日曜日、昼食後。
「ういしょっと………ごちそうさまでした、セラさん」
「いえ、こちらこそ手伝ってくれてどうも」
「そんな改まんなくても!アイリさんちょっと具合悪いっぽいし、住ませてもらってる身だから、手伝って当然ですよ」
「すみませんね。ホント、うちの
(ま〜だ引きずってんのか……一体何やらかしてきたんだアイツ…)
日曜は高校も休みなので、上条は家でゆっくり家事の手伝いをしていた。
なんでもアイリの具合が悪いようで、部屋から殆ど出てこないらしい。
上条も何かできることはあるか彼女に訪ねたのだが、大丈夫とだけ言って後はだんまり。
アイリのことだからすぐに良くなるだろうと、上条は特にそれ以上言及しなかった。
「これで一通りの食器は運びましたけど、あと何かやることは……」
「いえ、結構です。ゆっくりしていてください」
「あっ、わかりました」
シンクから跳ねた水滴をタオルで拭くと、ソファーに腰掛ける。
が、白いおみ足が邪魔をした。
大きな胸が顔面に被ったシルエットは、見間違えようがない。
ぐーたらリズだ。
「アンタさぁ………家政婦仲間の手伝いくらいしたらどうなんだよ。あと足どけし」
「んー、メンドクサイ。私が家事なんてしたら、あんな貧相なぼでーになっちゃう。やだもん」
かちゃん、と台所から目立つ音がする。
色々と嫌な予感がするので、少々急ぎ目でリズを静止する。
「そういうのやめとけって………足」
「ん、足」
足だけを起用に折り曲げソファーにスペースを作る。
やっとこさ、上条はくつろぐことができた。
「……………当麻、最近生意気になってきた。しかも呼び捨てするし」
「普段からずっとそんな態度なんじゃあ、生意気にも呼び捨てにもなるわ!ってか、そんなに菓子食って寝っ転がってたら太るぞ?」
「大丈夫。私につく脂肪は全部おっぱ……………やめとこ」
「うむ」
上条はさり気なくリズのポテチを袋から一枚盗み取る。
リズは一瞬頬を膨らませただけで、特に起こる様子はない。
やはり金銭的にも余裕があるのだろうか。
「ほら、たまにはニュースも見ろ……って!」
「んぅっ」
上条がテレビのリモコンを強引に奪い取り、ちょうどいいニュースがやっているチャンネルに変えた。
『____絶賛開催中の「蒼崎橙子・ガランドウの抜け殻展」。そのタイトルにもある主催の蒼崎さんに顔出しNG音声加工の条件付きでお話を聞くことができました。__「蒼崎さん、今回の展覧会の見どころは?」「そうですね。私、何年か人形師をしていまして、当然ボツも出るわけです。でも自分が一生懸命作った人形なのでなかなか廃棄するわけにも行かなくて。そこで今回、彼等がやっと日の目を見ることができたわけです。正規採用になった人形の他にも、今言ったボツ人形をエクストラクラスと銘打って展示致しました。レア物、にあたるんでしょうかね」___「蒼崎橙子・ガランドウの抜け殻展」は、冬木美術館にて9月30日まで開催中です。次のニュースです___』
あの時桜に聞いた人形展についての話題だった。
全国ネットで宣伝するあたり行っとかなきゃ損だな、と彼は思った。
時事のニュースが流れる。
どうも都知事が政治資金で家族旅行に行ったりなんやかんやして、都知事の座を追われたらしい。
その辺抑えておきたいが_____
どうやら来客のようだ。
「当麻さん、遠坂さんですよ。大事な用があるんだとか」
「大事な用?約束してたっけ………」
遠坂凛がお見えだ。
彼女には向かうと色々大変なので、さっさと向かう。
上条がいなくなり、リズは足を伸ばす
ニュースは_____せっかくだから、見てみることにした。
『___またしても被害者が出てしまいました。先日、冬木市某所にて、連続猟奇殺人事件の3人目の被害者が発見されました。亡くなったのはアラブ国籍のアトラム・ガリアスタさん、26歳。関節ごとに切断され、段ボール箱に衣類と一緒に詰められていたとのことです。現場には犯人の手がかりとなる証拠が何一つ残されておらず、犯人は未だ行方をくらませています。1995年と1999年にも似たような事件が確認されており、冬木市警は以前の捜査の功績者でもある秋巳大輔氏を迎え、捜査を続けています_____』
「なに?
