Fate/Imagine Breaker   作:小櫻遼我

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これいる?


Spell15[理想送り World_Rejecter.]

「上里、翔流……」

 

突如現れた青年はそう名乗った。

 

「ちょっと、待って……あんな連中が…私達の敵になるわけ……っ!?」

 

凛を見ると、文字通り青ざめていた。

冷や汗はもはやシャワーの如く噴き出、彼女の緊張を物語っている。

 

「あんなの、イカれてるわ…!!」

「おい、待てよ!イカれてるって何だよ、どうしてそんな顔色……」

「仕方ないじゃない!!!」

 

凛の響きが上条の鼓膜を刺激する。

上里はただ思わせぶりな微笑を浮かべていた。

 

「遠…坂……?」

「もうイヤ…説明しなきゃならないのに、言葉にすることすら恐ろしい………」

「では、ぼくが」

 

上里が名乗り出た。

怯える凛達を嘲笑うように語る。

 

「メンバー紹介です。黒髪の彼はシグマ。ローブの彼はマリスビリー・アニムスフィア。白衣の彼はロマニ・アーキマン。赤髪の彼女は蒼崎青子。髭の彼はキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ」

「あぁ?メンバー紹介だなんて、随分丁寧な_______」

 

上条は気付いてしまった。

聞き覚えのある2つの名前。

そして覚えのある魔力量。

いや___右手に宿るアサシンと同じ波長。

 

「魔法使いと……サーヴァントが、いるのか…?」

「そ。僕は一応ロマニを名乗ってるけどキャスターのサーヴァントさ。名前は____」

「キャスター。私の許可なしに真名は開示させぬぞ」

 

ゴメン、とロマニ__キャスターは陽気に謝る。

 

「上里……てめぇ、何が目的なんだ!」

「目的、ですか。そうですね…」

 

上里はしばらく黙り込む。

何を考えているか知ったことではないが、恐ろしい何かを感じた。

 

「これ以上カードの回収が遅れると面倒なことになるらしいので、君達を始末してぼくらが回収します」

 

何、と上条が言う間も与えず、光帯から光線が飛んできた。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

前に出たクロが7枚の盾で光線を防ぐ。

しかし光線が勝っているようで、盾は一枚また一枚と砕け散ってゆく。

 

「なによ、このビーム……大英雄ヘクトールの投擲を防いだ盾が、圧されるだなんて……!!」

 

片手で展開していたが、クロは堪らず盾を展開している右手を左手で抑える。

だが、それでも光線は抑えきれない。

 

「おお、僕の宝具を防ぐのか…凄いね君!」

「宝具……あんな大きいのが、全部…!?」

 

遂にクロも光線の威力に耐えきれなくなり、盾を離し後退する。

光線は地面に命中するが、そこにはクレーターの1つもなかった。

 

「うん。頑張ったと思うよ。この熱量を相手にその小さな身体で対抗したんだからね」

 

小馬鹿にするような物言いに、クロは思わず歯ぎしりする。

 

「こ、の………黙っていれば、さっきから!そこまで言える自信があるっていうんなら、こっちに来て直接戦ってみなさいよ!」

 

その言葉を聞いた上里が口角を上げる。

やってしまったと、クロは思った。

 

「ですって、皆さん…やっちゃいましょうか」

 

上条達は一斉に構える。

 

「ルヴィアさん、イリヤを…!」

「ええ。あなたも気を付けて、美遊」

 

未だ眠っているイリヤをルヴィアに任せ、美遊も戦線に立つ。

上条、美遊、クロ、一方通行(アクセラレータ)、凛の5人で対抗する。

 

ルヴィアが彼等に戦線を譲ったのは自らの強さの自覚故か。

彼等の中では、ルヴィアは自身の才能を信じる負けず嫌いだと認識されているだろうが。

 

