Spell4[学園生活 Heaven_or_Hell.]
上条が衛宮家に居候することになってから早数日。
「当麻さん、そちらの茶碗は洗ってあるので、そのまましまっておいてください」
「あっはい、わかりましたー」
セラの家事の手伝いに
彼はつい最近まで一人と居候2人で暮らしていた。
居候2人と言っても、服装はほぼ毎日一緒なので、食事以外に苦労することはなかった。
しかし、今回ばっかしは違う。
自分を含む7人分の食事の支度、食器洗い、洗濯などなど、セラと分担で作業しているが、それでも馬鹿にならない量だ。
だが上条は、これによって今まで以上に家事のスキルが身に付いた。
彼も正直、やりたくないとは思っていないようだ。
「それと当麻さん。気になっていたんですけれど……」
「え、なんです?」
「あなた………学校はどうするんですか?」
「………あー」
実を言うと上条は、この世界の人間ではない。
彼が本来いた世界で、帰宅途中に突如この世界に送られたのだ。
当然、この世界での戸籍はない。
だから、こちらでは学校にも通えていない。
「確かにこっちじゃ学校行ってなかったな……どうしよ」
どうしよ、と言っても、衛宮家の力では学校側に交渉することなど叶わない。
しかし、魔術であれば。
魔術の力があれば、何とかなるかもしれない。
「……って感じなんだが、頼む!何とかなんねぇか!?」
家事の手伝いを終えた上条はエーデルフェルト邸に来ていた。
といっても、この時刻では、凛やルヴィアどころか美遊さえいない。
老年執事オーギュストとの二者面談状態にあった。
「私に申されましても…そんなに学校に通いたいのですかね?」
「いや、そういう訳じゃねぇんだがな?そういう訳じゃないっていうのも何だが……一応身形も高校生だし、皆が学校行ってる時間に俺だけ行ってなかったら、なんか補導されちまいそうだなーって……」
「確かに、それは困りますな……」
オーギュストは頭を抱える。
上条はこちらの世界の魔術はあまり知らない。
正直、この状況を打開できる魔術がこちらに存在するのかさえ確かではない。
すると、オーギュストが何かをひらめいたようだ。
「……なるほど、暗示の魔術なら…」
「ん?暗示…ってなんだ?」
上条は暗示魔術については知らないようだ。
「相手に催眠をかけることによって、相手の思考や行動を操作する魔術のことでございます。この辺りで暗示魔術の第一人者といったら…」
「おっ、心当たりあんのか?」
少し表情が明るくなった上条。
しかし、
「ですが彼女の性格上、承認してくれるかどうか………」
「は?何だよその性格上って」
穂群原学園小等部
午後3時頃。
ほとんどの小学生は家路につき始めていた。
もちろん、イリヤ達もだ。
「ねえ美遊、なんか今日の藤村先生テンション高かったよねー」
「うん…いつも高めだけど、今日は尋常じゃなかった……」
「あれほどだと、逆にこっちが疲れるわよもう…」
彼女らの担任、藤村大河。
ヤクザ組長の孫娘でありながら小学校の教師を勤めるという、これまたなかなかレアな人間である。
”冬木の虎”の異名を持っており、その名の読みもあって一部の生徒からは
英語と剣道に長けており、特に剣道は五段というとんでもない実力。
ちなみに、イリヤ美遊クロと、クロにファーストキスを奪われた同級生の栗原雀花、森山那奈亀、嶽間沢龍子の3人で構成された”初ちゅー奪われまし隊”とのドッジボール対決に、同じくファーストキスを奪われた彼女が初ちゅー奪われまし隊として加入したが、顔面に直撃を受け名誉の戦死(?)を遂げた。
魔法少女相手では、かの冬木の虎も所詮この程度なのである。
そんな毎日ハイテンションな彼女だが、今日はいつも異常にハイだったらしい。
「どうせあの先生のことだから、遠く離れてた初恋の人がこっちの帰ってくるとかでしょ」
「藤村先生だから、っていうのはちょっとアレなんじゃないかな……」
そんな会話をしていると、
「………イリヤ、あれ…」
「ん?あれって……とうま?それにオーギュストさんまで…何しに来たんだろ?」
3人の視界の中に、校舎へ向かう上条とオーギュストが映る。
