戦姫絶唱シンフォギア+ 〜それでも、前を向く〜   作:まどるちぇ

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第6章 弱くても、前を向く

 数日後。

 翔と弦十郎の特訓は実を結びつつあった。

 

「ハァッ!」

 

「でりゃあッ!」

 

 弦十郎の渾身の正拳突きは翔の右手に防がれた。防いだ翔の右手は真っ赤なバリアで覆われている。

 

「中々様になってきたじゃないか!」

 

「はい!とりあえず、限りなく一部に集中させることはできました」

 

 右手のバリアは密度が上がっているせいかとても色が強く、グローブやバンテージのように手の形にフィットしている。

 

「いいぞ!おまけに体術の稽古もつけてやるからな!気合い入れていけ!」

 

「押忍ッ!」

 

 翔は弦十郎の熱気にすっかり当てられ、少年漫画の主人公のようにひたすら特訓に明け暮れた。

 

「心なしか顔つきも良くなってきたな?どうだ?モテるだろ?」

 

「月一だったラブレターが週一になる程度には」

 

 冗談めかした弦十郎の問いに、翔は真面目に答えた。

 

「ハッハッハ!思ったより人気者だな!」

 

「でも、俺にはノイズから皆を護る役目があるから……」

 

 翔が動きを止めるのを見て、弦十郎も構えを解く。

 

「俺なんかを好きになってくれるのは嬉しいんですけど……やっぱり、申し訳ないって言うか、俺はその人を好きになれないって言うか。……俺の好きな人は、今も昔も変わらないから」

 

 翔は弦十郎に聞こえないような声で呟いた。

 

「……ふ。贅沢な悩みだ、ソレは」

 

「話が逸れましたね。特訓を再開しましょう」

 

 翔が再び構える。

 

「おう!行くぞ!」

 

 prrrr……prrrr……

 

 二人の勢いを削ぐように弦十郎の携帯が鳴った。

 

「俺だ。……分かった。ああ、目の前にいるよ。すぐに向かう」

 

 そう言って弦十郎は携帯を切り、翔の方に向き直る。

 

「悪いが、修行は中止だ」

 

「なんかあったんですか?」

 

「了子君が八尺瓊勾玉に関して新しい発見をしたらしい。これから確認に向かうから、君にもついてきてもらうぞ」

 

 翔は頷き、弦十郎に続いて二課の指令室へ向かった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 指令室に着くと、響と翼を除く二課のメンバーが二人を出迎えた。

 

「久しぶりね翔君。ちょっと見ない間にイイ男になったんじゃない?」

 

 了子は翔と目が合うなり早速絡んできた。

 

「そ、そうなんですか?弦十郎さんにも言われたけど、俺自身あんま自覚無くて……」

 

「そういうもんなのよ。さ、早速本題に入るわね」

 

 了子はそう言って真剣な表情でディスプレイに映像を映し出した。ディスプレイには先日見た八尺瓊勾玉のデータが浮かび上がる。

 

「八尺瓊勾玉はその名の通り勾玉。なんだけど、とうやらそれ単体では本来の性能を発揮できないみたいなの」

 

「本来の性能……?あの赤色のバリアは本来の性能じゃないのか?」

 

 弦十郎が尋ねると了子は頷き、次の画面を映した。

 

「八尺瓊勾玉は三種の神器の一つ。天叢雲剣、八咫ノ鏡の二つと揃って初めて真の力を発揮できるという説が、私の研究の中で導き出された結論よ」

 

 了子が示した画面には、剣のシルエットと丸い鏡のシルエットが八尺瓊勾玉と強く反応を示すエフェクトが表現されている。

 

「あれでまだ100%じゃなかったのか……」

 

 翔はペンダントの八尺瓊勾玉を見て、内心興奮に打ち震えていた。

 

「それで、残りの二つの行方は……?」

 

 弦十郎の問いに、了子は首を横に振る。

 

「ぜーんぜん分からないわ。どこにあるのか、誰が持ってるのかもね」

 

「……そうですか」

 

 翔は残念そうに目を瞑る。

 

「気を落とすことばかりじゃないわよ。三位一体の完全聖遺物なんて歴史的な大発見だし、実際起動には他の完全聖遺物の三分の一程度のフォニック・ゲインで良いから、燃費は凄くいいわよ。それこそ翔君がたった数日で使いこなせる程度にはね」

