私と契約してギアスユーザーになってよ!!   作:NoN

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プロローグ

 

 目が覚めると、そこは瓦礫の山だった。

 

「……え?」

 

 遠くから銃声が聞こえる。

 近くで悲鳴も聞こえる。

 

「何……これ……」

 

 全くわけがわからない。

 

 地面に手をついて、体を起こす。

 

 そうして、自身の手が子供の物になっていることにも気が付いた。

 

「ははは……ほんとに何なのこれ」

 

 乾いたような笑い声が口からこぼれる。

 何がどうなっているのか、まるで理解できない。

 

 こんなWEB小説みたいなことがおきて、理解できるはずもない。

 

 おまけに、何故か身体がうまく動かせないようで、立ち上がってすぐに座り込んでしまった。

 

「……逃げなきゃ」

 

 ただ、このままではいけないことはわかる。

 

 辺りから聞こえる悲鳴が、自身にこの場所の危険さを教えていた。

 

 再び立ち上がり、足を一歩前に動かす。

 筋力に問題があるわけではないようで、思った通りに足が動いた。

 

「人形みたいな感じかな?」

 

 ふと、何故かはわからないが、自分の身体の状態を理解することができた。

 どうやら、この身体は意識しないと動くことができないようなのだ。

 普通の人間が自然に行えるような動きを、自然に行うことができない、そう言えばわかりやすいだろうか。

 

 歩くことも、左右の足を交互に出すことを意識しなければ、バランスを取ることを意識しなければ行えない。

 この感じだと、鉛筆を持ったり、箸を持ったりすることも難しいだろう。

 

「……まぁ、今はそんなことは無視していいかな」

 

 とりあえず、歩くことができるならいい。動くことができるなら、逃げるできるだろう。

 

 ゆっくりと足を動かし、時折近くの建物や瓦礫に手をつきながら悲鳴から遠い方へと歩く。

 悲鳴が聞こえるということは、そっちには危険があるということだと感じたからだ。

 

 瓦礫に手を突き、懸命に足を動かす。

 

 

 

 

 

 

 人気(ひとけ)のない道を、懸命に足を動かして歩く。

 

「……寒い」

 

 しばらく歩いていると、身体が風の冷たさをを感じはじめた。

 

 自分の服装に目を向けてみれば、アニメのキャラクターが着ていそうな服装をしていることに気が付く。

 

「コスプレか」

 

 恥ずかしかったので、傍にあった瓦礫に引っかかっていた、少し血の付いた、シーツの様な大きめの布をローブのような形で身体に身に着ける。

 血が付いていたことは嫌だったが、他に代わりになりそうなものがなかったので仕方ない。

 

 意外と保温性の高い布であったのか、僅かに感じていた寒気がなくなった。

 

 これは、良い拾い物であったかもしれない。

 

 血にさえ眼をつむれば、かなりいい拾い物だ。

 

 再び、壁に手をつきながら道を進む。

 

 

 

 

 ――少しは考えるべきだったのだ。

 

 辺りは瓦礫の山。

 後方から聞こえる悲鳴。

 人の姿を見かけないこの状況。

 

 

 そう、瓦礫の山ということは、既にこの辺りは攻撃を受けたとは考えられないだろうか。

 

 悲鳴が聞こえないということは、悲鳴を発する存在が既にいないと考えられないだろうか。

 

 人の姿を見かけないということは、既にその先にいる人は死んでいるとは考えられないだろうか。

 

 

 

 

 

 急に、自分のいる場所に影がかかる。

 

 太陽は後ろから指しているため、自分の後方に影の主がいることになる。

 

 何があるのかと思い、背後を振り返ると――

 

 

 

 ――そこに、それはあった。

 

 人型ロボット。より正しく言えば、それは……

 

 

「ナイトメア……フレーム……」

 

 架空の兵器、コードギアスと呼ばれるアニメに登場する人型兵器が、こちらに銃口を向けていた。

 姿形からして、おそらく第五世代機のサザーランド。色から考えるに、ブリタニア軍の純血派――軍の人間は兵士一人に至るまでブリタニア人が務めるべき、という思想を持った集団――の機体だ。

 

 とっさに、右足で地面を強く蹴る。

 身体が宙を飛び、5メートルほど先に転がった。

 

 直後、衝撃が走る。

 

 少し前まで立っていた場所を、サザーランドのアサルトライフルが吹き飛ばした。

 

 ――あれは、本物のサザーランドだ。

 

 呆然としていた思考が、命の危機を感じて急速にはっきりとしたものに変わる。

 

 架空の兵器に興奮しようとしていた心が、恐怖一色に染まる。

 目の前の兵器が、テレビの向こう側でないと自覚する。

 サザーランドが、自身の命を狙う危険であると思考が至る。

 

 ――逃げなきゃ

 

 急いで立ち上がり、走るために足を動かす。

 

 だが、走ろうとした身体は、うまくいかずに3歩目で倒れた。

 

 ――なんでっ!?

