Fate/Imagine Breaker   作:小櫻遼我

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Spell11[最果ての海 Alexander_the_Third.]

9月18日。

この日、この曜日、穂群原学園高等部では中間考査が行われていた。

 

高校一年生の上条の場合、1日目の16日にコミュニケーション英語Ⅰ、地理A、家庭科基礎、

2日目の17日に数学Ⅰ、生物基礎、現代文、

3日目の本日に世界史A、古典、保健、

4日目の19日に英文法基礎、数学A、化学基礎、

以上の計四日間、計十二科目のスケジュールとなっている。

 

そして今、上条は3日目の保健を終え、帰路についたところだった。

 

上条の隣には桜がいる。

 

「ねぇ当麻くん、今日のテストはどうだった?私は…世界史がちょっと危ないかな」

「俺はな……なんか、いろいろダメだった。考え事しててな、調子狂っちまった」

「そうなの?勿体無い…テストのことだけ考えてれば、良い点行くと思うのに……」

 

そんなことは、重々承知している。

 

あの土曜日、彼のその一言がずっと気にかかっていた。

 

『衛宮切嗣______テメェらの父親だ』

 

一方通行(アクセラレータ)が告白した、首謀者の名。

それは衛宮家の大黒柱であり、イリヤ達の父親だった。

それが真実か偽りかはわからない。

 

だからこそ、この長時間真偽を考えていたのだ。

 

「あ、私こっち。じゃあね」

「おう、また明日な」

 

十字路で桜と別れる。

一人になった上条はただ黙々と足を進める。

 

突然、カバンに入れてあった携帯電話が鳴った。

誰の電話だろうか。

 

「……………はい、もしもし」

『聞いたぞ、三下。テメェ、あの事ばっか考えてテストの調子出ねェらしいな』

 

その特徴的すぎる口調で、相手が誰なのかは一瞬でわかった。

 

一方通行(アクセラレータ)だ。

 

上条達と和解した一方通行(アクセラレータ)は、外に出ず無関係者に危害を加えないことを条件に磔から解放された。

しかしそれからというものの、食っちゃ寝食っちゃ寝で、まるでニートのような生活を送っていた。

実際、ニートなのだが。

 

「っるせぇわ!学園都市第一位サマに無能力者(レベル0)の何がわかるってんだよぉ!!」

『わかるわけねェだろ。俺は読心能力(サイコメトリー)じゃねェンだぞ』

 

それもそうなのだが。

こう改まって正しいことを指摘されると、何と言い返せばいいのかわからなくなる。

 

『そォだ。コーヒー買ってこいよ』

「またパシリか……仕方ねぇな、ブラックか?」

『いや、今日は微糖に挑戦する』

 

一方通行(アクセラレータ)が微糖を頼むなんて始めてだ。

やはり妹達(シスターズ)の一件や今回の事件で何か思ったのだろうか。

 

「話は終わりか?なら切るぞー」

『待て。まだ本題に入ってねェ』

 

電話を切ろうとする上条を、一方通行(アクセラレータ)は静止する。

 

『いいか、よく聞け。テメェらにとってテストってなァ大切なもンだ。でも、そンな時に余計なこと考えてたらろくなことになンねェぞ。何が気に入らないのかは知らねェが、どォしても気になるってンなら帰ってきてから話せ。テスト中はテストに集中しろ。いいな』

「………………」

『何黙ってやがる』

「いや、お前がそんなこと言うと、説得力が半端じゃないんだが…」

 

相手が御坂美琴だったりしたら笑って聞き流していただろうが、相手はあの学園都市第一位(アクセラレータ)だ。

聞き流したりなんかしたら、何をされるかわからないし、そもそも彼の知能は高い。

そんな一方通行(アクセラレータ)の語る言葉は、信頼できた。

 

『話は終わりだ。コーヒー忘れンなよ』

「おう。じゃあなー」

 

そう交わし、通話を切った。

 

「さて。明日は数Aが怪しいかな。あっでも化学もなー、モル計算がなぁ…」

 

上条は明日の考査のことを考える。

正直、不安しかない。

 

考えているうちに、家の前まで来ていた。

ずっと考え事をしていたので、当然コーヒーなど買っていない。

 

