私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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既存のファイルフォーマットは存在しているということにしてください。

え? アメリカがないからadobeは無くて、だからPDFは存在しないって?
……細かいことは気にしないでください。


今回は、超誰得な話。
最初は、ほのぼのとした日常話の予定だったんだけどなあ



19話

「きれいごーとーだけーじゃー♪」

 

 今日も今日とてシミュレーター。

 私は、疲れを忘れるため、やけくそ気味に小さな声で歌を歌いながら、鬼畜変態AIグロースターへとMVSを振り下ろす。

 

 グロースターは、ランドスピナーを使うことで僅かに超信地旋回―左右の車輪を反対に動かすことで、移動することなく車体の向きを変える―を行い、即座に回避。

 同時に、旋回の勢いをそのままに、掌底でランスロットのカメラを吹き飛ばす。

 

『シミュレーション、終了します。

 ――お疲れ様、アリスさん。これで今日は終わりよ』

「はい……お疲れ様です」

 

 セシルさんの声を聞いた私は、操縦桿から手を離し、開いた後ろのハッチから転がり落ちる様に外に出た。

 そのまま這いながら傍の椅子まで進み、そこに置かれたペットボトルとタオルを掴む。

 

「――んぐっ……ぷはぁ」

 

 ペットボトルに口をつけ、中身を勢いよく流し込む。

 その僅かに白く濁った液体からもたらされる甘み、そして塩気が身体に染み込み、僅かな冷気が熱気を溶かす。

 

 流れ込んだ冷気はそのまま喉の奥を通り、口の中には溶けた熱気の欠片が残され、やがて消えた。

 

「15連戦もお疲れ様、アリス」

「あ、ロバートさん、ありがとうございます」

 

 手に持ったペットボトルがちょうど空になった時、ここの研究員の一人、ロバートさんが新たなペットボトルを持ってくる。

 

 手に持ったペットボトルはかなり冷たく、先ほどまで冷蔵庫かなにかで冷やしていたことを想像させた。

 

 お礼を口にしつつ、貰ったペットボトルに口をつける。

 中身は、白濁の液体。おそらくカルピスやアンバサの様な乳飲料だろう。

 

 運動後にカルピスはちょっと……と感じつつも、喉が渇いていたので一気に飲み干した。

 

「――んぐっ……ぷはぁ。

 ふぅ、おいしかったです。ロバートさん」

「うん、それはよかった。

 もう一本いるかい? 炭酸しかないけど、まだいろいろあるよ」

「いえ、もう大丈夫です。1Lも飲めば多いくらいですから」

 

 ロバートさんからの勧めを断り、小さくため息。

 ここ2、3日の間、今日みたいに限界までシミュレーションを行っていたので、どうも私は疲れているようだった。

 

 心なしか、反応が鈍い気がする。

 反射的な反応は変わらないので、思考速度が落ちているのだろう。

 

「んっー!」

 

 2本のペットボトルを手に、両手を天に突き上げて身体を伸ばす。

 長時間シミュレーターを行っていると、どうも身体が固くなる。

 

 一通り身体をほぐした後、私はセシルさんの所に向かった。

 試験武装に関するレポートを仕上げるため、そのデータを貰うのだ。

 

 今日書かなければならないレポートの数は、武装に関するものが15と、装甲や駆動系に関するものが2つ、計17だ。

 数日前の私なら17なんて死んでしまうと考えるだろうが、流石に50以上も書けば慣れる。

 

 昨日の夕方、例のチーズケーキの研究員さんに、端末に入っていたtexの統合開発環境の使い方を教えてもらったので、今日はもっと早く終わるだろう。

 

 

 TeXというのは、どこかの数学者が開発した文書作成ソフトに近い何かのことだ。

 どこぞの企業が開発した文書作成ソフトとは異なり、マークアップ言語、文章の構造を指定する命令文と文章そのものを混在させるように記述する。

 特に数式の記述に優れていて、数学の教科書の様なきれいな数式を描くことができる。

 

 フリーかつオープンソースなので、苦学生であったため某事務所のライセンスにお金を使いたくなかった私は、このTeXをよく使っていた。

 

 慣れない内は時間がかかるけれど、某アレのように図表に付けた番号が狂う事が無いので、図表を大量に使った大学時代のレポート製作に重宝した。

 ……もっとも、当時はTeXの統合開発環境がある事を知らなかったので、メモ帳で書いていた私はあまりの過酷さに一時期首を吊りたくなったこともあったけど。

 

 まあ、そんなことは過去の話。

 今の私にはTeXの統合開発環境、命令文の記述予測や補間などの作成支援を行ってくれる環境があるので、楽……ではないけれど、少ない苦痛でTeXを作成できる。

 

 

 ――メモ帳からはおさらば!

