私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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25話

 

「山だーー!」

 

 トンネルを超えた向こうには、大自然の山が広がっていた。

 ここはナリタ、日本解放戦線の本拠地だ。

 

 私たち特派は、日本解放戦線の撲滅を目指すコーネリア皇女殿下の軍にくっついて行く形でここナリタを訪れていた。

 

「あれ? アリスはこういった山とかに来るのは初めてかい?」

「いえ、ロバートさん。そう多くはないですが、山登りとかはしたことありますよ。

 今叫んだのは、単純にお約束だからです」

「それはちょっとアニメ的過ぎるお約束じゃないかな?」

 

 三台のトレーラーの内の一つ、そこに私は、ロバートさん達と一緒に乗っていた。

 ちなみに、このトレーラーは特派のものではない。ノネットさんの専属ナイトメア開発チームから借りたものだ。

 

 特派は、ナイトメアを搭載できるトレーラーを一台しかもっていない。ランスロットに資金を使い過ぎたせいで、特派は最近までかなり金欠だったからだ。

 現在、ラウンズの二人の専属ナイトメア開発チームから資金提供を受けたらしいので書類上今はそうでもないが、それは昨日の今日の話であるためお金があっても物がない状態になっている。

 

 トレーラーの運転席付近にまで出していた顔を引っ込め、私は後ろで端末を叩くアルマさんの元へ移動する。

 

「アルマさん、ナリタ山が見えましたよ」

「あー、もうそんな時間かー。時がたつのは早いねー」

 

 んー、とアルマさんは手の組んで上に突き出す。

 1時間近くこの揺れる車内で集中していたのだ。身体も多少凝るだろう。

 

「間に合いそうですか? もうそう時間をかけずに着きそうですよ」

「ああうん、大丈夫大丈夫。今ちょっとこだわり過ぎてるだけで、基本的な調整はもう済んでるからねー」

 

 アルマさんは、端末から顔を上げて正面の白を見る。

 端末から伸びたコードの先には、ランスロットの予備パーツを取り付けられたサザーランドの姿があった。

 

「特派仕様のサザーランド。

 コアパーツこそサザーランドだけど、ブレイズルミナスとか積んでる時点で絶対サザーランドなんて呼べないよねー」

「それについては完全に同意します。ランスロットとの違いって、出力と関節可動範囲位じゃないですか」

「しかもさー、これエニアグラム卿のとこのサザーランドがベースだから、センサー関連の性能は、燃費を考慮すればってつける必要があるけど、正直ランスロットよりも上だよー」

「詐欺もいいところですね」

 

 この詐欺の塊の様なサザーランド、これが、今日の私の乗騎である。

 私は知らなかったんだが、一昨日の模擬戦の際、ノネットさんから貰ったようなのだ。

 

 ――いくらラウンズとはいえ、そう軽々とKMFを誰かにあげても大丈夫なんだろうか?

 

 しかもこれ、ノネットさんの専用機に使われる技術の試験機的な扱い受けていたものなので、本来は部外秘にしなければならないであろう技術が使われているはずだ。

 本人は、「まずいとこは外しといたから大丈夫」とか言ってたけれど、絶対大丈夫じゃないだろう。

 

「それにしても……」

 

 アルマさんはじっと正面のサザーランドを見詰め、不思議そうに首をかしげる。

 

「何か気になることでもあったんですか?」

「いやー、サー・ランスロット(ランスロット狂)のロイドさんが、よく予備パーツ使うの許したなーって不思議に思ってねー。

 あの人のことだから、こんなこと言いだすのは絶対あり得ないって思ってたんだけどなー」

 

 どうやら、アルマさんはランスロットの予備パーツを使えるこの状況に頭を捻っているらしい。

 

「腐りそうなほどあるんで、セシルさんが何か言ったのでは?」

「うーん、セシルさん少し過保護だからありそうだけど……。

 お金に余裕ができたからかなー? うーむ、わからん」

 

 私が考えていたことを口にすれば、アルマさんはさらに考え込んでしまった。

 

「まー、気にしても仕方ないか。

 とりあえずこっちは大丈夫だから、アリスちゃんはバートの方に行ってて」

「わかりました」

 

 アルマさんに返事をして、私はロバートさんの方に戻った。

 

 

 さて、ここで一つ言っておかなければならないことがある。

 私は、先ほど「山だ――!」と叫んだ言い訳として、お約束だからという解答をした。

 

