戦姫絶唱シンフォギア+ 〜それでも、前を向く〜 作:まどるちぇ
ISから見て下さった方は、こんばんは。
まずは過去編からスタートです!
それでも、前を向け。
俺の従姉、天羽 奏が俺にいつも言っていた言葉だ。
友達と喧嘩した時も、家出をした時も、大好きな祖母を亡くした時も、告ってフラれた時も。
いつだって奏姉は言ってくれたんだ。それでも、前を向けって。
なあ、奏姉。俺は、奏姉がいなくなっても前を向かなきゃいけないのかな?
☆
「…………」
告別式。喪服に身を包んだ人々が或いは泣き、或いは泣いている人の肩を抱きながら泣き、一人の少女の遺影の前に座っていた。空も少女の死を悼むように惜しみない涙を流している。
その少女の名は天羽 奏。大人気アイドルユニット【ツヴァイウイング】の一人だ。
鬱屈とした雰囲気の中、一人の少年はくすんだ瞳で遺影を眺めていた。
少年の名は天城 翔(あまぎ かける)。今年中学生になる13歳の少年だ。奏とは従姉妹の関係で、昔はよく一緒に遊んでいた。学生服を喪服代わりに着て、翔はじっと奏の遺影を見つめていた。隣では母親がさめざめと泣いている。
「…………なんで」
翔は何時間ぶりになるかの声を出す。ピッタリ張り付いた唇と喉を押し広げ、掠れた声を。
「なんで奏姉が死ななきゃいけなかったんだよ……」
憤りや憎悪はある。しかしそれ以上に、翔の口から出るのはため息と悲痛な訴えだけだった。
「なんでだよ。なんで……」
怒鳴る気力も無かった。ただただ目の前の現実を飲み込まないように咀嚼し続けることしかできないでいた。
「翔。奏ちゃんはね、他の人を助けて死んでいったのよ。とても立派な死に方だったのよ……」
翔の母が半ば自分に言い聞かせるように言った。
「立派に死ぬより、惨めでも生きてて欲しかったよ……俺は」
そう言って、翔は立ち上がった。そのまま誰にも何も告げずに式場を出て行く。
「翔…………」
「今はそっとしておいてあげなさい」
親族の誰かが母親を宥めた。
☆
「…………」
翔は無言のまま式場の周りを歩いた。雨に濡れないように、屋根のあるところを歩く。
奏の実家ではなく斎場なのは、奏の両親も数年前に亡くなっており、奏はその時からどこかの施設で生活していたからだ。
「こんな……もののために」
翔はペンダントを外した。ペンダントの先には瑪瑙らしき赤色の勾玉状の石が付けられていた。
発掘作業の合間に奏に会いに行った時、綺麗だからと奏が自分への手土産にしてくれた。
「くそっ!こんな……こんな!」
翔は湧き上がる怒りをペンダントに込めて投げようとした。
『それ、大事にしてくれよな!』
「ッ!」
当時の奏の声が頭に響き、翔は投げる手を止めた。
「畜生……!どうすりゃいいんだよ?俺は、これから何を目標に生きていけばいいんだよ!?」
翔は力無く膝を折った。
奏は、翔の目標だった。強く、明るく、どこまでも澄んだ目をしていた奏。そんな奏の背中を、翔は大きいと思った。
前に口にしたら怒られたのでもう言わないが、翔はその背中の大きさを知っていた。
「奏姉……」
石を握り、奏との思い出を反芻する。楽しい思い出、辛い思い出。たくさんの思い出が頭を駆け巡る中で、心に残る言葉は一つだけ。
「それでも、前を向け、か……」
翔は呟くように言った。生前、奏が何度も自分にかけてくれた励ましの言葉。
「それでも、前を向け……」
翔は何度も呟いた。不思議と、体に力が戻るのを感じた。
(奏姉はもういない。俺の目標だったのに。ずっと、俺のこと見ていて欲しかった)
「それでも、前を向け」
(いつかその背中を押せるような、強い男になりたかった。それなのに、もうその背中を見ることはできないんだ……)
「それでも、前を向け!」
(俺は、明日から何を目標に生きていけばいいのか、見失ってしまった)
「それでも……」
拳を握る。骨が軋む程、強く、強く。
「それでも、前を向けッ!!」
翔は勢い良く立ち上がった。誰もいない式場の外れで叫ぶ。
『そうだ。それでいい』
奏に以前言われた言葉を思い出し、胸に刻むように拳で胸を叩いた。
『私は、まだお前の前にいてやるぞ』
奏の声が、怒りや憎しみを取り除いていく。
「天城 翔、完全復活だぜ!」
天に向かってピースサインを送る。
雨は、いつの間にか止んでいた。
次回から2年後に飛びます。
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よろしくお願いします。