 

 

 そんな事を考えているうちに、セシルさんの元にたどり着いた。

 

「お疲れ様、アリスさん。これが今日の試験データよ」

「はい、ありがとうございます」

 

 セシルさんからUSBメモリーっぽい記憶媒体を受け取り、今度は自分の端末へ。

 USBポートっぽい端子にそれを差し、データを確認する。

 

 低燃費型MVS、改良型ケイオス爆雷、ランスロット専用試作海上移動装備、同型の試作砂地移動用装備、燃費改良型フロートシステム……

 それぞれきちんと分けて整理されており、わかりやすく分類されていた。

 

 全てのデータがあることを確認し、私は机の上にある大きめな鉢巻を手に取った。

 

 鉢巻には、サインペンで書かれた『必勝』の二文字。

 一昨日の夕方、近くのショッピングモールで売っていた手ぬぐい、それに自分でそれっぽい文字を書いたものだ。

 

 それを額全体を覆うように巻きつける。

 別に、気合を入れる為ではない。額を、厳密にはそこに浮かぶ模様を隠したいからだ。

 

「すぅ――ふぅ」

 

 落ち着くために、小さく深呼吸。

 そして私は、額に赤い光を灯した。

 

「――ザ・スピード」

 

 瞬間、世界が切り替わる。

 全てが遅くなり、私は世界から切り離された。

 

 魔女コピーであるネモによって強化された、ザ・スピード。

 最近気が付いたのだが、それは重力操作による相対的な加速だけではなく、純粋な加速すらも可能としていた。

 

 まあ、少し考えればわかることだったかもしれない。

 もし、ネモの強化が『加重力による相対加速』の範囲に収まっているのだとしたら、ザ・コードギアス ゴッドスピードを発動すると私は死ぬ。

 なにせ、ザ・コードギアス ゴッドスピードは『無限大に加速する』ギアスだ。仮にそれが『加重力による加速』の延長線上にあるのだとすれば、私は無限大に加重を受けることになってしまう。

 

 まあ、それは今はどうでもいい。

 今の私には、やることがある。

 

 加速度を小さくし、加速の度合いを悪くする。

 

 およそ1.2倍程度になったところで、私は端末に手をかけた。

 

 そう、私はレポートを早く仕上げる為だけにギアスを使っていた。

 自分で言うのもなんだが、とても平和的で世界に優しいギアスの使い方だと思う。

 

 もったいない気もするが、あるものは有効活用するべきだろう。

 

 ……なにせ、ブラインドタッチができなくなってしまったのだ。

 

 以前は余裕でブラインドタッチをできた私だが、今はそうはいかない。

 身体が思った通りに動かないこともあるが、キーボードの配置が換わっているのだ。

 

 今、私が使っているこのキーボード、日本語キーボードと違うのは当たり前だが、USキーボードとも違う。ブリタニア独自のキーボードだ。

 texを使用したことがある人ならわかると思うが、『()』や『\』の位置が異なるのは非常に困る。

 英語の基本配置が大きく変わらないのは救いだったが、逆にそれが厄介でもあった。

 

 カタカタとキーを叩きながら、レポートを仕上げる。

 レポートの数は17、もし私が最近の文系卒だったら、疾走(失踪)している仕事量だ。

 

 ――もっとも、それ以前の段階で逃げ出した私が言えた事でも無いけどね。

 

 一瞬頭に浮かんだ不穏な考えを打ち消し、レポートに集中する。

 

 徐々に加速度をあげつつ、ひたすらキーボードを叩く。

 途中から作成支援ツールを使うのもめんどくさくなってきたので、コピペを活用しながらどんどん書き上げる。

 

 マウスを動かすがめんどくさい。机の上にはそれほどスペースがあるわけでもないし、トラックボールでも買ってこようか。

 

 そんなことを考えつつ、『\』や『ENTER』を連打。

 tex上では非常に見栄えが悪いが、今はどうでもいいだろう。誰かに見せるわけでもないし、スパゲティを見るのは慣れている。

 

 書き始めてから40分ほどしたところで、最初のレポートが書きあがった。

 1時間以上かかると思っていたが、どうやら私も慣れ始めているみたいだ。

 

 pdfに出力しながら、二つ目のレポートを書き始める準備をしておく。

 『usepackage』という単語を2、3度連打しながら、タイトルを示すtitle、著者を示すauthor、日付を示すdate、本文を書き始める合図であるbegin{document}を打ち込む。

