戦姫絶唱シンフォギア+ 〜それでも、前を向く〜   作:まどるちぇ

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酷いタイトル詐欺を見た……。
学校のシーンはちょろっとだけです。許して下さい。


第3章 学校でも、前を向く

「あの、翔さん。私達どうなっちゃうんでしょうか?」

 

「……死刑?」

 

「ぴぎぃ!?」

 

 連行される車の中、翔と響は漫才を繰り広げていた。

 

「安心して下さい。お二人に危害を加えるつもりはありませんよ」

 

 緒川が苦笑しながら答える。

 

「わ、私こんな若さで死ぬなんて嫌です〜!まだまだ食べたいものとか一杯あったのにー!未来と買い物行く約束とか、未来と美味しいもの食べる約束とか、未来と一緒に遊ぶ約束とかー!」

 

「安心しろ立花さん!君は俺が必ず護るから!」

 

「ありがとうございます!だったら翔さんは私が護ります!」

 

「聞いてませんね……」

 

 翼が呆れたようにため息を吐く。

 

「あ、あははは……」

 

 緒川は、今日何度目かの苦笑をした。

 

 

 ☆

 

 

「なんで、学園に……?」

 

「ここが私立リディアン音楽院か」

 

 車に揺られること数分。翔達は私立リディアン音楽院へ到着した。

 

(奏姉の母校……か)

 

「こちらへ」

 

 緒川に案内されるがままリディアンに入る。翔達はエレベーターに乗せられ、地下に移動した。

 

「スゲー!秘密基地みたいだ!」

 

 翔はガラス張りのエレベーターから地下の様子を見た。

 

「翔さん、子どもみたい……」

 

 響はそう言ってくすくすと笑う。

 

「お、男は誰だって秘密基地とかに憧れるもんなんだよ!ね?緒川さん?」

 

「いやあ、僕はあんまり……」

 

「う、裏切り者〜」

 

「お喋りはそのくらいにしなさい」

 

 翼がぴしゃりとその場の空気を締め直した。

 

「これから行く先に、笑顔や雑談は必要ないわ……」

 

 それだけ言って、翼は翔の顔を見た。

 

(奏にそっくり……。緒川さんの話では従弟だそうだけど……)

 

 翔も翼の顔を見た。

 

(この人が奏姉のパートナーか。さっき見た実力といい、奏姉の足を引っ張るような真似はしないはずだ。一体あの時何が……)

 

 見つめ合う二人を、響と緒川は交互に見て、顔を見合わせて困ったように笑った。

 

 

 ☆

 

 

「ようこそ!特異災害対策機動部二課へ!」

 

 翔達が部屋に入ると、クラッカーの爆ぜる音と共に、大柄な男性が二人を歓迎した。

 

「俺は司令の風鳴 弦十郎だ!よろしくな!」

 

(!風鳴……?)

 

「司令は翼さんの叔父なんですよ」

 

 翼を見る翔の心中を察して、緒川が説明を加える。

 

「なるほど。よろしくお願いします」

 

「……はあ」

 

 翼が和気藹々と翔達に接する二課のメンバーを見て、ため息を一つ。

 

(なるほど。いつもこんな感じの雰囲気に振り回されてるのか)

 

 翔は少しだけ翼に同情した。

 

「さ、歓迎パーティを始めましょ」

 

 あの後別れて先行していた了子がドリンクを配り始める。

 

「あ。じゃあこの手錠外して下さい。手錠したままのパーティなんて、きっと悲しい思い出として残ります」

 

 響が手錠を差し出しながら言う。緒川の持っていた鍵で手錠が外された。

 

「あの、俺は……?」

 

 しかし、何故か翔の手錠は解錠されなかった。

 

「君はもうちょーっとだけ待っててね♪さ、弦十郎君」

 

「……ああ」

 

 弦十郎は了子に促され、翔の前に立つ。

 

「君には、伝えなければならないことがある……」

 

弦十郎は深刻な面持ちで翔に向き合う。翔には、弦十郎の言わんとすることが全て分かっていた。

 

「……奏姉の死の真相、ですか?」

 