「ふむ、では……」

一方通行(アクセラレータ)はワシがやる。彼とは話したいことが、まぁ幾つかあっての」

「じゃああのクロって娘は僕らが。最後まできっちり相手してあげないと」

 

なにやら作戦会議を始めた。

会議というほど大掛かりなものではなかったが、彼等の余裕さが見て取れた。

 

「あの娘は私が相手をするわ。知ってるわよ、凛ちゃんよね」

「はい。………シグマは」

「……美遊(あのこども)でいい」

 

となると、上里の相手をする者は決まってくる。

 

「……じゃあ、ぼくと」

「……俺か」

 

上条は決意を固める。

詳しい能力もわからないが、この状況では戦うしか無かった。

正直、勝てるとは思っていなかった。

 

 

「____一方通行(アクセラレータ)よ」

「黙れ、クソ爺。わかってンだよ、こっちには」

 

ゼルレッチの言葉を、一方通行(アクセラレータ)は払いのける。

 

「俺がやったことと、衛宮切嗣が俺にした指示。それは…オマエが、衛宮切嗣に吹き込ンだことなンだろ」

「聞いておったのか。なら、話は早い」

「あの上里ってアマが言ってたのも、元はオマエの意思なんだろォな。答えろ。何が目的だ?」

 

うむ、とゼルレッチは申し訳なさそうに言った。

 

「全てはこの世界、いや___全ての世界の為なんじゃよ」

「スベテノセカイ、だァ?」

 

一方通行(アクセラレータ)は呆れた。

あんな嫌な目に合わされてまでしようとしていたことが、ここまで不明瞭な目的だったとは。

呆れを通り越して、怒りすら湧いた。

何せ、あの敗北は彼にとって最大の屈辱だったのだ。

 

「今は分からぬ。そして、わかっても困る。あのカードは世界を跨ぐものじゃ。アレが存在し続ければ世界の壁は裂け、大蜘蛛がやってくる。そうなってしまったが最後、全ての並行世界は水晶に覆われる」

「ごちゃごちゃごちゃごちゃ…訳わっかンねェこと抜かしてんじゃねェぞ爺ィ!!」

 

一方通行(アクセラレータ)は堪らずベクトル変換でゼルレッチまで駆ける。

そして、思い切り殴り掛かる。

 

が、気付いた頃には一方通行(アクセラレータ)は鈍痛と共に地面に寝転がっていた。

 

「_________?」

「ワシはこんなナリでも第二魔法使いじゃ。あまり無理せん方が良いぞ、若いの」

「ぐ、が…………黙れェ!!」

 

いつ吐いたかもわからない血を口に含みながらゼルレッチに掴みかかる。

だが、その鈍痛が今度ははっきりと襲いかかった。

 

「ッ!?」

 

言葉にできない痛み。

気流のように胸に流れ込み、ミシミシと骨が軋む。

それを受ける度、肺は血を噴く。

 

「がはッ!!こい、ツ………!!!」

 

ベクトルが計算できない。

英霊の攻撃でも、魔術でも、憎き未元物質(ダークマター)でもない。

これが、魔法か。

 

「どうする。傷を負い恐怖を負い、それでもワシに立ち向かうか?」

「ったりめェ、だろォが……ンなモンはな、俺のプライドってのが許さねェンだよ!!」

 

一方通行(アクセラレータ)は怯まず立ち向かった。

次に見たのも、空だった。

 

 

 

サーヴァント。

 

クロ達が今まで戦ってきた黒化英霊(サーヴァント)とは違う、純粋な霊基。

黒化英霊(サーヴァント)を遥かに凌ぐ能力と意志を前に、クロは佇んでいる。

 

「マスターの許可は得た。存分にやり合おうか、クロちゃん」

「馴れ馴れしく呼ばないで、この変態っ!」

 

離れた距離から音速の赤原猟犬(フルンディング)を射る。

キャスターは白衣をなびかせながら浮遊し矢を避け、背後から追尾する矢を自身の魔術で撃ち落とした。

 

