私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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26話

 突発的に発生した土砂崩れ。

 それにより、ブリタニア軍は混乱の渦へと叩き込まれた。

 

 全部隊の半数以上が消失。

 アレックス将軍の反応が途絶。

 戦場における、コーネリア総督の孤立化。

 

 土砂崩れによって引き起こされた問題は、数え上げればきりがない。

 正に、ここナリタ山にいる全軍は、混乱状態にあった。

 

 そんな時、G1ベースにてレーダーを確認していた一人の男が、絶望に顔を青くして大きな声を上げた。

 

 ――山頂より、新たな敵ナイトメア部隊を確認!

 

 新たな敵が向かう先は、孤立したコーネリア総督。

 それに気が付いた誰もが絶望に飲まれ、手元の無線機越しに戦場にいるナイトメアたちへと総督の救助を叫んだ。

 

 

 日本解放戦線を追い詰めるブリタニア軍。

 その構図は、ブリタニア軍を討ち取ろうとする黒の騎士団という構図へと、その姿を変えていた。

 

 

 

 

 

 

 サザーランドが格納されたトレーラーまで向かうと、そこにはロイドさんの姿があった。

 トレーラーの中では、アルマさん達が機体の調整をしている。

 

「やっと来たね。おめでとうアリス君、お休みの時間は終わりだよ」

「あれ、ロイドさんがどうしてここに?

 ランスロットの方に付いていなくても良かったんですか?」

「んー、ちょっと君に意見を聞きたくてね」

「聞きたいこと、ですか?」

 

 ロイドさんが私に意見を聞きたいというのは、かなり珍しいことだ。

 私が不思議にしていると、少し寒気のする笑顔で口を開いた。

 

「うん、あくまで参考程度に聞いておきたいんだけど……」

 

 ロイドさんはそこで言葉を切り、珍しく表情を引き締める。

 

 

「今日ここナリタ山に、輻射波動があると思う?」

 

 

 ――っ!? なんで私にそれを聞いて来るの!?

 

 驚愕を表情に出さなかったのは、完全に偶然だった。

 おそらく、少しでも表情を作っていれば感づかれていただろう。普段特派の人達と話す時のように何かしらの表情を作っていたならば、間違いなく凍り付いていた自身がある。

 

 驚愕に震える心を抑えつつ、噛んだりどもったりしないように気を付けながら問いかけに応えた。

 

「えっと、はい。こんな時に偶然水蒸気爆発が起こったとは思いにくいですから、輻射波動機構を備えた何らかの兵器はあると思います」

 

 可能な限り普段と同じような声色で、私はロイドさんの質問に答えた。

 

「ふーん、なるほどね。

 参考になる意見をありがとう、もう行っていいよ」

「はい、では失礼します」

 

 軽く頭を下げて、ロイドさんの前を立ち去る。

 

「あ、ちょっと待って」

 

 ――その前に、ロイドさんに声をかけられる。

 

「輻射波動、よく知ってたね。それほどメジャーな技術じゃない筈なんだけど。

 それに、可能性は高いとはいえ、土砂崩れの原因が水蒸気爆発だとはまだ断定できないはずだよ。なんで言いきれたのかな?」

 

 振り返って見えたロイドさんの顔は笑顔だったが、明らかに目が笑っていなかった。

 

「……そ、それは、その」

「まあいいよ、ちょっと君に聞いてみたくなっただけだから。

 さ、行った行った。せっかく出撃許可が出たんだ。取り消されない内にさっさと行かないとね」

 

 ロイドさんは私にそう告げると、ランスロットのあるトレーラーの方へと歩いて行った。

 小さく息を吐くと、私もそこから離れ、サザーランドの乗ったトレーラーへと乗車した。

 

 

 

 

 

 輻射波動というのは、ロイドさんのかつての同僚、ラクシャータ・チャウラ―博士が開発したマイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステムのことだ。高周波を短いサイクルで対象物に直接照射することで、膨大な熱量を発生させて爆発・膨張等を引き起ことができる。

 

