私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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20話

『模擬戦闘終了、アリス准尉の勝利です』

 

 次の日の夕方、訓練用に管理されている廃ビル街で、私はサザーランドを駆り訓練相手のサザーランドをぼこぼこにしていた。

 

 第五世代KMFであるサザーランドと第七世代KMFであるランスロット。

 二世代分の性能差がある以上、最悪操縦できない可能性があるかもしれないと考えていたが、思ったより違和感はなかった。

 違いは、反応速度と追従性、運動性能、出力、関節の可動範囲ぐらいだ。少なくとも操縦者側からわかる範囲では、他に差はほとんどない。

 

 ――簡単に言えば、5年前のパソコンを使っている気分だった。

 

『アリスさん、もう戻ってきていいわよ』

「了解です」

 

 セシルさんの声を聞いた私は、仰向けに倒れた目の前のサザーランドを起こし、そのパイロットに通信越しだがお礼を告げて、特派の人達が集まる辺りに移動する。

 そこにあったトレーラーに既定の姿勢でサザーランドを固定すると、私はコックピットから降りて持ってきていたスポーツドリンクを口にした。

 

 ちなみにこのスポーツドリンク、特派お手製のものだ。

 セシルさん以外の研究員さんたちが、暇な時間に集まって作ったらしい。

 

 ――軍隊でこういうことするのって、大丈夫なのかな?

 

 スザクさん向けのものと私向けのものの二種類があり、私向けの方はスザクさん向けのものよりも若干白く、少し酸味があり、甘い。

 例のチーズケーキの研究員さん曰く、成長期である私にはそれに応じた調整がなされているらしい。スザクさんのものよりも若干白いのは、詳しくは知らないが乳飲料が関係しているそうだ。

 スザクさんも成長期だったような……とも思ったが、その場の空気に流されて追及できなかった。

 まあ、牛乳は成長に良いと聞くし、そのあたりに何かあるのだろう。酸味は、牛乳では不足しがちなビタミンCを入れたの影響だと言っていたし。

 意外と知られていないことだが、牛乳は栄養豊富である割に、鉄分やビタミンCなどの一部栄養素は不足してしまうのだ。私が私でなかった頃にそれを知ったとき、とても驚いたものだった。

 

 この辺の栄養に気を遣ってくれる辺り、研究員さん達の優しさを感じられて嬉しくなる。

 

 ――ただまあ、甘いというのは子ども扱いされているようで納得いかないけど。

 

 この間なんか、エリア11ではなかなか見れないものを見つけたとか言って、ロリポップを渡されたほどだった。甘くて美味しかったです。

 

 個人的に意外だったのは、ロイドさんも作成に協力していたことだ。

 

 本人曰く、ランスロットの主要部品であるデヴァイサーに気を使うのは当然でしょ、とかなんとか。

 パイロットに気を遣うのではなくランスロットの為だと言うあたり、「流石は科学に魂を売ったと自称する人だな」と何とも言えない気分になった。

 

 ぐいっと一気に飲み干し、空のペットボトルをごみ箱へと投擲。

 放物線を描いたペットボトルは、見事にごみ箱の中へと飛び込んだ。

 

 ――だが、投げたペットボトルは、ごみ箱内のペットボトルに弾かれ、跳ねるように外へと飛び出す。

 

 ……少し悔しく思いながら、私はそれを拾って再びごみ箱へと入れた。

 

「……」

 

 そっと周囲を見渡す。

 こちらを見る視線はなく、誰かが見ていた形跡はない。

 近くにいた研究員さんに見られたかと思ったが、研究員さん達は一心不乱にノートパソコンのキーボードを叩いており、仕事が忙しくてこちらを見ていなかったようだ。

 

 私は、ほっと安堵の息をこぼした。

 

 何事もなかったような顔を作り、私は先ほどまで乗っていたサザーランドを見上げる。

 サザーランドはちょうど今、サザーランドを借りた部隊が所有しているトレーラーに乗せられるところだった。

 

 その近くでは、特派の研究員さん達とその部隊の整備師達が難しい顔をして雑談をしていた。

 風向きか、もしくはこの身体の聴覚が優れているためか、彼らの会話が聞こえてくる。

 

「――それにしても、あの子、随分強いですね。どこかの貴族の方ですか?」

「いや、名誉。場所はおそらくE.U.」

「……え、名誉ですか!? 名誉かつあの年でこの腕……すごい才能ですね」

「そりゃあ、うちの変人主任が認めた逸材だからねー。

 うちの資金難で実機での演習はほとんどしてないけど、シミュレータは過労死しそうなほどやってるよー」

「武器の開発とかやってる俺らが言うのもなんだが、ちょっと申し訳なくなってくるくらい頑張ってるからな」

 

 たしかアルマさんだっただろうか?