「……死にたくないから買ってこよ」

 

上条は道を戻り、コーヒーを買いに行った。

時間は昼の十二時、小学生すら下校していない。

 

 

 

一方通行(アクセラレータ)ぁー、買ってきたぞ…………って、何だその服」

「うるせェ殺すぞ」

 

コーヒーを買い一方通行(アクセラレータ)のもとを訪れた上条だたが、そこで奇妙な光景を目にした。

 

あの()()()()()()一方通行(アクセラレータ)様が、執事服を身に纏っていたのだ。

 

「おい、いろいろ肩書きが余計だ」

「それは置いといて、その服は何だ?あの、いつものシャツはどうした?」

「あー……なンかあの金髪ドリル女が「ずっとこの服を着続けていた!?そんなの不潔の極みですわ!!」とか言って取り上げやがった。男物の服が執事(オーギュスト)のしか無かったってンでこれを着てやってるだけだ。勘違いすンじゃねェぞ、俺は「ずっとこのデザインの服を着続けていた」ってだけでちゃンと洗濯して着まわしてたし、アイツらの執事になった気はねェ」

 

意外と家庭的な彼の性格が明らかになった。

あの()()()()()()一方通行(アクセラレータ)様はイクメンだったのだ。

 

「だから肩書き余計だっつってンだろォが」

 

上条は思う。

 

それにしても、執事服が似合う。

いや、恐らく執事服が似合うのではなくYシャツが彼に似合うのだろうが、執事服のジャケットがまた彼に映える。

 

せっかくなので、上条は、賭けに出た。

 

「___なぁ、一方通行(アクセラレータ)。無理は承知で頼みがあるんだが」

「なンだ」

「その_____執事っぽいことやって」

「断る」

 

予想通り断られた。

逆にここで断らない一方通行(アクセラレータ)とは何なのだろうか。

 

だが、どうしても見てみたい。

なぜだか知らないが、上条はそう思った。

 

「頼むよ、な?どんなふうにやるかは任せるからさ」

「知るか」

 

一方通行(アクセラレータ)は一向に話を聞こうとしない。

そこまで執事演技に執着する必要はないのだが、何かが上条に語りかけていた。

お化けだろうか。

 

そして、上条はイチかバチかの手に出ることにした。

 

「____あー、喉乾いたなー。おや、こんなところに手頃なコーヒーが…」

「テメェ、ブチ殺されてェか?」

「ならやってくれ。それなら、このコーヒーの安全は保証する」

 

だが、一方通行(アクセラレータ)にそんな甘い手が通用するはずもない。

今の彼には、全盛期の能力が蘇っているのだから。

 

ばひゅん、と疾風が発生した。

足裏のベクトル反射によって超加速した一方通行(アクセラレータ)は上条に迫り、コーヒーを手から弾いた。

そのコーヒーを落ちるまえにキャッチする。

 

「うわ、ちょ」

「どォした、こンなもンだったかァ?」

 

上条の完全敗北であった。

 

「いきなりでびっくりしたんだよ!くっそぉ、時間制限のないコイツってこんなに厄介だったか……?」

 

そう、先日の一件の最中、一方通行(アクセラレータ)の能力は回復したのだ。

どうして回復したのかは不明だが、

 

「___使えるもンを使ってるまでだ」

 

そう、吐き捨てた。

 

「でもお前さ、その服正直どうなんよ?」

「そォだな………なンか、堅っ苦しい感じがする」

「そうか。じゃあ今度休みの日に買いに行こうぜ」

 

そう約束し、部屋を出ようとする。

 

その瞬間、何かにぶつかった。

ルヴィアだった。

 

「ってぇな………お前かよ!よく前見て_____」

 

顔を上げてルヴィアの顔を見た時、言葉が止まった。

とても慌てている様子で、顔からは数滴の汗が滴っていた。

 

「ルヴィア?何かあったのか!?」

「次からは気をつけますわ……それより!」

 

ルヴィアは何事もなかったかのように立ち上がり、言った。

 

11体目(エルフ)黒化英霊(サーヴァント)が確認されましてよ!」

 

 

 

