神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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魔女との戦いに巻き込まれた聖闘士たち、そこに意外な人物が現れる。
少女の願い、とは?
そして、その少女の生き様には、時を超え、とある魔法少女の姿が重なる。。


魔法少女の願い

気配のもとは、農家の古ぼけた納屋だった。5人は小屋を取り囲むと、中の様子をうかがっている。ジークフリートとミーメが結界への進入をはかろうと小宇宙を高め始めたそのとき、窓から中を覗いていたテンマが童虎に話しかけた。

「なんだかおかしいよな、童虎。気配は感じるのに、中には誰も居ないんだ。」

「ワシもそう思っていたところじゃ、テンマ。これほどのおどろおどろしい気配があたりに充満しているのに、中には魔女どころか人っ子一人居ないし、どこから気配が立ち上っているのかもわからん。相手は姿を消すことでも出来るのかのぅ。。」。

アルバフィカもこの状況に困惑しきった顔をしている。

 

「気配を発している結界は確実にこの小屋にあるのだが。。気づかぬか?」

「この小屋のあたりだということはわかるのじゃが。。お前達には気配の出所までわかるのか?」

ミーメの問いに童虎が答える。

聖闘士たちは気配までは気づけても、結界の場所まではわからないらしい。。それに気がついたミーメは、小宇宙を高めると小屋の壁に手をかざした。壁の一部がゆがみ、やがてその奥に結界が開き始めた、のだが、童虎たち3人はそれに気づいた様子はなく不思議そうにながめている。

結界も自分たちにしか見えないのか? そう考えたミーメは、結界の中へ歩みを進めてみた。

 

「おい、ミーメが壁の中に消えたぞ!」

案の定、テンマが大騒ぎしている。やはり、彼らは結界を認識できないのだ。自分たち二人でも魔女を相手にするのは問題ないが、ここで3人を置いていけばあとあと面倒なことになるかもしれない。どうしたものか。

しばし思案してから、ミーメはジークフリートに、3人を結界の入り口のそばまで来させるよう促した。素直に壁のそばにやってくる三人。怪訝な顔をして壁を見つけている童虎とアルバフィカの腕をつかむと、ミーメは二人を一気に結界に中に引きずりこんだ。ジークフリートは、呆然としているテンマの腕をつかみそのまま結界の中へ連れ込んだ。

 

結界の中には、この間とは全く違う風景が広がっていた。まるで美術館のように、四方は絵画で埋め尽くされている。ギリシャ正教会のイコンのようなもの。中世ヨーロッパの絵画のような荘厳なもの。あまりに異様なこの光景に、童虎たち3人は呆然としている。

 

「これが、魔女の結界だ。」ジークフリートは3人に聞こえるように呟いた。

「このような空間があったとは。お前達は、結界の存在を認識できるのか?」

アルバフィカの問いに、ミーメが答える。

「私たちもこの時代にやってくるまでは、このような空間の存在には気づきもしなかった。結界の主たる魔女に引き込まれるか、結界を何らかのきっかけで知った者に導かれるか、それによって人は結界を認識できるようになるらしい。一か八かでお前達を結界に引きずり込んでみたのは、それを確かめるためだ。」

「聖域が魔女や結界に気づけなかったのは、そのためか。やり方はちょっと荒っぽかったが、感謝するぞ。それにしても、絵画とは。。お前達から聞いた結界もそうだったが、魔女というのはやはり人間と深い関わりがあるようだな。」

童虎はそういうと、静かに小宇宙を高め、あたりを探り始めた。

 

すでに相手の結界に入り込んでいる以上、いつ攻撃を受けてもおかしくない。5人が戦闘態勢に入ろうとしたまさにそのとき、突然なにか液体のようなものが彼らに襲いかかってきた。すんでのところで液体をかわし5人はあたりを見回したが、どこを見ても魔女らしきものは見当たらない。すると今度は背後から液体が襲いかかってきた。5人はそれをなんなくかわしたが、液体、よく見るとそれは絵の具のようだが、それが飛んできた方向には絵画があるだけで魔女の気配はない。

 

身構えた魚座の黄金聖闘士、アルバフィカの右手に、黒バラが現れる。

「ゆけ!全てを噛み砕く黒バラ、ピラニアン・ローズ!」

アルバフィカが放った黒バラは絵画へとむかい、それを跡形も無く粉々に砕いた。。はずだったが、何も無くなった空間には再び別の絵画が現れ、すぐさま液体を放ってきた。

 

5人はそれをかわすと、今度はテンマが技を放つ。

「ペガサス流星拳!」

テンマの拳からは無数の流星が放たれ、結界の中の絵画を次々と砕いていくが、そこにはまた別の絵画が現れる。

 