連れてこられたのは円蔵山の林。
そこには、ルヴィアも待っていた。
「ええ。いくら未知の
「でも、あの時の俺は意識を失ってたし……できる?」
「さすがに意識基準でできるできないが変わったりはしないでしょ。カードは借りてあるわ」
遠坂凛の手にはイリヤが太ももにつけているホルダーが。
この女、ガチでやる気だ。
「い、いや!また気を失ったり暴走したりしたら……!」
「その時はその時で何とかするから、はい、順番でまずツヴァイランサーからね」
上条は忘れていた。
みんな、慈悲はないのだ。
「はぁ………はい、やってみますよ」
渋々了解した上条は、木のない開けたスペースに連れて行かれた。
せっかくの日曜日で、舞弥からの宿題もないのでゆっくりしようと思った矢先にこれである。
さすが
「ところで、ルヴィアは………」
「あら、なんですの?文句でもありまして?」
「いや別に、ずっと黙ってたから………」
ちょこっと会話を終えると、ツヴァイランサーのカードを構える。
「(クーフーリンのカード……ノインキャスター、ジル・ド・レェの時の証言から察するにその時の剣は、ジャンヌ・ダルクが用いたとされる聖カトリーヌの剣……今回はクルージーン・カサド・ヒャン辺りが妥当かしら………)いいわ、始めて!」
「よし。じゃあまず一枚目、
光が上条を包む。
自身の存在は書き換えられ、英霊をその身に纏う。
「くっ、眩しい____ッ!」
あまりの眩しさに顔を背ける。
ルヴィアも同じ様子だ。
「これはっ___直視はできません、わね___!」
光が止む。
英霊となった上条が地に降り立つ。
「………………ルヴィア、もう大丈夫?」
「ええ…………でも、これは……!?」
ルヴィアと遠坂凛が目にしたもの。
それは上条当麻であった。
青い髪、
赤い眼、
それは、彼女らの知っているクーフーリンとはかけ離れたものだった。
クルージーン・カサド・ヒャンでもない、ゲイ・ボルクでもない、異形の鎧をまとった上条だった。
「_________ん?なんじゃこりゃあ!!?」
その発言で、一気に空気がゆるくなった。
しかし、彼女らはまだ驚きを隠しきれていない。
「アンタ、それ_____!」
「俺も思った!思ったって!ゲイ・ボルクって槍を出すんじゃなかったのかよ!?」
「ひとまず落ち着きませんこと!?」
少しして、三人はなんとか落ち着いた。
「えっと、まずゲイ・ボルクが出てくる可能性は低かったわ。ノインキャスターの時に出たのだってジャンヌ・ダルクの剣だった。そう考えると、カラドボルグが出てくるかもしれなかったってことね。で、何故かこの鎧が………」
上条の纏っている鎧は、異形そのものだった。
赤い角の生えた兜、赤い爪の生えた腕に脚、赤いトゲの付いた尾、そして全体のベースカラーは黒。
邪悪そのものと言えよう。
「なるほど………ッッ!?」
遠坂凛の話を理解した上条だったが、直後、脳に違和感を覚える。
彼の中に何かが流れ込んでくる。
クーフーリンの記憶____
戦い____
そして知識が_____
「________
「…?なんですって?」
「わかった。この鎧は
彼も、自分が何を言っているのかわからなかった。
突然流れ込んできた知識。
その異物感に、吐き気すら覚える。
だが、
故に、この宝具を展開できたのだ。
「外骨格の鎧?そんなもの、史実には___」
「確かにな。これは史実の産物じゃない。逸話が宝具に昇華するパターンの宝具だ……!」
すると、ルヴィアがハッとした。
「クリードの外骨格ですのよね?ゲイ・ボルクの原料はクリードの骨。その鎧も、因果逆転の呪いがあるのではなくて?」
「あー………そうみたいだ。なんか、身体中の棘が二人に引っ張られるような感じがする」
「!?」
その言葉を聞いて、二人は宝石を取り出した。
「ちょっとぉ!宝具に操られてるわけ!?」
「いや、性質上そうなってるだけで、操られてるって程では………!」
何とかして二人を鎮めようとする。
どうやら二人は落ち着いたようだが、宝石はしまっていない。
「しっかりしなさいよね。もし暴発なんかでもしたら大変なんだから………で、身体の調子は?」
「あー、今言ったの以外は正常。むしろなんか、力に満ち溢れてる気がする」
