私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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17話

 次の日、仕事が始まる前に、私はスザクさんの部屋を訪ねた。

 

 私の手には、小さめの紙袋がある。

 中身は、昨日ユフィさんと買い物に行ったときに、彼女がスザクさんへのプレゼントとして買ったサングラスだ。

 

 ユフィさんは、ここの副総督。そのため、直接スザクさんへと渡すことは難しい。

 そんなわけで、ユフィさんに代わり、私がそれを届けに来たのだ。

 

 スザクさんの部屋の前に着くと、私はドアを三度ノックする。

 部屋の中から「はーい」という元気な声が聞こえ、それから少し待つと、勢いよく部屋の扉が開かれた。

 

「お待たせしました……ってアリス!?」

「おはようございます、スザクさん」

 

 驚いた様子のスザクさんに、何時ものように挨拶をする。

 

「いったい、こんな朝早くにどうしたんだい? 何かあったの?」

 

 昨日の流れを細々と説明するよりも、さっさと渡した方が早いだろう。

 不思議そうな様子のスザクさんに、私は手に持った紙袋を渡した。

 

「えっと、これは?」

「ユフィさんからのプレゼントです。ホテルジャックの時のお礼だそうですよ。

 昨日、たまたまユフィさんに会うことがで来たので、その時に頼まれたんです」

 

 驚いた様子のスザクさんに、何となく笑ってしまいそうになった。

 まあ、この身体は自然と笑うという事が難しいので、そんなことは起こらなかったが。

 

「ユフィからの!?

 河口湖か……僕は、大したことはできなかったんだけどなあ」

 

 そう言いつつ、彼は私の手から紙袋を受け取る。

 そして、中からサングラスを取り出した。

 

「……随分と、高そうなサングラスですね」

「うん、大事に使わないと。

 ちょっと待ってて、部屋の中に置いてくるから」

 

 中から出てきたのは、黒塗りのサングラス。

 私は、あまりサングラスに興味はないのでわからないが、それはかなり高いものに思えた。

 

 流石はユフィさん。皇族らしくはなくても、皇族としての金銭感覚は持っているらしい。

 ……いや、スザクさんへのプレゼントだから、かなり奮発したのかな?

 

 スザクさんは、サングラスを丁寧に袋に詰めなおし、部屋の中に戻る。

 

 しばらくして戻って来たスザクさんは、その手にアッシュフォードの制服と、革の鞄を持っていた。

 

「お待たせ、アリス。

 ところで、髪型変えたよね。何かあったの?」

 

 戻って来たスザクさんは、私の頭部に視線を向けてそう聞いてきた。

 私は、思わず後頭部にある一房の髪に触れる。

 

「はい、ユフィさんにヘアピンとリボンを貰ったので、気分転換も兼ねて髪型を変えてみたんです」

 

 以前のツインテールとは異なり少し重く、髪が慣れないためにかどうかはわからないが、より強く後ろに髪を引かれる気がしている。

 その代わり、普段よりもすっきりとした感覚がする。

 また、少しメタな言い方かもしれないが、アリスは漫画の主要キャラクターだったこともあり、この髪型も非常に似合っていた。

 

 少々あざといが、その場でくるりと回り、スザクさんに微笑んでみる。

 

「どうですか、似合いますか?」

「うん、似合ってるよ」

 

 だがスザクさんは、私の仕草に何の反応もなく、ごく普通にそう口にした。

 

 何となく面白くない。

 そう思いつつも、まあ似合っていないとは言われなかったので、気を取り直した。

 

「それじゃあ、どうせだから朝ごはんでも一緒に食べようか」

「朝食ですか……わかりました」

 

 スザクさんが朝食に誘ってきたので、うなづいて了承する。

 

 私とスザクさんは、朝食をとるためにその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます」

「ん、おはようアリス君」

 

 朝食をとった後、スザクさんと別れ、私は何時ものようにロイドさんの下を訪れていた。

 

 まだ少し早かったようで、研究室内にはロイドさん以外の姿はない。

 

「……まあ、大丈夫そうかな?