「変、態………うぅ、会って間もない少女に言われる言葉とはとても思えない……っ」

「お前のせいだろう。敵とはいえあそこまでしつこく迫れば変態とも呼ばれる」

「そんなぁ、マスターまで!?」

 

何やら会話をしているようだが、クロにはその会話などどうでもよかった。

 

「そっぽ向いてんじゃないわよ!」

 

空中浮遊の魔力靴と干将莫耶を投影し、浮遊しているキャスターに斬りかかる。

 

盾、弓、魔力靴と、剣以外のものを多く投影したせいで魔力消費が激しい。

この干将莫耶の投影だけで、簡潔に終わらせねば。

そしてイリヤの唇を奪わねば。

 

二刀の曲刀が同時にキャスターに迫る。

会話中の不意を突いた一撃、もしばれていてもあそこから背後を向いて二刀同時に防ぐのは難しい。

 

だが、キャスターは左手をかざしただけで二刀の動きを止めた。

金色の光が掌から発せられ、吸い込まれるような錯覚に襲われる。

 

「全く、君は_______一度言わねば分からぬようだな」

「っ!?」

 

ビクン、と背筋が震える。

剣を止められたと思えば、キャスターは目の色を変えてこちらを睨みつけたのだ。

比喩ではなく、強膜は黒く、瞳孔は赤く変色していた。

そして、目の周りには黒い紋様が浮かび上がっている。

 

まるで、人が変わったような。

 

次の瞬間、キャスターが左手を握った途端干将莫耶が圧縮されるように砕け散った。

そして旋回したキャスターが右腕でクロの両手を引き寄せ、両手首をまとめて掴む。

 

「やぁっ!?」

 

恐怖と掴まれている腕から流れるキャスターの得体の知れない魔力のショックで、魔力靴が消滅する。

つまり今のクロは手首を掴まれて宙吊り状態だ。

 

「投影魔術などと、そのような些事が我が冠位に及ぶとでも思っていたのか」

「わる、い…?自信を持つのは、いいこと、でしょ……!」

「ハッ、笑わせてくれる。勇敢と無謀は履き違えるなよ、小娘」

 

キャスターがクロの両手を引き寄せている魔力を放出した瞬間、クロは地面に引き込まれるように墜落していった。

あまりの衝撃にアスファルトの舗装路は砕け、土煙が舞う。

 

「げほ、ごほっ……」

 

血を吐く。

アスファルトが砕けるほどの衝撃を受けたのだ。

内部が損傷するのも当然だった。

 

「私に牙を剥いた勇気は褒めてやろう。だが王に対して牙を剥く勇気は不遜に値する。楽には死なせぬぞ」

 

 

 

「貴女が五大元素使い(アベレージ・ワン)の遠坂凛ちゃんね。改めまして、私は蒼崎青子。ヨロシク」

 

青子は気さくな挨拶を交わす。

だが、当の凛は強張った顔のまま警戒を解かない。

 

「………はぁ。何だって、魔法使いってだけで、こう、避けられなくちゃならないのよ。私だって悪気は無いのに」

「魔法使いが、敵になってるんですから……当然でしょう」

 

そっか、といった感じで掌を拳で叩く。

 

「じゃあ、どうする?殺る?」

 

その一言で凛は後ずさる。

いくら五大元素使い(アベレージ・ワン)といえど、魔法使いに敵うはずがない。

 

「………そうね。相手は聖杯の御三家だし、コネは作っときたかったけど、仕方ないか。でもこれ以上七夜(あれ)みたいな変な縁が____」

 

だが、そんな道理はない。

 

Laden,Kurve(装填、曲射)!」

 

凛が継ぎ接ぎのドイツ語を詠唱し、ルビーをひとつ投げる。

すると、ルビーは砕け散り、その破片全てが個の弾丸となり、更に変則的な曲線を描きながら青子へと飛んでいった。

 

「おっと」

 