 

「…………」

 

「ここまで使いこなせたのは翔君の努力あってこそだがな」

 

 落ち込む翔を励ますように、弦十郎は翔の背を軽く叩いた。

 

「……ありがとうございます」

 

 その場に少し沈黙が流れる。

 

「八尺瓊勾玉について分かったことはそれだけじゃないわ。むしろ次が大本命なの。これは驚くわよ〜!」

 

 了子が空気を変えるようにキーボードを叩いて画面を進める。

 

「!?これは……!」

 

 翔はディスプレイに食い入るように見入った。ディスプレイには、勾玉が槍や剣へと姿を変化させる映像が流れている。

 

「八尺瓊勾玉のもう一つの効果。それは『模倣』、つまり既存の聖遺物の性質や形を真似ることができる性質」

 

 ドクン

 

 翔の心臓が強く脈打つ。

 

「本来は勾玉単体だとフォニック・ゲインを溜め込むだけで武器や防具としては意味を成さないの。さっき言った二つの聖遺物の起動を補助する道具として存在していたからね」

 

 ドクン

 

「それを考慮してか、八尺瓊勾玉単体の性能として様々な武器に形を変えたという事実が様々な文献で報告されているわ」

 

「しかし、翔君が使っているバリアのようなものは……?」

 

「恐らくだけど、八尺瓊勾玉が直前に模倣していた聖遺物の性質か、翔君が他の聖遺物をイメージできずにフォニック・ゲインの塊が半ば暴走する形で現出していたと考えるのが妥当ね」

 

 ドクン

 

 翔は鼓動が大きくなるのを感じ、胸の辺りを掴む。

 

「ってことは……俺が正確な聖遺物のイメージを掴むことができたら……?」

 

「ご明察の通りよ。ガングニールを、奏ちゃんの力を使えるわ」

 

 ドクン!

 

 心臓が一際強く跳ねるのを翔は感じた。

 

「……了子さん!俺!」

 

「はいはい分かってるわ。その為の効率的なプログラムももう組んであるわよ」

 

 強く迫る翔を宥めるように了子はUSBをチラつかせた。

 

「……あ、あれ?おかしいな」

 

 翔は視界が歪むのを感じ、自分が涙を流していることに気付いた。

 

「!」

 

 弦十郎が思わず目を見張る。

 

「俺、泣くつもりじゃ、無かったのによ……。う、うぅ……」

 

 涙が止まらない。唇が痙攣して呻き声のような音が漏れる。

 

「感激するのはまだ早いわよ。模倣には、八尺瓊勾玉の起動以上のフォニック・ゲインが必要になってくるわ。それに、相当量のイメージトレーニングもね」

 

「……押忍ッ!」

 

 翔は涙を拭って力強く答えた。

 

(これで、奏姉に近付くことができる!前に進めるんだッ!)

 

「そのためには、翼ちゃんや響ちゃんの歌をたーっぷり聞かないとね、弦十郎君?」

 

「……ああ。そろそろ使い物になってきたことだしな」

 

 弦十郎はニヤリと笑い、翔の頭に手を置いた。

 

「??それってどういう……?」

 

 弦十郎は翔の正面に立って咳払いを一つした。

 

「天城 翔君。君を特異災害対策機動部二課の職員として、正式に入隊をお願いしたい。俺たちと一緒に、ノイズから人々を護ってくれないか?」

 

 弦十郎はそう言って手を差し出した。

 

「…………」

 

 翔は呆気に取られたまま差し伸ばされた手と弦十郎の顔を交互に見た。

 

「俺たちには、君の力が必要だ」

 

「ッ!」

 

 翔は、久しぶりにその感覚を思い出した。

 誰かに必要とされる。誰かが自分の力を認めてくれる。様々な感情が渦になって翔の心を埋め尽くした。

 

「……はいッ!よろしくお願いしますッ!」

 

 手を握る。力強く握り返された。

 その場に小さな喝采が沸き起こる。

 

「おめでとう翔君!」

 

「改めて宜しく!」

 

「おめでとうございます!」

 

 友里、藤堯、緒川も拍手をしている。

 