液体をかわすことは難しくはないが、これでは埒があかない。しかも絵画の数はどんどん増えていき、相手の攻撃の手数も増えている。光速で動くことのできる黄金聖闘士、神闘士はともかく、青銅聖闘士であるテンマにはしだいに厳しい状況になりつつあった。

 

なおもテンマが攻撃を放とうとしたその時、突然あたりが眩い光に包まれた。それと同時に、無数の光の矢が絵画を次々に打ち抜いていく。矢が飛んできた方向を5人が見ると、そこには一人の少女が立っていた。鮮やかな緑色のドレスを纏い、左手に弓を持ち、胸元には緑色の宝石のようなものが光っている。ジークフリートとミーメは、その少女に見覚えがあった。隣村にあった魔女の結界で見かけた少女、そしてミーメの竪琴を聞きに来ていた少女。

 

「なんでこんなところに普通の。。ん?金色の鎧? えっ!その赤い鎧着てるのはミーメさん!? いえ、今はそんなことを聞いている場合じゃないわ!まずはこの魔女を片付けてから。。」

そう言うと、彼女は襲いかかる液体をかわし、再び矢を放つと周囲の絵画を次々に打ち抜いていく。それを見ていたミーメは、結界の上部にある天窓に気がついた。そのあたりには絵画はないが、絵画が現れるたびそのあたりにはほんの一瞬だが影のようなものが現れる。

 

「天窓のあたりに何か居るぞ!」

ミーメの声に彼女は天窓を見据える。確かにそこだけ光が微妙に屈折しているように見える。そこに狙いを定めると、ひときわ大きな矢を放った。

 

光に包まれた矢は天窓へとまっすぐ飛んでいき、その手前にある何かに突き刺さった。次の瞬間、矢の刺さったところには黒い巨大な影が現れ、やがてそれは絵の具のパレットを思わせるような怪物へと姿を変えていった。怪物はなおも少女に攻撃しようと向かってきたが、矢が刺さったところからは眩い光が広がっていき、怪物を包み込んでいく。やがて怪物は、断末魔の叫び声をあげたかと思うと、すさまじい爆風とともに消え去っていった。四方を囲んでいた絵画も美術館を思わせる空間も消滅し、納屋の中には小さな黒い宝石が残されていた。

 

「あ~あ、ミーメさんに私の正体バレちゃった。。」

少女は黒い宝石を手に取ると、少し寂しそうに笑いながら変身を解いた。そこには、ミーメの竪琴を聞きに来ていた少女、マリアが立っていた。少女の首にかかっていた宝石は、先ほどのエメラルドを思わせる美しい緑から、黒く濁ったような色へと変わってた。そんな宝石を見て少し悲しそうな表情をしつつ、少女は黒い宝石を胸元の宝石にあてる。胸元の宝石を染めていた黒い濁りは黒い宝石へと吸い取られていく。ただ、宝石の濁りは完全に消えず、緑色の輝きを少し取り戻しただけであった。

 

「隣村で見かけた時「まさか」って思ってたんですけど、ミーメさん、聖闘士だったんですね。」

マリアはミーメに笑いかける。

 

「まぁ、似たようなものだ。アテナの聖闘士ではなく、極北の地アスガルドでオーディーンに仕える神闘士、だがな。魔女と戦う魔法少女というのは、マリアのことだったのか。」

ミーメはそう言うと穏やかな顔でマリアに問い返した。

 

「魔法少女や魔女を知ってるんですね、ミーメさん達。私だけじゃありませんけどね。魔法少女って。うちの村のあたりにも何人か居るんですよ。新しい子が加わったり、いつの間にか居なくなっちゃう子もいますけど。魔法少女のこと、知りたそうですね?」

マリアは戦いで乱れた髪をなおしながら、少し疲れた表情を隠すかのように精一杯の笑顔をつくった。

 

「命にかえても叶えたい願いが見つかると、キュウべぇさんっていう妖精さんがやってくるんです。妖精さんと契約して、願いを叶えてもらう代わりに魔法少女になるんです。不思議な魔力も使えるようにしてもらって、罪もない人達を襲う魔女を退治するんですよ。これが魔法少女の証、ソウル・ジェムなんです、ちょっと濁っちゃってますけどね。」

マリアの手には、さきほどの緑の宝石が輝いている。

 