「なるほど。基本、身体への影響はなし、と………いいわ、解除してちょうだい」
遠坂凛の合図で
いつものツンツン頭に戻った上条は、妙に汗だくだった。
「うはぁ〜、あっちぃ〜〜…………!」
「ガチガチに鎧着込んでたからね。ご苦労様」
「中世の騎士ってこんな感じだったのか……」
「次に、ドライライダーね」
遠坂凛は上条からツヴァイランサーのカードを受け取り、同じようにドライライダーのカードを渡す。
「気になったんだけどよ……これって、いちいち宣言しないと
「さあ………やってみればいいじゃない。一応こういう時間があるわけだし、試すくらいの余裕はあるわよ」
わかった、と上条は一言告げ、同じく開けたスペースに出る。
カードを構え、思考する。
(できれば宣言しなくてもいいほうがありがたいんだけどな……色々面倒だし………)
「_____よし、来い!」
宣言はしなかった。
しかし、彼の思考を汲み取ったカードが、彼と一体化し、眩い光を放つ。
「成功ね、宣言する必要性は、ない_____うっ、眩しっ!」
この光には慣れないのか、またもや視界を塞ぐ。
音が消え、光はなくなったと確信した二人は目を開く。
今度の上条も、あの時のドライライダーには当てはまりそうにない容姿だった。
その髪は、赤紫色になびいていた。
しかし短髪。
手に持った得物は長く、先端は鎌のように湾曲していた。
「ん、意外だな。メドゥーサって髪が蛇なんじゃないのか」
「まぁそれもそうなんだけど。多分このメドゥーサは、やらかしちゃう前のメドゥーサなんでしょうね」
「でも二人共石になってないよな。どうなってんだ?」
メドゥーサの髪は、元々はとても美しかった。
かつて、メドゥーサは海神ポセイドンの愛人であった。
しかしある日メドゥーサは、ポセイドンとその本妻アテナの持つ神殿の1つで行為に及んでしまう。
挙句の果てに、メドゥーサは「私の髪はアテナのそれよりも美しい」などと調子に乗ってしまう始末。
それらがアテナの怒りを買い、メドゥーサの美しかった髪は醜い蛇に変えられてしまったのだ。
故に、蛇の髪にはこれといった特殊能力はなく、石化させる魔眼は元から彼女のものなのである。
しかし、今の上条には蛇の髪はおろか石化の魔眼すら無い。
となると____
「となると、これはメドゥーサではなく、メドゥーサの中に存在するペルセウスの記憶っぽいわね」
「そうっぽいな。これハルペーっていうらしい。確かメドゥーサの首を狩った鎌なんだっけ?」
「そ。通称”不死殺しの鎌”。付けた傷は一切治癒することはないから、これをどう使うかが勝負の鍵になりそうね」
続いてフィーアキャスター。
「もう余計な話しないでさっさと終わらせるぜ!」
「余計な話って何よ!」
長い作業に嫌気が差したのか会話も詠唱も省略し
クラスカードも嫌になったのか、発光が短い。
髪は水色だった。
手には何やら歪な形の短剣を持ち、その刀身は七色の光を放っている。
「その短剣………まさか、
「
イリヤ達がフィーアキャスターを
あらゆる魔術を初期化、いわば無効化する、上条の
ノインキャスターとの戦闘においてクロがこれを矢の代わりに撃ち、ノインキャスターが纏っていた肉塊を魔力にまで初期化することで消滅させた。
上条の持つ
「ふむ、なるほどぅ」
「……で、それはどうなの?」
「これか。これは……なんか”あらゆる損傷を初期化する”らしい。傷とか、余計な記憶とかも消去できるっぽいな。サファイアのアレってやられた相手はIQ低下しちまうらしいし、役に立てるかもな」
「そうね。回復要員として」
「魔術の秘匿なら任せろーバリバリ」
余計な傷を負うと治療に時間がかかって周りが不思議がるので、地味に大役だったりする。
次に、フュンフセイバー。
「フュンフセイバーは、まぁアーサー王なんだけど……」
「俺のコレの性質上、エクスカリバーはないからな。アレ以外だともう思い当たるのがないっすわ」
「結構豊富でしてよ?アーサーの槍ロンゴミニアドに盾プリドゥエン、ガウェイン卿の聖剣ガラティーンやトリスタン卿の弓フェイルノートなどなど…」
意外な円卓の側面を知り、はえ〜、と腑抜けた声を漏らす。
しかし、いずれにせよ強力。
無駄なしの弓フェイルノートはその名の通り必中の矢を射り、
