戦姫絶唱シンフォギア+ 〜それでも、前を向く〜   作:まどるちぇ

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クリスちゃんはよ!はよ!
翔修業回です。


第4章 異質でも、前を向く

 二課指令室。

 

「司令。翔さんをお連れしました」

 

 緒川に連れられて翔が指令室に入ると、昨日と同じメンバーが集まっていた。

 

「おう、ご苦労だったな緒川」

 

「では、僕はこれで」

 

 緒川はそう言うと指令室を出て行った。

 

「忙しいんですね、緒川さん」

 

「緒川は翼のマネージャーも務めてるからな。代役を薦めても断るんだ。全く、頑固な奴だよ」

 

 弦十郎は呆れ気味だが、どこか誇らしく言っているように見えた。

 

「自分の仕事に責任を持てるってことじゃないですか。そういうの憧れます」

 

 翔はそう言って微笑む。昨日とは違う自然体の笑顔を見て、二課の面々の雰囲気が和らいだ。

 

「さて。それじゃあ早速本題に入りましょ」

 

 了子さんが手を叩いて話題を変える。

 

「あ、そうだ。了子さん!勝手に人の体弄らないで下さいよ!」

 

「あはは。ゴメンなさいね〜。で、結果なんだけど」

 

「聞いてないや……」

 

 了子は翔の言葉を聞き流し、モニターにメディカルチェックの結果を映し出す。

 

「結果は至って良好。ただ……」

 

「?ただ、なんですか?」

 

 翔は了子が言い淀んだのを訝しんだ。

 

「心配することは無いわ。ただの特異体質ってだけだから」

 

「なあんだ。ただの特異体質かあ」

 

「「あはははははは」」

 

「……って特異体質ぅ!?」

 

 翔のノリツッコミが炸裂する。

 

「そ、そんな……そんなのって」

 

 翔が目を伏せる。

 

「気持ちは分かるわ。けど安心しなさい。君のは別に危険なものでは……」

 

「そんなのって、スッゲーカッコいいじゃないですか!」

 

 翔が飛び跳ねて喜ぶ。

 

「……は?」

 

 了子が予想外のリアクションに呆気にとられる。

 

「特異体質。くぅ〜いい響き!了子さん!どんなのですか!?手から炎が出せるとか?雷を操れるとか?えーっとそれから!えーっとえーっとえーっとえーっと!」

 

 翔は腕をブンブンと振り回して完全に興奮状態になり、手がつけられない。

 

「落ち着きな……さいッ!」

 

 ドゴォ

 

 凄まじい衝突音と共に、了子が翔の背中に回し蹴りを放った。

 

「どほぉ!?」

 

 翔は頓狂な声を上げてそのまま吹き飛んだ。

 

「……無害だけど、単体ではそこまで戦闘向きとは言えないわね。とりあえず聞く気になったかしら?」

 

「……はい。すみませんでした」

 

 翔は立ち上がり、埃を払って了子の前に座った。

 

「君の身体はね。フォニックゲインを蓄積する体質があるのよ」

 

「!フォニックゲイン……」

 

 翔は聞き覚えのある単語を耳にし、話を真剣に聞く姿勢を取る。

 

「フォニックゲインとは、歌によって発生するエネルギー体のことで、シンフォギアの駆動に必要なものなの」

 

「なるほど。だから二人とも歌いながら闘ってるんですね」

 

(奏姉も、きっと……)

 

「そういうこと。それで、君の身体はそのフォニックゲインを吸収・蓄積する体質らしいのよ」

 

「へえ〜。んでも、それって凄いことなんですか?別に俺はシンフォギア使えないし、そもそも持ってないですし」

 

「それに関しては、君の持つ八尺瓊勾玉についての説明も必要ね」

 

「ヤサカニノマガタマ?俺そんなの持って……まさか、これ?」

 

 翔はそう言ってペンダントを取り出した。

 

「そう。世界でも数少ない完全聖遺物の一つ、八尺瓊勾玉。昨日翔君がノイズに襲われた時に起動したの。ゴタゴタしてて説明する時間が無かったけど」

 

 了子はモニターに八尺瓊勾玉のデータを映し出した。

 

「完全聖遺物?」

 

「聖遺物とは人類の祖であるルル・アメルが誕生する遥か前から存在した神々のアイテム。所謂神器って奴ね。聖遺物はそのほとんどが経年劣化などの外的要因によって完全な形で発見されることは稀なの。シンフォギアとは、聖遺物の一部からその力を増幅させる為に私が開発した装置のことよ」

