神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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不吉な夢

「パンドラさん、素敵だったなぁ。わたしもあんなふうになれるかなぁ… うーん、さすがに無理だよね」

 

パンドラとの素敵な時間を、ベッドの上でまどかは思い出していた。

ブティックで初めて出会ったパンドラは、美しいけれど、無表情で近づきがたい存在に感じられた。

しかし今日の夕方のパンドラが見せた柔らかい表情。

きっと、今日のパンドラが本来の彼女なのかもしれない。

 

ほんわかと温かい気持ちに包まれていたまどかは、そのまま眠りに落ちていった。

 

 

 

「まどかっ! 駄目っ!」

 

まどかを必死に引き留めようと声を張り上げる、傷だらけのほむらの姿が傍らに見える。

 

空には巨大な歯車のような巨大ななにかが浮かんでいる。

遠くにはボロボロになったマミやさやか、杏子、そして神闘士たち。

 

足元にはキュウべぇが無表情にこちらを見つめている。

絞り出すように、何かをキュウべぇに告げようとする自分。

 

 

「ヤメてっ! まどか! それだけはっ!」

 

遠くで叫んでいる、黒衣の女性。

パンドラだ。

なぜ彼女がこんなところに居るのだろう。

 

体が、あたりが光に包まれる。

どうやら自分は魔法少女になろうとしているのだろう。

 

しかし、その光は瞬く間に失われる。

辺りを覆い尽くす、深い闇。

さやか、マミ、杏子、戦士たち、パンドラ、そしてほむら。

まどかは必死で手を伸ばすが、彼女達はなすすべもなく倒れていく。

 

闇は地上のありとあらゆるものを飲み込んでいった。

 

 

ガバッ!

 

汗だくになって、目を覚ますまどか。

 

あたりはいつもと何一つ変わらない、自分の部屋。

外はまだ暗い。

夢、だったのか。

それにしても、なんと衝撃的で悲しい光景だったことか。

記憶を振り払うかのように目を瞑り、頭をブンブンと振ると、まどかは逃げるように部屋から出ていった。

 

 

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次の明け方。

 

「こんな魔女、あたし一人で、充分、なんだからぁっ!!! …はぁっ、はぁっ…」

 

上条恭介の行き先、ソレントとジュリアン・ソロの投宿しているホテルの近く。

とある魔女の結界に、美樹さやかの姿があった。

 

「恭介を、守るんだっ! あたしがーっ!」

 

自分が恭介を守る、その誓いを守るため。

魔女を全て倒してしまえば、恭介に危険が及ぶことはない。

力任せに、感情の滾るままに、使い魔を、魔女を切り伏せていく。

 

「この街に居る魔女は、あたしが全部、倒すっ!」

 

魔女を仕留めると、この日4体目となる魔女の結界へと進んでいく。

 

「くっそ、こいつ、強い…」

 

体はすでに傷だらけ。疲れは隠しようもなく、荒々しく肩で息をしている。

先ほどの魔女よりも。この結界の魔女は手強いようだ。

 

「せ…正義の味方が、こんなところでっ ぐっ…」

 

疲れ切って冴えを失った太刀筋は見切られ、その隙を突いて加えられる重い一撃。

支えきれず、さやかはよろけ、膝をつく。

 

「なんで、 どうし…て…」

 

使い魔の群れが、魔女の剣が迫るのが見える。

避けたくても、避けられない。

 

「こんなんじゃ"恭介を守れない"」

 

無理やり心を振るいたたせると、魔女の剣を受け止めようとするさやかだったが。

 

 

「え?」

 

暗かった結界に光が差す。

太陽の光を思わせる、眩い光。

 

力を失い、枯れ葉のように結界の底に落ちていく使い魔たち。

何かに撃ち抜かれたように穴だらけな、魔女の腕。

 

「そこから動くな」

 

自分の前に立つ男が見える。

眩いばかりに輝く、黄金の鎧。

 

「黄金聖衣? 誰? レグルス、じゃない」

 

見上げるほどに高い体躯。

光を受けて輝く、蒼く長い髪。

そして、辺りを包む、薔薇の香気。

 