 今、山頂から攻めてきている黒の騎士団KMF部隊の中には、この輻射波動機構を備えた紅蓮弐式というKMFが存在している。

 グロースター以上の機動性と、触れた相手を確実に殺し切るだけの火力を備えたこのKMFは、ランスロットに並ぶ性能を備えた高性能な機体だ。一歩間違えば、スザクさんが乗ったランスロットでも撃墜される可能性がある。まさに、この戦場において最も警戒しなければならない相手と言えるだろう。

 

 サザーランドに乗っていた私は、閉じていた目を開いた。

 

 ――場合によっては、ギアスを使う必要があるかもしれない。

 

 コックピット内の音声や画像は、場合によっては記録が残る可能性がある。

 一旦髪を束ねていたリボンを解き、うまい具合に額が隠れるように結びなおした。

 

『アリスちゃん、準備はいいー?』

「アルマさん……はい、大丈夫です」

 

 急にトレーラーから通信が入り、アルマさんの顔が映し出される。

 モニター越しにかけられた心配そうな言葉に頷くことで返すと、私は操縦桿を握りしめた。

 

『おっけーおっけー、それじゃあ任務をおさらいするよー。

 今回の任務は、Point-9にて孤立したコーネリア総督の救出。特派サザーランドは、ランスロット用のサンドボードを使用し液状斜面を突破、ルート1-7-9を使用してコーネリア総督と合流したのち、追走してきたランスロットと共同で黒の騎士団を殲滅する。

 なお、ランスロットは出撃まであと1分ほど必要であるため、特派サザーランドはランスロットを先行する形となる。

 以上、おっけーかなー?』

「はい、大丈夫です」

 

 私の返事を聞いたアルマさんは、真剣な表情を少しだけ崩して微笑み、それから顔つきを心配そうな物へと変えた。

 

『うん、ならよかったよー。

 ただ、いくつか注意したいことがあるからよく聞いて』

 

 アルマさんの言葉に、私は頷くことで返す。

 

『まず、この特派サザーランドは昨晩に突貫で調整したものだから、細かいところがきちんと調整できているとは言えなくなってる。だから、パーツのほとんどがランスロットのものであると言っても、その通りに動くとは思わないで』

「はい」

『うん、返事ありがとう。

 それともう一つ、一応脚部がランスロットだからランスロット用のサンドボードを装備できているけど、本来このサザーランドはサザーランドだから、重量とか重心とかその辺の関係で接合部の強度に若干不安があるの。普通に走る分には問題ないけど、銃弾が直撃したりしたら外れちゃうかもしれないから注意して』

「はい、わかりました」

 

 返事をしてから、小さく息を吸う。

 操縦桿を握りしめ、サザーランドのユグドラシルドライブに火を入れた。

 

『よしっ! システムオールグリーン。アリスちゃん、いつでもどうぞー』

「了解です。特派サザーランド、発進します」

 

 操縦桿を操作し、フットペダルを踏み込む。

 トレーラーから跳躍したサザーランドは、土砂崩れにより液状化した坂を駆け上がり始めた。

 

 

 

 

 

 この特派サザーランドの武装は、ランスロットとほぼ同じ。違うところは、ヴァリスの代わりに普通のアサルトライフルを2丁装備しているという点だけだ。

 ただし、機体出力が大きく異なるため、武装の使用回数に制限が発生してしまっている。

 例えばMVSの場合、MVSをMVS(メーザーバイブレーションソード)として使用できるのは三度だけ。これは、低出力なサザーランドのユグドラシルドライブで強引にMVSを使える様にしたために、恐ろしく燃費が悪くなっているのが原因だ。また、ブレイズルミナスにも同様の原因で使用回数に制限がかかっている。ランスロットの主力武装とも呼べるその三つに制限がかかっているという事は、ランスロットと特派サザーランドの戦闘力に、大きな差を付けている主因と言えるだろう。

 

 

 しかし――

 

 

「裏を返せば、火力と防御力以外はほとんど同じという事。

 ランスロットの一番の売りである機動性、そこには大きな差はないという事ね」

 

 コーネリア殿下の下へと行くには、土砂崩れによってできた大きな道を利用し、KMFが移動するには向かない森林を迂回するような形で向かうことになる。

 ルート通りに移動した場合、移動にかかる時間はおよそ5分。もし黒の騎士団による妨害が入れば、もっと時間がかかる可能性だってある。

 