 とりあえず、今日もシミュレーションお願いね」

「はい、ロイドさん」

 

 ロイドさんの言葉に従い、私は傍にあったコックピットに乗り込む。

 

 まだ何かしたわけでもないが、何となく手の表面が湿っていた。

 

 ――私らしくもない、緊張しているのかな。

 

 そう思いながら、口の中のつばを飲み込む。

 そこで初めて、私は自分が緊張していることを認識した。

 

 まあ、なんだ。

 自分が緊張していることにすら気が付けないほどに、私は緊張していたのだ。

 

『いつも通り、テストを始めようか。

 内容はこの間と同じ、ハドロン砲を搭載したスラッシュハーケンのテストね』

「了解です」

 

 ロイドさんの言葉にうなづく。

 直後に目の前のモニターに色が灯り、荒れた市街地を映し出した。

 

 視線のはるか先には、紫色の小さな影。おそらく、いつものグロースターだろう。

 

 操縦桿を強く握る。

 操縦桿の上にあるトラックボールの様なものを操作し、ブレイズルミナスが展開できること、ヴァリスの調子に問題がないこと、スラッシュハーケンがきちんと使用できることを確認する。

 

『準備はいいかな?

 それじゃ、シミュレーション開始』

 

 ロイドさんの言葉が私に届くとほぼ同時に、目の前の点がビルの陰に消える。

 どうやら、正面から来るつもりは無いようだった。

 

 ――まあ、それも当然かな。

 

 ロイドさんの言葉が聞こえると同時に腰から抜いたヴァリス、左手に持ったそれを腰に戻す。

 早撃ちで四肢の一本ぐらい貰うつもりだったが、気が付かれたのだろう。

 

 何時の日かハドロンスピアーと呼ばれることになるスラッシュハーケン、それを前方に射出し、ハドロン砲を発射する。

 

 散弾のようにばら撒かれたワインレッドのビームは、煤けたビル群を蹂躙し、穴だらけに変える。

 だがハドロンの散弾は、ビルに穴を空けるばかりで、グロースターに当たることはなかった。

 

「相変わらず、集弾性能低いですね」

 

 ハドロンスピアーを放った方向にグロースターがいたとしても、当たらないのではないか。

 そう考えてしまうほどに、ハドロン砲の集弾性能は低かった。

 

 仕方がないので、可能な限り方向に連射を続ける。

 本当は完全に同じ方向に撃ちたかったが、それは難しいので仕方がない。

 

 なにせ、スラッシュハーケンの先端から撃つのだ。

 スラッシュハーケンのアンカー部分からハドロン砲を発射するという性質上、先端の方向を安定させることができないため、特定の方向に安定して撃つことは難しい。

 

 また、意外と知られていないことが多いが、ビーム兵器には反動が存在する。粒子を打ち出す兵器なのだから当たり前だ。

 アンカー部分は固定されているわけではないので、上手く操作しなければ、反動によって先端のアンカーがどこかに吹き飛んでしまう。

 

 ……これ、本当に欠陥兵器なんじゃないだろうか。

 今は一対一だからいいけど、集団戦闘だと怖くて使えない気がする。

 

 限界まで蛇口を捻ったシャワーのノズルを想像してほしい。

 ハドロンスピアーとは、その水をビームに変えて、シャワーのノズルを全力で放り投げるようなものだ。

 

 あぶない。なんという危険兵器だろう。

 

「ロイドさん。今度この武器のテストをするときは、反動制御に関するプログラムとか、バランス関係の調整しませんか。

 まっすぐ撃つことすら難しいのに、普通は怖くて使えませんよ」

『ふーん、随分な言い方だね。

 ま、わかったよ。次はそうしようか。君の意見はもっともだしね』

 

 ロイドさんのその言葉を聞いた直後、モニターの隅に何かが映る。

 

 即座に跳躍、その場を退避。

 僅かに遅れて、ビルにあいた穴の何れかから銃弾が放たれ、私がいた場所を蹂躙した。

 

「ふぅ」

 

 小さくため息をつき、視線を戻す。

 どうやら、私はきちんと回避できているようだった。

 

 銃弾が放たれた方向にハドロンスピアーを射出、拡散するハドロン砲でそのあたりを蹂躙する。

 だが、シミュレーションが終わることはない。どうやら外したみたいだ。

 

 ハドロンスピアーを巻き取り、背部のユニットに格納する。

 同時に、一瞬だけエナジーフィラーのエネルギー残量をチェックした。

 

「燃費も悪いですね」

『ハドロン砲は、技術的にはかなり研究の余地がある兵器だからね。低燃費化はまだまだ先だよ』

 

 私のつぶやきに、ロイドさんが律儀に反応してくれる。

 

 計器の指すエネルギー残量は、およそ5割。

 ハドロン砲を10発程度撃っただけでこれだ。燃費が悪いにもほどがある。

 

 そう思いつつ、腰から再びヴァリスを引き抜く。

 インパクトレールは、Level3。グロースターを一撃で倒すことができる威力だ。

 

 それを正面のビルに向ける。

 

 ――っ!

