私と契約してギアスユーザーになってよ!! 作:NoN
アッシュフォード学園を訪れてからしばらくして……
今日も今日とて、私はシミュレータ漬けである。
まあ、私の仕事はランスロットや新しい武装のデータ収集なので、こうなるのは当たり前だが。
今日は学園が休みなので、スザクさんは特派にきている。
よって、シミュレータの内容は、スザクさんのランスロットとの戦闘だ。
『さて、今日も勝たせてもらうよ』
「それはこっちの台詞です」
通信越しに、スザクさんと声を交わす。
現状、私とスザクさんの勝率はスザクさんの方が上。
シミュレータに籠っている時間は私の方が長いので、私はランスロットをスザクさんより上手く操作できているはずなのだが、純粋な戦闘技術の差で勝ち越せずにいた。
だが、私だって負け続ける気はない。
KMFの操縦にも慣れて、反応速度もだいぶ良くなった。
鬼畜AIグロースターの動きも読めるようになったし、剣の腕もヴァリスの扱いも上手くなったはずだ。
今度こそ勝つ。
――絶対にスザクさんなんかに負けたりしない!
『――シミュレーション、開始します』
いつもの崩れた市街地、そこに私とスザクさんのランスロットはいた。
ランスロットの持つ武器は、ヴァリスと二本のMVS。
スザクさんは両手にMVSを、私は右手にのみMVSを構えている。
互いにヴァリスは腰に差したまま、手には取らない。この間合いでは、ただ無駄になるだけだ。
「――行きます!」
気合いを入れるために声を出す。
その声が聞こえたのだろう、正面にいるランスロットが腰を少し落とした。
「ランスロット、MEブースト!」
私の声にランスロットが応え、機体のメインエンジンであるユグドラシルドライブが力強く稼動する。
その力は機体の脚を伝い、ランドスピナーを勢い良く回転させた。
力を得たランドスピナーは、私のランスロットをスザクさんのランスロットへと加速させる。
『ランスロット、MEブースト!』
それと同時に、通信越しに聞こえるスザクさんの声。
視線の先では、私のランスロットと同じく加速する、スザクさんのランスロットの姿があった。
二機の距離が狭まり、お互いの間合いが交錯する。
――『最初のアタックは正面から、フェイントをかけることは絶対にない』
コードギアスにおいて解析された、スザクさんの戦闘動作パターン。
私の脳裏に、それを告げるゼロの言葉が響き渡る。
スザクさんの間合い、MVSの刃が届く距離に入る。
それと同時に、私は左足のスラッシュハーケンを地面に射出、その勢いを利用して跳躍する。
その直後、私がいた場所にスザクさんのMVSが振り払われた。
それを確認した私は、背後、正確には斜め下に入るスザクさんへと右足のスラッシュハーケンを撃ち出す。
――『躱された場合、次の攻撃を防ぐためすぐに移動する』
スザクさんは、それを前方に跳躍することで回避。
スラッシュハーケンはかすり傷一つつけることができず、コンクリートの大地に突き刺さった。
私は、スラッシュハーケンがコンクリートに突き刺さるのを確認した時点で、両足のスラッシュハーケンを巻き取る。
私のランスロットは、その力によって大地に引き戻され、すぐさま体勢を整えることができた。
左右のランドスピナーを駆使して機体を反転させつつ、同時に腰に刺したヴァリスを引き抜く。
狙いはもちろん、跳躍して逃げ場のないスザクさんのランスロット。
「ヴァリス、インパクトレールLevel4」
そう口にして、引き金を引く。
ヴァリスは、可変弾薬反発衝撃砲。弾頭と反発力の調整、すなわち威力の調整が可能な銃だ。
Level4であれば、それは100m以上大地をえぐり取ることすら可能にする。
スザクさんは、ヴァリスの一撃を左腕のブレイズルミナスで防いだ。
だがしかし、その衝撃までは受け止めることができず、機体が上空に吹き飛ばされ、左腕が大きく跳ね上げられる。
『くっ!』
「もう一発」
苦悶の声を漏らすスザクさんに、再びヴァリスを構える。
ランスロットにフロートユニットが搭載されていない今、空中での姿勢制御はスラッシュハーケンを地面やビルに刺すことでしか行えない。
つまり、スラッシュハーケンを放つ隙さえ与えなければ、スザクさんは隙だらけになるわけだ。
――ランスロットが着地するまでに、必ず決着をつける。
地上でまともに斬りあえば、技術で劣る私は絶対に勝てない。
勝てるのは、今この瞬間。一方的に銃撃を行えるこの瞬間だけだ。
第二射を放つ。
薄緑に輝く弾丸が、宙を舞うスザクさんのランスロットに迫る。
スザクさんはそれを、今度は右腕のブレイズルミナスで防いだ。
再びランスロットが宙を舞い、その右腕のブレイズルミナスが腕ごと弾き上げられる。
弾き跳ぶランスロットに合わせ、狙いを修正する。
今度は外さない、確実に仕留める。
「最後」
第三射。
ヴァリスを構え、スザクさんに引き金を引く――
――その直前に、私は操縦桿を操作して後ろに跳躍した。
私がいたところに、紅に輝くMVSが突き刺さる。
それは、スザクさんの右腕のMVS。ブレイズルミナスごと右腕が弾き上げられたあの一瞬に、その手に持ったMVSを投擲したのだ。
強引に弾かれた腕でまともに投擲して、しかもそれを狙い通り当てるなんて、スザクさんはどんな腕をしているのだろうか。