「ということで、みんな。11体目が現れた」

「………………」

「これまでと同様クラスはわからない。万全の準備で行くぞ」

「………えっと………………」

「だが、俺ら高校生組はテスト真っ只中だ」

「………………ん」

「だから深夜にあんなことすると色々と問題になるんだが__先生、どうすればいいですか?」

「そうね………明日は面倒な科目が揃ってるから、帰ってきてからゆっくり休めばせめてもの助けになるかしら」

 

……………………………

 

「いや、おかしいでしょ!なんでこの話の場に先生がいるのよ!?」

 

突っ込まずにはいられなかった。

 

魔術には秘匿の義務が存在し、一般人には魔術の存在を決して明かしてはいけない。

故に家庭教師である舞弥は、魔術を知ってはならないのだ。

 

正直なところ、上条が舞弥のことを皆に話し忘れていただけである。

 

「いや、それが……ひ、一人ぐらい問題ないだろぉ!?70億分の1だぞ!」

「それでも、魔術の神秘は確実に減退してるのよ!少しは常識を学___」

 

すると、あの、と美遊が声を上げた。

 

「舞弥先生は大人だから、戦力としては大きい。それに………一人くらい、誤差だと思う」

「えぇ…」

 

長らく魔術に触れてきた美遊の言葉を聞いて、クロは呆れ返る。

皆との生活によって作られた感情が、そう思わせたのだろうか。

 

「ごめんなさい。一応、今の状況は遠坂さんから聞いてるわ。三人は問題ないけど、問題なのは当麻くんね。幻想召喚(インヴァイト)は何とか使いこなせてるみたいけど、数件イレギュラーが発生してる。ゼクスアサシンはカードが消失、ツェーンランサーはベガルタを消耗し使える兵装はモラルタのみ……その辺り、考えておいたほうがいいと思うわ。2件だけだし大丈夫だろうと思うかもしれないけど、ベガルタがないということはこれ以上致命傷を負うと本当に死んでしまう。いくら攻撃に特化したモラルタといえど防御に重点を置くほうがいいわね」

「なんだろう…すごい的確な意見で、凛さん達よりもずっと力になるよクロ……」

「確かにそうだけど………何で私に振るのよ?」

 

確かに、凛は「夢幻召喚(インストール)幻想召喚(インヴァイト)をうまく使いなさい」とか、ルヴィアは「あなた方なら余裕ですわ」とか、オーギュストは「私に意見することはありません」とか、バゼットは「レベルを上げて物理で殴ればいい!」とかしか言えなさそうだ。

家庭教師という立場上、確かに舞弥はこれ以上ないサポーターだ。

 

その軽い作戦会議の後、夜の時間がない為上条はさっさと勉強に取り掛かるのだった。

 

 

 

数時間後。

街は静まり返り、暗闇と静寂に満ちている。

 

深夜0時、冬木大橋。

 

上条にとって、ここは特別な場所だった。

彼が始めてこの世界の人間に出会った場所。

今の彼は、ここから始まったのだ。

 

「……………ここか」

 

今回はいつもの4人に加え、バゼットが参戦した。

何でもあの2人は明日のテストがどうとかで、既に就寝している。

 

「遠坂凛とエーデルフェルトは明日テストのようですが…上条当麻、あなたは大丈夫なのですか?」

「俺はいいんだよ。もう、色々……終わってるから」

「なんか物凄い淋しげ……」

 

上条を気にかけるイリヤだが、彼女も数年後には同じことを経験するハメになる。

上条のように勉強を怠っていなければの話だが。

 

「じゃあ、ルビー。行くぞ」

「わっかりましたぁーっ!いやぁ、随分久々ですね。腕がなります!」

 

瞬く間に魔法陣が展開され、光を放つ。

魔法陣は双方の世界を繋ぎ、道を作り出す。

 

「では、久々のぉ〜…………じゃ、じゃ、じゃ、接界(ジャンプ)!!」

 

世界が塗り替えられる。

懐かしい感覚とともに、風景が歪む。

やがて歪みは収まり、敵の姿が露となる。

 

それは、視界を埋め尽くす程の軍勢であった。

 

 

 

 

「おい、何だこれ!?」

 

驚くのも無理はない。

 