「魔女と戦って魔力をいっぱい使っちゃうと、ソウル・ジェムが黒く濁っちゃうんです。でも、魔女を倒すと手に入る黒い宝石、グリーフシードで濁りを吸い取ることで、ソウル・ジェムの輝きが戻って魔力が回復するんですよ。普段変身していない時にも少しずつソウルジェムが濁るし、気分がひどく落ち込んだ時にはなぜかソウル・ジェムがすごく濁るから、グリーフシードは欠かせないし、そのために魔女との戦いは続けなきゃいけないんですけどね。」

 

「そうか、マリアは魔女と戦い続けないといけないのだな。。。しかし、魔女とはいったい何者なのだろう」

 

そう呟いたミーメに答えるかのようにマリアが続ける。

「私にもよくわかりません。自分の作り出した結界の中に閉じこもって、魔女を手伝う使い魔達に犠牲になる人達を呼び寄せさせる恐ろしい存在、ってことくらいしか。魔女に目を付けられてしまった人には、首元に「魔女のくちづけ」って私たちが呼んでる紋章みたいなものが現れるんです。魔女はいつのまにかどこからか現れて、倒さないとどんどん増えてしまうんです。私たちこれからも頑張って魔女を倒していかないと。」

「私たちも、少しでもマリアたちの力になれるとよいのだが。。」

「そう思っていただけるだけで、すっごく嬉しいです。でも、魔女と戦わなきゃいけないのが魔法少女、ですから。私、ミーメさんの竪琴聴いてるとすごく穏やかな気持ちになれるんです。これからも楽しみにしてますね!」

 

マリアがそう言って納屋から去ろうとした、その時、テンマがマリアを呼び止めた。

 

「マリア、魔法少女になるときに、いったい何を願ったんだ?」

 

マリアは一瞬躊躇したが、腹を決めたように答える。

「お隣の国との間に起こりそうになっていた戦争が起きませんように、そして両方の国で作物がよく実るように暖かい陽の光がいっぱい降り注ぎますように、だったんです。この国とお隣の国ではひどい飢饉が続いていて、そのせいで戦争が起こりそうになってたんです。私の好きだった人は軍隊の将校さんで、もし戦争になったら戦いに行かなきゃいけなかったんですけど、戦争さえ起きなかったらこの村で私とずっと一緒に居られるかな~っと思って。おかげで戦争は起きず、作物もいっぱい実るようになったんだけど、好きだった人は他の人に。。お隣の国の貴族の娘さんと結婚することになっちゃって。。上手くいかないものですよね、こういうことって。」

 

「そうだったのか。。ごめん、辛いこと聞いちゃって。」

申し訳なさそうに視線を落とすテンマに、マリアは声をかける。

 

「いいんです、私の本当の願いは叶わなかったけど、2つの国の人が幸せになって、平和な世の中でみんながお腹すかしたりせず安心して生きていけるなら、私、それで満足ですから。。」

 

マリアはそう言うと、ミーメにぺこりとお辞儀をして、小屋から去って行った。

 

彼女が去ったあと、アルバフィカがぽつりと呟いた。

「あの娘、マリアはああは言っているが、心の中には計り知れない寂しさや絶望が住み着いてしまっているな。。願いを叶えた代償に魔法少女になったはずなのに。」

 

「確かにそうじゃな。キュウべぇとかいう動物、彼女の本当の願いにまでは考えが至らなかったということか。。ただ、こういう結果になってしまった以上、彼女にはせめてまた新たな道で幸せを掴んで欲しいものじゃ。。」

 

童虎は、そう独り言を言うと、ミーメに話しかける。

「あの少女、おぬしの中に何か希望の光を見いだしているようじゃな。せめておぬしがこの世界に居る間は、彼女がさらに悲しまぬよう、さりげなく支えてやることじゃ。」

 

ミーメは、複雑な表情をしつつ、無言でアスガルドのある北の方角を見つめていた。

 

 

「ところで、おぬしらはこの世界に来てから結界を認識できるようになったと話していたが。。」

童虎が話を変えにかかる。

「ということは、もしかするとおぬしらがこの世界にやって来たのには、魔女や魔法少女が関わっていたのかもしれぬな。あやつらが関与することによって、おぬしらも結界に気づくことができるようになったのかも知れぬなぁ。そのあたりの謎を解くためにはまだ証拠が足りぬが、面白い仮説とは思わぬか?」

 

「それはあり得る話だ。だとすれば、私たちがこの時代の聖域にやってきたことにも、やはり何かしら意味があるのかもしれない。今のところ、元居た時代に戻るすべも見つかっていないし、この世界で私たちが果たすべき事は何なのか、その視点で改めて探ってみるとしよう。」

ジークフリートは童虎たちに答えた。

 

 

 


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