私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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23話

「おめでとう! スザク君達の敗北のおかげで、いいデータがとれたよ!」

 

 訓練施設の端、ロイドさんやコーネリア様がいる辺りに向かうと、私たちはロイドさんにとてもいい笑顔で迎えられた。

 その全く労う気のない言葉に、相変わらずロイドさんらしいなと思いつつ、背後でひきつった顔をするセシルさんに気にしてないという意味で笑顔を向けておいた。

 

「ロイドさん、もう少し言い方を考えてください!

 ……スザクくん、アリスさん、ラウンズの方々相手にあそこまで戦えるなんて本当にすごいわ。二人とも頑張ったわね、お疲れ様」

「ありがとうございます、セシルさん」

「はい、セシルさん」

 

 先ほどの表情から一転、セシルさんが本当に嬉しそうな顔で労いの言葉をかけてくれた。

 その心温まる言葉に、私とスザクさんはセシルさんに軽く頭を下げた。

 

「アリスちゃーん!!」

 

 今度は、背後から声がかけられる。

 振り向けば、そこにはこちらに助走をつけて跳びかかってくる某チーズケーキさんの姿があった。

 

「うわっ!」

「ちょ、アリスちゃん!?」

 

 迫りくるジャンピング・ボディ・アタックを、とある映画のようなレイバック・イナバウアーじみたエビ反りで回避。

 不思議とそのまま身体が自然に動き、研究員さんの胴体を掴んで後ろに倒れ込んだ。

 かなり変則的ではあるが、分類上はスープレックスとされるであろう技である。

 私はあまりプロレスに興味のない人間なのでこれが本当にそう呼ばれるか確信はないが、私の知識の中で一番近い物がそれだった。

 ちょっと体の向きが反対だったりするが、きっと間違いないはずだ。

 

「むきゅー」

 

 私から解放された研究員さんは、痛みに唸りながらその場に倒れ込んだ。

 制服が土まみれだが、特派の制服は洗濯できる様にできているので大丈夫だろう。洗濯するなら、砂だらけなのは少し大変かもしれないが。

 

「あははー、いい気味ねー。

 お疲れ様、アリスちゃん。エニアグラム卿に勝つなんてすごいねー」

「いえ、たまたまうまく反応できただけです。

 アルマさんもお疲れ様です、ランスロットは大丈夫ですか?」

 

 そうやって転がる研究員さんを笑いながら、アルマさんが私にスポーツドリンクを持ってきた。

 何時ものではなく、その辺りの自販機で販売しているような普通のものだ。

 私はそれを受け取り、数口飲んでのどを潤した。

 

「大丈夫、ちょっと色が付いたから掃除が大変なだけだよー。

 そもそも、何か不味いことが起こっていたら、ロイドさんが錯乱してるからねー」

 

 さらっと笑顔でロイドさんに毒舌をこぼしつつ、アルマさんはチーズケーキの研究員さんの襟をつかんだ。

 

「さてとー、それじゃーまた後でねアリスちゃん」

「ま、まってアルマ、首痛いからそこ掴むのは……」

 

 そのまま、襟をつかんで引きずっていく。

 見た目に似合わずアルマさんって筋力あるんだなぁ、なんてことを思いながら、私はロイドさん達の方に振り返った。

 

「あれ?」

 

 ロイドさんとセシルさん、スザクさんの三人の姿がない。

 少し辺りを見回せば、離れたところに立つピンク色のサザーランド、先ほどまで私が乗っていたサザーランドのところに移動していた。

 一人ぼっちでいるのもなんだか寂しいので、ロイドさん達の所に行ってみる。

 

「――まあ、くれるって言うなら貰う以外の選択肢はないでしょ」

「でも、いいんですか? 間違いなく何か要求をしてきますよ」

「ランスロットを要求されることはないと思いますが、アリスはあれだけのことをしたんです。彼女の身柄を要求してくる可能性も考えられると思いますが……」

 

 ――ん? 私の身柄?