 ――実は、あれは嘘だ。

 

 本当の理由は、ただの現実逃避だった。

 

 

 

 

 私がとんでもないことに気が付いたのは、ナリタに赴く当日になってからのことだった。

 

 

 朝、特派に――軍隊にこの言葉が適切かは知らないが――出勤した私が見たのは、研究者達に集られた3機のKMFの姿だった。

 右手の一機はランスロット、見慣れた白い機体は、見覚えのない研究者たちにちょっとヤバい目で見られていた。視線で装甲に穴が開きそうだ。

 3機の中央にあるのは、妙にランスロットしたサザーランド。普通のサザーランドとはほんの僅かに――よく見てなんとかわかる程度に頭部の形が異なるので、このサザーランドが一昨日私が乗った機体だとわかる。このサザーランドには、知らない研究者達と、目の血走ったジェレミーさんが集まっていた。

 

 で、問題なのは左手にある最後の一機。

 そこにあったのは、一昨日の模擬戦にいた重装系KMFだ。他の重装系のKMFと同じく、その装甲はワインレッドに塗られている。

 そのKMFには特派の研究員の人達が集まり、その何人かが傍にいるパイロットスーツを着た桃色の髪の少女と話していた。

 

 つまり、あのKMFのパイロットは彼女、アーニャさんであったようだ。

 

「おー、おはよーアリスちゃん!」

 

 ちょうどその時、私に気が付いたアルマさんが私に声をかけてきた。

 

「おはようございます、アルマさん。これは何の騒ぎですか?」

「んー? あー、今日の作戦にアールストレイム卿がうちらと一緒に戦うことになったからー、向こうの研究者の人達が、ついでにお互いのナイトメアの自慢でもしないかって言いだしてー、それでこうなったのー」

「一緒に戦う? もしかして、アールストレイム卿もナリタ山に行くんですか?」

「……っ! ナリタ山に行くなんてよく知ってたねー。

 そうだよー、うちと同じでシュナイゼル殿下の派閥に属するアールストレイム卿は、よっぽどでもない限りコーネリア殿下の指揮系統に属するわけにはいかないからー、同じ派閥の私たち特派と一緒に行くことになったんだー」

 

 

 

 

 以上が、今朝あった出来事だ。

 つまり、今回の作戦にアーニャさんがついてくることになってしまったのだ。

 

 いくらラウンズではないオレンジさんに負けるからと言っても、アーニャさんはラウンズである。

 専用機に乗った彼女、そして魔改造サザーランドを駆る私が戦力に追加されていることを考えると、間違いなくコードギアスの物語通りの展開にはならないだろう。

 

「……あれ?」

 

 そこで、私は自身の思考の不自然さに気が付いた。

 

 ――この考え、まるでナリタ山での戦闘が物語通りに終わってほしいかのようではないか。

 

 C.C.との接触を避けたい私としては――皇帝陛下の計画のことがあるので、長期的にはともかく――短期的には黒の騎士団に壊滅してもらった方がいいはずだ。

 今この場にアーニャさんがいれば、間違いなく黒の騎士団はここで壊滅する。喜ぶ、もしくは悩みはすれど、現実逃避をしよう考えるほどにネガティブになる必要はない。

 

 きもちわるい。

 思考の誘導でも働いているのかのような不自然な感覚、その感覚に不快感が湧き出した。

 

「アリス、もうすぐ到着するから後ろの端末立ち上げといて」

「……あ、はい。了解ですロバートさん」

 

 運転席からかけられた声に、思考から意識を戻して応えた。

 到着したらまず、KMFが正常に動作するかチェックする。もちろん出発前にも確認したが、移動させる際に生じた衝撃で不具合が発生しているかもしれないのでもう一度行うのだ。

 

 後部、サザーランドの近くにある四つの端末に光を入れ、私は小さく息を吐いた。

 

 ――気になることはいくつかあるけれど、ここから先は戦場。

 

 ――まず生き残るためにも、悩むのは帰ってからにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

『――作戦開始っ!』

 

 無線からコーネリア殿下の声が響き、全部隊に作戦の開始が伝達される。

 その声を合図に、ナリタ山近隣の車両基地にあった貨物車両の中から、付近に止めてあったトレーラーの中から、空を飛んでいたVTOL(垂直離着陸機)から、そして移動拠点であるG1ベースから、合計200機近い数のKMFが戦場に放たれた。

