私と契約してギアスユーザーになってよ!! 作:NoN
(正確には、社会人2年目の夢も生き甲斐も特にない系日本人をイメージした感じです)
なんだかんだでランスロットの補欠デヴァイサーとなった日の翌日。
私は、特派の研究室の一角で、スザクさんと共に朝食をとっていた。
この世界に来てから初めての食事であるこの朝食のメニューは、新鮮なハムとレタス、チーズを挟んだ簡単なサンドイッチだ。
KMFのバッテリーである『エナジーフィラー』を椅子代わりに、スザクさんと隣り合うように座って朝食をとる。
「いただきます」
スザクさんが、器用に膝の上に置いた皿の上にサンドイッチを置き、手を合わせていただきますと言うのを横目に見ながら、私も両手でサンドイッチを挟むようにして持った。
「いただきます」
そう口にして、サンドイッチをほうばる。
「……」
――口にしてから気が付いた。
この身体は子供の身体だ。少なくとも肉体的には大人であった前の自分の基準で物を口に入れれば、口が思うように動かせなくなる。
つまり、口の中にほとんど隙間なくサンドイッチが入り込み、うまく咀嚼をすることができなくなってしまったのだ。
……小学生か私は!!
すっぱいものを想像することで唾液の出を良くし、その唾液でサンドイッチのパンを湿らせ小さく押しつぶし、なんとか懸命に咀嚼する。
3分ほどかけて、どうにか口の中のサンドイッチを飲み込む。
朝から完全に無駄な労力を費やしてしまった。
わざわざそれを表情に出すことはしなかったが、心の中で少し落ち込んだ。
――ふと、視線を感じてサンドイッチを見ていた顔を上げる。
だが、こちらに視線を向けている人間はいなかった。
周りの研究員たちから見られているような気がしたのだが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
再び視線をサンドイッチに移し、今度は子供の身体であることを考慮しても少し小さめに感じるであろう程度、サンドイッチを咥える。
すると、口の中にハムのほのかな香りが広がり、同時に口の熱で僅かにチーズが溶け出した。
チーズは、日本では味わったことがないような濃厚な味がしており、それほど食に通じていない私でもいいものだとわかった。
さらに、口にしたサンドイッチを噛み締めれば、口の中でレタスが瑞々しい音を口の中に響かせる。
その歯ごたえも、食感も、明らかにいい素材を使っていることがわかった。
――おいしい。
単純に素材が良かったのか、アリスの舌が肥えていなかったためか、昨日から何も口にしていなかったために空腹だったからか、いずれにせよ、このサンドイッチは私が食べたサンドイッチの中で最もおいしい物だった。
「おいしいですね」
「うん、そうだね。なんでだろう……普段はこんなに美味しくはないんだけどな。
アリスには一応言っておくけれど、いつもはこんなにおいしいわけではないからね」
私の言葉に、スザクさんも不思議そうに返す。
実はこのサンドイッチ、スザクさんから分けてもらったものだったりする。
別に虐められているとかではない。本来の私の朝食は、きちんと別にある。それも、少し前にわざわざセシルさんが手作りしてくれたものが。
なので、本当はスザクさんのものを分けてもらう必要はなかった。
……なかったのだが、その話を聞いた特派の研究員の人達がスザクさんに何かを吹き込んだようで、気がついたらスザクさんの朝食を少しだけ分けてもらうことになったのだ。
――作っているときに見た感じ、材料はホイップクリームとカスタードクリーム、オレンジ系のジャムとバナナだったから、別に不味くないとはおもうんだけどなあ。
セシルさんは、実は味音痴である。
おにぎりにブルーベリーを詰めてくるような人だと言えば、どれほどの味音痴かわかるはずだ。
今回のことは、おそらくそれを知っていた研究員の人が実行したのだろう。
口の中の物を飲み込み、サンドイッチをもう一口咥える。
ふとその瞬間、また視線を感じて顔を上げる。
だが、またこちらに視線を向けている人間はいなかった。
……先ほどのように周りの研究員たちから見られているような気がしたのだが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
「……」