 特派に所属する数少ない女性、間延びした口調が特徴のアルマさんと、少し大柄な研究員が、申し訳そうにそう告げる。

 それを聞いた年の若い一人の整備師が、興味深そうに問いかけた。

 

「過労死しそうなくらいって、どれくらいやってんの?」

「最低でも、日に6時間。長いと12時間近く」

 

 研究員のその言葉に、傍で話を聞いていた青年の整備士が吠えた。

 

「6時間!? Gのないシミュレータだからってそれはやりすぎだろ。

 あのコーネリア様の親衛隊の方々でも、日に4時間以上やることはないんだぞ。どんな体力してんだよ」

 

 整備士達の視線が、一斉にこちらを向く。

 恥ずかしかったので、私はその視線に気が付かないように装いながら、サザーランドを見詰め続けた。

 

 しばらくすると、彼らは視線を戻して会話を再開する。

 

「そりゃ、あんなに強いわけだわ。訓練の絶対量が違う。

 ……ただ、いくらナンバーズだからって子供にそんな負担かけんな。別にナンバーズを擁護する気はねぇけどさ、流石にかわいそうだろ」

「私たちもそう思ってるんだけどさー、うちの主任があの子の仕事減らしてくれないんだよー。

 この前の河口湖の一件で色々あってねー、ランスロット……うちで開発してるナイトメアの改良に熱中してんのさー」

「なる程、アルマさん達も大変なんですね。

 特派の皆さんって、結構好き放題してるんだと思ってました」

 

 整備士が、何かに納得したように頷く。

 それと同時に、研究員さん達が彼から一斉に視線を逸らした。

 

「あ、あははー、そうだねー、うん。大型ランスに粒子砲積んだりなんてしてないよー」

「あ、ああ。好き放題なんてしてるわけないだろ。ランスロットのMVSを弾道仕様に改造した事なんて無いぞ」

「……何時も毎日、真面目に仕事。揚陸艦サイズのフルアームランスロットなんてなかった」

 

 ――あれじゃバレバレでしょ。

 

 研究員さん達の素直さに、少しだけ不安になった。

 

「ところで、あの子が使ったサザーランドは大丈夫そうですかー」

「ん? 乳臭い名誉の小娘、なんか操縦に問題でもあんのか?」

「セドリックさん、いくら何でもそれは言い過ぎですよ」

「あんまりアリスちゃんを馬鹿にすると、スパナでくいっっとしちゃいますよー。

 ……実はあの子、サザーランドに乗せるにはいかんせん中途半端に腕が良すぎるのか機体を限界まで動かしちゃうんでー、関節とかの細かなパーツの消耗がすごいことになっちゃうんですよー」

「関節の消耗? あー、あの化け物みたいな機動すればなぁ。

 おいエド、ちょっと見てこい」

 

 会話を聞いていた若い整備士は、男の言葉に敬礼をして答えた。

 

「わ、わかりました。確認してきます」

「おう。敬礼なんてしなくていいからさっさと行け。

 ――で、どれくらい酷いんだ?」

 

 少年を見送った男は、アルマさんに向き直って問いかけた。

 

「うーん、全力で動いたら、最悪の場合だと内部のパラサイトケーブル千切っちゃうぐらいかなー」

「うそつけてめぇ、そんなことあるわけねえだろ」

「それがあるんだよー。ま、シミュレータでのことだけどね。

 あの子の機動、どうやらランスロット並みの機体を想定して動いているみたいでさー、第五世代以下のナイトメアに乗せると、最悪の場合は機体を壊しちゃうんだよー」

 

 整備士達の視線が、一斉にこちらを向く。

 その視線に対し、私はとっさに視線を顔ごと逸らしてしまった。

 

「聞こえてんじゃねぇか」

「えー、まっさかー、この距離で聞こえるわけないでしょ。

 ……ないよね? こんなので嫌われたら泣くんだけど」

「おい、いつもの口調はどうした」

 

 何か大変なことになりそうなので、「気になるものがあったので振り向いた」 かのように装うことにする。

 ちょっと驚いたように顔を作りながら、私は視線の先へと歩みを進めた。

 

 視線の先にあったのは、ずらっと並んだ大量のサンドイッチだった。

 某チーズケーキの研究員さんのような特派の料理できる勢が、おやつ用に朝から頑張って作ったものだ。

 

 ――ちょうど3時だし、もう食べてもいいかな。

 

 レタスサンドにカツサンド、セシルさん作のブルーベリージャムサンドなんてものもある。

 私の作った物も三つほど混ざっていて、自分で食べるのを楽しみにしていた。

 

「セシルさーん、サンドイッチ食べていいですかー!」

 

 少し離れた場所、サザーランドを乗せたトレーラーの近くで運転手のロバートさんと話すセシルさんに、このサンドイッチを食べていいか問いかける。

 私の声に気が付いたのか、こちらを向いたセシルさんは、小さく苦笑いをして右耳のあたりを抑えた。

 

『ええ、食べても大丈夫よ』

 

 インカムである。

 着けていることをすっかり忘れていた耳元のインカム、そこからセシルさんの声が聞こえた。

 

 ――なんだろう、今日は恥ずかしい思いばっかりしてる気がする。

 

 赤面しているわけではないが、何となく顔が熱くなったような気がしたので手のひらで扇ぐことにした。

 

 ――気を取り直してサンドイッチを食べよう。

 