英霊(サーヴァント)というのは基本一人のみが召喚される。

イレギュラーが発生したとしても、2人ガ限度だ。

それにもかかわらず、相手は数万の軍勢。

正直どれが本体なのか上条にはわかっていない。

 

「なるほど……これ、多分宝具によるものね。でも_____」

 

早々に勘付いたクロだが、この状況に納得できていなかった。

彼女はその性質上、相手の魔力を感知できる。

もちろん英霊(サーヴァント)のレベルにもなるとその魔力量は尋常ではないのだが、

 

問題なのは、そのような魔力反応が幾つも感知されたことだ。

 

「これ……おかしいわ!」

「どうした、クロ?」

「これじゃあ、並以上の黒化英霊(サーヴァント)が何体も同時に召喚されていることになる!」

「ふむ、そうなるとこれは恐らく宝具の一種………黒化英霊(サーヴァント)の疑似召喚でしょうか。このレベルの軍勢で兵士のあの装備となると予想できる英雄は_____そうか!」

 

仮に、アーサー王がこの軍勢のような疑似召喚系の宝具を所有していたとする。

その宝具を発動させると、名高き円卓の騎士達が瞬く間に召喚されていく。

ガウェイン、トリスタン、ランスロット、ギャラハッド、ガレス、ケイ、パーシヴァル、アグラヴェイン、それぞれ単体が一騎の英霊(サーヴァント)として成立するような英霊(サーヴァント)達がまとめて召喚される。

 

今バゼットが想像している英雄が正しいのならば、これはかつてない危機だ。

その軍勢は幾多もの英雄を臣下とし、世界を蹂躙した。

その戦力は、圧倒的だった。

 

「ッ……身長の低い男を探してください!恐らくその男は戦車(チャリオット)に乗っています!!」

戦車(チャリオット)!?」

 

その言葉を引き金に、5人はそれぞれ別の範囲を見渡し、戦車(チャリオット)の男を捜す。

だが、この数万といる軍勢の中から一人を見つけるのは至難の業だろう。

 

しかし、言うほど至難ではなかった。

その王は、軍勢の中央にいた。

 

「バゼットさん、あれ……!」

 

全員が美遊の指が示す方角に注目する。

 

2匹の雄牛に引かれる巨大な戦車(チャリオット)

可愛らしくも見える幼い身体。

赤くなびくマントと頭髪。

その身体に似合わないような、鋭い剣。

 

「そう。あれこそ、マケドニアの征服王____エルフライダーです!!」

 

『オオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォーーーーーーーーーッッ!!!!』

『Alalalalalalalalalalalalalalaiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!!!!』

 

その少年__エルフライダーの雄叫びと同時に、軍勢が駆け出す。

 

「ッ、来るぞ!!」

 

それと同じくして、上条達も一斉に構えを取る。

 

「__メドゥーサ、幻想召喚(インヴァイト)!!」

 

上条の幻想召喚(インヴァイト)を合図に、他の4人も一斉に駆け出す。

鎌を手にした上条も、その後を追う。

 

 

斉射(シュート)っ!」

 

美遊の一言で、青い魔力が弾幕のごとく軍勢に襲いかかる。

しかし軍勢は盾を所有しており、魔力の弾丸を簡単には通さない。

 

「なら……ツェーンランサー、夢幻召喚(インストール)!」

 

光りに包まれ、美遊の姿が変わる。

光が収まる頃には、ツェーンランサーを夢幻召喚(インストール)した美遊によって数体の兵士が叩き伏せられていた。

 

「槍を二刀流…やったことなかったけど、結構使える!」

 

鋭い槍は、兵士を盾ごと貫いた。

ランサー特有の敏捷性を活かして縦横無尽に駆け巡り、兵士を突き刺す。

彼女の輝く貌は、確実に奴等を捉えていた。

 

 

「____はああぁぁっ!!」

 

アスファルトが砕け、岩剣が振るわれる。

 

ズィーベンバーサーカーを夢幻召喚(インストール)したイリヤは、結んだ髪と晒の結び目をなびかせながら戦場を駆ける。

彼女はズィーベンバーサーカーと一つになっていた。

夢幻召喚(インストール)という意味ではなく、もっと本質的な部分で。

2人を結びつける何かが、兵士達を蹂躙する。

 