聖槍ロンゴミニアドはロンギヌスの槍と同一視され、
聖剣ガラティーンを持つガウェインは午前中に従来の三倍の力を出すとされ、
盾プリドゥエンは聖母マリアの意匠が施され、船にもなるとされている。
全盛期の彼等、特にガウェインなんかが敵として眼前に現れた日には、敗北確定である。
「んじゃ、早速いっときますか」
これから
もはやココの描写を文にする必要すらあるまい。
「おっし、なんとか
姿を変えた上条が驚愕する。
遠坂凛とルヴィアも思わず上条の方を向いてしまう。
肉体変化のメインとなる髪は、今度は美しい銀色だった。
一般的に、アーサー王には金髪のイメージがある。
実際、彼女らが戦ったフュンフセイバーも色味は薄かったものの金色に近かった。
変身した対象がアーサー王ですらなかったのだから、驚くのも当然だろう。
しかし、驚いたのはそのためではなかった。
なんと、彼の自慢の
「わあああああああ俺の右手がああああああああああああ」
「ちょっと、どうしたのよそれ!メイン盾どこよメイン盾!」
「やっぱ俺メイン盾じゃねぇか畜生」
もちろん、アーサー王伝説に銀の義手を持つ騎士など登場しない。
しかし、銀の義手を持つ有名な神が、この世には存在する。
「こいつは…………なになに、アガートラム?」
「ケルトの神ヌァザの義手!?そんな、アーサー王のカードでなんでよりによってケルト神話の神がピックアップされるのよ!?」
ヌァザ。
ケルト神話の神で、その名は「幸運をもたらす者」、「雲作り」を意味する。
戦いの神であり、その力はかのゼウス神にも匹敵するとされている。
トゥアハ・デ・ダナーン、俗に言うダーナ神族の王であるヌアザは、モイツラの戦いにおけるフィル・ボルグ族の戦士スレンとの戦いにてその右腕を切り落とされ、肉体を欠損したため掟により王権を失ってしまう。
その後、医療の神ディアン・ケヒトとその息子ミアハによりこの
この通り、とてもアーサー王伝説に関連するような神ではない。
上条でさえ、これがどの騎士をモデルとして
そして、問題なのが、
「にしても、
「そうね。そのアガートラムがどんなものか知れたものじゃないし。とりあえず、他のやっちゃいましょっか」
_____だが、ブレない上条達であった。
次に、ゼクスアサシン。
「ハサン・サッバーハでしょ?これはもう、本当に予想がつかないわね」
クロがやってくる前、最初のクラスカード集めにおけるゼクスアサシンは、異常なほどの大人数だった。
八十はいただろうか。
あれから察するに、ハサン・サッバーハは何人もいる。
だからどのハサンがピックアップされるのか全くわからない、というのが遠坂凛の考えだった。
「ま、あれだ。くじ引きってことだろ!」
「似たようなものね」
などと話しながら、上条はゼクスアサシンのカードを持つ。
「行きます……
もはや恒例行事となった光る上条。
そのカードは直視できないほどの光を発し_____
______手の内から弾け飛んだ。
「ぐおっ!?」
「えっ、何!?」
バチン、という静電気のような音が鳴り、ゼクスアサシンのカードが手から離れたのだ。
宙を舞ったカードは、そのまま乾いた地面に突き刺さった。
「どうなってんだ…こんな事なかったじゃねぇか!」
「カードの中の
「どうすんだこれ。一旦保留ですかね?」
「そうですわね。また時間を置いてから再度試すといいのではなくて?」
それも一理ある。
一度失敗しただけでは、決めつけるにはまだ早い。
とりあえずは、様子見ということで落ち着いた。
時間的に最後、ズィーベンバーサーカー。
「さてと。ズィーベンバーサーカーの真名はかの大英雄ヘラクレスだって言うことがわかっているけど…」
「正直、
ヘラクレス。
ギリシャ神話が誇る大英雄である彼には、恐ろしい人脈があった。
武術の師であるケイローン、エーリスの王アウゲイアス、アマゾネス族の女王ヒッポリュテ、親友イピトス、アルゴー船の同乗者イアソン。
ゼウス神の息子であるペルセウスの子孫なので、ギリシャ神話の殆どの登場人物と人脈があるとされる。
さらに、キャスター以外全てのクラスに適性があるとまで言われている。
「う〜ん……これは、ガチャってことでいいのか?」
「提供割合ならほぼガチャのソレね。ただし、その右手だとろくなの引けないかもよ?」