 今コーネリア殿下が戦っている紅蓮弐式は、ランスロットとほぼ互角の性能を持つ。ランスロットと同格相手にグロースターで5分間戦うことがどれほど危険なことであるか、シミュレータとはいえ何度もランスロットに乗ったことがある私には、身に染みてよくわかっている。

 コードギアスという物語においては、スザクさんが機転を働かせることで間に合ったが、コードギアスの枢木スザクよりも経験不足であろうスザクさんがその判断ができるかどうか、それは断定できない。

 

「――よし、決めた」

 

 言葉に出して、自分に言い聞かせる。

 スザクさんが間に合うという保証はない。故に、万が一の事態が起こった時に備える。

 

「アルマさん、ちょっとルート外れます」

『え? ちょ、アリスちゃん!?』

「ここでコーネリア殿下を孤立させたという事は、確実に殿下を仕留める事ができるような何らかの策を準備してきているはずです。たぶん、高性能KMFか何かを。

 もしそうなら、このままルート通りに行っても間に合わない。少し無理をしなければ、確実に私たちは負けます。

 だからっ――!」

 

 森の陰に見えた敵のKMFにサンドボードを蹴り上げ破壊し、同時に進路を森の中に向ける。

 

『あ、アリスちゃん!? まさか森を突っ切る気!?

 いくら何でもそれは無理だって。人間の反射神経じゃ、反応できずに間違いなくぶつかっちゃうよ!』

「大丈夫です、私なら」

 

 私は、小さく息を吸い込み、髪に隠れた額に翼の様な紋章を浮かび上がらせた。

 

 ――『ザ・コードギアス ゴッドスピード!!』

 

 瞬間、世界が凍り付く。

 私の身体以外のなにもかもが停滞し、凍り付いたかのように動かなくなる。

 否、世界が凍り付いたのではない。私がそう感じる程に加速することで、相対的に停止したのだ。

 

 そこから私は、少しずつ加速を解くことで世界を加速させる。

 瞬きの時すらもゆったりと感じられるその世界で、私は木々を躱し、コーネリア殿下の下へと一直線に突き進んだ。

 こんな小細工をしていると知らなければ、私の動きは神業染みたものに見えるだろう。

 最高速度で森の中を直進する――それは、スザクさんでもできない動きだ。ノネットさんやビスマルク卿辺りならできそうだが、それ以外の人間ができることではない動きである自信がある。

 

 体感でおよそ30分、実際の時間で2~3分程度の間木々を避け続け、私は森の先に、コーネリア殿下と紅蓮弐式の決闘場に乱入する。

 開けた視界の先では、右腕を失ったグロースターが、左腕をだらりと下げた状態で紅蓮弐式と向き合っていた。

 

 通信の周波数を合わせつつ、両手に持ったアサルトライフルをゼロの乗ったサザーランドと紅蓮弐式に放ちながら、紅蓮弐式からグロースターを庇うような位置に着地する。

 

「こちら特別嚮導派遣技術部所属、アリス准尉です。ユーフェミア副総督の指示で救援に参りました。ご無事ですか、コーネリア殿下」

『特派の……ユフィが命令したのか……いや、そうか』

 

 こちらにアサルトライフルを向けていたゼロをアサルトライフルで牽制し、同時に逆から接近していた紅蓮弐式を反対の手に持ったアサルトライフルで牽制する。

 

『私はゼロを仕留める。お前はそちらの足止めをしろ』

「Yes, Your Highness」

 

 初めてこの言葉を言った気がする。不謹慎だが、ちょっぴり中二病みたいでテンションが上がった。

 左手のアサルトライフルをゼロへと投擲し、背中のMVSを抜いて紅蓮弐式と相対する。

 それと同時に、コーネリア殿下はゼロの乗るサザーランドへとスラッシュハーケンを射出し、彼に随伴していた二機のサザーランドを破壊した。

 

「はっ!」

 

 背後のゼロへと向かおうとする紅蓮二式へと、MVSを一閃。

 僅かに回転するようにそれを回避する紅蓮二式へと一歩踏み込み、突き飛ばすようにタックルを行う。

 ランスロットよりも1t近く重い特派サザーランドによって吹き飛ばされる紅蓮二式。そこに追い打つ様、アサルトライフルを連射する。

 