 

 当然だ。この身体は、満足に歩くことすらできなかったのだ。走ることなどできるはずがない。

 倒れこんだ身体が、自分と言う存在の無力さを示していた。

 

 ふと顔を上げれば、サザーランドがこちらを見ているのに気が付く。

 そのサザーランドは、まるで恐怖心を煽るかのように、手に持った銃をゆっくりとこちらに向けた。

 

 死の恐怖で、頭が凍り付く。

 自分の、今までの人生が脳裏をよぎる。

 

 

 

 父親のぎこちない笑顔。

 義理の母親の、初めて会った時の暖かさ。

 生まれたばかりの、妹の小さく柔らかい手のひら。

 友人たちとの、何でもない会話。

 

 死んだ母の、力なく倒れた身体と、冷たい体温。

 

 

 

 ――私は、こんなところで死ぬのか

 

 

 

 

 

 ――そんなのは、絶対にごめんだ

 

 

 

 

 死ぬのがごめんだというわけではない。

 人はいつか死ぬ。それを知っているからこそ、死から逃れられないのはわかっている。

 

 けれど、こんなわけもわからない場所で、わけもわからない状況で、命を無駄に散らせたくはない。

 

 まだ死にたくない。生きていたい。

 

 

 

 ――こんなところで死ぬなんて、死んでも嫌だ!

 

 

 

 瞬間、自分の中で何かがつながる感覚がした。

 

 身体に強烈な力がかかり、サザーランドの股下を抜ける様に吹き飛ばされる。

 

「これは……」

 

 宙を舞う中で、手足を動かすようにこの"力"が操れるようになったことを認識する。

 

 『自身に重力をかける力』、それが今使った力の正体だった。

 

 いや、重力と言うのは少し変だろう。上にも横にもかけられるのだから。

 正しくは……なんと言うべきだろうか?

 

「コードギアス的に言えば、『ザ・スピード』かな?」

 

 コードギアスの外伝、ナイトメア・オブ・ナナリーに登場した少女のギアス、ザ・スピード。

 この力は、背後のサザーランドのことを考えると、なんとなくこう呼ぶのがふさわしい気がした。

 

 いや、そんなことは今はどうでもいい。そんな事を気にしている場合ではない。

 

 地面に身体が付く直前に、逆方向の加速をかけて衝撃を軽減する。

 さらに、地面にぶつかった身体に再び斜め上方向の重力をかけ、足を使わずに加速しながら跳躍、少しでもサザーランドから距離をとる。

 

 一刻も早く、あれから逃げることが大切だ。

 

 回転しながら宙を舞う中で、こちらに振り返り、銃口を向けようとしているサザーランドの姿が見えた。

 

 

 ――もっと早く!

 

 また接地。

 今度は足で大地を踏みしめ、必要な速度の減速を抑える。

 同時に、左斜めに跳躍、さらに加速。直線的に動くのを避け、サザーランドの銃口から逃れる。

 

 直後、右側の地面がサザーランドのアサルトライフルにより薙ぎ払われた。

 

 先ほどのまま直進していれば、おそらく銃弾で消し飛ばされていただろう。

 

「まだっ!」

 

 目の前の煤けた建物の壁を蹴り、道路を挟んだむこう側の建物へと加速しながら跳躍する。

 

 また衝撃。先ほど蹴りつけた建物が、サザーランドによって蜂の巣にされた。

 

 今度は、着地と同時に前方に跳躍。上方向と右方向にわずかに力をかけながら、壁を地面に見立てて跳躍する。

 

 

 地面を、壁を、あらゆる足場を駆使してサザーランドの銃口から逃れつづける。

 

 

 そして――

 

 

 

「――ふぅ、逃げ切った」

 

 十分ほど経ったところで、背後のサザーランドの姿が消えた。

 見失ったのか、それ以外の理由か、よくわからないがサザーランドはいなくなった。

 

 とにかく、自分は逃げ切ったのだ。

 

 灰色の建物の上で、大きくため息をついた。

 

 

 視界が、揺れる。

 

 ――あれ?

 

 疲労のためか、安心感の為か、一気に意識が薄れ始めたのだろう。

 

 辺りに悲鳴は聞こえない。だが、此処が危険な場所であることは確かだ。

 

 此処で眠るのはまずい。

 僅かに働く冷静な脳がそのことを訴えるが、身体は疲れで動かず、思考の大部分も霞がかったままだ。

 

 

 そして、自分はそこで意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、そこはどこかの建物の中だった。

 

 ――ここは……

 

 視界の景色からして、此処が病室のような場所であるということはわかるが、それ以外何一つわからない。

 

「おめでとう!」

 

 ――うわっ!?