 その全てがナリタ山を囲むように展開しており、鼠一匹通すことなく殲滅する気なのが見て取れる。

 

 そんな戦場が生まれつつある今、私たち特派とアーニャさんは、G1ベースの後方で待機を命じられていた。

 特派はシュナイゼル殿下、アーニャさんは皇帝陛下の指揮下にあるため、戦力が十分な今、指揮系統に混乱を生じさせかねない私たちには後ろにいてもらいたいのだろう。

 

「あーあ、ざんねんでした。

 せっかく実戦のデータを取るいい機会だと思ったのに、これじゃあ駄目そうだね。

 わざわざ二機も持ってこなくてもよかったかな?」

「そうですね、つい勢いで持ってきてしまいましたけど、仮に万が一が起きてもアールストレイム卿がいるなら必要なかったかもしれません。

 ……お金が増えてガソリン代まで気にしなくていいと思って、少し調子に乗り過ぎたかしら」

 

 そんなわけで、私たちは完全に暇している状況にあった。

 何か研究でもしているのか熱心に端末を叩き、会話をしているロイドさんや一部の研究員――顔ぶれからして、おそらく特派の駆動関係と電気系統関係の技術者全員――以外は、することも無くて完全に暇だ。

 ブレイズルミナスなどのエネルギー兵器を研究しているアルマさんやロバートさん、トレーラーの運転手やセシルさんの補佐をしているジェレミーさんやオリヴァ―さんなどは、日頃の睡眠不足を解消するために爆睡している始末で、アーニャさんすらも――この人の場合、いつものことなのかもしれないが――ブログの更新をしているようだった。

 

 ――暇だ。

 

 ちなみに私の場合、先日セシルさんから貰った携帯でネットサーフィンをしている。アーニャさんがブログの更新をしていることに気が付いたのも、ちょっと気になって確認したからだ。

 

「駄目、読むの疲れる」

 

 暇なのでWeb小説でも漁ろうと思ったのだが、いまいち面白くない。

 日本が戦争でボコボコにされた為か、日本語で書かれたWeb小説がほとんどないのだ。

 一応、ブリタニアの言語、つまりは英語のWeb小説であれば無いわけではないのだが、私自身が英語のWeb小説という物に読み慣れていないので少し読みにくい。特に、英語圏のネットスラングなんて知らないのでよくわからないものが多かった。

 あ、でも「ゲイ」と「アーチャー」が組み合わさってできた「ゲイチャー」というスラングだけは知ってる。理由は聞かないでほしい。

 

 その時、ふと見覚えのない白衣の青年の姿が目に入った。

 

 部外者ではないだろう。ここナリタ山にいる時点で、軍関係者ではないということはほぼない。

 じっと様子を見ていると、彼は近くにいたセシルさんに声をかけ、彼女と話し始めた。

 セシルさんは、彼に対し既知の人間の様な反応をしていた。

 

「ということは、アーニャさんのところの研究員さんかな?」

 

 そう考えたところで、ふと一つ疑問があったことを思い出した。

 この間の模擬戦で使用された、そして今日ここにあるアーニャさんのKMF、あれはいったい何だろうか。

 専用機と見るには”ラウンズ専用機の割に”あまり強くなさそうで、しかし量産機と見るにはいくら何でも強すぎる。

 

 ――うん、ちょうどいいし聞いてみようかな。

 

 思い立ったら吉日、暇なので聞いてみることにした。

 

 セシルさんとの話が終わったところを見計らい声をかける。

 

「あの、すみません」

「ん? 何か用か?」

 

 帰ってくるのは声変わりしたての様な、アニメ的に言えば女性声優が声を当てていそうな声。

 こちらを向いた彼に、私は言葉を続けた。

 

「特派のデヴァイサーをしているアリスと言います。聞きたいことがあるんですが、少し時間を貰ってもいいですか?」

「デヴァイサー? ああ、特派の補欠パイロットさんか。いいよ、俺も聞きたいことあったし。

 ただ、うちのナイトメアの調整がまだ終わってないから、少し待ってて貰うことになるけど……」

「それなら、調整しているところを見せてもらえませんか。

 サザーランドとランスロット以外のKMFをあまり見た事が無かったので、ちょっと気になってたんです。

 ……機密とかで難しいでしょうか?」

「いや、多分大丈夫だと思う。でも、勝手に近付けるわけ行かないから、一応うちの主任に確認させてもらうな」

 