「!ああ。奏君は、そこの翼や響君のように、シンフォギアを纏ってノイズと闘っていた」

 

「シンフォギア……」

 

 翔は弦十郎の言葉を反芻する。

 

「そして、二年前のあの日。ライブ会場をノイズが襲った。応戦していた奏君は、絶唱という負担の大きい技を使って……」

 

「もう、いいです……」

 

(こいつらのせいで奏姉は……やめろ!考えるな!奏姉が死んだのは、別にこの人達のせいじゃないだろ!でも、なんでこの人は……そんなに悲しい顔をしてるんだよ?なんでそんな、辛い顔で下を向いてるんだよ!?向くなら……)

 

「奏君は、本来ガングニールの適合者ではなかった。だから、我々が投薬を施して」

 

「もういいです!」

 

「!」

 

 翔は叫んだ。その場にいた全員が驚いて黙り込む。

 

「立花さんと翼さんの変身を見て、なんとなく分かりました。奏姉が人々を護る為にノイズと闘ってたって。全部、予想通りでした」

 

「あ、ああ。それで」

 

「謝る、なんて言わないで下さいよ」

 

「!」

 

 弦十郎は翔の顔を見て驚いた。

 

「大丈夫です。俺は、大丈夫ですから……」

 

(向くなら、前を向いてくれ。奏姉だって、きっとそれを望んでる!)

 

 翔は、笑っていた。涙を流しながら。

 それは、誰がどう見ても自然な笑顔ではなかった。

 恨み、怒り、復讐心。それら全てを、前を向く為に抑え込んだ。それでも抑えきれずに涙となって流れ出た。そんな表情だった。

 

「……俺達が浅はかだった。君は、とんでもない覚悟をして今まで生きていたんだな……。そんな君に許してもらおうなどとは、卑怯な大人のすることだ」

 

 弦十郎はそれ以上何も言わなかった。翔の表情を見て、彼の心中を垣間見たから。その壮絶な感情の奔流を、ほんの少しだけ知ったから。

 

「……雰囲気崩しちゃってすみません。さあ、パーティの続きを」

 

 ズキン

 

「……ッ!?」

 

 その時、翔を激しい頭痛が襲った。翔は堪らずその場に蹲る。

 

「翔さん!?どうしたんですか!?」

 

「クソ……また『フォン』の奴か!」

 

「担架を!急いで!」

 

 周りが一気に騒がしくなるが、翔はそれどころではなかった。

 

(何カッコつけてんだよ?目の前に奏姉の仇がいるんだぜ?一発くらい殴ってもいいじゃねえか)

 

 頭の中に、声が響く。

 

「……違う!復讐なんかしてちゃ、前は向けない!」

 

(前を向く、ねえ。今のお前にそんなことができるのか?復讐一つできねえ臆病者がよ?)

 

「うるさい……!黙れ!」

 

(怒りを開放しろ。奏姉を奪った全ての者にぶつけろ。そうすりゃ……)

 

「黙れぇぇぇぇ!」

 

 翔は手錠に思い切り頭を打ちつけた。額の皮膚が裂け、鮮血が滲み出る。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 頭痛と、声が治まる。

 

「翔さん!?大丈夫ですか!?」

 

 響が翔に駆け寄り、肩を支えて起こす。

 

「ああ……平気、だよ」

 

「平気でもへっちゃらでもなさそうですよ!ほら、血が……」

 

 響はハンカチを取り出し、翔の額に当てる。

 

「悪い……。立花……さ……」

 

 翔は気絶した。響の腕にぐったりと重みがのしかかる。

 

「翔さん!?翔さん!?しっかりして下さい!翔さん!」

 

 響の呼び声も虚しく、翔はしばらく目を覚まさなかった。

 

 

 ☆

 

 

「…………」

 

 よお。こっちに来るのは久しぶりだな。

 

「……フォン。何のつもりだ?」

 

 まあ怒るなよ翔。奏姉の仇を目の前にして、ちょっと怒りが抑えきれなかっただけだ。あの源十郎とかいうオッさんにも、腰抜けのお前にもな。

 

