私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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10話

「はーい、解散解散! 今日は出番なし、おーめーでーとーっ! おしまいっ!」

 

 昼、新しい武装のテストを兼ねたグロースターとの三連戦、それを終えてコックピットから出ると、ロイドさんが叫び声をあげていた。

 

 ロイドさんはひと息にそう言い切ると、心の底から残念そうにため息をつく。

 

「セシルさん、ロイドさんに何があったんですか?」

 

 何があったんだろうか?

 端末の前でスザクさんの宿題の手伝いをしているセシルさんに、事情を聞いてみる。

 

「えっ? ああ、アリスさんは、朝からずっとシミュレータをしてたから知らなかったわね。

 二時間くらい前かしら、ロイドさんが、サイタマゲットーで戦闘をすることを聞きつけたの。それで、その戦闘に参加できるよう、総督であるコーネリア皇女殿下に交渉をしに行ったのよ。

 ……あの様子だと、断られちゃったみたい。

 そうね、スザク君もアリスさんも仕事は終わりにしていいから、どこかに遊びにでも行ってきなさい。

 特にスザク君は、学校に行ってくるといいわ。授業はもう終わっているかもしれないけれど、友達に会いに行くことも大切よ。昔からの、大切な友達がいるんでしょう」

「はい、ありがとうございます、セシルさん」

「わかりました、お疲れ様です、セシルさん」

 

 スザクさんと共にセシルさんに返事をする。

 

 そんな私たちの様子に、セシルさんは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 そんなわけで、私は向かいにある学園、アッシュフォード学園に来ていた。

 スザクさんについて行った形である。

 

 アッシュフォード学園に行くことは、そこに通うゼロに『絶対遵守』のギアスをかけられる可能性があるので避けていた。だが、コードギアスの物語の知識で彼が学校にいないことを知っていたので、私は行くことにしたのだ。

 

 研究員の人に同行して貰うことで学園内に入る許可をもらい、スザクさんの後ろをひょこひょこついて歩いている。

 

 スザクさんが所属しているクラスの教室、整備された校庭、各種道具の充実した体育館。

 スザクさんは、私にアッシュフォード学園の様々な場所を教えてくれた。

 

 そして、主要な場所を回ったところで、スザクさんの目的地である生徒会室にたどり着いた。

 アッシュフォード学園のドアは、学園長室などの一部例外を除いて自動ドアになっているので、ドアの前に立つだけで勝手に開く。

 

「失礼……します」

 

 さっさと入っていくスザクさんの後を追い、私も生徒会室に入った。

 

 そこにいたのは、栗色の長い髪をなびかせた少女、シャーリー・フェネットだった。

 

「あ、おはようスザク君……と、お客さん?」

「うん、僕の職場の同僚の子だよ。

 今日は仕事が早く終わったから、生徒会への顔出しついでに連れてきたんだけど……」

 

 スザクさんが紹介をしてくれたので、私は自己紹介のために口を開いた。

 

「初めまして、スザクさんと同じ職場で働いているアリスです」

 

 そう言って、私は頭を軽く下げた。

 

「こんにちわ、アリスちゃん。

 私はシャーリー、シャーリー・フェネット。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします、シャーリーさん」

 

 シャーリーさんの明るい挨拶に、私は顔を微笑ませて肯いた。

 

「ところで、会長やルルーシュは?」

「会長は学園長に呼ばれてる、そのうち戻って来るんじゃないかな。

 ルルはわかんない。たぶん、クラブハウスにいると思うんだけど……」

「そっか、それならそのうち来そうだね」

 

 二人の会話に、私はコードギアスにおいて語られた、この時のゼロの状況を思いだしていた。

 

 ゼロは今、サイタマにいる。

 彼は、コーネリア皇女殿下の挑発に乗り、シンジュクゲットーで起こした奇跡をサイタマで再現しようとしているのだ。

 

 ――あれ、ちょっと待った。

 

 そこで、私は一つの問題に気が付いた。

 

「あ、すみません。来て早々で悪いのですが、ちょっと用事を思い出したので帰らせてもらいます」

「アリス?」

「アリスちゃん?」

 

 シャーリーさんとスザクさん、二人がきょとんとした顔をするが、私は無視してすぐさま生徒会室を出た。

 