青子はとぼけた顔で弾丸を眺める。

一歩も動かず、遂には青子に全弾命中した。

 

と思ったのだが。

 

「へぇ、宝石魔術ってこういう感じなのね。結構金かかりそ、宝石魔術の家系に生まれなくてよかったわ〜」

 

本人は先程と変わらぬ姿勢、表情で、呑気に語っていたのだ。

 

「あれ?………ん、んん!?」

 

一瞬だったので、青子が回避行動を行ったかすらあやふやだった。

少なくとも、凛には何もしていないように見えたのだが。

 

「ゴメンね。タネ明かしはまた今度。今はとりあえず、全力で戦いましょう!」

 

そうして、青子は指を向ける。

 

その指先から、機関銃の如く魔弾が撃ち出された。

 

「っ、速!?」

 

凛は頭を低くして魔弾を避ける。

連なる魔弾はクレーターのように地面を直線に抉った。

 

「ガンド………?……いや」

 

あれはガンドではない。

ガンドの元は北欧の呪い、指差した相手の体調を崩すという軽いもの。

凛の場合、魔術の才能により強化され弾丸の如き破壊力を得ているのだ。

 

だがこの魔弾はあまりにも”破壊的”すぎる。

これではまるで元から人を撃ち殺すためにあったもののようだ。

 

「私、魔法は使えるけど魔術はからっきしなの。だから教えてね、セ・ン・セ」

「っ…」

 

凛は汗を拭い、立ち上がる。

懐から幾つもの宝石を取り出し、それを指の間に挟み、青子へ向く。

 

「ええ。こうなったらダメで元々、トコトン指導してあげるわよ!」

 

 

 

「…………………」

「………………っ」

 

自ら戦いを選択したものの、美遊は恐怖に動き出せずにいた。

 

彼女の相手をする青年シグマ。

その冷酷な目つき。

そして手に持っているのは本物のFN P90(サブマシンガン)

 

今にも残酷に、業務的に殺されそうに錯覚する。

 

すると、シグマは折角のP90を放り捨てた。

 

「俺だって加減はできる。君みたいな子供に短機関銃なんて、使う気になれない」

 

シグマは懐から一丁の拳銃を取り出した。

友人の栗原雀花に一方的に聞かされて、あのような感じの銃には覚えがある。

 

「残念、多分グロッグだとでも思っているんだろう」

 

あ、と美遊は声を漏らす。

 

「これは俺と同じ名を持つ。S&Wシグマ SW40P……パクリだとか言われてるらしいが、俺はコイツが好きだ。性能もいいし、握りやすい、それに安価……いいとこ取りだ」

 

カシャン、とスライドを引く。

びくっ、と美遊が震える。

 

「きっとこれなら……成すべきことを君にしてくれるだろう」

 

その一言で、美遊は耐えられなくなった。

サファイアを振りかざして放った一発の魔弾。

これは攻撃ではなく、恐怖からの自己防衛に近いだろう。

 

だがシグマは流れるように銃口を振り上げ、一発の弾丸を撃ち出す。

それはきれいに魔弾に命中し、魔力の雫が弾けた。

 

「美遊様、気を確かに!イリヤ様は大丈夫です、だから今は自分の心配を!」

 

美遊が恐れているのは、確かに自分の死ではあった。

だがそれは、自分という壁が突破されることでイリヤに危害が及ぶことへの恐怖であった。

 

「………何だ、それ。守ってるつもりなのか」

 

ぱん、という発砲音。

あまりにも早すぎて気づけなかったが、美遊の頬を確実に弾丸が掠めていた。

 

「前言撤回だ。そんなに自分がどうでもいいのなら、あの世で気づかせてやる。命の大切さ、ひとつの命を捨てることの愚かさをな」

 

 

 

拳がぶつかった。

世界を救う拳と、世界を壊す拳が、今相見えた。

 

「い、ってぇ……」

 