「……腰抜けだと!?いつまでもガキみたいに感情剥き出しで暴れるお前なんかに俺の何が分かる!?前を向こうと、奏姉の約束を守ろうとする俺の何が分かるってんだ!?」

 

 お前のことは全部分かるよ。前にも言ったろうが。お前は俺で、俺はお前だ。

 

「…………」

 

 まだ怒りは忘れてないみたいだな。初めはジジイみたいに枯れちまったかと思ったが……。それだけ知れれば充分だ。じゃあな。

 

「待て!次勝手に出てきたら許さないからな!」

 

 はいはい。ヤバくなったら勝手に代わるよ。手の焼ける宿主だぜ……。

 

 

 ☆

 

 

「……どう見る?了子君?」

 

 翔が搬送された後の指令室で、弦十郎は了子に尋ねた。他の職員はパーティの片付けをし、響は席を外した翼を探しに指令室を出て行った。

 

「なんとも言えないわね。能力を発動した反動か、はたまた『仮面』の仕業か。どちらにせよ、警戒する程脅威にはならなさそうだけど」

 

 了子は真剣な眼差しで考えながら言った。

 

「仮面?」

 

 弦十郎が聞き返す。

 

「僅か15歳の男の子が、誰よりも慕っていた者の死をたった2年で乗り越えられるとは考えにくいわよ。何らかの仮面を自分に被せることで、外との関わりを保っているように見えたわ。実際、かなり無理してるように見えたけど?」

 

「……ああ。確かにな。仮面、か。また上手く喩えたモンだな。そいつを外してやるのも、俺達大人の仕事ってこった」

 

 弦十郎は先刻の翔の涙を思い出し、顔に険を増した。

 

 ビーッ ビーッ ビーッ ビーッ

 

 その時、緊急事態を知らせるブザーが鳴り響いた。

 

 

 ☆

 

 

「……ここは?」

 

 二課の医務室。翔は目を覚まし、上体を起こして辺りを見た。ベッドの周りにカーテンがかかっている。

 

「目が覚めたみたいね」

 

 カーテンを開いて、了子が入ってきた。

 

「了子さん……。すいません。折角のパーティを台無しに……」

 

「いいわよ別に。どの道それどころじゃなくなったんだし」

 

 了子はそう言って簡易ディスプレイからモニターを映し出した。モニターには街を襲うノイズと、そこに急行する翼と響の姿が映っていた。

 

「ノイズ……!それに立花さんと、翼さん!」

 

 翔はモニターに顔を近づける。

 

「はいはい。患者は安静にしてなさいね」

 

 了子はそう言ってとん、と翔を押してベッドに寝かせた。

 

「俺はもう大丈夫です!それより、仕事は大丈夫なんですか!?」

 

「研究部門の人間はあんまりやること無くてね。モニタリングして緊急時に備えるくらいしか」

 

「じゃあ、それを全力でやって下さい!俺なんかに構わないで!」

 

 翔は強く言い放った。

 

「……第7地区」

 

 了子が真剣な表情でそう呟いた。

 

「ノイズが発生してる地点よ。ここからそう遠くないわ。それじゃあ私は指令室に向かわせてもらおうかしら。じゃあね♪」

 

 了子はそれだけ言うと医務室を出て行った。

 

「……了子さん。俺のやりたいことが分かってるみたいだな……」

 

 翔はベッドから降り、靴を履いた。

 

「翼さんはともかく、立花さんは危険だ!俺でも、役に立てるかも知れない!」

 

 ペンダントを握り締め、医務室を出た。

 

 

 ☆

 

 

「たっだいま〜」

 

 指令室に戻った了子は、所定の席に座ってモニタリングを再開した。

 

「了子君!彼の様子は!?」

 

 弦十郎は了子の帰還に驚き、翔の容態を尋ねた。

 

「心配ないわ。軽い脳震盪と疲労だったみたい。今は安静にしてるわ。自分より仕事を優先しろって怒られちゃった」

 

「そうか……。それで、アレについては……?」

 

 弦十郎はモニターから目を離さずに言った。

 