「凄い………これが、ギリシャの大英雄…」

 

あまりの強さに、イリヤは震える。

それは恐怖ではなく、驚きだった。

自分はここまでできるのかと、我ながら信じられなかったのだ。

 

「これなら……何も怖くない。あ、ちょっとフラグっぽいかな………」

 

考えているうちに、兵士達がイリヤを包囲する。

しかし、今の彼女は無敵だ。

イリヤは、やれるものならやってみろ、と言わんばかりの清々しい笑顔で岩剣を構えた。

 

「大変だけど………行くよ、バーサーカー!!」

 

 

盾が砕けた。

女性の拳とは思えない程の威力に、歴戦の兵士達も恐怖を覚える。

 

「フッ…フッ…どうした?こんなものなのか、マケドニアの大軍勢は!」

 

恐ろしい速度で繰り出されるパンチは、盾など簡単に砕くものだった。

ルーンで補強された手袋は、相手の刃をも弾く。

 

「はん、まだまだだな。イリヤスフィール達の方が、まだ戦い甲斐があったぞ!」

 

と汗を散らす。

すると突然、飛び散ったその汗を一筋の光線が焼き去った。

 

「ッ!何だ…?」

 

そこにいたのは、一人の男。

手には本を持ち、ローブを身にまとい、長い黒髪をなびかせている。

 

それはまるで、あのロード・エルメロイ二世のよう。

 

「ほう………やりますか?」

 

バゼットは拳を構える。

その奇妙な因縁を感じながら。

 

 

「たぁっ!」

 

クロは両手に持った双剣を投げ飛ばす。

それは左右二体の敵にそれぞれ突き刺さった。

そして、また新しい双剣を投影する。

 

「流石は征服王が率いた兵士達ね、単体の戦闘力も高い……」

 

双剣を持ったまま頭部の汗を拭き取る。

かなり倒したつもりだったが、全く兵士の量が減らない。

 

「ったく、どれだけいるのよ!ひょっとして万単位いくんじゃないこれ?」

 

すると、兵士の群れから一人の男が現れた。

金色の髪は逆立ち、手には長い槍を持っている。

 

その装備と表情だけでクロはわかった。

こいつは、幹部格だ。

 

「なによ、面倒くさいわねっ!!」

 

クロはアスファルトの地面を抉る程の力で駆け出す。

同じく槍兵も駆け出し、クロに迫る。

 

剣と槍が互いの刃を打ち合い、軽快な金属音を響かせる。

クロは苦戦を強いられていた。

相手の槍兵が、想像したよりもずっと強かったのだ。

 

(コイツの動き……なんて、素早い!ランサークラスの英霊(サーヴァント)に匹敵するわよ!?)

 

槍を短剣の如く軽々と振り回し、それでいて獣のようにすばしっこい。

クロが一番苦手なタイプだった。

 

二人は一旦離れ、姿勢を立て直す。

クロが疲労している中、槍兵は以前と獣のような低姿勢を維持している。

 

「しょうがないわね……本気、見せてあげる!」

 

そう言い放ち、クロは双剣を投げる。

ただし投げられたのはニ対

槍兵は槍を構え、意識を研ぎ澄ます。

 

「山を抜き、水を割り、なお墜ちることなきその両翼______」

 

しかし、ニ対の双剣に気を取られたせいか、背後に転移した気配に気付けない。

 

「_____鶴翼三連ッ!!」

 

 

 

火花が散る。

それは花びらのように舞い、消える。

 

エルフライダーへの道を塞ぐ兵士を次から次へと薙ぎ倒し、着々と道を切り拓いてゆく。

しかし王を守護する兵士達を上条一人で捌ききれる訳がなかった。

 

「くっ…流石は近衛、量が洒落になんねぇ……!」

 

いくら幻想召喚(インヴァイト)を用いたとしても、相手は兵それぞれが英霊(サーヴァント)一騎相当の戦闘力を保有している為攻略は容易ではない。

高校生一人では尚更だ。

エルフライダーはただ一人、苦戦する上条達を戦車(チャリオット)の上から見下ろしていた。

そんなエルフライダーに、上条は苛立ちすら覚えた。

 

「野郎……」

 