 

 少し気になる言葉が聞こえたので、近くのトレーラーの陰に隠れて盗み聞きをすることにする。

 

「あはは、ないない。そんなことはあり得ないさ。

 セシル君達には言ってなかったけど、彼女は本当に特別な存在なんだよ。ただのナンバーズなんかじゃないの」

「特別、ですか?」

 

 ロイドさんの言葉に、スザクさんは少し緊張した様子で呟いた。

 スザクさんだけではなく、セシルさんも難しそうな顔をしている。

 そんな二人の様子を見たロイドさんは、心底楽しそうな顔をして話を続けた。

 

「そ、特別な存在だよ。

 たぶんだけど、エニアグラム卿は気がついたんじゃないかな?

 アリス君は、下手に表の舞台に立たせるわけにはいかない存在だからね。日陰者の特派、それも補欠のデヴァイサーなんて身を隠すには最適だ。

 そんな彼女が、ラウンズに引き抜きなんてされるわけないよ。ラウンズ直下の部隊なんて、世界中から注目される存在なんだから」

 

 本当に、彼女は面白い人材(パーツ)だよ、ロイドさんはそう告げて、サザーランドに視線を戻した。

 

 ……特別な存在。

 ロイドさんの言ったその言葉に、私の胸の中に少し疑心が湧いた。

 

 私の特別な点、それはいくつもある。

 ギアス、コードギアスという物語に関する知識、魔道器ネモ、人間離れした運動能力、魔女C.C.から移植された(正確には、彼女から採取したものを勝手に培養した)C.C.細胞、今一瞬考えただけでも、いくつも思い浮かんだ。

 

 流石にギアスはないだろうが、C.C.細胞辺りがばれるだけでも大問題だ。

 朽ちず老いることのないの細胞、不老不死の夢をかなえる第一歩となるだろうこの存在がばれるだけで、とんでもない事態になるのは想像に難くない。

 

 ロイドさんの口ぶりからして、現状においては特派にいる限りは安全だが、他の部隊に飛ばされてしまったらどうなるかわからない。

 

 ――最悪の場合、ブリタニア軍を脱走して、ピースマークに身を寄せることも考えておくべきかも……

 

 ピースマークとは、世界中のテロリスト、もしくはその支援組織と結びつき、テロを誘発させるテロリスト派遣組織だ。

 詳しくは知らないけれど、どうせろくでもない組織だろう。たが、ロイドさん達の敵になりたくはないけれど、命には代えられない以上は選択肢の一つとして考えておくべきだ。そんな状況には絶対になりたくないが。

 

「まあ、そんなことを考えるのは今じゃなくてもいいか」

 

 一旦軽く頭を振り、その嫌な思考を追い出す。 

 

「問題になるのは、何が特別なのか、かな」

 

 問題はそこだった。

 ノネットさんが気が付く可能性がある特別な点、少なくともC.C.細胞やギアスではないだろう。

 そうなると、何が特別なのだろうか? 私自身が気が付いていない秘密でもあるのだろうか。

 

 ふと、自分の両手を見てみる。そして、拳を握り、開く。

 私の身体は、KMF操縦などの特定の状況を除いて反射的な動作をほとんど行えなかった。

 過去形で言ったが、今でもそうだ。慣れたから普通に動作を行えているが、一部の反射的な動作はまだ難しい。

 

 特別な点とは、この部分なのではないだろうか。

 というより、ノネットさんに見せたものはKMFの操縦ぐらいなので、それ以外は思いつかない。

 

 ……だから何だ? 私が異常な操縦感覚を持っているからといって、何故ノネットさんは注目するんだ?

 

 答えを出すには、まだ材料が足りない。私が考えている以上に、私にはまだ秘密があるようだ。

 

 私はロイドさんたちの会話が途切れたことを確認すると、トレーラーの影から飛び出して、ロイドさんたちの下へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 模擬戦闘のあったその日、夜遅く電気の消された特派の研究室。

 ロイドは、一人静かに自身の端末のキーボードを叩いていた。

 

 画面に映し出されているのは、河口湖に現れた謎のKMFの映像。今日のサザーランドの動作データ。そして、アリスがシミュレータ上で操縦しているランスロット、それのかなり初期のころの動作データ。

 

「マッスルフレーミング、外見と動作の比較から把握できるその構造は、これが限界か。

 これでも十分作れるだろうけど、ちょっと時間とお金、あと人手が必要かな?