 

 そう考えた直後、傍から声をかけられ、思わず飛び上がってしまう。

 

 声の方向を見れば、そこには薄紫の髪に水色に近い色をした瞳をした、研究者の様な装いの男性がいた。

 

 そう、某プリン伯爵である。

 

 やはり、この世界はコードギアスの世界なのだろうか。

 

「スザク君に感謝しなよ、戦場で人助けなんておかしな話だとは思うけど、君がそれに救われたのは事実なんだからさ」

「――スザク……」

 

 枢木スザクに救われたということは、どこかで黒の騎士団との戦闘に巻き込まれたということになる。

 

 純血派が戦場にいたことを考えると、ここはシンジュクゲットーだろうか。

 

「ところで……」

 

 そんなことを考えていた時、ロイド伯爵がこちらに身体を乗り出して迫って来た。

 

「……君はいったい何者かな? 見たところナイトメアのパイロットみたいだけれど、クロヴィス殿下指揮下にナンバーズがパイロットを務める部隊は無かったはずなんだけどなあ」

 

 ――それはこっちが訊きたい。

 

 それ以前に、私がパイロットとはどういうことだろうか。

 

 鏡を探して、部屋の中を見渡す。

 その時、視界の端に自分の髪が映った。

 

 ――金髪だ。

 

 自分の髪色は、本来は黒だったはずだ。髪を染めた記憶もないので、金髪であるはずがない。

 

 頭を触ってみる。

 触ってみた感触からして、どうやら自分の髪型はツインテールになっている様だった。

 

 ――まさか

 

 間違いなく、この身体が自分の身体でないことは確定である。

 

 金髪ツインテールで、中学生程度の子供の体形で、ナイトメアパイロットの服装をしていて、『自身に重力をかける力』、いや『加重力で相対的に超高速を得る力』を持つ存在。

 

 そんなものを持つ存在を、自分は一人しか知らなかった。

 

「私は、アリス。アリス・ザ・コードギアスと言います」

 

 外伝の世界の存在が、何故この世界にいるのかはわからないが、此処にいるということは確かなのだ。

 

「――ロイド伯爵。あなたに取引を持ち掛けたい」

 

 故に、まずは生き残る手段を講じなければならない。

 

 ロイドさんの背後で、アレの武装、ブロンドナイフを具現化させる。

 

 『加重力で相対的に超高速を得る力』と同じく、それは念じたとおりに行うことができた。

 

「取引、ねえ。僕はそういうのは好きじゃないんだけど――」

「あなたが知らないナイトメアに関する技術を提供する代わりに、私を雇ってほしい」

 

 その言葉に、ロイドさんがこちらに振り向く。

 

「かつて、アッシュフォード家がフレーム構想の一環として提唱していたマッスルフレーミング。

 ロイド伯爵のランスロットには、それは搭載されていなかったはず」

 

 私のアレには、そのマッスルフレーミングは搭載されていたはずだ。

 なら、それは交渉の札として使用できる。

 

「何も、騎士としてほしいというわけではない。用務員でも、清掃員でもなんでもいい。

 私を人として生きられるようにしてほしい。お願いする」

 

 ここで生活を確保できなければ、飢え死にすることになる。

 ましてや、此処はコードギアス世界の日本だ。ブリタニア人でも日本人でもない少女を放り出せば、目も当てられないことになるだろう。

 

「なるほど、それなら――」

 

 そこまで言いかけたところで、この部屋唯一の扉が開き、バインダーを抱えた士官服の女性が姿を現した。

 

「ロイドさん、スザク君の助けた子は……あら、起きたみたいですね」

 

 ロイドさんは、その女性を見ると笑顔を作って言った。

 

「ああセシル君、この子、うち預かりのデヴァイサーにするから」

 

 

 

 ――はっ!?

「――はっ!?」

 

 その言葉に、自分の内心の反応と、セシルさんの反応が重なった。

 

「な、なに言ってるんですか。身元不明の子供をデヴァイサーにするなんて――」

 

 セシルさんが、ロイドさんの言葉に驚いたように声を出す。

 

 デヴァイサーとは、パイロットのことだ。

 ロイドさんは、こんな身元不明の私をパイロットとして起用しようとしているのだ。保護を願った身で言うのもなんだが、ちょっと頭おかしいんじゃないだろうか。

 

「いいの、パーツは一つでも多い方がいいでしょ。

 ――君もいいよね」

 

 ロイドさんのその言葉に、うなずきで返す。

 

 現状、ロイドさん以外に頼れる存在はいないのだ。ならば、彼を頼る以外ない。

 

 

「よろしく、お願いします」

 

 

 自分のその言葉に、ロイドさんは笑顔で答えた。




ナイトメア・オブ・ナナリーを知っている人はいるのだろうか

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