痛覚の痛みではない。

上里と出会ったことで起きた痛み、それは痛覚の痛みとは確かに別だ。

セフィラとかエーテルとか、その次元の痛みだ。

 

「ッ……おおォッ!!」

 

はたから見れば、命をかけた殺し合いには見えないだろう。

それは実際ただの殴り合い、高校生同士のありふれた喧嘩だった。

だが、その喧嘩でしか戦えない相手が今ここに居る。

だからこそアサシンの力を使うわけには行かなかった。

 

ふと、上里の拳が上条の頬に突き刺さった。

 

「くはッ」

「はぁ…はぁ……さあ、どうですか!」

「効かせてくれるじゃねぇか、上里翔流…」

 

ごつん、と上条は頭突きを繰り出す。

ごん、という鈍い音とともに双方が退いた。

 

「いっ……やりますね、上条当麻」

「おうよ、こっちだって伊達に喧嘩やってねぇんだ…」

 

頬を叩き上条は自身の目を覚ますが、その瞬間に上里の拳が腹に突っ込んだ。

 

「おぶっ…!」

 

だが意識は保っている。

上条は上里が離れないうちにその頭を掴んだ。

そして、その顔面に上条の右膝を食らわせてやった。

 

「んが、ぐっ ……!!?」

 

上里は後退し、自身の顔を探る。

骨折はないようだが、鼻血が出ていた。

それに汚れに傷だらけ。

 

「この……ッ!!」

 

痺れを切らしたのか、右手を構える。

未だ知らぬ右腕、理想へ上条を送らんと地面に影を伸ばす。

 

『新たな天地を望むか』

 

言葉にならない囁きで上条を誘う。

なに、と上条は一歩立ち止まる。

 

「これがぼくの右手____理想送り(ワールドリジェクター)

 

影に触れたものは、彼の右手に懺悔する。

右手がその懺悔を聞き届けし時、新たなる天地、理想の体現へと送られるのだ。

 

「______ッ!?」

 

ぐわん、と上条が仰け反る。

意識は消失し、虚ろな目が天を見上げる。

 

だが、それは上里の想定とはかけ離れていた。

 

いくら相手の右手が全てを打ち消すものだろうとこの理想送り(ワールドリジェクター)ならば送れるはずだった。

効かないのならまだ自然だった。

意識を失い仰け反るなど、想定しているはずもない。

 

「これは、一体…………」

 

次の瞬間。

 

上条の右腕から、竜が現れた。

 

「!?」

 

その場にいる全員が、戦いを止め竜に気を取られた。

 

それはさながらヤマタノオロチ。

ドラゴン、ワイバーン、サーペント、数多もの竜が右腕から顔を出す。

 

竜の首は四方八方へと飛び散り、ビル街を破壊する。

世界の終末を見ているようだった。

 

「____なんと、悍ましい」

 

ゼルレッチが、そう呟いた。

 

暫くして、竜は破壊を終えた。

静まった竜達は逆再生のように右腕に向かって流れる。

そして竜の首は全て引っ込み、上条はそのまま倒れた。

 

「当麻さ…………っ!」

 

美遊が頬から血を流しながら上条へ飛ぶ。

しかし、上条の側へ寄った上里に威圧され、立ち止まってしまう。

 

「このカードですか、あの回復効果を示したのは。……些か、不平等です」

 

上条の懐からフィーアキャスターのカードを抜き取る。

地面に落ちているツヴォルフセイバーのカードも拾い上げ、四人のもとへ集う。

 

「ぼくの力を見せてしまったからには、これで終わりですね。…このカードを返してほしければ、ぼくらを探してください。殺して、奪い取ってください。できるでしょう?魔術師なんですから……」

 

吐くように言い捨て、五人はキャスターの光帯の中に消えた。

 

「……あっ上条くん!ちょっと一方通行(アクセラレータ)、手ぇ貸しなさい!」

「カッ、なンで俺が……」

 

