戦姫絶唱シンフォギア+ 〜それでも、前を向く〜   作:まどるちぇ

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プロットを作れ猿ゥ!
原作1話ら辺までです。


第1章 恨んでも、前を向く

 

 奏の死から2年が経った。

 翔は高校一年生になり、都内の高校に通っていた。

 成績も良く、学年で十指に入る実力だった。スポーツも頑張っており、未経験ながらバレーボール部で毎日練習に明け暮れている。

 あと、ちょっとモテる。

 

「すいません!俺ここで上がります!」

 

 翔は練習を切り上げ、顧問に挨拶する。

 

「おう、珍しいな。どっか痛めたか?」

 

「いえ。今日はこの後法事があるんですよ」

 

 翔は少し翳りのある顔で答えた。

 

「おお、そうか。それじゃあ仕方ないな。ちゃんとクールダウンとストレッチ忘れんなよ!」

 

「はい!失礼します!」

 

 仲間と顧問にお辞儀をして、翔は体育館を出た。

 勢いよく更衣室まで走っていた翔だったが、少しずつペースが落ち、やがて立ち止まってしまった。

 

「……あれから2年か」

 

 翔は空を見上げた。あのペンダントは、スポーツウェアの下に肌身離さず持っている。この2年間、手放したことは全くと言っていい程無かった。

 

「まだまだ奏姉は前にいる!だから、俺も前を向かなきゃな!」

 

 頬を両手で叩いて気合を入れ直す。

 

「うっし!行くか!」

 

 翔は再び更衣室へと走り出した。

 

 

 ☆

 

 

「……来たよ、奏姉」

 

 とある峠にある霊園。翔の目の前には、天羽 奏の墓があった。

 

「顧問の先生には法事って言ったけど、本当は今度の日曜日なんだよね」

 

 翔は悪戯っぽく舌を出す。

 

「今日は奏姉の誕生日だろ?死んだ人間の誕生日ってのも変な感じだけど、さ」

 

 翔の目から涙が零れ落ちる。

 

「毎年、毎年、ちゃんと、祝うって……約束した、からさ……!」

 

 溢れる涙を無視して翔は話を続けた。

 

「っく……!おめでとう、奏姉!今年で19歳になるんだよな!」

 

 涙を乱暴に拭い、笑顔で語りかける。

 

「……また、来るよ。今度はふらわぁのお好み焼きでも持ってさ。あそこ、めっちゃ美味いんだぜ。こないだなんか先輩が……」

 

 そうして翔は数分の間奏の墓前で喋り続けた。その声が、奏に届くと信じて。

 

「……じゃあ、また」

 

 そう言って翔は花束を置いて霊園を去る。先程までの泣き顔からは想像もつかない程スッキリとした笑顔で奏に別れを告げた。

 

 

 ☆

 

 

「……あら?先客が居たのね」

 

 それから暫くして、一人の少女が奏の墓前にやってきた。

 名は風鳴 翼。ツヴァイウイングのメンバーで、奏の親友だった少女だ。

 翼は奏の墓前に供えられた真新しい花束を見て、少し意外そうな顔をする。

 

「死者の誕生日を祝うなんて、不謹慎なことと分かっているわ。でも、おめでとうと言わせてくれるかしら?」

 

 翼はそう言って奏の墓石を見据えた。

 

「……誰だか分からないけど、きっと同じことを考えてる人がいたのね。こんな、虚しいことを……」

 

 それだけ言って、翼は霊園を後にした。

 

 

 ☆

 

 

「あ、そうだ!忘れるとこだったぜ!」

 

 人通りの少ない並木道。

 翔は途中で立ち止まり、財布を探る。出てきたのは、一枚の広告。

 

「ツヴァイウイングのニューアルバムの予約、確か今日からだったよな?早期購入特典もあるし、ちゃちゃっと予約してくっか!」

 

 くるりと振り返り、CDショップへと進路を変更した。

 

「きゃっ!」

 

 しかし振り返った瞬間、翔は誰かとぶつかってしまった。

 

「いたた……。悪い、大丈夫……か!?」

 

 翔はぶつかった方を見て固まる。

 

「いえ!私の方こそ、よく見てなかったです。ごめんなさい……?どうかしたんですか?」

 

 翔にぶつかったのは、同い年くらいの少女だった。少女は後頭部を掻きながら申し訳なさそうに謝罪する。が、翔が固まっているのを見て不思議そうに首を傾げた。

 

「む、紫……」

 

 翔の目は少女の脚の付け根。ぶっちゃけパンツに釘付けになっていた。

 

「え?きゃあ!ちょっと!そんなに見ないで下さい!」

 

 少女は悲鳴を上げてスカートで隠す。

 

「あ、ええと。すんませありがとうございました!」

 

「どっち!?」

 

 そんな漫才を一通り終え、二人とも落ち着いた。

 

「いや本当に悪かったよ。俺は天城 翔。君の名前は?」

 

「私は立花 響っていいます」

 

「!君が…………」

 

 翔は彼女のことを知っていた。テレビや新聞でも一時期取り上げられていたツヴァイウイングのライブ中に発生したノイズ襲撃事件の【生還者】である。

 彼女自身、取材で『奏に助けてもらった』と明言しており、翔の心中には複雑な感情が渦巻きだしていた。

 

「あ、私のこと知ってるんですね……。そりゃそっか。私、一杯テレビに出てたことありますもんね……」

 

 翔の様子に気づいた響が、何かを察したように俯いた。

 

(……俺は、この子を恨んでるのか?)