「回収は無理ね。気を失っている間ずっと握り締めてたもの。けど、ほぼ睨んだ通りだと思っていいわ」

 

「やはり……八尺瓊勾玉か」

 

 弦十郎の顔が険しくなる。

 

「翼さん、間もなくノイズと接触します!」

 

 

 ☆

 

 

「去りなさい 無想に猛る炎 神楽の風に滅し散華せよ」

 

 第7地区。翼はギアを纏い、歌いながらノイズ達を殲滅していた。

 

 [逆羅刹]

 

 両足に装着したブレードを、カポエイラの要領で倒立し、振り回しながら敵を斬り刻んでいく。

 

「たあっ!」

 

 響が合流し、蹴り下ろしでノイズを一匹倒す。

 

「何ッ!?」

 

 翼は響の乱入に驚き、一瞬動きが止まる。

 

「翼さん!私も一緒に闘います!」

 

「…………」

 

 翼は無言で返し、ノイズに集中し直す。

 

(奏の力は……そんな程度のものではないのよ!)

 

 翼は湧き上がる怒りを力と換え、剣を握った。

 

 

 ☆

 

 

「翼さん!」

 

 ノイズを撃退し、とりあえずの危機は去った。響は翼に駆け寄り、労うかのように翼の名を呼んだ。

 

「私、頑張ります!今はまだ無理でも、必ず強くなって、翼さんの役に立ってみせます!だから、一緒に闘いましょう!」

 

 響の屈託のない笑顔が、翼には辛かった。

 自分の弱さを覗かれているようで。ちっぽけな嫉妬心に囚われている自分が、もっとちっぽけに見えて。

 

「……そうね。私と貴女、一緒に闘いましょう」

 

 だから、翼は刃を向けた。響に、弱い自分を重ねて。

 

「……え?」

 

 響はぽかんと口を開けた。

 

「いえ、私が言ってるのはそういう意味じゃ……」

 

「分かっているわ。私が貴女と闘ってみたいの」

 

「私は嫌です!翼さんと闘うなんて」

 

「そんな覚悟では、どうせこの先闘えないわ!覚悟を決めなさい!」

 

 

 ☆

 

 

「困ったモンだ……」

 

 指令室。弦十郎はため息を吐くと、指令室を出ようとする。

 

「司令!どちらへ?」

 

「誰かがあの馬鹿者を止めねばならんだろう?ちょっと行って」

 

「その必要は無いみたいね」

 

 了子の言葉に弦十郎がモニターを見ると、そこには現場に走る翔の姿があった。

 

「な!?了子君、まさか……」

 

「青春ね〜♪若さっていいわあ」

 

 了子の呑気な一言に、弦十郎はまたため息を吐いた。

 

 

 ☆

 

 

 

 [天ノ逆鱗]

 

 翼が空中高く放り投げた剣が巨大化し、翼の足と連結して響の頭上に降ってくる。翼の両脚に付いたスラスターが更にスピードを加える。

 

「立花さん!」

 

 駆けつけた翔が響の前に出て、響を庇うように両手を広げた。

 

「翔さん!?どうしてここに!?」

 

「多分……君と同じ理由だよ」

 

 翔はそう言って微笑むと、目の前の巨大な剣と向かい合う。

 

「約束したんだ……前を向くって。復讐とか、恨みとか、そういうのに囚われちゃ駄目なんだ!そんなんじゃ、俺よりもずっと前にいる、奏姉の背中なんか見えやしないんだ!」

 

 翔は翼を見る。翔の乱入に驚いているようだが、攻撃の手を止める気はないらしい。

 

「俺は……絶対に前を向いてみせる!」

 

 ガギィィィン

 

 剣が衝突する瞬間、翔のペンダントが輝き、目の前に瑪瑙色のバリアが現れた。

 さっきよりもずっと厚く、硬い結界。

 

「うおおおお!」

 

 ビシッ バキィィィン

 

 バリアに亀裂が走る。と同時に、翼の剣が音を立てて砕け散った。

 

「剣が!?」

 

「凄い……翔さん……」

 

「はぁ……はぁ……」

 

 翼が着地し、再び対峙する。

 

(奏……ッ!)