 

「へえ〜……って!シンフォギアって了子さんが作ったんですか!?」

 

「あら、私の二つ名を忘れたの?デキル女で評判って言ったでしょ♪」

 

 了子はそう言うと上機嫌でシンフォギアの解説を始めた。何故シンフォギアでないとノイズと闘えないのか、何故シンフォギアがあの形になったのか等、かれこれ一時間程語った。

 

「……要するに、聖遺物の起動には相当量のフォニックゲインが必要だから、俺が歌わずに八尺瓊勾玉を起動できたのは体質故と言うわけですね?」

 

 翔が話を途中で途切らせ、纏めに入る。

 

「そうなのよ。だから君の存在はとても貴重ってわけ。世界で唯一、単体で完全聖遺物を起動させられる存在の君がね」

 

「……あの。質問いいですか?」

 

 翔が神妙な面持ちで了子に尋ねた。

 

「この八尺瓊勾玉を使いこなせれば、俺もノイズと戦えますか?」

 

「無理」

 

「え?」

 

「無・理♪」

 

 了子がきっぱりと言い放つ。翔はあまりの即答に面食らってしまう。

 

「な、なんでですか!?俺だって、せっかくの力を誰かの役に立てたいんです!フォニックゲインとか、聖遺物とかに関係してるなら、ノイズとだって……」

 

「八尺瓊勾玉は起動時の効果を見るにバリアのようなもので、ノイズから身を守るものだ。戦闘には向かない」

 

 弦十郎が翔に近付いて言う。

 

「それに、いつでも発動できる訳ではないようだしな」

 

「ぐ」

 

 翔は図星を指され、閉口する。

 

「我々も、武装のままならない一般人の君を危険な戦地に赴かせるのは反対なんだ。分かってくれ」

 

「…………はい」

 

 翔は目に見えて落ち込んだ。どんよりとした雰囲気が翔の周りに漂う。

 

「しかしまあ、一般人の避難誘導ならば可能かも知れんな。二課としても、慢性的な人員不足ってのは事実だからな」

 

 弦十郎はぽりぽりと頬を掻いて呟くように言った。

 

「!じゃあ!」

 

「我々が精一杯サポートする。だから君は、ノイズから人々を守ってくれ」

 

 弦十郎が翔の肩に手を置く。

 

「はい!俺、頑張ります!」

 

 翔はそう言って嬉しそうに笑った。

 

「よし。じゃあ早速、八尺瓊勾玉の起動を自由にできるようにならないとな。了子君、頼んだぞ」

 

「お任せ〜♪さ、こっちへいらっしゃい」

 

 了子が翔を呼んで指令室を出て行った。

 

「はい!弦十郎さん、ありがとうございます!」

 

 翔は源十郎にお辞儀をすると、指令室を去った。

 

「……仮面、か。こうして普通に対話していると分からんものだな」

 

(一体君は何を思い、何を感じて生きているんだ……?)

 

 弦十郎は翔の出て行った扉を見つめて独りごちた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「……あの、これは?」

 

 実験室。『了子専用❤︎』と書かれた扉の中に入ると、翔は謎のマシンに固定された。磔と言っても差し障りない。

 

「八尺瓊勾玉は身を護る為の能力。つまり使用者の生存本能に起因すると私は考えました」

 

「いや、『考えました』って言われても……」

 

「という訳で、君を殺す気で攻撃するから頑張って起動させてね♪」

 

「鬼!悪魔!ルシファー!」

 

 翔の必死の抗議は了子にとってどこ吹く風。了子は無情にも起動ボタンを押した。

 

 ウィィィン…………

 

「なんかヤバい音鳴ってますって了子さん!シャレにならないですよ!」

 

「そう。ノイズの発生地点に行くというのは、シャレなんかじゃ済まされないわ。シンフォギアを持たない君は、死ぬ気で行かないと決して生き残れない」

 

「!確かに……」

 

 ビュオッ

 

 翔の頭のすぐ横を、何かが高速で通過した。

 

 ドゴン

 

 直後、翔の背後で大きな衝突音が。

 

「……なんかスイカくらいの大きさの鉄球みたいなのが見えたんですけど」

 

「あら♪動体視力良いわね♪その通りよ」

 

「死ぬ!マジで死ぬから!せめてこの拘束だけでも解いて!」

 

「回避の訓練だと意味ないのよ。君は人を担いでる状態でいつもノイズの攻撃を回避できると思うの?」

 

「……分かりましたよ」

 

 翔は大きなため息を吐き、鉄球をランダムに飛ばしている砲口を見る。

 

「あの時の、初めて起動した時のイメージを……」

 

 呟くように唱え、鉄球が真正面から飛んでくるのを見据える。

 

(護るんだ!奏姉が護りたかったものを!)