 

「そこっ!」

 

 ビルに空いた無数の穴。

 そこに一瞬だけ映った紫へと、私は引き金を引いた。

 

 直後、金属同士がぶつかり合うような音が響き渡る。

 

 命中だ。

 しかし、シミュレーションが終了したとは言われない。

 

 三度、先ほどヴァリスを撃った方向に引き金を引く。

 それに合わせる様に、先ほどとほとんど変わらない金属音が聞こえてきた。

 

 ――また銃弾斬ってる!!

 

 一体、ロイドさんはどんなAiを組んでるんだ。

 

 そう思いつつ、ヴァリスをひたすら連射する。

 

 ――銃弾を斬るなんて絶技、そう続けていられるようなものではない筈だ。強引に、数で押し切れる。

 

 銃弾を斬るなんて、スザクさんでもそうそうできなかった技だ。

 どんな人を元にしてるか知らないが、ラウンズになれる程の才能を持つスザクさんを超える逸材でもない限り、こんなことはそう続けていられないだろう。

 

 

 

 

 ……だが、私の予想に反して、ヴァリスの銃弾はグロースターに届くことはなかった。

 

 ――ヴァルトシュタイン卿でもあるまいに!

 

 そう考えつつ、25発目の引き金を引く。

 

 放たれた弾丸は、一瞬映った赤い一閃に引き裂かれ、グロースターの両脇を通り抜けていった。

 

 これはもう、元のデータはヴァルトシュタイン卿、ナイトオブワンで確定だろう。

 未来視の力を持つあの人でもなければ、こんなことを続けられるはずがない。

 

 今度は、26発目。

 私の予想通り、その弾丸もグロースターが持つMVSの餌食になった。

 

 ヴァリスの装填をしつつ、右手で背中のMVSを引き抜く。

 弾丸を放てぬその隙に、グロースターはこちらとの距離を詰めてきた。

 

 後退しつつ、27発目を放つ。

 それもまた、赤い閃光にかき消される。

 

「無理っ!」

 

 そこで私は、グロースターをヴァリスで仕留めることはできないと判断した。

 このまま続けても、目の前のグロースターを破壊できるとは思えない。

 

 ヴァリスを投擲。ついでに、ハドロンスピアーではなく、元々ランスロットに備えられていた腰のスラッシュハーケンを放つ。

 同時に前方に加速。MVSを両手で握りしめた。

 

 ビスマルク・ヴァルトシュタイン卿、彼の『極至近未来を見るギアス』にはいくつか欠点がある。

 私はその一つ、見ることでしか未来を知覚できないという欠点を突くことにした。

 

 射撃戦であれば、銃弾が来るであろう軌跡を見ることができる彼には勝てない。

 これは、もう間違いないだろう。あれだけしこたま撃ったにもかかわらず、一発も当てることができなかったのがその証拠だ。

 

 だが、近接戦闘であればどうだろう。

 接近して戦えば、ランスロットの全身を視界に納め続けることはできない。

 

 見えない未来は視えない。

 接近戦なら、ギアスの隙を突くことも不可能ではない筈だ。

 

 ただ、この考えには致命的な欠陥がある。

 それは、ヴァルトシュタイン卿が、スザクさん以上の剣の使い手という事だ。

 今回の場合、本人ではないのでスザクさん以上ということはないと思うが、それでも私よりも強いだろう。

 

 つまり、勝つためには――

 

 目の前のグロースターが、こちらのスラッシュハーケンをスラッシュハーケンで打ち落としながら、こちらに加速しつつMVSを振り下ろす。

 私は、そこで思考を打ち切り、グロースターの一撃を受け止める様にMVSを振り上げた。

 

 金属音が鳴り響き、ランスロットの持つMVSが中ほどから勢いよく折れた。

 それにより、MVSのメーザーバイブレーションが停止、紅の刀身が白銀に戻る。

 

 ――うん、知ってた。

 

 機体出力の劣るグロースターが、ランスロットのMVSを折るという現実。

 その冗談の様な光景に自分の目が死んでゆくのを自覚しながら、私は左手で背中にあるもう一本のMVSに手をかけた。

 

 MVSを引き抜くまでの一瞬、その隙にグロースターがMVSを振り下ろすが、右手の折れたMVSでなんとか受け流す。

 

 グロースターのMVSから放たれる、血の様な一閃。

 白銀の刀身が丸ごと持っていかれたが、どうにかそれを受け流すことができた。

 

 MVSを受け流された為に、僅かに姿勢が崩れたグロースター。

 その隙に、MVSを引き抜きながら振り下ろす。

 

 ――殺った!