すると、兵士達の表情が一変する。

上条の視界外から長髪とオールバックの二人の男が現れたのだ。

 

だが、その二人は既にぼろぼろだった。

長髪の男は顔面を中心とした全身に痣を作り、オールバックの男も背中を中心に大きな切り傷を負っていた

 

「苦戦しているようで」

「大丈夫?一気にやっちゃうわよ!」

 

背後からクロとバゼットが現れる。

あの二人は彼女達が相手をしたのだろう、と上条は納得した。

自分なんかよりもよっぽど過酷な戦いを勝ち抜いてきた彼女達だ、戦えて当然だろう。

 

「でも、アイツの護衛はなかなか手強いぞ」

「さすがに三人集まれば行けるわよ。さあ、構えて!」

 

そう言い、構える。

三人で連携を取れば確実に勝算はある。

 

すると、

 

『…………___』

 

何かを、喋った。

 

すると、エルフライダーの軍勢が瞬く間に消滅していく。

いや、これは()退()と言った方が正しいか。

そして、それはエルフライダーの戦車(チャリオット)も同じだった。

 

「軍勢が……!?いや、これは…」

「アイツ……タイマン張る気か!」

 

その言葉が図星だったかのようにエルフライダーは笑みを浮かべる。

少年のような可愛らしい笑みが、彼等にはどことなく狂気じみて見えた。

 

そして、

スパン、と王は駆け出した。

 

「速い!?」

 

子供とは思えぬ速度でエルフライダーは上条へ迫る。

 

剣が振り下ろされる。

上条はそれをハルペーで防ぐが、力強いこの剣戟を受け続けてはハルペーの細い柄ではとても耐えられまい。

それに加えて、剣は雷を帯びていた。

 

「畜生…嘗めやがって……!」

 

その剣筋から伝わる気。

エルフライダーが少年の姿でありながらも、紛れもない王の気迫を感じた。

あまりの風格に、上条は押し潰されそうになる。

 

「タッ!!」

 

それを救ったのはバゼットだった。

鋭い回し蹴りがエルフライダーの頭部を蹴り飛ばす。

 

だがエルフライダーも受け身を取り、着地と同時に同じような俊足で動く。

 

「行かせない!」

「コンビネーション攻撃よ!」

 

上条を守るように飛び出たのはイリヤとクロだ。

雄々しい岩剣を振るうイリヤの背後から、クロの投影した無数の剣が迫る。

剣はイリヤに追従するように、エルフライダーを襲う。

 

『______!!』

 

だが、エルフライダーはそのタイミングで剣の雷を一気に加速させた。

現れた巨大な光刃は、まさに”雷”。

神の従える天罰の具現化にも相応しい雷撃であった。

 

「ッ____あああぁぁっ!!」

「イリヤ!」

 

全身が焼け焦げたイリヤにクロが寄り添う。

 

宝具に負けじと劣らない雷撃を放ったエルフライダー。

やはりこれまでの黒化英霊(サーヴァント)同様、生半可な気持ちでは済まない。

 

「なら……これでどうだ」

 

上条は幻想召喚(インヴァイト)を解き、新たにクラスカードを手に取る。

それは上条用にイリヤから渡されていた数枚のうちの一枚。

クラスは_______セイバー。

 

「___来い、アーサー!!」

 

光が溢れる。

この一定時間のみ、上条は完全な無抵抗状態となる。

その隙を、エルフライダーは見逃さなかった。

 

即座に剣を構え、光へと進む。

剣は雷と化し、確実に上条を焼き払わんとする。

 

だが、コンマの差でエルフライダーは遅かった。

 

「__残念だったな、王様」

 

エルフライダーの目の前に現れたのは、

 

「生憎、素手は俺の最強武器だ」

 

白銀の拳だった。

 

顔面に直撃した拳は、エルフライダーを数メートル吹き飛ばした。

剣は彼方へ飛び去り、エルフライダーは先程の笑みを失い、鼻から垂れた血を拭う。

 

上条が幻想召喚(インヴァイト)したのはフュンフセイバー。

アーサー王と、かの戦神にどのような縁があったのかは知らない。

だがソレは、紛れもなくこの場に存在している。

銀色の腕(アガートラム)。それが今の彼の宝具だ。

 

