリミネーターは、ロイドさんではなくフレイヤの開発者であるニーナ・アインシュタインが主導して開発したものです」

「なら、僕の最高傑作はさっき君が言ってたランスロット・アルビオンだよ。紅蓮聖天八極式はラクターシャのものだし、そのフレイヤ・エリミネーターっていうのもニーナって()のものだ」

 

 ロイドさんは、そう言うと手元のノートパソコンを閉じた。

 そして、疲れたように椅子から立ち上がる。

 

「今度、そのランスロット・アルビオンについて色々聞くから、ちゃんと思い出しといてよ」

「わ、わかりました」

 

 ロイドさんの言葉に、私は慌てて頷く。

 

「うん、それじゃ、例の操縦履歴と音声データについては誤魔化しておくから、アリス君は安心してゆっくり休みなよ。

 スザク君のスペアとはいえ、君だってランスロットの重要なデヴァイサーなんだから」

 

 ロイドさんは、そう言うと運転席の方に歩いて行った。

 ロイドさんがドアの向こうに消えることを確認すると、私はため込んでいた息を一気に吐き出した。

 

「コードギアスの知識を持ってることがばれた時はどうなるかと思ったけど、何とかなったかな。

 ロイドさんが、研究以外に興味のない人でよかった」

 

 これが某チーズケーキさんとかアルマさんとかだったら、もっと大変なことになっていただろう。バレたのがロイドさんにだけで本当に良かった。

 

 私は、顔を上げて正面のランスロットを見詰める。

 

「ま、事態が良くなったわけじゃないんだけどね」

 

 ボロボロになったランスロットを前に、今日何度目かわからないため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロイドさん、スザク君の様子はどうで……何かあったんですか?」

 

 トレーラーの後部から出てきたロイドを見たセシルは、ロイドの珍しい姿を目撃した。

 あのロイドが、いつも明るい変人であるロイドが、誰にでもわかる程落ち込んでいたのである。

 

「いや……なんでもない。何でもないよセシル君」

「何でもないって……そう言うなら、もう少しいつも通り明るくしてください。

 今のロイドさん、誰にだってわかるぐらい落ち込んでるように見えますよ」

 

 トレーラーがトンネルに入る。

 暗くなった車内では、ロイドの顔はより一層暗く映った。

 

「そう? アリス君にはバレなかったんだけどな。そんなにあからさまに見えるのか」

 

 いつものおちゃらけた口調ではない。たまに見せる真面目な口調。

 ロイドは、打ちのめされた様子で席に着いた。

 

「……」

「……」

 

 二人の間に会話はない。

 しばらくそんな時間が続き、トンネルを抜けた頃になって、ようやくロイドは口を開いた。

 

「別に、悔しいわけじゃないんだ。

 常人では思いつけないような発想、それを形にするだけの才能。僕は天才と言われる部類の人間だけど、君やラクシャータみたいな一握りの天才には、そういった部分で劣っているのは自覚してた」

 

 ロイドの言葉を、セシルは何も言うことなく黙って聞いていた。

 

「僕のランスロットも、究極的にはガニメデの発展機。僕がしたことは、天才が思いついたことをなぞって伸ばして、そして束ねて形にしただけだ。

 僕以外の誰かにランスロットが作れたとは思えないけど、僕がいなくても誰かがそれに近い物を考えたと思う。MVSも、ガニメデの特殊な駆動機構も、ヴァリスも、ブレイズルミナスも、全部僕が考えたものじゃないからね。

 でも――」

 

 再びトレーラーはトンネルに入り、影でロイドの表情が見えなくなる。

 

「――でも、いつかは誰にも思いつけないようなものが作れると思ってた。世界を一変させられる様な、そんな何かを思いつけると思ってたんだ。事実として、それだけの才能が僕にはあったし、それを成せる自信もあったから」

 

 租界からそれなりに距離のあるナリタ山は、きちんと整備された場所だとは言えない。

 そのためトンネルの中の照明もそれほど多くなく、車内を照らす光は不十分だった。

 

「――うん、作れると思っていたんだ」

 

 だから、セシルにはロイドの表情がどうなっているかはわからない。

 けれども、セシルにはロイドが静かに涙を流す姿が見えた気がした。

 

「それだけ、それだけだよ」

「そう、ですか」

 

 セシルは、ロイドには何もしなかった。

 彼女がしたことは、トレーラーがトンネルを抜ける前に、視線をトレーラーが進む先に向けることだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ、んんん……」

 

 スザクさんが目を開けた。

 