――杞憂だったらいいなあ
絶対見られてる。私が自意識過剰でもなければ、研究員の人達に絶対に見られてる。
なんだ、一体なんだと言うのだ。私が一体何をした。
「……スザクさん」
サンドイッチを飲み込み、口の中を空にしてからスザクさんに話しかける。
「ん、んぐっ。アリス、どうかしたのかい?」
スザクさんは、口に入れていたサンドイッチを呑み込むと、こちらの方を向いた。
「なんだか、先ほどから皆さんに見られているような気がするのですが、私の気のせいですか?」
私は、先程から感じる視線について、スザクさんに問いかけてみることにした。
近い将来、ブリタニアの皇帝直轄部隊であるナイトオブラウンズの一員となる彼なら、この視線には気が付いているだろう。
「別に気のせいじゃないよ、確かに特派の人たちはこっちを見てる」
……一瞬、頭が真っ白になった。
もしかして、この研究室は
ブリタニアに並ぶ大国家、中華連邦のとある武人に対して失礼なことを考えつつ、スザクさんを盾に研究者達の視線から逃れる。
「ちょっと、いきなりどうしたの?」
「すみません、少しの間だけでいいので、ロリコンたちの壁になってください」
戸惑うスザクさんに壁になるよう要請する。
そんな様子の私を見たスザクさんは、苦笑いで私に告げた。
「ロリコンって、そんなことはないと思うよ。
軍ではアリスみたいな年齢の子は多くないから、接し方が上手くわからないだけじゃないかな」
……なるほど、言われてみれば確かにそうかもしれない。
中学生程度の年齢で何らかの仕事に従事するなど、ブリタニアでは皇族やギアス
そう考えれば、研究員の人達が私に対して視線を向ける理由もわからなくはない。
「なるほど、確かにそうですね。少し短慮な行動だったかもしれません」
スザクさんにそう告げて、私はスザクさんの陰から出る。
私がそうやって距離をとってしまっては、上手く接するなどできるはずがない。
「そういえば、スザクさんはこの後何か予定か何かありますか?」
そしてまた、私からも研究員の人達と関わる理由を作るべきだろう。
「この後? ランスロットのチェックのために、ロイドさんからシミュレーターを使うように言われてるけど……」
「でしたら、その相手を務めさせてもらえませんか。補欠とはいえデヴァイサーですから、万一の時のためにランスロットの操縦に慣れておきたいんです。
それに、研究員の皆さんと接する機会にもなりますから」
シミュレーションとはいえ、ランスロットを操縦すれば研究員の人達と話すきっかけ、もしくは話のネタになるだろう。
それに、KMFを操縦したことがない私にはスキルアップを図るいい機会だ。
「うん、セシルさんかロイドさんに聞いてみて、許可が貰えたらお願いするよ」
「はい、ありがとうございます」
スザクさんからは、問題なく了承を得ることができた。
シミュレーションで戦闘を行うのならば、ランスロットの戦闘データをとることができる以上、ロイドさんは許可を取れるだろう。
その後、ロイドさんに許可を貰いに行ったところ、「はいはーい、いいよー」と二つ返事で許可をもらうことができた。
そんなわけで、午前中はシミュレーション上でスザクさんと模擬戦を行うことになった。
とは言ったものの、すぐにそんなことができるわけではない。
第一、私はKMFの操縦方法を知らないのだ。それなのにいきなり戦闘などできるはずがない。
そのため、まずは研究員の人達からKMFの操縦方法を聞かなければならなかった。
スザクさんが本日一回目のシミュレーターでの戦闘を行っている間、私は研究施設の隅に置かれていたシミュレーション用のコックピットを使用して、研究員の人から操作手順を習う。
驚いたことに、外見からの予想とは異なり、人型兵器であるにもかかわらずKMFの操縦は簡単なものだった。
「思ったより操縦は難しくないんですね、驚きました」
「KMFには、パイロットであるデヴァイサーの感応波を微弱だが読み取る機能がありますからね。細かい動きは、それを読み取って調整してくれます。
だから、似たような動きであれば同一の操作で済ますことができるのです」
「なるほど、優秀なデヴァイサーの多くが身体能力に優れるのはそれが理由ですか」