「ノイズと対峙するというのは、ノイズから人々を避難させることよりも数倍危険なことだ。了子君の特訓と共に、俺も組手で稽古してやる。覚悟しとけ!」

 

「押忍ッ!」

 

 翔は深々とお辞儀をした。

 

(奏君の名を出した途端にこの感情抑制の欠如……。なんとなく仮面の継ぎ目が分かってきたぞ……)

 

 弦十郎は冷静に翔の変化を捉え、一人考察に耽る。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「つ、疲れた……」

 

 翌日。放課後の教室で翔は机に突っ伏して天日干しのように項垂れていた。

 

「了子さんと弦十郎さんのダブル特訓……。体が保たねえよ……」

 

「うわ!翔どうしたの?」

 

 死人のように動かない翔を見兼ねて靡が声をかける。

 

「うーん。いや、なんだ。色々と疲れててな。詳しくは言えないんだけど……」

 

「そうなんだ。ま、いっか。顔色は悪くないし、いつもよりイキイキしてるもんね」

 

 靡はそう言ってニッコリと微笑む。

 

「ね。今夜暇?何年に一度かの流星群が見れるらしいんだけど」

 

「流星群……?」

 

 翔はその単語に聞き覚えがあった。思い出そうと記憶を探ってみるが、立て続けの特訓に押し潰されて検索を断念した。

 

「忙しかったらいいんだけど。気分転換も必要かなって思って」

 

「そうだな……。確かにここのところずっと特訓続きだったし、靡の言う通りかもな。ちょっと待っててくれ」

 

 翔は立ち上がって携帯を取り出し、教室を出た。

 

「…………」

 

(バイトとかなのかなあ?家計が苦しいとか?でも、そんな感じじゃないし……)

 

 独り教室に取り残された靡はアレコレと思考を巡らせる。

 

(奏さんが亡くなってから大分経つけど、翔ずっと無理してきてる。私には分かるもん。その翔が、ぐでーってなってるけどいつもより楽しそうな顔してる……。なんだか知らずに置いてかれちゃうみたいでちょっと怖いな……)

 

 靡は翔の境遇を知り、間近で翔を見てきたが故に最近の翔の変化を嬉しく思った。反面、翔だけが変わっていくことに、少し物寂しさも感じている。

 

「お待たせ。今日は大丈夫だぜ」

 

 電話を終えた翔が教室に戻ってきた。

 

「本当!?やったあ!」

 

 靡は飛び跳ねて喜んだ。

 

「なんだよ?そんなに流星群見たかったのか?変な奴……」

 

 翔は無邪気に喜ぶ靡を見て、思わず笑みが零れた。

 

(まるで立花さんみたいだな……ん?立花さん……流星群……そっか)

 

 翔は記憶の奔流から答えを見つけ出し、合点した。

 

「夜までまだ時間あるし、どっかで時間潰そうよ!こないだ駅前にできたパン屋さんがいい感じで……」

 

「はいはい。パン屋は逃げねーからゆっくり行こうぜ」

 

(懐かしいな、この感じ)

 

 翔は久々の日常に身を溶かしていった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 リディアン職員室前。

 

「響まだかな……?」

 

 職員室前の廊下を、未来は右往左往していた。しばらくして職員室の扉が開き、響が出てきた。

 

「どうだった!?」

 

「壮絶に字が汚いってー。まるでヒエロなんちゃらみたいだって」

 

「じゃなくて、結果は?」

 

 未来の問いかけに、響はピースサインで答えた。

 

「ギリギリOKだって!これで流星群見れるー!」

 

「コラ立花!廊下で騒ぐな!」

 

 職員室から担任の怒鳴り声が響く。

 

「えへへ……怒られちゃった」

 

 響は舌を出して後頭部を掻いた。

 

「うふふ。鞄教室でしょ?持ってきてあげる」

 

 未来はそう言って教室に戻ろうとした。

 

「あ、いいよ!自分で……」

 

「響は頑張ったから、そのご褒美!」

 

 未来はそう言って嬉しそうに手を振った。

 

 piririririri……piririririri……

 

「!」

 

 響の携帯から、不穏な着信音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「ノイズが!?」

 

 電話越しに翔が叫ぶ。

 