 私が気が付いた問題というのは、C.C.のことだ。

 

 C.C.は、他者にギアスを与える力、コードを持つ少女だ。

 不老不死の魔女で、最低でも日本が江戸時代だった頃よりも昔から生きている。

 ナイトメア・オブ・ナナリーの世界では、私と融合している魔道機『ネモ』のコピー元でもある。

 

 私が問題だと思ったのは、彼女の持つネモに対する干渉能力だ。

 彼女は、ネモの五感を共有したり、ネモの身体を乗っ取ったりすることができていた。

 

 もちろん、そんなことができたのは、彼女がネモのコピー元だからだろう。

 この世界のC.C.とあの世界のC.C.は別人だ。来歴も違うし、扱う力も異なる。

 

 しかし、彼女がネモを乗っ取ることができてしまう、その可能性を私は捨てきれない。

 

 

 そんなC.C.、彼女はいまこのアッシュフォード学園にいる。

 あまり詳しく憶えていなかったので忘れていたが、サイタマにいるゼロを助ける少し前、今この瞬間はまだこの学園内にいるはずなのだ。

 

 また、乗っ取りができなくとも問題はある。

 C.C.と同じくコードを持つ存在であるV.V.は、コードを持つ存在を感知できていた。

 ネモの持つ力は、複製されたコード。きちんとしたコードではないとはいえ、感知される可能性がある。

 

 C.C.やV.V.のもの以外のコードがあるなんて事がばれれば、ブリタニアの秘密組織であるプルートーンやギアス嚮団に襲われる危険性もあるのだ。見つかるわけにはいかない。

 

 まあ、私の場合は、ギアスを使わない限りコードが外見に出ないので、ギアス関係者に見つからなければばれないことが数少ない救いだろうか。

 

 

 廊下を走らず、しかし可能な限り速く歩く。

 初めて訪れた建物であったが、不思議と出口への道のりがわかった。スザクさんの案内が上手かったからだろうか。

 

 だが、急いでいたためだろう。曲がり角で急に出てきた生徒にぶつかってしまった。

 

「あっ、すみません」

「あ、ごめんなさい」

 

 私とぶつかった生徒、二人が同時に謝る。

 私は、そのぶつかった生徒の声に、どこか既視感を感じた。

 

 僅かに顔を上げれば、燃え上がる焔のような赤い髪が視界に映る。

 

 ――どんな偶然!?

 

 そう、そこにいたのはカレン・シュタットフェルトという少女。

 ゼロの率いるテロリスト集団、黒の騎士団に所属するKMFのエースパイロットだった。

 

「あれ、見学の方ですか?」

「はい、最近ここに知り合いの人が編入してきたので、その人の案内で来ました」

 

 さっさと会話を切り上げて逃げたい。

 スザクさんの名前を出すと会話が長引きそうだったので、名前を隠して説明することにした。

 

「そうなの。それにしては、案内してくれる人はいなさそうだけれど……」

「いえ、今から帰るところなんです。

 その人は何か用件があるようなので、私だけで帰ろうと思って」

「そういうことね。出口までの道はわかるかしら?」

「はい、此処をまっすぐ行ったところにエレベーターがあるので、そこから降りれば帰れるはずですから」

 

 それを聞いた彼女は、自身が今来た道の方を指さして言った。

 

「それなら、こっちに階段があるから、その階段を使った方が早いわよ。

 あっちのエレベーターを使うと、少し遠回りになるわ」

 

 そう言われ、私はその階段を使ってこの階に来たことを思い出した。

 

 ――どうして私は、わざわざエレベーターを使おうとしていたのだろうか。

 

「そういえばそうですね。ありがとうございます、カレンさん」

 

 私は、彼女に礼を告げると、急いで学園の外に向かった。

 

 

 

 

 

 校舎から出た私は、急いで学園から離れ、そのままショッピングモールに向かった。

 

 ――これだけ離れれば、もういいや。

 

 建物の中にあったベンチに腰を下ろし、息を吐く。

 

 なんだろうか、今日の私は、いまいち危機感が足りなかった気がする。

 少し考えれば、ネモの存在がまずいことも、学園内にC.C.がいることもわかっただろう。

 

 ――ちょっと、浮かれすぎてたかな。

 

 そう考えて、私は思考を一瞬固めた。

 

 ――浮かれすぎていた? 学校に行くことに?