小学生でも、ましてや学校に通ってすらいない彼らが、なぜここにいるのだろうか。
「………ま、所詮私達には関係のないことでしょ。でもなんで小等部なんかに……?」
さりげなく答えていたクロも気になっているようだ。
上条とオーギュストははそのまま小等部の校舎内へと姿を消した。
「………で、アンタがオーギュストさんの言ってたカレンか?」
保健室。
そこに来た上条とオーギュストの2人は、ある女性と対面していた。
「初対面でアンタとは何ですか。全く、失礼な青年だこと」
「す、すまねぇ……えっと…」
「仮にも私はここの養護教諭よ。カレン先生と呼びなさいな」
彼女の名は、カレン・オルテンシア。
折手死亜華憐の偽名で、ここ穂群原学園小等部にて養護教諭を勤めている。
その正体は、聖堂教会から派遣されたシスター。
クラスカード回収のバックアップ、及び監視をしている。
「アンt………先生が暗示魔術に長けてるって聞いたから、教員に暗示をかけてもらって、転入生を偽って高校に通いたいんだが…」
「なるほど。それで私を尋ねた、ということですね」
「ああそうだ。だから____」
案外簡単に引き受けてくれそうだ。
上条はそう思っていた。
しかし、
「………………嫌です」
「は…嫌、だって?」
今確かに彼女は嫌といった。
駄目でも無理でもなく、ただ”嫌”と。
「やはり……ダメだったようですな」
「ちょっ、なんでだよ!シスターってのは、どいつも人に慈悲をかけるんようなのじゃなかったのかよ!?少なくとも、俺が見てきたほとんどのシスターが当てはまってたぞ!!」
「_____どんなことがあってそれほどのシスターを見てきたのかは知りませんが
断ったほうが、アナタが苦しみ藻掻く無様な姿が見れそうですから………ふふふ」
とんでもないことを言った。
今とんでもないことを言ったぞこの聖職者。
「…………なあオーギュストさん。コイツの性格上の問題って…」
「その通り、他人が不幸になる様を見てほくそ笑むような方なのです。…メシウマ、といえば分かりますかな」
「ねえアナタ。我が家の家訓、何だか知ってる……わけないわよね」
「あ?何だって今そんな話を始めて______」
「他人の不幸は蜜の味、よ。……ふふ、愉悦愉悦」
「……………もうテメェシスター辞めちまえ」
人を職で判断してもいけない、ということを彼はよく理解した。
思い出せば、タトゥーを入れてタバコを吸うエセ神父もいたし、見た目小学生なのに立派に高校教師を勤めている合法ロリだっていた。
なぜ上条の周りにはこんな人間しかいないのだろう。
「そもそも、アナタは本心から学校で勉強をしたいと思っていて?」
「う……そう、といえば嘘になるけども……」
「じゃあ別にいいじゃないですか、行かなくても」
確かに言われてみればそうだ。
「でもそうですね……どうしてもと言うのであれば、」
「お?」
ほんのちょっと期待した上条だったが、
「____アナタがまともな実力を持っていることをを証明できてから考えます」
そんな期待は無駄だった。
どこからか赤い布を取り出し、投げ縄のように上条目掛けて投げる。
「なっ、いきなりかよ!?」
「マグダラの聖骸布です。コレにくるまれた者は身体の動きを束縛され___」
上条は右手を聖骸布目掛けて伸ばす。
右手に触れた聖骸布は、
ヘニョンと、先程までの勢いを失い崩れ落ちた。
「束縛、され………え?そんな、束縛…されない………」
「ふぅ……とっさの判断で右手出したけど、今回ばっかしは運がよかったな」
「どうして……ありえない、相手は男なのに………」
「っと、こっちも言っとかなきゃな。
俺は右手で触れただけで、魔術だろうが神様の奇跡だろうが問答無用で打ち消せんだよ」
「魔術も……神の奇跡も……打ち消す………はぁ、わかりましたよ、参りました」
カレンが負けを認めた。
ということは、
「やれるだけやってみましょう。成功したら、制服や教材一式をエーデルフェルト邸…オーギュストさん宛てに送ります。アナタは翌朝、エーデルフェルト邸で着替えて、8時10分までに職員用玄関まで来るように。わかりましたね?」
「承知いたしました」
「8時10分な、おっけー」