「?」

 

 靡はパンを咥えながら翔の後ろ姿を見ていた。

 

「はい、はい……。分かりました。幸い近くにいますので。すぐに向かいます」

 

 翔は電話を切り、ため息を吐いた。

 

「悪い、靡。ちょっと急用が入っちまって……」

 

「!そっか……」

 

 靡は目を伏せる。

 

「本当にスマン!また埋め合わせするから!」

 

「い、いいよ別に!翔の気分転換になればって思っただけだから……」

 

「そ、そっか。悪いけど急ぐわ。あ、あとリディアン前の自然公園の地下鉄駅近くには寄るなよ!ノイズが出てるらしいから」

 

 それだけ言って翔は駆け出した。

 

「……なんでそんなこと知ってんだろ?」

 

 独り残された靡はぽかんと口を開けていた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「もしもし、弦十郎さん!?」

 

 現場へと走りながら、翔は弦十郎に電話をかけた。

 

「どうした?何か問題か?」

 

「いえ!ただ、立花さんも呼んだのかって……」

 

 翔は響とその親友との約束を思い出していた。

 

「ああ、呼んだが……」

 

「今すぐ要請を解除して下さい!ここは俺一人でなんとかします!」

 

「な!?何を考えてる!?翼だって到着に十分以上かかると」

 

「立花さんには、守らなきゃならない約束があるんです!でも立花さんは、きっとそれを反故にしてまでも駆けつけます!それじゃ駄目なんだ!」

 

 翔の迫力に弦十郎は一瞬面食らう。

 

「し、しかし……やれるか?」

 

 弦十郎は言葉を飲み込み、覚悟を決めた。

 

「やってみせます!俺の全てを賭けて!」

 

「!……分かった。但し条件が一つ。絶対に生きて帰ってこい!」

 

「押忍ッ!」

 

 それだけ言って翔は電話を切り、急いで響にかけ直した。

 

「もしもし立花さん!?」

 

「あ、翔さん!ノイズが……」

 

「ああ!ここは俺と翼さんでなんとかするから、立花さんは安心して流星群見に行ってくれよ」

 

「なっ!?馬鹿なこと言わないで下さい!二人を放って私だけそんなこと……」

 

「親友との約束ってのはそんなに簡単に破れるもんなのかよ!?」

 

「!」

 

 翔は立ち止まり、通話に集中した。

 

「人助けをしたい気持ちは分かる。誰かが危険だと分かっていながら、何かに集中することなんてできないのも分かってる!それでも、君は前を向け!ノイズなんかに大事な約束を破られてたまるか!君は君のやるべきことをやるんだ!」

 

「……翔さん。でも……」

 

「信じてくれ。俺と翼さんを」

 

「……できません!やっぱり、誰かを置き去りにして得た幸せは、偽物な気がするんです!だから!」

 

 そこまで聞いて翔はハッと顔を上げた。目の前には肩で息をしながら携帯を片手に持つ響がいた。

 

「私も一緒に闘いたいんです!」

 

 Balwisyall Nescell gungnir tron……

 

 響の歌声に反応してシンフォギアが起動する。

 

「はあー……分かったよ。んじゃ、5分で終わらせる方向で」

 

 響は頷き、ノイズがいるであろう地下鉄駅のホームへと降りて行った。翔も続いて飛び降りる。

 

「絶対に……離さない この繋いだ手は」

 

 階下では大量のノイズが響達を待ち構えていた。

 

「こんなにほらあったかいんだ ヒトの作る温もりは 難しい言葉なんて要らないよ 今、分かる 共鳴するBrave mind!」

 

 響はノイズの群れに遮二無二特攻する。翔は八尺瓊勾玉のバリアを極限まで両手に集中させ、ノイズを殴り倒していく。

 

「ずっとずっと漲ってく 止め処なく溢れていく 紡ぎ合いたい魂 100万の気持ち さあ!ぶっ飛べこのエナジーよ!」

 

(今までの立花さんと違う。体捌きとかはまだたどたどしいけど、それでも軸がしっかりしてる。こりゃ足を引っ張るのは俺の方かもな)

 

「開放全開!いっちゃえHEARTのゼンブで 進むこと以外答えなんてある訳がない」

 