「おはようございます、スザクさん。気分はどうですか?」

 

 私はスザクさんに軽く声をかけると、前もって机の上に置いていたコップをそっと手に取った。

 

「ここは……僕の部屋?」

「はい、スザクさんの部屋です」

 

 今、私とスザクさんがいる場所は、特派のトレーラーの中ではない。

 ここは、特派が借りている大学の一室、スザクさんの部屋として使用されている寮の部屋だった。

 

「お水飲みますか?」

「あ、うん。ありがとう」

 

 身体を起こしたスザクさんに、手に持った水を手渡す。

 理由は言わないが、おそらく今のスザクさんの口の中は、色々とすっぱくなっているだろう。

 そのために、私は水を用意していた。

 

 ひと息で水を飲み干したスザクさんは、しばらくぼーっと辺りを見回した後、微かに顔を歪めて頭を押さえた。

 

「大丈夫ですか」

「うん、大丈夫。心配してくれてありがとう。

 ……ナリタ山での戦闘、どうなったかわかる?」

「まだ色々と調査中の様で詳しい話は聞けませんでしたが、日本解放戦線は、そのほとんどが壊滅。リーダーである片瀬中将は逃走した様ですが、もう再起は難しいでしょう。

 黒の騎士団率いるゼロは逃走、コーネリア殿下は無事ですが、ゼロを捕まえるには至りませんでした」

 

 コードギアスの物語、その知識を引っ張り出してスザクさんに答える。

 スザクさんは、落ち着いた様子で私の話を聞いていた。

 

「スザクさんは、どこまで覚えていますか?」

「そういった言い方をするってことは、やっぱり僕に何かあったんだ。

 僕は、ゼロを追っていた所から記憶がないんだ。何か重大なことがあったような気がするんだけど……」

 

 そう言って、再び頭を抑える。

 どうやら、C.C.にショックイメージを流される直前でスザクさんの記憶は途切れている様だった。

 

 C.C.の見せたショックイメージの力か、もしくはスザクさん自身が無意識に蓋をしているのか。

 いずれにせよ、この様子なら問題はないだろう。覚えていないなら、今後に影響することはないはずだ。

 

「はい。私がランスロットを発見した時には、スザクさんは錯乱していて、ランスロットは暴走状態に陥っていました」

「僕が……錯乱?」

「はい。セシルさん達が、原因を調べています。

 セシルさんは、パイロットの感応波を読み取る機能が、何らかの不具合を起こしたんじゃないかと言っていました。KMF開発初期にも見られたトラブルの様なので、スザクさんの脳に何か問題があるわけではないみたいです」

 

 スザクさんの看病を始める直前、セシルさんから聞いた予想をスザクさんに伝える。

 私の話を聞いたスザクさんは、僅かな時間目を閉じると、眠気の飛んだ表情で私の方を向いた。

 

「ありがとう、アリス。

 僕はもう大丈夫だから、アリスも休んだ方がいいと思うよ。今日の戦闘で疲れているだろうし、明日も仕事があるからね」

「わかりました。元々スザクさんが大丈夫か心配なだけだったので、そろそろ失礼しますね」

 

 スザクさんに別れの挨拶を告げて、私は部屋の外に出る。

 そのまま自分の部屋に戻り、着替えることなくベッドに倒れ込んだ。

 

「結局、私って何がしたかったんだろ」

 

 布団に顔を埋めながら、今日の出来事を思い出す。

 

 ――私の今日の行動は、あまりにもちぐはぐだった。

 

 黒の騎士団を倒すために、紅蓮弐式と戦った。

 黒の騎士団を救うために、ランスロットと戦った。

 

 私は、一体何がしたかったのだろう。

 

 スザクさんを助けたかったのか。

 ゼロを助けたかったのか。

 ブリタニアの一軍人として行動したのか。

 黒の騎士団の内通者として行動したのか。

 

 自分の心がわからない。

 自分自身への不信で、頭がどうにかなりそうだった。

 

「頭がフットーしそうだよおっっ……なんてね。なんなんだろ、私」

 

 ふざけても悩みは消えない。

 もう一人の自分でもいるのか。千年アイテムも持ってないのに。

 

 あまりの悩みに、一晩で天空要塞ダモクレスを建造できそうな気分だった。

 ……そういえば、知識と材料と設計図さえあれば、私って一晩でダモクレス建造できるんだよね

 

 そんなどうでもいいことを考えていれば、いつしか私は眠りに落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 研究室に行ったら、紅蓮弐式が置いてあった。


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