 

 ガキン

 

 翔が意識を集中させると、前方に瑪瑙色のバリアが現れた。バリアは鉄球を弾き、勢いを完全に殺した。

 

「よし!この調子で……」

 

 翔は四方から飛んでくる鉄球をバリアで防ぎ続けた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

(……やはり、似ている)

 

 瑪瑙色のバリアを目にした了子はそう思った。

 

(フィーネとしての能力の一つ。対物結界に酷似した能力……これは八尺瓊勾玉によるものなのか?それとも天城 翔自身の……?)

 

 あれこれと思案を巡らせる了子だったが、その答えは今はまだ導き出されることはなかった。

 

(まあいい。いずれその力も利用させて貰う。我が野望の為にな……)

 

 了子は僅かに口角を上げた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「……10分経過」

 

 了子がタイマーを見て知らせる。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 翔は肩で息をしていた。バリアを発動する度に、身体に疲労感がどっとのしかかる感覚を覚えた。

 

「ここまでみたいね。10分ぽっちじゃ避難誘導どころか翼ちゃん到着まで間に合わないわよ」

 

 了子は装置を止め、拘束機具を取り外した。

 

「はぁ……はぁ……クソッ!」

 

 翔は悔しそうに拳を床に打ち付ける。

 

「最低でも30分、良くて1時間は保たせないと実地投入は夢のまた夢ってところかしら?明日はもうちょっと頑張ってちょうだいね♪」

 

「はい……ありがとうございました」

 

 翔は礼を言ってフラフラと実験室を出て行った。

 

(もっと力が欲しい……ッ!)

 

 翔は悔しさを歩く気力に換えた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「あ、翼さん……」

 

 指令室に挨拶に向かおうとすると、翼と目が合った。

 

「……話は叔父から聞いたわ。私は二課の皆さんを信頼してる。今更貴方一人が増えたところで何も思うことはないわ」

 

 冷たく言い放って翼は指令室に入って行った。

 

「…………負けるかーッ!」

 

 翔は大声を出すと、了子の実験室へと駆け戻った。

 その日は遅くまで特訓を続け、帰ってきたら母親にこってり絞られたそうな。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

(……私が苛立っている?)

 

 指令室に入った翼は、先刻の自分の言動が苛立ちからくるものだったことに違和感を覚えていた。

 

(彼に……天城 翔にこの剣の心が揺さぶられている……?)

 

 翼は首を横に振り、思考を止める。

 

(いいえ、あり得ない。確かに奏にそっくりな見た目だけれど、それが何だというの?彼は奏ではない。奏は、もういない)

 

 翼は再び感情を打ち消し、冷たく鋭い剣となった。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 1週間後。夕方。

 

「よろしくお願いします!」

 

 今日も今日とて翔は特訓に勤しんでいた。鉄球を四方から飛ばさなくても自在にバリアを張れるようになり、了子から課された持続時間をクリアすると、今度は移動しながらバリアを維持し続ける特訓に入っていた。

 ちなみに部活は休部届を出した。顧問の先生はとても残念そうにしていたので、翔は少し心が痛んだ。

 

「……了子さん。ちょっと思いついたことがあるんですけど」

 

 バリアを張りながらシャトルランを繰り返す翔。その表情はこの1週間で鍛えられたせいか涼しい。

 

「何かしら?言ってみて」

 

「このバリア……実は部分的に展開できるんじゃないかって」

 

「なるほど。確かにできるかも知れないでしょうけど、部分展開する必要があるのかしら?全面展開でここまでできるのだし、あとは実地訓練を積み重ねていけばきっと源十郎君も認めてくれるわよ」

 

「部分展開ってことは形を変えることができるってことでしょ?実際、翼さんのデッカい剣を止めた時は目の前だけにバリアを展開させた分、厚くて防御力も上がった訳だし。無意味って訳ではないと思うんですよ」

 

 翔は次第に速くなるペースにも難なく食らいつく。

 

「そうねぇ……考えっていうのを聞いてみましょうか」

 

「このバリアで作るんですよ、俺もシンフォギアみたいな武器と鎧を」

 