なんとかカレンを説得することができた。
これで明日には学校に行けるはずだ。
「で、用件が済んだならとっとと帰ってもらえます?いつまでも小学校に強面爺とウニ頭男がいると怪しまれてしまうので」
「強面爺とウニ頭男って…ま、そうだよなぁ……すまねぇ、邪魔したな」
「失礼致します」
オーギュストが保健室から立ち去る。
上条も出ようとするが、ちょっと立ち止まり、
「そうそう。1つ言ってもいいか?」
「なんでしょう。手短に」
「______俺は元々不幸だからな」
そう言って、同じく上条も保健室を後にした。
翌日
「うぁーーーー、おはよ〜……」
朝になり、目覚める上条。
士郎の布団は、何故か片付けれれていた。
「んん…士郎のやつ起きてんのか?ったく、起こしてくれよ……んんんーっ、あ”ぁ…」
ひと伸びしたところで、早々に着替えて朝食をとりに食卓へ向かう。
「ああっ当麻さん、遅いじゃないですか!早く済ませて、手伝い、お願いします!」
「あ、はいはい……すんませんセラさん……」
「セラさん、そんなに厳しくすることないんじゃないですか?」
「ですが、このクセが万が一イリヤさんにでも移ったりしたら……」
セラは相変わらず忙しそうに家事をしており、向こうはアイリとリズという珍しいコンビが菓子をつまみながらテレビを見ている。
舞弥は、セラの手伝いをしているようだ。
そのまま上条は食卓につき、箸を取る。
「ん〜何か忘れてる気が…まいっか、いただきまーすっと………」
今日の朝食は、焼き魚に青菜のおひたし、で味噌汁とご飯という、THE☆JAPANという感じだった。
(こういう飯は風情があって好きなんだよなぁ…お、このおひたしうめぇぞ)
順調に食べ進み、半分ほど減った味噌汁の器に手を伸ばした時、ある疑問が浮かぶ。
「そういやセラさん、士郎を朝から見かけねぇんだけど、どうしたんですか?あ、そういやイリヤとクロも見てねぇな……」
「シロウ達ならもう学校に行きましたよ。イリヤさんとクロさんも先程、美遊さんが迎えに来ました」
「あぁそっか、3人とも学校なんだよな。朝早くから疲れてないのかよ………って」
嫌な予感がする。
ふとテレビの音声が耳に入る。
それは、恐ろしいものだった。
死刑囚が脱獄だとか、合法ロリ教師のJSヴォイスだったりとか、そんなチャチなもんじゃない。
『では、午前8時5分、朝のニュースをお伝えいたします。えー、沖縄の埋め立てに対するデモ発生を受け、首相らが沖縄知事と会見を______』
「沖縄かぁ、どうなるんだろーねー」
「埋め立てはやめてほしいわね。私はこの美しい海が好きなのだけれど……」
沖縄埋め立て?どうでもよくないが、今の上条にとってはどうでもいい。
大切な部分は、
(午 前 8 時 5 分 ?)
確か8時10分に、穂群原学園職員玄関でカレンと待ち合わせをしていたはずだが…
「…………は、ははは、まいっかぁ……
って、よくねぇ!!!!!」
「はうっ!?い、いきなり大声出さないでください!危うくお皿を………ってコラ、どこへ逃げるおつもりですか!」
「どこへもなにも、学校だよ学校!!」
「なっ、学校にまで逃げるというのですか…………学校?」
清涼飲料水でも飲み干すようなスピードで味噌汁を飲みきり、
「ぷぁーっ、一応飯全部食ったから!じゃ行ってきます!!やべぇやべぇ……」
そう言い残し、行ってしまった。
「ふ〜ん…とうま学校行くんだ……」
「あらあら、青春ねぇ……♪」
そして、相変わらずブレないアイリズなのであった。
「ああったく、なんやかんやで制服に着替えんのに2分かけちまった…あと3分かよ……っ!」
彼らしく首元を開けたブラウンの制服に、黒いピカピカの鞄が栄える。
「まだ小学生も歩いてんじゃねぇか……クッソわざと早めに設定しやがったなあの野郎!」
ふふふ、と黒い笑みを浮かべるカレンの顔が脳裏をよぎる。
しかし、今の上条の脳内BGMはまさに熊蜂の飛行。
余計に危機感がアップしてしまう。
何mか走ると、自転車を押す士郎が目に入る。
「ああ当麻。いつまでも起きないから先に……あれ、お前なんでウチの制服着t」
「悪ぃ今そんな暇ねぇっ!」