 二人は次々とノイズ達を炭へと還していく。すると、奥で激しい爆発音がした。

 

「なんだ!?爆発?」

 

 翔が音のした方へ向かうと、異形のノイズがそこにいた。羊のようなフワフワとした輪郭。大粒の葡萄のようなピンク色の球がいくつもくっついている。

 

「お前がボスか。覚悟しやがれ!」

 

 翔は葡萄ノイズに突っ込む。

 

「待って翔さん!なんだか嫌な予感が」

 

 葡萄ノイズの一粒が地面に落ち、翔の方に転がった。

 

「!」

 

(なんかヤベェ……)

 

 翔は直感的に脅威を察知し、転がった球の方にバリアを集中させた。

 

 ドゴオオォォン

 

 凄まじい轟音と共に翔が後方へ吹き飛ばされる。

 

「翔さん!」

 

 響が壁に激突した翔に駆け寄った。

 

「俺は、大丈、夫……。それよりノイズを」

 

「全然大丈夫じゃないです!だって、血が……」

 

 翔は後頭部をコンクリートに打ち付けたらしく、壁にドロリとした血が滲んでいた。

 

「こんなもん、なんてことない!早くアイツを……」

 

 葡萄ノイズはその粒を次々と地面に落とし、翔達に転がした。

 

「!マズい!」

 

「のわっ!?」

 

 翔は響を抱き寄せ、バリアを張り直した。直後に凄まじい衝撃が体全体を打つ感覚に襲われる。

 

「……ッ!」

 

(護、る……ッ!)

 

 朦朧とする意識の中で、翔はそのことだけを考えた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「……ん?俺は……?」

 

「気が付いたんですね!良かった……」

 

 翔が目を覚ますと、自然公園の芝生の上で寝転がっていた。ノイズの姿は無く、代わりに翼がこちらを覗き込んでいた。

 

「翼さん……。そっか。翼さんがあのノイズを……」

 

「立花に感謝することね。気絶した貴方を必死に護りながらここまで運んだのだから」

 

 翼は冷たく言い放つ。

 

「ともかく目が覚めて良かったです!さあ、病院に行きましょう!」

 

 響は翔を抱き起こし、肩を担ぐ。

 

「……立花。それと天城」

 

 翼が二人を睨む。

 

「貴方達はノイズ討伐の任を離れなさい」

 

「なっ……」

 

「なんで……」

 

 二人は聞き返した。

 

「このままでは命を悪戯に削るだけ。強大な敵が現れた時、命を落とし兼ねないわ」

 

 翼は二人に背を向けた。

 

(もう犠牲者は出さない……。奏、私は片翼だけでも飛んでみせるッ!)

 

「私にだって……」

 

 響が俯いて泣き出しそうな声で呟く。

 

「私にだって、護りたいものがあるんですッ!それはなんでもない日常で、私の絶対に帰る場所で……」

 

 

「なんでもない日常?帰る場所?」

 

 

 突然響いた声に、三人は辺りを警戒した。

 

「欠伸も出ねぇ程眠てぇこと言ってんじゃねぇ!」

 

 森の茂みからこちらに歩み寄る人影が一つ。

 

「あれは……シンフォギア?」

 

 翔は人影が月明かりに照らされた姿を見た。同い年くらいの少女が、真っ白な鎧に身を包んでいる。

 

「馬鹿な!?あれはネフシュタンの鎧!?」

 

(奏の最後の歌と引き換えに起動した完全聖遺物……。なんという残酷な運命だろう)

 

 翼は一人合点のいった顔で謎の少女を見つめた。

 

「あるお方からの命令でな。そいつらを奪いにきたんだよ」

 

 少女は翔と響を指差して言い放った。

 

「俺たちを……?」

 

「奪う……?」

 

「そんなこと、私がさせると思うの?」

 

 翼は剣を構える。

 

「さあな。まずは一筋縄でいくかどうか……試させて貰う!」

 

 謎の少女が翼と剣を交えた。




次回予告
ネフシュタンの鎧を身に纏う謎の少女。完全聖遺物の圧倒的な力に、翼までもが倒れようとしたその時、翔に異変が……。
次回【失っても、前を向く】
次回投稿もゆっくりやっていきます。

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