 

「……それでも」

 

(この子が奏姉を殺したって、そんな歪んだ感情が確かにある……。多分、簡単には消えてくれないだろう。でも)

 

「それでも、前を向け」

 

 翔が響に聞こえないような声で呟いた。

 

「立花さんだっけ?」

 

「は、はい!なんですか!?」

 

 響は突然名前を呼ばれてビシッと直立する。

 

「……俺、天羽 奏の従弟なんだ」

 

「!あ、わ、私……」

 

 響はショックを受けたように立ち竦み、言葉を失った。

 

「何も言わなくていいよ。君がこの2年間、どんな目に遭って、どんな風に過ごしてきたかは大体想像がつくから。でも、これだけは言わせてくれ」

 

 翔は言葉を紡ぎながら、様々な感情を巡らせる。

 怒り、恨み、嫉妬、憎悪…………。決して、簡単には割り切れるものでなかった。

 

「俺は君を恨んでいる」

 

「!」

 

 響の眉根が垂れ下がる。今にも泣き出しそうだ。

 

「それでも、この気持ちを君にぶつける必要は無いと思う。それは、俺が前を向くのに邪魔だから」

 

 翔はやや自己完結気味に話を終える。

 

「?えっと、私、何て言ったらいいか分かんなくて……」

 

 響は恨んでいるやら感情をぶつける必要は無いやら言われ、脳が理解に追いつかなかった。

 頭の中にずっとあったのは。

 

「ごめんなさい!私のせいで、奏さんが……!」

 

 謝罪と贖罪。ただそれだけだった。

 

「謝るなよ」

 

「本当に、ごめんなさい……」

 

「謝るな!」

 

 響の真摯な態度に、翔は自分がちっぽけに見えて、思わず大声を上げた。響は再びビクッと体を強張らせる。

 

「謝って許すことじゃないし、償ってもらおうなんて考えてない!君は奏姉が命を懸けて守った命なんだぞ!もっと胸を張って生きろよ!もう、君だけの命じゃないんだぞ!」

 

「!う……、うぇ……」

 

 翔の言葉を聞き、響は遂に涙を流し始めた。

 

「あ、いや……ゴメン!泣かすつもりは無かったんだ」

 

 響の涙を見た翔は、サーっと頭から血が引いていくのを感じ、冷静になった。

 

「ち、違うんです……!私、友達とか家族にしか、『生きて』って言われたことなくて……!まさか奏さんの家族の人に『生きて』って言われるなんて思わなくて……!悲しいけど、嬉しくて」

 

 響が涙ながらに涙の訳を話す。

 

「そ、そっか……。まあ、今更どうこう言うつもりは無いよ。ただ、奏姉の分まで頑張って生きてくれれば、それでいい」

 

(これが前を向くってことなのかな?なあ、奏姉?)

 

 すすり泣く響を優しく抱き、空を見上げた。奏が微笑んだような気がして、翔も思わず微笑んだ。

 

 バシュッ バシュッ バシュッ

 

 晴天の霹靂のような、一瞬の出来事。

 響と翔の周りを、ゼリー状の半透明な生物が大量に取り囲んだ。

 

「ノイズ……!?」

 

 響が恐怖の表情を浮かべる。

 

「話では聞いてたけど、流石に突発的過ぎるだろ!逃げないと……」

 

 奏の分まで強く生きてくれと願った響が危ない。翔の頭は高速回転で作戦を考えていた。

 

「よし!立花さん!駆け抜けよう!」

 

「駄目です!ノイズに触れるとあっという間に……うう……!」

 

 響は口にするのも恐ろしいとばかりに黙り込んだ。

 

「確かノイズは攻撃する瞬間だけ実体化するんだろ?だったら今は触れられない筈だ!それしか道はない!」

 

「か、翔さん……!でも……!」

 

 バシュッ

 

 翔達に一番近かったノイズが一斉に襲いかかる。

 

「くっ!」

 

「わわっ!」

 

(間に合わない!奏姉、ごめん……)

 

 目を閉じ、響を庇う様に抱き締めた。

 

 パキィィィィン

 

「…………?」

 

 目を開く。目前に迫ったノイズ達が、燃え上がるように消え去った。

 

「こ、これは……?」

 

 よく見ると、翔の周りに瑪瑙色の皮膜のようなものが張り巡らされていた。

 

「この色……まさか!?」

 

 ペンダントを取り出すと、瑪瑙色の石が光っていた。バリアの様なものは、石から出ているようだ。

 

「ありがとう、奏姉。おかげで、まだ前を向けそうだ!」

 

 ペンダントを、ぐっと握り締める。

 力強い存在を、翔は確かに感じた。




CD!特典!CD!特典!
あの時のビッキーちょっと可愛すぎんよ〜
次は翔の持つ八尺瓊勾玉の正体が明らかになります!

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