彼に言われてから思い出したが、スザクさんが劇中でランスロットを初めて起動する際、ランスロットがデヴァイサーであるスザクさんのストレスを読み取っている様子があった。
なるほど、随分と便利な機能があるものである。
「ブリタニアの誇る、医療サイバネティック技術の応用です。これが確立されるまでは、本当に操縦が大変だったそうですよ」
医療サイバネティック技術、それを聞いて、とある褐色の肌の女性が思い浮かぶ。
ラクシャータ・チャウラー。コードギアスの主人公であるルルーシュが組織した黒の騎士団、そこに所属する技術者の中で頂点に立つ人物だ。
黒の騎士団側のKMF飛行システム、飛翔滑走翼を開発した人物でもある。
彼女は、学生時代にロイドさんと同じゼミで医療サイバネティック技術について研究していたと聞くし、何か関係あるのだろう。
――まあ、それは今度聞けばいいかな
頭の中に浮かんだ考えを断ち切る。
今は、操縦を学ぶことに集中しよう。
「それに、技量に優れない騎士であっても自らの技量以上の力を出せるよう、別のデヴァイサーの戦闘データを元に動きを
「戦闘データを元に自動で補正、ですか」
「ああ、勿論この機能を解除して、マニュアル操作に切り替えることも可能ですよ。
もっとも、マニュアル操作は非常に難しいために、ラウンズの方々以外がすることはほとんどないと聞きますがね」
研究員はそう言うと、今私が座っているこのシミュレーション用のコックピットから離れた。
「一通り教えたことですし、試しにシミュレーション上で動かしてみましょうか」
「はい、お願いします」
研究員の人の言葉にうなずき、深呼吸をして操縦に集中する。
その状態でしばらく待つと、目の前のモニターにコンクリートで舗装された広大な大地が表示された。
『では、アリス・ザ・コードギアス准尉。これより、ランスロットの操縦シミュレーションを開始します』
「はい、お願いします」
コックピットの右側に、先ほどの研究員の人のバストアップが表示される。
同時に、右側から彼の声が聞こえた。
私は、その声に了承の意を返す。
『では、今から画面にルートを表示させますから、ルートに従って動かしてみてください』
「了解です」
彼の言葉が終わると同時に、シミュレーションの光景に光の道が追加される。
道は途中まで大きく蛇行、その先からは細かく蛇行していた。
おそらく、まずはKMFの最大の武器である機動性能を体感させようとしているのだろう。
ランドスピナー、KMFの脚部に装着されている高速走行用の車輪を展開し、起動させる。
スザクさんのように、いきなり全力でとばしたりはしない。およそ50%程度の出力でまずは慣らす。
先ほど教わったように操縦桿を操作すると、ランドスピナーの車輪でランスロットは前へと進みだした。
思ったよりもGは来ない。このシミュレーターはGも現実の操縦と同じように再現するようなので、ブリタニアの耐G関連の技術は前の世界よりもかなり優れているのだろう。
二つ目のコーナーを曲がったところで、ランドスピナーの出力を70%にまで引き上げる。
KMFの操縦が、思っていたよりも上手くできていたためだ。
加速した機体に合わせ、タイミングよく操縦桿を駆る。
曲がる際に外側に働く慣性も、KMFの関節を使い可能な限り制御する。
こうやって動かしたことは初めてのはずなのに……
――まるで、私がKMFを操縦したことがあるようだ。
次のコーナーで、ランドスピナーの出力を100%にする。
それによって加速する視界、操縦難度が上昇してゆく。
しかし、私の身体はそれに難なく追従した。
普段はうまく動かせない筈の身体が、こうやってKMFを動かしているときだけは自然に近い形で動かせる。
これでは、
内心で自分の動きに驚愕しつつ、いくつものコーナーを抜けて、細かいカーブが用意された場所に突入する。
もし、私がKMFの動かし方を理解していなければ、ここは非常に難しかっただろう。
だが、今の私にとっては何よりも容易い。
ランドスピナーだけではなく腕のスラッシュハーケン、カーボンのワイヤーで繋がれた特殊鉄製のハーケンをも用いて最高速で小刻みに曲がる。
減速はしない。曲がりきれなくなりそうなときは、KMF本体すら持ち上げる程の出力を持つこのスラッシュハーケンを地面に深々と突き刺さるように射出し、強引に曲がった。