「うわらばっ!?」
勢いのあまり士郎を突き飛ばしてしまう。
そのまま後ろにのけぞった士郎は、電柱に後頭部からぶつかってしまった。
(うわ痛そう……大丈夫か……大丈夫だよな、大丈夫、うん)
そう自分に言い聞かせ、更に走る。
「イテテ……………なんでさ?」
「クッソ今どんぐらい経った?ああもう、不幸だァーッ!」
そう嘆いているが、前で見覚えのある3人…と1人がそれを耳にしていた。
イリヤ、美遊、クロ、3人の同級生の森山那奈亀だ。
「えっ、とうま!?なんで制服…」
「イリヤ!?って、おっとととうわっ!」
注意がイリヤに向いたのか、つまづき転んでしまう。
そのまま地面を滑り、イリヤの股下で停止した。
「うおぉ何だー!?何かウニ頭の兄ちゃんがイリヤの股下に突っ込んでったー!!」
「うへぇ……こりゃ痛いわね〜」
「…………アスファルトに血が」
意識は残っているようだ。
力を振り絞って立ち上がろうとするが、
「とっとうま、だいじょう……ぶっ!?」
「イリヤ悪い、今急いで………あ」
スカートの彼女の股下から立ち上がってしまったため、スカートが上条の頭で押し上げられ、イリヤのパンツがあらわになる。
「あちゃー……」
「い、イリヤ?この兄ちゃんって……」
「……今日のイリヤはピンク。おっと鼻から赤い友情が」
「申し訳ありませんイリヤスフィールお嬢この仕置は放課後になんなりとぉぉ…っ!!」
またもや走り去ってしまった。
「とっ…とうまの……とうまのばかーーーーーーーーっ!!!」
更に何mか走った。
昨日の道のりから察するにのこり1/3といったところだろう。
「悪い事しちまったな……学校いるうちに遺書書いとかないと……って言っとる場合かっ!」
確かあの十字路を曲がれば、後は一直線だ。
「やれる上条当麻……その右手を信じるんだ…!…………いま関係ないけど」
そう言い聞かせ、角を曲がろうとした瞬間、
ゴチンと、同じく十字路を進んできたであろう何者かに衝突する。
「いでっ……悪い急いでて…大丈夫、か…」
と言おうとしたところで、思わず口が固まる。
ぶつかった相手は少女だった。
見たところ彼女も穂群原学園の生徒だろう。
サラサラとした紫の髪に、赤いリボン。
そして何より、かなりプロポーションがよかった。
この体型だと元いた世界の吹寄制理を思い出すが、この少女は吹寄と違って優しそうだ。
「いえ、私の方こそすいません……怪我ありませんか?」
ほらやっぱり優しい。
天使はここにいたのだ。
「あっ……あなた、おでこから血が…!」
「ん?ああ、これな。これはぶっかる前からあったし、そんなに痛くねぇし、大丈夫だ。擦ったぐらいでウジ湧いたりしねぇだろ別に」
「ならいいんですけど……消毒、忘れないで下さいよ?」
「わかってる………って…………」
彼女の腕時計の針が目に入る。
長い針がほとんど2のところにかぶっていた。
「あと1分もないじゃねぇか!悪ぃ、謝罪ならまた校内であった時にすっから、とりあえずありがとな!」
「あ、はい………」
上条は行ってしまった。
「……なんか面白い人だったなぁ」
「はいセェェェェェーーーーーーーッッッフ!!」
「4秒遅れよ。約束が違うじゃない」
「うわーんいいじゃないですかカレンせんせー!けがしてまでがんばたのにーーっ!」
「はいはい、わかったから落ち着きなさい」
なんとか間に合った上条だが、4秒遅れ、ということを責められる。
「…で、こんな早くに呼んでどうすんだ?」
「え?どうもしないわよ?」
「え?」
思わず2人共硬直してしまう。
特に上条の表情がやばい。
「…………卒業証書はどこですか先生」
「行かせません」
上条のがみるみる涙ぐんでいく。
朝早く起きてすぐ同居人に叱られ、兄者分を突き飛ばし、妹分のパンツをあらわにさせ、頭を擦りもすれば泣くだろう。
「根性のない男子ね。うそうそ、学校に遅れないようにするための予行練習よ。これで時間に対する考え方が変わったでしょ?」
「あー、なるほどな納得」
「早っ立ち直るの早っ」
おもわずらしくないツッコミを入れてしまったカレン。
コホンと咳払いをし、これからの流れを説明する。