「……難しいわね。バリアの変形なんて前代未聞過ぎて途方もない話よ。それに八尺瓊勾玉にはまだ分からない部分が多過ぎるわ。本当にできると思う?」

 

「できなきゃ、できるまでやるだけですッ!」

 

「!」

 

 了子は翔の気迫に一瞬怯む。

 

「前を向くってことは、絶対に諦めないことなんです。分からない部分が多いってことは、可能性がたくさんあるってことでしょ?」

 

 翔が強く言い放つ。シャトルランは終了し、翔はペースを落とした。

 

「……分かったわ。ただし!私のメニューだけは欠かさずやるようにね」

 

 了子は優しく諭すように言った。

 

「はい!」

 

 こうして翔の特訓メニューにバリアの変形が加わった。

 しかしこれがまた難航を極めた。

 

「ぐぎぎぎ…………」

 

 必死に念じてバリアの形を変えようとするが、ビクともしない。

 

「そもそも変形というものがどんな方法で行われるかを見つけなきゃいけないわ。翼ちゃんの剣を止めた時のことを思い出して」

 

 了子はいつもの白衣を脱ぎ捨て、真っ赤なジャージにタオルを首からかけた所謂野球部マネージャースタイルで特訓を見守っていた。黄色いメガホンで翔に呼びかける。

 

「あの時……あの時か……何が違ったんだろう?」

 

 考え込むと、集中が切れてバリアが消えた。

 

「ほら!今ノイズに襲われたらひとたまりもないわよ!」

 

 パシーン

 

 了子が翔の肩を竹刀で叩く。

 

「ッ!はい……」

 

 翔は痛みに体を強張らせ、また集中し直した。

 

「変形以前に、いつもどんな形でバリアを出してるか把握してみなさい。元の形が分からないことでは、変形も何もあったものじゃないわよ」

 

「なるほど……。っていうか了子さんいつもとキャラが違うような」

 

「細かいこと言ってんじゃないの!ほら、練習練習!」

 

 了子はそう言って首にかけてあったホイッスルを吹いた。

 

「なんか熱血モード入ってるし……やるしかないか……」

 

 こうして翔と謎の熱血スイッチが入った了子との特訓は続き、気がつけば一ヶ月を過ぎようとしていた。

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

「うひゃああああッ!?」

 

「あー……駄目だこりゃ」

 

 一ヶ月後。二課指令室。

 モニターでノイズと交戦している響を見て、翔はため息を吐いた。交戦というよりは逃げの一手で、ノイズが自滅してくれるのを良いことにひたすら逃げ回っていた。

 

「一ヶ月経っても、何も変わらんか」

 

 弦十郎も深いため息を吐いた。

 ちなみに今回翔の出動要請は無かった。

 無人の公道にノイズが発生したため、交通整理のみで済むらしい。

 

「そりゃあ逃げ回ってるだけですし。戦闘訓練を受けてない一般の女子高生に頼むには無茶だったんじゃないですか?」

 

「翔君も人のこと言えないでしょ」

 

「う。俺はまあ……逃げ専門だからいいんですよ」

 

「響ちゃんや翼ちゃんみたいに闘いたいんじゃなかったの?」

 

「アーアーキコエナーイ」

 

「……ふんっ!」

 

 了子のハイキックが翔の脳天を打ち抜く。

 

「……すいませんでした。本当は特訓が上手くいってないだけなんです」

 

 翔は立ち上がって埃を払うと沈んだ声を出した。

 

「バリアの変形とか何とかって奴か。まあ無理はするな。まずは出来ることを完璧にできるようになってからだ」

 

 弦十郎はそう言って翔の頭に手を置いた。

 

「はい……分かってます。それじゃ、訓練に戻りますね……」

 

 翔はそう言って指令室を出て行った。

 

「かなり落ち込んでるみたいね、彼。基本メニューはこなせてるからいいんだけど……」

 

「その内支障が出るかも知れんな……よし!」

 

 弦十郎は立ち上がり、指令室を出ようとする。

 

「弦十郎君?」

 

「悩める若者に手を差し伸べてやるのも大人の仕事だ」

 

 そう言う弦十郎の顔には、自信に満ちた笑顔を浮かべていた。




次回予告
弦十郎の修業でヒントを掴んだ翔は、更に修業へとのめり込んで行く。一方、響は未来との関係が疎遠になっていくことを恐れていた。約束の琴座流星群を見ることはできるのか?
次回【嘘つきでも、前を向く】

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