 ついてきてくれ、という彼の言葉に従い、彼と一緒にアーニャさんのKMFが乗っているトレーラーの前まで移動した。

 彼が先に中に入り、30秒ほどしたところで彼とは違う声に入ってくるように言われる。

 

 私はその言葉に従い、トレーラーの後部に続くドアを潜った。

 

 

 

 

 

 

 トレーラーの中には、あのKMFが置かれていた。

 それ以外に目につくのは巨大な大砲、そして隅に積まれたその弾丸だけだ。

 うちのトレーラーの様に、MVSなどの近接系武装は全く見当たらない。よくグロースターなどの指揮官機が持っている大型ランスすら無かった。

 

「ようこそ、ナイトオブシックス専属KMF開発機関モルゴースへ!!

 私はここの主任のアンナ。よろしくね、補欠さん」

「あ、補欠呼ばわりしてるけど別に主任は喧嘩売ってるわけじゃないから。主任はこういう人なの。

 僕はマルクス、ここの主任補佐をしてる。よろしく」

「はい、アリスです。よろしくお願いします」

 

 軽く頭を下げて、二人に挨拶した。

 

「うん、アリス補欠ね。覚えたわ。

 それで、うちのナイトメアを見たいってこの子から聞いてるんだけど合ってるかしら?」

「はい、ランスロット以外のKMFをあまり見た事が無かったので、できれば見てみたかったんです」

「うん、いいよ。うちと特派はそういった情報開示をお互いにしようってこの間決まったもの。どうぞどうぞ、好きなだけ見ていって構わないわ。

 ただ、変なところは触らないように」

「はい、ありがとうございます」

 

 許可も得られたことなので、心置きなく見ることに。

 まずは、あのKMFをもっと近くで見ることにした。

 

 KMFの傍にある端末を見ると、そこにはこのKMFの型番とコンディションが表示されていた。

 

「型番は……RZX-6DF。RZ"X"だから、これは試作機だったんですね」

「うん、RZX-6Df『ゼットランド・メモリー』、アールストレイム卿の専用機開発の一環で作成された実験機であるゼットランドシリーズの三号機で、重量級の機体での機動戦闘を検証するために作成された機体だよ」

 

 ……あれ?

 

「この機体、ゼットランドだったんですか」

 

 重装甲であること以外共通点が見当たらなかったのでわからなかったが、どうやらこの機体はゼットランドであるようだった。

 頭部のパーツが違うのでぴんと来ないが、よく考えれば試作機であるゼットランドとその完成機とも言うべきモルドレッドで大きく頭部パーツが異なるのだから、そう言ったこともあるだろう。

 

「……なんでゼットランドのこと知ってるの? そんなに隠してるわけじゃないけど、一応機密なんだけど」

 

 私とマルクスの会話を見ていたアンナさんが、急に私に問いかけてきた。

 一瞬驚きそうになったが、こういった時には便利な身体のおかげで、そういった様子を表に出すことなく対応できる。

 

「はい、ゼットランドがハドロン砲搭載機だとのことで、一度耳にしたことがあったんです」

「……そうね、特派はハドロン砲の理論を考案したロイド伯爵がいるんですもの。そこに属するあなたなら、知っててもおかしくなかったわね」

 

 そう言って、アンナさんは額を押さえてため息をついた。

 そして、小さな声で「……ちょっと疲れすぎてるかしら」と呟き、椅子の背もたれに身体を預ける。

 

 ――危なかった。

 

 一瞬ヒヤリとしたが、うまく切り抜けられて本当に良かった。

 

 そう思ったところで、急にトレーラーの扉が開かれ、そこから焦った様子のセシルさんが姿を現した。

 ドアを開けた時の大きな音で、一瞬心臓が止まるかと思った。

 

「アリスさん、急いでサザーランドに乗って!」

「わ、わかりました。

 ……いったい何があったんですか?」

 

 アンナさんとユリウスに頭を下げてトレーラーの外へ。

 小走りで移動しつつ、私はセシルさんに問いかける。

 

 セシルさんは、緊張した表情で私に告げた。

 

 

「ついさっき、急に起きた土砂崩れのせいでKMF部隊の7割が壊滅。

 アレックス将軍が、行方不明になったわ」

 

 

 それは、黒の騎士団の攻撃を意味していた。




2016/07/11 16:37 追記
今更気がついたけど、アンナとアーニャって名前の元ネタ被ってる気がする。

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