 うーん、面倒だし本人に言って見せてもらおうかな。機体転送に必要な量子シフトの痕跡を残したくないから、できれば最終手段にしておきたかったんだけど」

 

 ロイドは一人そう呟くと、端末に映し出されたデータをすべて消し、別のデータを画面に映し出した。

 それは、ランスロットのデータ。それも、ロイドの様な研究者でなくともわかるよう、丁寧に整理されたものだ。

 

「まあ、それはこれから次第かな。

 僕の予測が正しければ、エニアグラム卿は食いついてくれ――ると思ってましたよ」

 

 ロイドが途中で言葉を変える。

 彼が手元の端末を操作すると、部屋の電気が付き、研究室のドアが開かれた。

 

「へえ、よくわかったな」

「この部屋のセキュリティに関しては、僕個人でいろいろと弄ってありますから」

「なるほど、流石は殿下に重宝されるだけのことはある」

 

 扉の向こうから、ノネットが顔を出す。

 そしてもう一人、桃色の髪の少女が姿を現した。

 

「おや、エニアグラム卿だけでなく、アールストレイム卿までいらっしゃったのですか」

「ああ、ラウンズとして、ここのランスロットを隠すのは、我が国のためにならないと思ってな」

 

 抑揚のついた、しかしどこか建前のように感じさせる口調で、ノネットはロイドに告げる。

 そんな二人の会話を無視して、ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムは、手に持った携帯で研究室の中を撮影した。

 

「……記録」

「いいのかロイド伯爵、撮影されてしまったようだが」

「あなた方がここに来た時点で、撮影されても問題ありませんよ」

 

 苦笑いを浮かべながらそう告げるノネットに、ロイドは楽しそうにそう応えると、背後の端末を右手で操作した。

 すると、彼の背後に端末の画面、ランスロットの機体データがプロジェクターにより映し出される。

 

「一応、プレゼンの準備はしておきましたが、御覧になりますか?」

「必要ない。私が見ても、パイロットでしかない私にはあまり理解できないだろう。

 そこまで察しているなら話は早いな。要件は、伯爵が考えている通りだ。

 

 ――うちとアーニャ専属のナイトメア開発チーム、そことここ特派の技術交換を提案したい」

 

 ノネットの隣にいるアーニャへ、ロイドが視線を向けると、彼女は小さくうなずく。

 どうやら、ノネットが主導で話してはいるが、その内容にはきちんと同意しているようだった。

 

「詳しい話は後程詰めるとして、概要としては技術者同士の交流、研究データのある程度の共有、などだ。

 普通の研究チームには考慮する価値もない提案かもしれないとは思うが、研究そのものを目的とするそちらには十分考えるに値する内容だろ?

 どうせなら、ある程度であれば資金提供もしていい」

「同じシュナイゼル殿下の派閥であるエニアグラム卿、比較的殿下の派閥に近い位置で中立を保つアールストレイム卿お二方の研究チームとそのような機会を持つことはやぶさかではありませんが……」

「よし! なら決定な。

 詳しい内容については、こっちで明日の昼までに書類を用意する。時間は何時頃がいい?」

「あはは、はぁ……何時でも構いませんよ。明日はセシル君がここにずっといるよう、スケジュールを調整しましたから」

 

 言葉を遮られたロイドは、苦笑いをしつつ彼女の提案を了承した。

 

「なんだか、そっちの手のひらの上にいる気分だな……。まあいいか、特に問題もないし。

 それじゃ、詳しい話は明日にしよう。今日は失礼するよ」

 

 ノネットはそう告げると、その場を後にする。

 アーニャも、彼女の後をついて研究室を出て行った。

 

 静かになった研究室、そこに一人残ったロイドは、回転椅子を回転させて視線を端末に戻した。

 

「ふぅ。考えていたのと少し違うけど、これで人手とお金はどうにかなりそうだ。

 アールストレイム卿旗下の研究チームは、ハドロン砲を八割方完成させているって噂だし、制御系の技術を貰えればハドロンランチャーも完成できそうかな?

 ――これで、僕のランスロットはますます強くなる」

 

 ロイドは力強く呟くと、その笑みを強くした。

 

 

 

 

 

「さて、セシル君に無断で約束しちゃったけど、どうやって説得しようかな?」


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