 普通のKMFであればこれで仕留められただろう。

 だが紅蓮弐式は並みの強さではなく、スラッシュハーケンを駆使してこちらの弾丸を回避した。

 そればかりか、こちらの頭上を飛び越えるように跳躍し、背後からコーネリア殿下を討とうとさえしている。

 

「させない!」

 

 スラッシュハーケンを放ちたいところだが、輻射波動があるのでアサルトライフルを乱射。紅蓮弐式が弾丸を輻射波動の盾で防いでいる隙に、スラッシュハーケンを岩に射出し再びコーネリア殿下と紅蓮弐式の間に立つよう移動した。

 

 輻射波動をくらった場合、弾丸もMVSもスラッシュハーケンも一撃で破壊される。それが物質である限り必ずだ。

 

「ならっ!」

 

 ――その瞬間、私と紅蓮弐式のちょうど中間に位置する壁面が、突き破られるように破裂した。

 

「これは――スザクさん!」

 

 周囲が土煙に覆われ、視界が奪われる。

 その一瞬の隙に、私は紅蓮弐式がいたはずの場所へと加速した。

 

 突き破られた壁面の中から現れたランスロットの横を掠めるように通り過ぎ、MVSを振りかぶる。

 

「はああああ!」

 

 土煙の先、視界を奪われ硬直しているはずの紅蓮弐式へと、私はMVSを振り下ろした。

 だがしかし、紅蓮弐式は驚異的な反応速度でこれに対応し、MVSを右腕から生み出した輻射波動の盾で防ぐ。

 

「かかった!」

 

 紅蓮弐式がMVSを破壊するためには、まずMVSの勢いを殺す必要がある。そうしなければ、輻射波動でMVSを破壊するよりも早く輻射波動の腕が両断されるからだ。

 そのため、紅蓮弐式はまず輻射波動の盾で防いでから輻射波動を使用しなければならない。

 

 そこに、一瞬の隙がある。

 

 勢いの止まったMVSが紅蓮弐式に掴まれると同時に、サザーランド手からMVSが離され、緑に輝く光の盾が出現する。

 ブレイズルミナス、非実体の盾。輻射波動では破壊できない力場の剣。

 

「サザーランド、MEブースト! ブレイズルミナス出力全開!」

 

 紅蓮弐式の輻射波動を知っていたからこそ打てた一手。拳を閉じてしまった紅蓮弐式に、盾による一撃を防ぐ盾はなかった。

 

 

 

 

 ――そう、"盾は"

 

 

 

 紅蓮弐式のもう一つの武装。呂号乙型特斬刀、十手のような形状をした特殊合金のナイフ。

 ブレイズルミナスによる一撃は、十手の凹みに嚙合わせるように受け流された。

 

「っ!」

 

 紅蓮弐式へと体当たりを行うことで強引に勢いを殺し、間合いを取る様にランドスピナーで背後に加速する。

 それを見た紅蓮弐式は、私に見せつけるかのように右手で握りしめたMVSを輻射波動で破壊した。

 

「……読まれてた」

 

 簡単な話だ。

 私が輻射波動の扱い方を知っていたのと同じように、紅蓮弐式もブレイズルミナスの存在を知っていたのだ。

 ランスロットにはブレイズルミナスが搭載されている以上、それと相対したことがある黒の騎士団が知っていることは、別に不思議なことでも何でもない。

 

『アリス、無事っ!?』

「大丈夫です、スザクさん。

 ――敵のKMFは、私が押さえます。スザクさんは、コーネリア殿下の援護に回ってください」

 

 エナジーフィラーの残量から考えて、残ったブレイズルミナスの発動回数はおよそ5回。MVSもあと2度使える。アサルトライフルの残弾も十分にある。

 ここで紅蓮弐式を抑え込むには、十分な残数だ。

 

『わかった、アリスも気を付けて』

「はい、負ける気はないです」

 

 仮に劣勢に追い込まれても、私には奥の手(ギアス)がある。紅蓮弐式に負ける気はこれっぽっちもない。

 

 ――スザクさんを送り出しつつ、私は紅蓮弐式へと加速した。


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