私が狙いを外したその隙に、スザクさんは近くのビルにスラッシュハーケンを打ち込み、それを巻き取ることで大地に着地する。
私は、地上に着地したランスロットめがけて威力を少し下に再設定したヴァリスを3連射するが、それらは全て回避されてしまった。
ヴァリスを再び腰に差し、右手のMVSをしまいながら地面に刺さったMVSを手にする。
私はそれを構えつつ、こちらに接近するスザクさんから距離を取った。
牽制にヴァリスを連射することも考えたが、それは無駄な弾と隙を生むと考え止める。
『今度はこっちから行くよ、アリス』
通信越しにかけられる、スザクさんの声。
私は覚悟を決め、スザクさんを迎え撃った。
まず初撃、スザクさんのランスロットが振り下ろしたMVSを、左のブレイズルミナスで受け流す。
同時に、スザクさんが剣を振り切った隙をつくように、ランドスピナーを使って回し蹴りを放つ。
その一撃を、スザクさんは僅かに下がる様に回避した。
回し蹴りを終えた私の視界に映るのは、右腕に持った紅色の剣を薙ごうとしているランスロットの姿。
とっさに手に持ったMVSでそれを防ぎ、コックピットへと二本のスラッシュハーケンを放つ。
そのスラッシュハーケンは、ランスロットの左腕に生じたブレイズルミナスに阻まれた。
その直後、スザクさんのMVSを受け止めていたMVS、それを弾き上げられ、その隙に伸びきったスラッシュハーケンのワイヤーを切断される。
背中に格納していた新たなMVSを引き抜き、スザクさんが振り下ろそうとするMVSに打ちつけることで二本のMVSを強引にへし折る。
そのまま、左足のスラッシュハーケンを使用して跳躍。空中でコマのように回転しつつ、ランスロットのコックピットにランドスピナーを叩き込んだ。
しかし、その一撃はブレイズルミナスで防がれる。
ブレイズルミナスに弾き飛ばされる機体。
宙を舞い隙を晒した私に、スザクさんは四肢全てのスラッシュハーケンを放った。
それを、跳躍に使用したスラッシュハーケンを巻き取ることで回避。
着地と同時に腰のヴァリスを引き抜き、その四つのスラッシュハーケンを全て撃ち落とした。
だが、その直後にヴァリスが爆発する。
それを投げ棄てつつスザクさんのランスロットを見れば、そのランスロットはヴァリスをこちらに構えていた。
私のヴァリスが爆発したのは、おそらくあのヴァリスが原因だろう。
残されたこちらの武装は、両足のスラッシュハーケン、ブレイズルミナス、そしてMVSの四つのみ。
対するスザクさんの武装は、ヴァリス、ブレイズルミナス、それといつ拾ったのか、先程まで私が持っていたはずのMVS。
――接近戦をするしかない。
遠距離で使える武器がスラッシュハーケンしかない以上、その間合いではヴァリスを持つスザクさんには勝てない。
戦うなら接近戦。
スザクさんの剣技の腕に私では及ばないが、それでも遠距離で戦うよりかは勝ち目がある。
「ランスロット、MEブースト」
私は、ヴァリスに当たらないよう機体を左右に振りながら、スザクさんへと間合いを詰めた。
――スザクさんには、勝てなかったよ……
もちろん、近接戦闘でスザクさんに勝てるわけがなく、私は黒星を増やすことになった。
シミュレータ終了直後に設けられた休憩。
休憩中の私は、あまりの疲労でパイロットスーツ姿のまま、シミュレータ前に座り込んでしまった。
――肉体的にはあまり疲れていないけど、精神的にほんとダメ。
15分ほどの近接戦。常に防戦一方だっただけに、全く安心できなかった。
小さく溜め息をついて、私は顔を上げる。
そして、今までのスザクさんの剣と、今日のスザクさんの剣を同時に思い浮かべる。
――スザクさん、絶対に今までは手加減してたでしょ、あれ。
二つのスザクさんとの戦闘を比較し、私はそう考えた。
今日の近接戦闘は、最初の数十秒こそ拮抗できていたが、その後はずっと押されっぱなしだったのだ。
今までは何とか戦えていただけに、すごく落差を感じる。
「お疲れ様、アリス。
……えっと、やった僕が言うのもなんだけど、大丈夫?」
疲れと疲れと疲れで項垂れる私に、スザクさんが声をかけてきた。
「はい、大丈夫です。身体は疲れていませんから。
それにしても、スザクさん、今まで手加減してたんですね。ちょっとびっくりしました」
「うん、僕が本気でやったらすぐに終わってデータ収集にならないからって、接近戦だけは本気でやらないようにロイドさんに止められていたんだ。
アリスには悪いことしちゃったね。ごめん」
「いえ、そういうことなら大丈夫です。ロイドさんに言われていたなら仕方ないですから」
スザクさんにそう言いつつ、こっそりロイドさんに視線を向ける。
ロイドさんは私の視線に気が付いたのか、笑顔で私に手を振ってくる。
――あとで、セシルさんにお寿司を握ってもらおう。
私は、ロイドさんに
「でも、今回は本気を出してくれましたよね。どうしてですか?」
「偉そうな言い方かもしれないけど、アリスの腕が思っていたよりもよかったからね。つい、本気になっちゃったんだ」
その言葉を聞いて、少し嬉しくなる。
自身の努力、その成果を褒められたのだ。嬉しくない筈がない。
「そう言ってもらえると、本当に嬉しいです。
だったら、今度からも本気でお願いできませんか」
「僕は構わないけど……アリスは大丈夫?