 恥ずかしさを頭の隅に追いやり、私は自作のレタスサンドを手に取った。

 別に自分の一番おいしいとか思っているわけではない。単純に、セシルさん作の非デザート系サンドを警戒しているだけだ。

 デザートサンドとして食べる甘いサンドイッチはおいしいが、ハムチーズサンドやBLTサンドが甘味と化していたら悪夢でしかない。

 

 レタスサンドを両手で持ち、その角めがけて一口。

 

 うん、おいしい。

 

 思ったよりも鮮度が保たれていたレタスが、シャキシャキとした触感を出していて美味しかった。

 一応作った時に味見はしていたが、時間を置いたらどうなるか心配だったので安心した。

 

「お、美味そうだな。貰ってもいいか?」

「あ、はい、どうぞ。

 でも、この中にはセシルさん作のものもあるので、注意してください」

 

 背後から聞こえた女性の声にそう答えつつ、私は作っているところを見ていたアルマさん作のハムチーズサンドを手に取った。

 

 他のサンドイッチとは異なり僅かにトースターで焼かれたそれは、時間を置いたためにその熱こそ冷めてしまっているものの、パンにチーズがなじんで美味しそうだった。

 

 手に取ったハムチーズサンドに意識を向けつつ、他のサンドイッチから視線を外す。

 外して……そこで固まった。

 

「……」

「どれも美味そうで、どれから食べればいいか悩むな」

 

 私の視界の中で、ライトグリーンの髪が風に揺れる。

 色鮮やかな髪色のブリタニア人でも、なかなかないであろう色の髪を持つ女性。

 私は、その人物に心当たりがあった。

 

「ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラム卿……」

「堅苦しいねえ、ノネットさんで良いよ」

 

 ――なのはさんか!

 

 突然現れたラウンズに驚きつつ、驚きのあまり右手から落ちたハムチーズサンドを空中でキャッチする。

 今度は落とさないように両手で持ち、それから私はノネットさんと目を合わせた。

 

 ノネットさん、ノネット・エニアグラム卿は、皇帝直属の騎士であるナイトオブラウンズの一人だ。

 第五世代のグロースターで第七世代のランスロットにあと一歩まで迫れる実力を持ち、ギアス関係者でもないのにギアスの発動を察知できる凄い人である。

 

 コードギアスの物語では、反逆のルルーシュには登場しないが、外伝の双貌のオズやLOSTCOLLARSに登場している人で、出番が少ない割に凄く人気のあった人だ。

 

 コードギアスという知識を持つ私は彼女が日本にいることを知っていたが、まさか会えるとは思っていなかった。

 

「ノネットさん、でいいでしょうか」

「あー、ちょっと堅いけどそれで良いか。

 知っているみたいだが、ノネット・エニアグラムだ。お前は?」

「特派所属、アリス・……いえ、ただのアリスです」

 

 一瞬、フルネームで自分の名前を言いそうになって、直後にやめる。

 ノネットさんはギアス関係者ではないが、関係者である皇帝直属の騎士だ。余計なことは言わなくてもいいだろう。

 以前ロイドさんに貰ったIDカードを見る感じ、戸籍の方もアリスだけで登録されているようなので、嘘にはならないはず。

 

「わかった、アリスだな。

 特派と言うと、シュナイゼル殿下旗下の技術開発チームだったか?」

「はい、主任が考案、開発した第七世代ナイトメアフレーム『ランスロット』の運用試験を行っています」

「おお、噂の第七世代か。

 突然で悪いんだが、サザーランドの搭乗時間を聞かせてもらえないか?」

 

 ――サザーランドの搭乗時間?

 

 突然の質問に違和感を感じたが、特に教えても問題ないので答える。

 

「えっと、実機では3時間です。シミュレータ込みだと6時間ですね」

「……ん? 3時間? ってことは、今日が乗るの初めてか」

 

 ノネットさんが、じっとこちらを見詰めてくる。

 どう反応しようか困っていると、ノネットさんは少し楽しそうに笑った。

 

「なるほど、第六世代があれだから期待はしていなかったが、お前みたいな才能のあるやつがテストを務めているなら、第七世代は十分期待できそうだ。

 突然声かけて悪かったな、他にない動かし方をしていたから少し気になったんだ」

 

 そう言うと、ノネットさんはサンドイッチの一つを手に取って口にした。

 

「――うん、うまい。

 邪魔したな。また今度、機会があれば会おう」

 

 ノネットさんは、そう言ってセシルさん達の方に歩いて行った。

 

「なんというか、(あね)さん! って雰囲気の人だったな」

 

 会話内容的にそういう感じの発言があったわけではないが、雰囲気的にそんな感じがした。

 ラウンズ相手がから緊張していたが、優しそうな感じの人でよかった。

 

 もし、ナイトオブテンのブラッドリー卿とかだったら、きっと私の命はなかったに違いない。こう「ナンバーズの雌猿が!」みたいなことを言われて、ぐいぐいと首を絞められていただろう。

 

 そんなことを思いつつ、手に持ったサンドイッチを食べた。

 

 ――あ、チーズおいしい。


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