 

 翼の目には、響を庇うように両手を広げて立ちはだかる翔が奏に見えた。

 いつも優しかった奏が自分と真っ向から対立していると想像すると、頭がどうにかなりそうだった。

 

「まだ、やりますか?翼さん」

 

 翔は肩で息をしながら翼を見つめる。ポツポツと、顔を雨粒が打ち始めた。

 

「私は……」

 

 翼は顔を伏せる。雨粒は次第に大きくなり、やがて本格的に雨が降り出した。

 

「そこまでだ!」

 

 弦十郎が駆けつけ、騒動はとりあえず収まった。

 

「全く……何をしでかすかと思えば」

 

 弦十郎はため息混じりに翼に近づく。

 

「!翼、お前……泣いて」

 

「泣いてなんかいません!」

 

 翼は声を荒げる。

 

「剣に、涙など不要です!私は、戦場でしか生きられぬ存在!感情など必要ありません!」

 

(……なんだろう?この気持ち?)

 

 翔は翼の言葉に何かを感じ取った。理由や詳細は分からないが、翔の中にある感情がむくむくと膨れ上がっていた。

 

(なんでか分かんねーけど、今の翼さんを見てるとスゲーイライラする……)

 

 苛立ち。奥歯が無意識に噛み締められ、握る拳に過剰な力が入る。

 

「翼さん!私、頑張ります!」

 

 重苦しい空気に耐えきれなくなったのか、響がわざと明るく振る舞う。

 

「もっと強くなって、必ず、奏さんの代わりになってみせます!」

 

「ッ!」

 

「やば……」

 

 翔は、翼の怒りが沸点を突破したのを肌で感じ、響に近づいた。

 

 パァン

 

 翔の視界が右に傾き、直後に左の頬から火を噴くような痛みが走った。

 

「な……!?」

 

 翼は我に返り、叩く相手が違ったことに驚く。

 

「翔……さん?」

 

 響もまた、突然の出来事に固まっている。

 

「……する」

 

「?」

 

 翔の小声が翼の耳に入る。が、何を言っているか分からない。

 

「イライラする」

 

「……?何を言って」

 

「アンタ見てるとイライラするって言ってんだ!」

 

「「「!」」」

 

 翔は怒りを露わにした。その場にいた全員が面喰らうように立ち竦んだ。

 

「何が『涙は不要』だ?何が『感情など必要ありません』だ!?だったら今なんで立花さんを叩こうとした!?」

 

「…………」

 

 翼は視線を逸らす。

 

「軽々しく奏姉の代わりになるなんて言われて腹が立ったんだろう!?人間に生まれたからには、感情なんか要らなくてもついてくんだよ!邪魔だけど、無くなってくれねーんだよ!」

 

 叫ぶ翔の目には、涙が滲み出していた。

 

「それでも、それを抱えて、前を向いて生きていかないといけねえんだよ……」

 

「そんなこと!そんなこと貴方に言われなくても分かっているわ!それでも私は、戦場に立つ剣として」

 

「もういい!二人ともそこまでにしておけ」

 

 弦十郎が仲裁に入り、口論は終わった。

 その日はそこで解散し、響はリディアンの寮長に、翔は母親に大目玉を食らったという。

 

 

 ☆

 

 

「…………」

 

 風鳴邸。翼は弦十郎に二課の司令として、そして叔父として二度説教を受けた。今は自室で瞑想をしている。

 

『それでも、それを抱えて、前を向いて生きていかないといけないんだよ……』

 

 翔の言葉が脳裏をよぎり、一瞬眉根を強張らせる。

 

(剣に感情など不要。例え切っても切れぬ存在であっても、せめて、戦場では……)

 

 翼は瞑想を終え、床に就いた。

 

 

 ☆

 

 

 翌日。

 

「うーす」

 

 翔は教室のドアを開け、挨拶をしながら入った。

 

「おはよー。なんかいつもより元気無いね?」

 

 自分の席に座る翔に、一人の女子生徒が歩み寄ってきた。名は北沢 靡(きたざわ なびき)。翔とは中学からの付き合いだ。靡は翔の顔色を見ると、心配そうに声をかけた。

 