剣を摂れ(スイッチオン)_____」

 

そこからは、上条の独壇場だった。

アガートラムは右腕のみ。

幻想殺し(イマジンブレイカー)を宿す上条にとって、これ以上ない条件だった。

 

剣の無くなったエルフライダーは、例えるなら”針を放したミツバチ”。

ミツバチは毒針を持つが、その毒針には返しがあり、一度刺すと針と繋がった毒袋とともに体外へと放たれる。

そうなってしまっては、強者が溢れるこの世界で、弱者(ミツバチ)もう何者も刺すことはできない。

 

今のエルフライダーはまさにそれだ。

上条の右腕喧嘩の腕は並ではない。

”頂点”すら屈服させたその豪腕に、古代の王が武器もなしに敵うはずがなかった。

 

そして、いまのエルフライダーには軍勢がない。

 

ミツバチは、スズメバチに勝つことができる。

大勢のミツバチでスズメバチを囲むことで高熱を発生し、中のスズメバチを蒸し殺す。

その行為に針は必要ない。

 

いくら武装を持たずともエルフライダーの軍勢はそれこそ無数。

上条がいくら強力な針を持とうと、数で押し切れたはずだ。

 

調子に乗って軍勢を退かせたことが裏目に出てしまったのだ。

 

しかし、それと同時に上条も失念していた。

 

例え相手が丸腰の子供だとしても、それは紛れもない黒化英霊(サーヴァント)

その身体能力は、彼の想像を遥かに上回る。

 

「なッ…そうか、しまった!」

 

エルフライダーは高い跳躍で上条の元を離れる。

向かった先には_____あの剣。

あれが手元にある限り、奴は「王」だ。

 

赤原猟犬(フルンディング)ッ!!」

「クロ!」

 

クロの放った矢が、音速でエルフライダーに迫る。

そう、奴が剣を取りさえしなければ。

勝機は、ある。

 

だが、遅かった。

 

「_______!」

 

矢は、剣によって弾かれた。

 

「畜生、渡っちまったか…なら!」

「あっちょっと、とうま!?」

 

上条は強引にクロの弓矢を奪い取る。

そしてそれを即座に構え、狙いを定める。

この銀腕ならば、矢を引く力も相当なものだ。

 

立ち尽くすクロ。

浮遊するイリヤ。

空間を蹴る美遊。

駆けるバゼット。

嗤うエルフライダー。

立ち込める暗雲。

 

その暗雲から、

上条目掛けて、雷が落ちた。

 

「あああああああああァァァァァァッ!!!?」

「とうま!」

 

空中のイリヤが、上条の叫びで振り返る。

しかし、そこには大きな隙ができる。

その隙を狙って、エルフライダーは雷撃を放った。

 

「ッ、あ_____!!」

 

まるで電線に触れた(カラス)のように。

黒く焼け焦げたイリヤが、呆気なく墜落する。

 

そして、上条も倒れ伏した。

からん、と弓矢が音を立てて落下する。

 

「二人共、気をつけて、アレは_____」

「ええ、まるで____雷神()()()()

 

そう、其れは雷神の子。

雷神の剣を振るいし、神の遺伝子。

暗雲など自らの腕に等しい。

あらゆる王を薙ぎ払い、果てへと至る「王」が、そこにはいた。

 

「美遊、二人をお願い。行くわよ、バゼット!」

「言われなくとも」

 

二人は双方に分散し、雷鳴轟く戦場へと突入する。

一方美遊は、上条に寄り添う。

 

「当麻さん…起きて……ッ!」

 

もう、誰も失いたくなかった。

自分が死ぬのは一向に構わない。

それで、誰かの役に立てるのなら。

だが、人が死ぬのを見るのは、もうごめんだ。

 

なにより、

この青年は、まるで「お兄ちゃん」のような_______

 

「……………」

「あぁ、よかった……当麻さん、わかりますか?」

 

上条は目を開けた。

美遊は必死に上条に呼びかける。

 

すると、声に応えるようにゆっくりと上条の身体が起き上がる。

 

「当麻さんとイリヤ、あの雷に打たれて……一先ずあの二人に任せてあります。当麻さんはゆっくり休んで_____」

 