 

 丁度そこで最初のレポートがpdfにできたので、私はそれを開いて確認した。

 そこで見つけたタイプミスを修正し、再びコンパイル(dvi経由でpdf化)

 今度は問題がないことを確認し、一つ目を完成させたことにする。

 

 軽くひと息つきつつ、二つ目を再開する。

 ギアスの加速度を上げたためだろう。30分ほどで、ちゃんと書きあがった。

 

 コンパイルして実行。生成されたpdfを確認しする。

 

「あ、タイトル忘れた」

 

 本文にタイトルや著者などを表示させる命令文、maketitleを記述し忘れていた。

 texファイルに書き足し、タイプミスがあるか確認する。

 

 追加で見つかったミスを20ヶ所ほど直したところで、再びコンパイルした。

 

 問題がないことを再確認し、今度は三つ目のレポートに手をかけた。

 

 

 

 

 

 

「おわったー!」

 

 疲れた心に鞭打つこと5時間、時計の針が8時を指したところで、全てのレポートが完成する。

 ギアスを解除し、額を締め付ける鉢巻を取ると、私は手首、肩、首を回して身体をほぐした。

 

 17ものレポートを一日で仕上げるのは今日が初めてだったため、なかなかに疲れた。

 

 もし、資料となるデータが整理されていない状態から始めていたなら、この倍は時間がかかっていたはずだ。

 

 仕上げたレポートをメモリーに移し、端末の前を立つ。

 どう見てもUSBメモリーにしか見えないそれを、私はセシルさんに渡した。

 

「セシルさん、今日の試験のレポートが書き終わりました。確認をお願いします」

「あら、思ってたより早かったわね」

 

 セシルさんは、私から受け取ったメモリーを目の前の端末に突き刺して2,30秒ほど端末を操作すると、メモリーを私に返して笑顔で言った。

 

「――大丈夫みたいね、特に問題はないわ。

 お疲れ様、今日のお仕事はこれで終わりよ」

 

 セシルさんの言葉に、思わず安堵の息がこぼれた。

 

「はい、お疲れ様です」

「明日なのだけれど、ちょっと事情があって試験はお休みにするわ」

「お休み、ですか?」

「残念なことにお仕事はあるわ。

 アリスさんには、明日の午前中までにサザーランドを乗りこなしてほしいの」

 

 サザーランド?

 特派にはランスロット以外の機体はないというのに、何故サザーランドに慣れる必要があるのだろうか。

 

「サザーランドですか? 特派にはランスロット以外のKMFはなかったと思うのですが、ランスロットに何かあったんですか」

「そういうわけじゃないの。トウキョウのナイトメア部隊から、明日の午後に行われる実機演習へのお誘いがあったのよ」

 

 実機演習という単語を聞いて、私はサザーランドを乗りこなさなければならない理由に思い至った。

 

「つまり、実機演習にはランスロットでは参加できないんですね」

「そう、そのとおり。午後の実機演習は、向こうの部隊の人達からサザーランドを貸してもらえることになったわ」

 

 まあ、よく考えたら当然だろう。

 ランスロットとサザーランドでは、比較するのがかわいそうになる程の性能差がある。

 仮にランスロットの乗り手が一般的なパイロットであっても、カレンさんや旧日本軍人である藤堂さん、四聖剣でもない限り、サザーランドで勝つことは難しいはずだ。

 スザクさんクラスのパイロットがランスロットを駆っていた場合、ラウンズでも勝てないかもしれない。

 

 ――もっとも、ヴァルトシュタイン卿みたいな一部例外は勝てるだろうけど。

 

「なるほど、ランスロットとサザーランドでは勝負になりませんからね。

 わかりました、ここに来るのは何時もと同じ時間で大丈夫ですか?」

「ええ。もし心配だったなら、ここの鍵は早めに開けておくから早く来てもいいのよ」

「ありがとうございます。早起きしてしまったらお邪魔しますね」

 

 そうしてセシルさんに挨拶をした後、私は研究室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おわったー!」

 

 彼女の斜め前で、アリスが嬉しそうな声を上げる。

 表情が無表情に近いので少し怖いが、その純粋そうな姿に私の心は癒された。

 

(ああ、かわいいなあ)

 

 彼女は、いつものようにその姿を眺めた後、自身の端末に目を移す。

 そこには、報告書を作成するために使用しているTeXworks以外に、ここ特派に所属する研究員のうち比較的一般人よりな者達しか知らないチャットが開かれていた。

 