毎回そんなに疲れさせるのは、あまりよくないと思うんだけど……」
スザクさんが心配そうな表情でこちらを見る。
私は、そんなスザクさんを心配させないように、明るく笑顔を見せた。
「大丈夫です。少し大変なことは事実ですけど、スザクさんとの戦いは得られるものが多いですから」
私の言葉に、スザクさんは不安げな表情を残しながらも、ためらいがちにうなずいた。
「わかった、アリスがそう言うなら、僕もそうするよ。
ただ、辛かったら必ず言ってね。言ってくれればきちんと手加減するから」
「はい、その時はお願いします」
真剣そうに表情を引き締めるスザクさんに、私は軽く頭を下げた。
「それじゃあ、さっそくお願いします」
「いや、もう少し休もうか。きちんと休むことも大切だからね」
少しやる気が出てきたのでそう言ったが、スザクさんに休むように言われる。
スザクさんの言葉はもっともだったので、私その言葉に従い休むことにした。
「――おめでとう、そのシミュレータは今度になるかなー?」
横から、いきなり声が聞こえた。
びっくりしつつそちらを向けば、そこには満面の笑みを浮かべたロイドさんの姿が。
「何かあったんですか、ロイドさん」
スザクさんが、ロイドさんに問いかける。
「あれ、見てみなよ」
ロイドさんは、そんなスザクさんに部屋の中にある端末、そのうちの一つを指差した。
そこに映っていたのは、マイクを持ったニュースキャスターと、その背後に立つタワーの様な建物。
「あれは……河口湖ですか?」
スザクさんが呟く。
それは、富士の麓。富士五湖の1つに数えられる湖である河口湖に建つ、コンペンションセンタービルだった。
「そ、今、サクラダイトの分配レートを話し合ってる河口湖。
そこがテロリストに占領されたから、出動することになりましたー!」
テロがあったと言うにしては、随分と嬉しそうな様子だ。
サイタマでは出撃を断られたので、今回のテロでようやくランスロットのデータを取れると興奮しているのだろう。
理由はわからなくはないが、何となく釈然としない思いがあった。
「ロイドさん、不謹慎です!」
シミュレータの側にある端末で作業をしていたセシルさんが、ロイドさんに少し怒鳴る。
「そう言うセシル君だって、ここの一員である以上、ランスロットのデータ取りの機会は望んでいたわけでしょ。
それってつまり、こういう事件を望んでいたって事なんだから、今さら不謹慎も何も無いでしょうに」
怒鳴られたロイドさんは、セシルさんにそう言ってからこちらを向いた。
「そんなわけだから、二人とも河口湖に出発ね。
服装はそのままでいいから、15分後に外のトレーラーの前で集合しといて」
「わかりました、ロイドさん」
「了解です」
ロイドさんの言葉に、スザクさんと私はうなずく。
ロイドさんはそれを聞いて満足気にうなずくと、セシルさんを連れてここから出て行った。
「……シミュレータはまた今度だね」
「はい、テロがあるのに出撃しないわけにはいかないでしょう」
スザクさんが不安そうな、少し焦った顔をしているのを見て、私は物語で語られたこの事件について少し思い出した。
――そういえば、アッシュフォードの生徒会の人達が人質の中にいるんだっけ。
コードギアス、その7話か8話当たりの話だ。
あの人質の中には、スザクさんとゼロ、カレンさんを除いた生徒会の人達がいる。
スザクさんの様子からして、生徒会の人達が河口湖に行った事を聞いていたのだろう。
もしかして、誘われたりでもしたのだろうか。
「顔色が悪いですけど、何かあったんですか?」
「いや、何でもないよ。
さて、じゃあ僕らも支度をしようか」
明るい声でそう言って、スザクさんは私の前から立ち去る。
一人残された私も、必要な荷物を準備することにした。
今回のヴァリスlevel4の威力は、ナリタ山の時の物を参考にしました。
あれがlevel4と呼ばれている描写はありませんが、ナリタのあれは、河口湖のlevel3よりは威力が上なので、適当にそこに置くことにしました。