そして、そのまま立ち上がった。

 

「…、当麻さん?」

 

どこか、遠くを見ていた。

声が聞こえているのかすらもわからない程ぼーっとしている。

立ち上がる余裕なんて、とてもないはずなのに。

 

あの雷が、彼の心臓を刺激した。

そして、彼の中に眠るモノが目を覚ます。

 

「まさか_______ゼクスアサシン!?」

 

一方通行(アクセラレータ)との戦い。

消失したゼクスアサシンのカードは、直前に幻想召喚(インヴァイト)していた上条に吸収されたのではないか、と一度考えた。

だがそれは所詮考察程度のものであり、確固たる証拠はなかった。

 

だが、今回のではっきりした。

彼は上条ではない。

取り込まれたゼクスアサシンが雷の衝撃で目覚めたのだ。

 

そして何より、

目の色が違う。

 

「あっ____」

 

一歩、彼は踏み出した。

それを見て、美遊は思わず声を漏らす。

 

だが、その声は途切れた。

彼から漂うオーラが、「死」を予感させていたからだ。

 

「くそっ、何よこのカミナリ!危なっかしくて近寄れやしないじゃない!」

「あの剣に雷の力が宿っているなんて聞いたこと無い____英霊になるにあたって、新たな能力が付加されたか?」

 

その雷撃が剣の力なのかはわからない。

だがバゼットの推測通りならば、エルフライダーはアメンの子、すなわち同一視されるゼウスの子であるという神託を得ているのだ。

そう考えると、あの雷の力は妥当かもしれなかった。

 

クロに雷撃が放たれる。

かなり疲労していたが、躱す余裕はあった。

 

「キリがない______!」

 

後ろに飛び退くクロ。

すると、視界の端に青年の姿が見えた。

 

「ちょ、何やって______」

 

そして、絶句する。

青年の握る剣、それが目に入ったからだ。

 

「ッ、上条当麻!?下がりなさい、いくらその幻想殺し(イマジンブレイカー)があったとしても、純粋な凶器には敵わない!」

 

バゼットが上条に叫ぶ。

 

否、この青年は上条当麻に非ず。

その目が捉えるのは、「敵」のみ。

 

これを格好の獲物と捉えたのか、エルフライダーは雷撃を放つ。

 

だが、その剣によって、雷撃は呆気なく相殺された。

 

「_____ッ!?」

「我に剣を向けるか。その強さは認めよう。だが我とて、神罰を受ける程愚かな生は送ってはおらぬ」

 

全く違う口調。

青白く輝く瞳。

消えたアサシンのカード。

 

「まさか_____あれが、ゼクスアサシン?」

 

エルフライダーは恐怖した。

だが恐怖に負けず、剣を振り下ろす。

 

「我は汝に死を告げる者。我が現れし時は、晩鐘鳴りし時」

 

その剣戟を、的確な動作で弾き返す。

悠々と語りながらも、その剣はしっかりと攻撃を防いでいた。

 

「____愚かな。確実となった死を前に抗い続けるか」

 

ほんの僅かな隙を狙って、再び剣を弾き飛ばす。

この至近距離で武器を失っては、勝ち目はない。

 

「無駄だ。貴様は死ぬ。我が剣によって」

 

ほろり、と。

エルフライダーが涙を流した気がした。

 

だが、そんな水滴の一粒で心を乱される彼ではない。

 

「天使は降りた。晩鐘の音の元に、汝が命を天へ還さん_________死告天使(アズライール)

 

そして、「死」が振るわれた。

 

ぼとり、と首が落ちる。

胴体だけとなったエルフライダーは、もはや倒れるだけだった。

 

身体が消え去った後には、一枚のカードだけが残った。

 

「上条当麻、貴方は______」

 

上条ではない彼に、バゼットが声をかける。

 

その瞬間。

彼は倒れた。

 

「とうま!?」

 

武器を消滅させたクロが上条に駆け寄る。

先程の剣が消滅しているのを考えると、幻想召喚(インヴァイト)が解けたということだろう。

瞼を開いてみても、黒い瞳をしている。

 

だが、納得できなかった。

あの力は______

 

「あのアサシンは、一体何なの………?」




もっとペース詰めていきたいですね…

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