 このチャット、製作者が重度の元ネラーであったため、かつてエリア11に存在したとある匿名系大型掲示板の様なレイアウトをしている。

 もちろん、分類上は社内チャットに近い物であるため匿名性はない。「名無し」にカーソルを合わせると、発言者の名前がわかるように作られている。

 

 彼女は、報告書を作成しながら、ちらりと視線をそのチャットに向けた。

 

 

 

 

929 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:02:47 ID:3Z5DrsHO

アリス「おわったー!」

アリスたんprpr

 

930 :名無し研究員:2017/--/--(-) 20:02:55 ID:25K3NPeJ

この ヘンタイ どもめ !!

 

931 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:02:59 ID:q4VIUfB9

うるせえ変態! お前も恵方巻にするぞ!

 

932 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:03:11 ID:d7SzRFsO

ここには変態しかいないのか……

 

933 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:03:23 ID:Rwtizvou

お前らアリスたん好きすぎだろ

 

934 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:03:40 ID:3Z5DrsHO

分かるまい!アリスたんをprprしようとしないお前に、この俺の身体を通して出る力が!

 

935 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:03:46 ID:Rwtizvou

身体を通して出る力? そんなものが、一般常識を壊せるものか!

 

936 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:03:56 ID:3Z5DrsHO

まだ、prprしないのなら!

――うおおおー!!

 

937 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:04:05 ID:Rwtizvou

動け! クソッ、なぜ動かん!

 

938 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:04:23 ID:3Z5DrsHO

prprしたくなれー!!

 

938 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:04:32 ID:Rwtizvou

私だけが、死ぬ訳に……貴様の常識も、一緒に連れて行く……

 

939 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:04:45 ID:3Z5DrsHO

光が……広がってゆく……

 

940 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:04:57 ID:Rwtizvou

アリスたんprpr

 

941 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:05:02 ID:3Z5DrsHO

アリスたんprpr

 

942 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:05:13 ID:d7SzRFsO

何この茶番

 

943 :名無し研究員;2017/--/--(-) 20:05:34 ID:GRs4QreF

お前らアリスが帰るの待ってないで、さっさと報告書出しに来いよ!

 

 

 

「お先に失礼します!」

 

 彼女がそこまで目を通したところで、研究室内にアリスの声が響いた。

 瞬間、研究室の中を、邪な視線が飛び交う。

 

 多くの研究員がアリスの下へと動こうとしたが、お互いに牽制し合い誰も動くことはなかった。

 

 彼女の頬を、汗が伝う。

 彼女は、諸事情により他の誰よりも警戒されていたため、視線のほとんどを向けられていた。

 

 何も知らないセシルを除き、この部屋にいる半数近くの人間が、その全員の一挙手一投足を警戒していた。

 

 そんな中、一人の男が席を立つ。

 

(バート!?)

 

 ――立ち上がった男の名は、ロバートといった。

 

 彼は、自身に突き刺さる数多の視線の槍を無視し、とある研究員の下へと一歩ずつ歩みを進める。

 

 殺意すら籠もっていそうな視線相手に、臆すること無く進むその様、それはまるでコーネリア様の親衛隊員のようであった。

 

 それを見て、彼女は確信する。

 

(視線では、バートを止められない。

 このままだと、アリスちゃんがアイツの毒牙に!!)

 

 バートは、誰にでも親切に接する誠実な男だ。彼女と違って特殊な性癖を持っているというわけではなく、その精神性はこの特派の中でセシルさんの次にまともだと言える。

 おそらくという言葉を付ける必要があるが、アリスに何か悪いことをしたりはしないだろう。

 

 今のこの状況も、ナンバーズであるアリスが、一人でこの大学内を歩くのは危ないから着いていこうとかいう考えからの行動に違いない。

 

 だが、万が一がある。

 アリスがごく稀につくる自然な笑顔、それを見てしまえば、普段無表情であることとのギャップに彼もやられてしまうかもしれない。いや、間違いなくやられる。

 

 いてもたってもいられず、彼女は立ち上がった。

 

 

 ――ほぼ同時に、研究室の半数近い研究員達が立ち上がった。

 

 どうやら、みな考えることは同じだったようだ。

 

「あ、あれ? 皆さんどうしたんですか?」

 

 状況を把握できていないセシルさんが、狼狽えたように声を上げる。

 

 その言葉を合図とするように、立ち上がった全員が報告書入りの記憶媒体片手に突貫した。


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