凛と一方通行(アクセラレータ)が上条に近寄り、肩を貸し立たせる。

応急手当に関しては一方通行(アクセラレータ)が幸いその系統の知識を持っていたためなんとかなった。

 

しかし上条とイリヤを運んでいる最中も、彼等の脳裏にはあの光景が焼き付いていた。

あの竜_______

 

その後、上条は数日目覚めなかった。

 

 

 

数日後、穂群原学園小等部。

 

「美遊、どうしたのトイレなんかに呼び出して……体育でしょ?」

 

昼食時、四時間目の体育のため体育着とブルマに着替えたイリヤと美遊が、狭い女子トイレ個室に詰められる。

呼び出したのは美遊なのだが、先程からずっと股をもじもじと動かし、イリヤとあまり目を合わせない。

 

「ねぇ美遊、授業始まっちゃうからできるだけ早く______!?」

 

突如、イリヤの口を美遊の口が塞いだ。

 

今自分が何をされているかはわかっていた。

イリヤにとって、女児同士のキスはクロとの魔力供給でし慣れていた。

 

しかし、美遊とのそれには違和感を感じた。

普段クロとするときは口元の動きだけで事を済ませている。

直接人体を介した魔力供給の要となるのは該当人物の体液であり、吸血だろうが性行為だろうがキスだろうが、それで唾液(たいえき)が譲与されればよかった。

美遊は違った。

口元だけでなくイリヤを抱き締め、互いの肌をあえて触れ合わせているかのように、身体をひっきりなしに動かしている。

一向に唾液を摂取する気配がない。

 

そもそもクロに魔力供給が必要なのは彼女の肉体が霊核となるクラスカードを中心に構成された、サーヴァントと似た性質を持つためである。

魔力供給は分離元であるイリヤに相手をしてもらうのが一番効率がよく、かつイリヤは魔術回路のパスの繋ぎ方を知らないため体液の譲与という方法で済ませているのだ。

だが美遊は魔力供給せずとも肉体は消滅しないし、魔力供給が必要になったならば、ルヴィアやら凛やらにパスを繋げてもらって正当法で供給してもらえばいいだけの話だ。

 

そして、イリヤの耳元に響いたのは、これまで聞いたことのない”音”。

淫靡に囁く、美遊の嬌声だった。

 

「むうっ、み、ゆ……やめ、てっ!」

 

衝撃のあまり、美遊を強引に突き飛ばしてしまった。

我に返ったのか、今度はイリヤがあたふたとしている。

 

「ごめんイリヤ、私……ヘンなの。イリヤのことを考えると身体が熱くなって…疼いて…お腹の奥が、きゅうってして……」

 

イリヤは理解した。

それは愛欲だ。

本来、異性に抱くべき性愛欲求。

それを同性相手に、しかもこの年齢で抱くのは極めて異常だった。

 

イリヤも、美遊のことが好きだった。

だがそれは友愛であり、決して性愛ではなかった。

 

校舎に鐘の音が響く。

時間のようだ。

 

「…………ごめん、私行くよ。先生には説明しておくから、早く来てね」

 

そう言って、個室から出ていった。

 

明確な拒絶だった。

 

「ああ…イリヤ……」

 

ずん、と洋式便座に座り込んだ。

用を足す訳でもなく、ただ己を模索しているのだ。

自分はどこにいるのか、このタブーは本心から来たものなのか。

 

だが、その思索も虚しく。

気付けば、自らの鼠径部に手を這わせていた。

 

「………んっ」

 

感覚を覚えた瞬間、手を離した。

美遊は放心状態となり、死体のように天を見上げた。

無機質なタイルの壁と天井が、美遊に対するイリヤの感情のように思えた。

 

「いりや、すき…………ああ……」

 

もはや彼女は、イリヤでさえも擁護できない領域にまで達していたのである。




やべぇよやべぇよ…おいどうするよ、めっちゃ表現しちゃったから……

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