「職員室に行ったら担任の先生のところまで案内するわ。ホームルームは40分だから、時間になるまで職員室で待機。あとその右手の特性上、教員に指一本触れると暗示が解けるからこの手袋を常時着用すること。いいわね?」
キーンコーンカーンコーン、とありきたりなチャイムが鳴る。
生徒たちは朝読書で読んでいた本をしまい、
「起立!」
ガタガタっと、学級委員の号令で立ち上がる。
「気をつけ、礼!」
『おはようございます!』
「着席!」
挨拶が終わると、またガタガタと席に座る。
それからは机に突っ伏している輩や、隠れて本を読んでいる輩が目立ってきた。
だが彼らも、聞くときは聞いている。
風紀の乱れはほぼない。
「えーとだな、唐突なんだが、今日は我が1−Bに転入生が来たぞ」
「えー転入生だってどんな子?」
「男?女?」
「パイオツデケェかなぁ」
教室が一層騒がしくなる。
「転入生が来て騒がしくなるのは当然だからな、俺は責めないぞ。さ、入れ」
そう言い、転入生を入室させる。
「あ、結構イケメンじゃん」
「なんか面白そうじゃねアイツ」
「うわ髪型すご遊◯王みてぇ」
「うん。ああ言ったけど転入生紹介の時くらいは静かにしろよテメーら。じゃ上条、自己紹介を」
その言葉の通り、黒板にデカデカと四文字の名前を書く。
「えーっと、その、なんだ、上条当麻です。んー、不幸になってもいいやつだけ仲良くしてくれ」
「…あのな、上条は差別してるわけじゃないんだぞ。昔っから不幸体質らしくてな、なんでも疫病神と呼ばれたとか〜うらめしや〜っ!」
「先生……古傷抉んなって…」
「あ、悪い。ま、仲良くしてやってくれよ!」
『はーい!』
「良い返事だろう上条。んで、お前の席なんだがな……ここだ」
座席表を取り出し、上条の席になる場所を指差す。
窓際の、日当たりの良い席だ。
「お、この席いいな」
「それならよかった。じゃ、席に座ってくれ」
上条は早々に席に座る。
「で今日の予定なんだが、まず”弁当がいいか給食がいいかのアンケート”が来ててな_____」
「………あの、上条さん」
「ん?」
隣から話しかけられる。
振り向くと、そこにいたのは…
「うおっ、さっき十字路であった………正直すまんかった」
「いえ、いいんですよ。ぶつかったのはお互い様なので」
やっぱりこの少女の天使っぷりは群を抜いている。
絶対下駄箱にハートの便箋いっぱい入ってるタイプだろ、と上条は思う。
「そういや、一緒のクラスなんだったら名前知っとかなきゃな…なんてんだ?」
「私ですか。私は____間桐桜っていうんです。よろしく、当麻くん」
「おう。こっちこそよろしくな間桐」
「おい上条、初日からシカトすんなよ悲しいだろ。あと間桐、お前もだ」
「えぇー桜ちゃん珍しいね先生の話聞き逃すなんて」
「うん…ごめんなさい」
「あれだろ、ぜってー間桐お前上条に惚れたろウイーww」
「えっ!?ちょっ、や、やめてよそんな……!!」
楽しい愉しい学園生活の始まりなのであった。
ヨーロッパ某所
日本が朝の今、ヨーロッパはすっかり深夜だ。
電気の消え始めた夜の街。
それを見下ろすような高台に、2人の男が立っていた。
「…君には悪いが、単独で日本に行ってもらう」
黒いボサボサの髪に黒いスーツ、黒いくたびれたコートと、まるで暗殺者を思わせるような身形の男。
「あァ?単身日本になンて、何の冗談だそりゃァ?」
もう一人は、濁ったような白い髪に赤い瞳、白をベースとした服装にチョーカーと松葉杖の。刃こぼれしたナイフのような印象の少年。
「パートナーには既に日本に行ってもらってるんだけど、気になる報告があってね。僕の家に、一人の男の子が居候し始めたらしいんだ」
「居候だ?誰だってンだよ」
「上条当麻っていうんだ」
「上条……ねェ…」
「彼はあらゆる魔術的要素を無効化する特殊な右手を持っているらしいんだ。もしかしたら、君が”こっち”に来たのと何か関係があるかもしれない。頼めるか?」
「あァ、もちろんだぜ」
少年は口をクチャリと動かして
「あの三下は、ちょうど俺も気になってるトコだったンだよなァ…………」
ということで、弁当がいいか給食がいいかのアンケートを行います。
不答は許しますん