 

 そんなことはあり得ない。私が学校に行くことを望んでいたわけがない。

 アッシュフォード学園が隠れた危険地帯だとかそんなことに関係なく、()()()()()()()という意味でだ。

 なにせ、私は――

 

 その瞬間、私の手が私の頬を張った。

 その突然の衝撃に頭が揺れる。ぐらりと視界が回転して、平衡感覚がおかしくなる。

 

 痛みが引くまで待って、小さく深呼吸。悪い考えを頭から振り払った。

 

 ――今の問題は、何故学園に行こうと考えたかだ。私の昔話はどうでもいい。

 

 そう言い聞かせて、思考を切り替えた。

 

 

 

 では、なぜ私はアッシュフォード学園に行きたがったのだろうか。

 

「……わからない」

 

 必死に考えたが、何一つ思いつかなかった。

 KMFの操縦技術といい、今回のおかしな思考といい、なんだか私の知らない何かがこの身体にはある気がする。

 

 ――もう少し、色々と考える必要がありそう。

 

 とはいえ、それは今でなくてもいいだろう。

 今の私には、何も思いつかないのだ。それなら、今考えることは時間の無駄だ。

 

 立ち上がって、周囲を見渡す。

 このまま帰るのもなんだし、特派の人達にお土産でも買って帰ることにしよう。

 

 目に付いたのは、以前訪れた食品系の施設。

 考え事には甘いものと言うし、お菓子か何かがいいかもしれない。

 

 私は、買い物かごをもって店内に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、面白いこともあるものね」

 

 エリア11、かつて日本と呼ばれた地から海を挟んだ向こう側。

 神聖ブリタニア帝国、そのとある施設の中に、彼女はいた。

 

「ええ、よくわかったわね。流石というべきかしら」

 

 彼女は、誰かと話しているかのような口ぶりだったが、周囲には誰もいない。

 彼女の手には電話もない。普通に見れば、彼女は独り言を発しているかのように見えるだろう。

 

「そんなことはしないわよ。私だって親よ、子供の顔を見たいと考えるのは普通じゃなくて?」

 

 そういって、彼女は小柄な身体を揺らす。

 彼女は、自身のことを親と言ったが、その身体は子持ちの人間と見るにはあまりにも小柄だった。

 

 高めに見積もっても、まだ18にもなっていないだろう。

 下手をすれば、16にもなっていないかもしれない。

 

 そんな少女である彼女が子持ちであるとは、誰も思えないだろう。

 

「それは仕方がなかったのよ、私たちの近くにいては、間違いなくあの子たちは死んでいたわ。

 ……わかってるわよ、そう思われても仕方ないってことくらい。

 あの選択が最善のものではなかったことくらい、よくわかってる」

 

 そう言いながら、彼女は苛立たし気につま先で地面を叩いた。

 

「はあ、あなた、私を何だと思ってるの?

 ……いい度胸じゃない、今度会った時は覚えてなさいよ」

 

 彼女は何者かにそう告げると、何か思いついたような顔をして歩き始めた。

 

「そうね、決めた。

 私が直接行きましょう。ビスマルクに行かせるつもりだったけど、気が変わったわ」

 

 顔に笑顔を浮かべ、歩くのに合わせて自身のピンク色の髪を揺らす。

 

「もちろん、手加減くらいはするわよ。せっかくのあの子の夢だもの。ラウンズである()()()はわからないけれど、私自身が邪魔をする気はないわ。

 私の目的は、あくまであなたの言う『珍しいもの』の確保よ。V.V.に気が付かれるよりも早く、知られるよりも先に確保するの」

 

 そう言って扉を潜り、鮮やかな芝生の茂る庭を後にする。

 そして、近くのハイウェイへと足を向けた。

 

「シュナイゼルお抱えの特派だっけ? そこの第七世代KMFにも興味あったしね」

 

 そう言って、彼女、ナイトオブシックスのアーニャ・アールストレイムはにっこりとほほ笑んだ。

 

 ――もっとも、その眼は出荷される豚を見るような、ひどく冷たい目をしていたが。


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