「そうか?ちょいテンション低いだけだよ」

 

「そう?ならいいけど。それよりさ!聞いた?昨日ノイズが出たんだって!しかも二回も!」

 

 靡は身振り手振りを交えて話す。

 

「テンションたけーなお前。ああ、知ってるよ。っつーか襲われたの俺だし」

 

「えーっ!?大丈夫なの!?怪我とかしてない!?」

 

 靡は翔の周りを飛び回るように翔の体を隈なく調べた。

 

「安心しろよ。ちゃんと逃げ延びて元気に登校してんだろ」

 

「良かったー。あ、そうだ!話変わるけど、私また変な夢見たんだ!」

 

「話変わりすぎだろ……。で?どんな夢なんだ?またミイラが風邪薬貰いに来る夢か?」

 

 靡は時々変な夢を見るらしい。その内容ははっきり覚えていて、翔にちょくちょく話にくるのだ。

 

「うんとね……翔がヒラヒラのスカート履いてノイズと闘う夢ー」

 

「!」

 

(シンフォギア……?まさかな)

 

 翔は一瞬絶句してしまう。靡の夢の内容はいつも現実味も突拍子もない話ばかりなので翔はいつも聞き流しているが、今回は心当たりがありすぎてゾッとした。

 

「ありえねーって。どこの魔法少女だよ?」

 

「うーん。魔法少女って言うよりはロボットアニメとかで中の人が来てる奴みたいな感じだったよ?水着とかダイビングスーツみたいなの。それにスカートが付いてて……」

 

(いやいやいや!まさかだろ……)

 

「はいはい。下らないこと言ってないで席に戻れって。そろそろHR始まるぞ」

 

「ちぇ〜」

 

 靡は唇を尖らせながら席に戻っていった。

 

「俺がシンフォギアを……?ないない……ないよな?」

 

 翔の心に一抹の不安が生まれた。

 

 

 ☆

 

 

「じゃーね翔!また明日ー!」

 

 放課後。靡がブンブンと手を振って教室を出て行った。

 

「またな。ったく、犬の尻尾みてぇに手を振りやがって……」

 

 翔も鞄に荷物を仕舞い、教室を出ようとした。

 

「ああ、天城。ちょうどよかった」

 

 そう言って翔を呼び止めたのは担任の先生だった。

 

「先生?なんか用ですか?」

 

「ちょっと来賓室に来てくれ。政府機関の緒川さんという人が、お前に会いたいと言ってな……」

 

 先生が訝しそうにそう言う。

 

「緒川さんが……?分かりました。すぐに向かいます」

 

 翔は先生にお辞儀をして来賓室に急いだ。

 

 

 ☆

 

 

「失礼します」

 

 ノックをして来賓室に入ると、緒川がソファに腰掛けて翔を待っていた。

 

「どうも。わざわざ呼び立ててしまってすいません」

 

 緒川は相変わらず低姿勢でぺこりと頭を下げる。

 

「いえ。それで、どういった用件で?」

 

「ええ。昨日のメディカルチェックの結果が出ましたので、二課本部までご同行願おうかと思って」

 

「メディカルチェック?そんなんしましたっけ?」

 

 翔は記憶を辿るが、そんなことをされた記憶は全くない。

 

「了子さん曰く『寝てる間にパパッとやった』そうです」

 

「ちょっとぉ!?人の体勝手に弄らないで下さいよ!」

 

 翔は思わず体を両腕で覆った。

 

「すいません……。止められればよかったんですけど」

 

「……まあいいです。それじゃあ早速行きましょうか」

 

 翔は色々と言いたいことを諦めて、緒川に同行することを決めた。




原作未読の人には不親切な内容になってしまうことがあります。が、改善とかはしないので(冷徹無情)用語とかが気になる人は原作を見ましょう。
次回予告
再び二課へ赴く翔だったが、了子の口から驚きの事実が知らされるのであった。響と共にノイズと闘うことを決意するが、翼は二人の覚悟を否定するのだった。
次回【異質でも、前を向く】

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