 

 しかし、その一撃はグロースターの右腕に受け止められた。

 

 MVSを受け止めることはできないが、MVSを持つ腕を受け止めることは可能だ。

 グロースターは、剣の間合いから一歩踏み込み、私の左腕を受け止めていた。

 

 あまりの光景に硬直する私に、グロースターはMVSを振るう。

 咄嗟にそれを右手のブレイズルミナスで受け止め、左腕を掴むグロースターの手を払いながら距離をとった。

 

 踏み込んでもMVSが届かないぎりぎりの距離、お互いの間合いの外で睨み合う。

 

 睨み合う中、眼前の敵に意識を裂きながら、私は止めた思考を再開させることにした。

 

 近接の鬼とも言うべきヴァルトシュタイン卿、彼に勝つためには、不意打ちをするしかない。

 それも、相撲における猫だましのように、真正面からの不意打ちを。

 

 近接戦闘における思考力が欠けている私には、彼の正面以外に位置することができないのだ。これしかない。

 

 小さく息を吸い、視線の正面にグロースターを置く。

 そして、相手の間合いに一歩踏み込んだ。

 

 ――っ!?

 

 その瞬間、私とグロースターの距離が一瞬で詰められる。

 視界に映らなかったわけではない。一切の挙動が見えていたにもかかわらず、私はその動きに反応できなかった。

 

 私はあまり詳しくないのでわからないが、これが無拍子というやつだろうか?

 呼吸の隙をつくその動きには、武芸に精通する者の動きが感じられた。

 

 ――でも、こっちの方が都合がいい。

 

 距離を詰めたグロースターのコックピットめがけ、MVSを振るう。

 同時に、四肢のスラッシュハーケンを射出、逃げ道を塞いだ。

 

 そんな私に対し、グロースターは私のMVSにぶつける様に自身のMVSを振るう。

 

 グロースターの一撃は、先ほどと同じように私のMVSを圧し折った。

 

 ――それは、()()()()()()()!!

 

 それと同時に、グロースターのMVSも二つに分かれる。

 私とグロースター、二本のMVSが割れるような音を立てて砕けた。

 

 武器を失ったグロースターに、膝蹴りを行う。

 

 グロースターは、私の膝を右手で受け止め、折れたMVSをランスロットのコックピットへと突き出した。

 

 私は、それを僅かに左に避けることで右肩に突き刺させ、お返しのように左手の折れた剣をグロースターの頭部めがけて振るう。

 

 もちろん、グロースターはそれを回避する。

 回避できると知っていて振るったのだ。別に何も驚かない。

 

 私の目的は、頭部を破壊することではなく、視界を塞ぐことなのだから。

 

 ――左手の剣を振るうと同時に、残されたスラッシュハーケンを放った。

 

 放たれたスラッシュハーケンは、一瞬赤く輝き、そしてその光を開放する。

 

 MVSを回避したグロースターに、赤い閃光が襲い掛かった。

 

 

 

『はいはーい、シミュレーションしゅうりょーう』

 

 ロイドさんの興奮したような声が無線から響き、同時にモニターが黒く染まった。

 

「――はぁ」

 

 シミュレーションが終了したのだ。

 その瞬間、集中が途切れたために、口から吐き出すのを忘れていた空気が一気に零れた。

 

 ――とりあえず、休みたい。

 

 一旦休憩を挟むために、キーボードを操作しコックピットを開けることにした。

 

 

 

 

 

 だが、何故かコックピットが動かない。

 

『それじゃあ、次に行こうか。

 次は大型MVSのテストね』

 

「ちょ、ちょっと待って。少し休ませてください!」

 

 慌てて、外のロイドさんに叫ぶ。

 

 ロイドさんは、そんな私の様子に笑みを浮かべると、口を開いた。

 

『おめでとう! 二日も休んだせいで、予定が押してるからね。

 今日の午前中は休みなしだよ!』

 

 ――おめでたくない!

 

 心の中で、私は叫んだ。


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