やめてくれよぉ、と悲痛な叫びを上げる。
渋々カードを持った上条は荒れた精神を落ち着かせた。
言葉で
何事においても、それは共通である。
「_______よし、侘び石はよ!」
…………今の煩悩が
だが、彼の
「何よその口上は!」
「ふふ、石なら沢山ありましてよ?ルビーにサファイア、エメラルド、ラピスラズリ、ダイヤモンドでも何でもぉ!」
「アンタは黙っとれ」
相変わらずこの二人は仲が良いのか仲が悪いのかわからない。
そうこうしているうちに、上条の
大海のように荒れた長い髪。
浅黒い肌の色。
手に持つ弓は岩石のような材質。
しかしそれでいてしっかり弓として成立しており、とても重たいが矢さえあれば射撃も可能だろう。
「うん……弓しかないけど、なんか矢は後から生成できるみたいだな。カードの良心?」
と、二人の方を眺める。
しかし、二人は上条の弓を見て硬直していた。
「こ、これは………どういうことですの!?」
「なんで、アレがこんなところに……!?」
「おっ、おい!どうしたんだよ二人共?」
上条の心配も、聞こえはしたものの未だに動揺は収まらない様子。
「どうしたも何も、それは私達も心当たりがある。真・射殺す百頭よ!金色のアーチャー、アハトアーチャーが宝物庫から取り出した
「原、典……?本物ってことかよ!?」
言葉の意味を理解し、上条も声を荒げる。
その
ヒュドラを殺すために用意された、大英雄ヘラクレスの本来の武装である。
当然クラスカードによるものなので、本物を出せるはずがない。
「マジかよ、ますますわかんなくなってきたなこの力………」
「よく考えてみると…原典を出せるって、かなり戦力になるわよね」
「何だよ、そんなに慌てることじゃなかったじゃんか!」
確かに、戦力になることには変わりない。
しかし、なぜこの不安定な術式で原典が発現できたのか。
それは、謎である。
「んじゃ、そろそろ帰るわ。試験勉強せにゃならんしな」
「いいわね、ちゃんと高校生として成長してきてるじゃない!」
とのことで。
茜色に染まる夕暮れ時、上条は二人のもとを後にした。
その日の夜。
「おーいイリヤー、風呂空いたぞー」
「あ、はーい!」
部屋着に着替えた上条が、タオルで頭を拭きながらイリヤに呼びかける。
テレビを見ていたイリヤは、そのまま風呂へ駆けていった。
「セラさん、麦茶ってもうできてます?」
「ええ。ちょっと、薄めですけど」
「そんぐらいで大丈夫です。いただきます」
冷蔵庫から出したできたての麦茶をコップに注ぐ。
上条はここの麦茶……というより、この
コップを持って、ソファーへ向かう。
するとそこには、いつものようにリズがいた。
しかし、今回はしっかりと座っているようだ。
「ん」
「おう、サンキュ」
何を言われるのかわかっていたのか、リズがソファーに上条の分のスペースを空ける。
上条はそのスペースに座り、持っていた麦茶をぐびっと飲み干した。
「かぁーッ!うンまいなぁ………」
「…………当麻、おじさんみたい」
「いや、こればっかしは高校生でも同じだって!麦茶ナメんなよぉ!」
そんなことを言う上条だが、いくら勧めたところでリズは茶系は基本飲まないので信者を増やすには至らないのであった。
暇を持て余した上条は、テーブルに置いてあった新聞を取り、テレビ欄を眺める。
どうやら、この時間帯に上条の好きな番組は特にやっていないようだ。
「あちゃー、こりゃガチでやることねぇな……特にこれといった記事も載ってなし…」
「当麻、バラエティとかは見ないの?」
「まぁ見るっちゃ見るんだが、今は特に好きなのはやってねぇんだよな…寝支度でもすっかな」
どうやら、もう就寝準備に入るようだ。
明日は月曜日、学校もあるので、時間割に合わせて持ち物を整理したりもせねばならない。
「わかった。おやすみー」
「おう、おやすみ」
そう一言の会話を交えて上条は士郎と共同の自室に戻っていった。
休日が終わる。
平日が始まる。
期限が迫る。
同時、市内某所。
「さて、と。そろそろ日付も変わるわけだ…」
缶コーヒーの入ったコンビニ袋が、ゆらゆらと揺れる。
「リミットはあと5日……返答が待ち遠しいなァ…?」
青年は、にたりと笑った。
桜?ああ、いたねそんなゲロイン