加速し、機体を力に沿って流すように動かし、時に力に逆らいながらも減速せずに動かす。
そうやって小刻みに曲がり続けていると、ちょうど100の角を曲がったところで道はなくなった。
「……終わりました」
半ば呆然としつつも、区切りをつけるために終わったことを口に出す。
右側に映っていた研究員のバストアップの映像を見れば、彼は口を半開きにして呆然としていた。
『アリス准尉、実機、シミュレータ問わずKMFの操縦は今回が初めてですよね?』
「はい」
『……才能、ですか。なるほど。
今のアリス准尉の操縦技術を考えると、即座に枢木准尉との戦闘に移っても問題ないと考えますが、そちらに異存はありませんか』
「はい、大丈夫です」
『了解しました。しばらくお待ちください』
表情を強張らせた研究員の彼を見ながら、少し意識を落ち着かせる。
先ほどの自分の操縦感覚を、まだ記憶にあるうちに反芻する。
――歩き方すら覚えていないのに、KMFの操縦方法だけは身体が覚えている。随分とおかしな話だ。
非常にありがたいのだが、なんだか不気味に感じる。
まるで、だれかが私に戦うことを強制しているかのようだ。
『お待たせいたしました。準備が整いましたので、シミュレータを再起動します』
丁度その時、研究員の人が声をかけてきた。
彼の言葉通りシミュレータが再起動され、今度はコンクリートの大地ではなくビルの立ち並ぶ市街地へと降り立っていた。
『今回の環境は、KMFの機動が最も生かせる環境、コンクリートで舗装されたビル街です。
天気は晴れ、湿度は50%。地面の凍結などの特殊な環境は想定されていません。
――では、アリス准尉、枢木准尉、双方共に戦闘を開始してください』
彼がそう告げると同時に、私はファクトスフィアを、KMFに搭載されている多目的センサー群を起動する。
センサーは即座に周辺の様子を調べ上げ、1kmほど前方からスザクさんが全力でこちらに疾走してきていることを教えてくれた。
それを確認した私は、スザクさんへと全速力で加速する。
先ほどのシミュレーションの様子から考えて、この身体は高速移動中でも問題なく動くことがわかっている。
それが、アリスの持つギアス『ザ・スピード』の影響なのか、魔女のコピーであるネモと融合したことによって肉体が強化された影響なのかは置いておいて、私にとって非常に有利に働いているのは確かだ。
私が加速したことにより、スザクさんのランスロットと私のランスロットの間隔は即座に詰められる。
スザクさんは、一瞬の状況変化に対応し、ランスロットの両腕に装備されているスラッシュハーケンの刃を展開しながら、私に殴り掛かって来た。
私は、右腕のスラッシュハーケンを地面に突き刺すことで、その反作用により跳躍しスザクさんの攻撃を回避。
機体を捻る様に高速で回転させながら、スザクさんに踵落としを放つ。
しかし、彼はそれをランスロットの高い運動性能を生かし回避する。
同時に、着地する直前の私にスラッシュハーケンを飛ばしてきた。
その一撃を、左腕のブレイズルミナス、緑色に薄く光るビームシールドの様なエネルギー場の盾を起動させることでで防ぐ。
そのまま、ブレイズルミナスを展開したまま疾走。スザクさんに接近する。
後に開発されるブレイズルミナス関係の武装の一つに、ブレイズルミナスコーンという武器がある。
これは、盾であったブレイズルミナスを槍のような形状で展開することで、槍の代わりにするという物だ。
――まあ、つまり何が言いたいのかと言うと……
ブレイズルミナスというものは、盾以外の物としても機能させることができるということだ。
スザクさんが射出してきた両腕のハーケンを、同じく両腕のハーケンで打ち落とし絡ませる。
――これで、ハーケンは使えない。
「ブレイズルミナス、出力最大」
隙を晒したスザクさんに、左腕のブレイズルミナスを、盾ではなく刃として振り下ろす。
だが、その一撃はわずかに回避され、相手のランスロットの右腕を切り落とすだけに終わった。
――なら、もう一度っ!
右腕のブレイズルミナスを展開、再びスザクさんに振り下ろす。
しかし――
『シミュレーション終了、枢木准尉の勝利です。お疲れさまでした』
その刃がスザクさんに振り下ろされるよりも早く、スザクさんのランスロットの左腕、そのブレイズルミナスが、私のランスロットのコックピットを貫いた。