「援護なんて…あたしが…」

「これを使ってソウルジェムの穢れを取り除いておけ。お前が先ほどの結界で残していったグリーフシードだ」

 

目の前に、グリーフシードが3つ。

今日倒してきた魔女たちの残滓だ。

 

我に帰る、さやか。

ソウルジェムに目をやると、それは穢れで真っ黒に染まり、今にもはじけそうに軋んでいる。

あわてて一つ手に取ると、ソウルジェムへと手をかざす。

 

「魔力さえ回復すれば、お前ならここの魔女など恐れることはないはずだ。だが今は、とりあえず私に任せておけ」

 

さやかが落ち着きを取り戻したのを背中越しに確認した男は、魔女のほうへゆっくりと歩みだす。

 

「お前はもう充分に苦しんだ。今、楽にしてやろう。クリムゾン・ソーンっ!」

 

深紅の、針のような弾幕が現れ、魔女に向け放たれる。

瞬く間に、機銃に撃たれたかのように穴だらけになった魔女はその場に崩れ落ちた。

 

消滅していく結界、再び現れた元の世界では、桜が満開に咲き誇っている。

 

 

 

「倒れてしまえばそれまでだ。守りたい者が居るのであろう。ならば、無茶はせぬことだ」

 

男はそう言い捨てると、立ち去ろうとしている。

 

「ちょっと待って、お礼くらい言わせてよっ!」

 

慌てて駆け寄ろうとするさやかだったが。

 

「私の側に近寄るな!」

 

男は強い言葉で制す。

思わず後ずさりする、さやか。

 

「…せめて、名前くらい聞かせてよ」

 

「…黄金聖闘士。魚座(ピスケス)のアルバフィカ」

 

無表情で告げ、男は静かに立ち去って行った。

 

 

「なんだってのさ、あの態度。聖闘士さん達って、どうしてみんな… えっ!」

 

不機嫌でぷりぷりしていたさやかの表情が、固まる。

視線の先には、一本の桜の木。

 

「か、枯れてる。さっきまで満開に咲いていたのに、どうして…」

 

 

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その頃、巴マミのマンションでは、マミと佐倉杏子、アンドロメダ瞬とペガサス星矢が集まっていた。

話題は、最近頻繁に姿を現しているらしい冥闘士のことだった。

 

美樹さやかと頻繁にエンカウントしているらしいが、特段の事情や理由があるようにも見えない。

たまたまその様子を見かけた杏子によれば、まるで友人同士のように冗談すら交わしていたという。

なにか狙いがある、ようには見えない。

 

それでも警戒は怠るべきではないとする星矢たちと

とりあえず様子を見るべきだというマミたち、意見の隔たりはなかなか埋まりそうにない。

 

 

一息いれようと、ケーキに手を伸ばした瞬と星矢の手が、止まる。

 

「うそ…」

「…なんでだよ」

 

茫然としている二人。

マミと杏子も、何か不穏な気配を感じているようだ。

 

 

「いったい、何が起きたんですか?」

 

心配そうに声をかけるマミ。

 

「たった今、聖域で…処女宮で、シャカの小宇宙が、大きく弾けて、消えた」

「そして、もう一人… 兄さんの小宇宙も」

「シャカと、一輝が、死んだ…そんな」

 

生き残っている黄金聖闘士の中でも最強と目される、乙女座バルゴのシャカ。

ミーメの現状を解決に導けるかも知れない重要人物である、鳳凰座フェニックスの一輝

 

その2人の小宇宙が、消えた。

あまりのことに、手にしたフォークを落とす二人。

 

別人のように悄然としている二人に、声をかけることすらできない、マミたち。

 

やがて、星矢がおもむろに立ち上がる。

 

「瞬、こうしちゃいられない。行くぞ、聖域に。何が起こったのか、確かめるんだ」

「…うん、そうだね。星矢。まだ死んだと決まったわけではないかもしれないんだし」

 

今にも駆け出さんとしていた、星矢。

その動きが、止まる。

いや、止められる。

 

「気持ちはわかりますが、今、あなたたちはこの街を、日本を離れてはなりません」

「止めないでくれ、俺たちは行かなきゃいけないんだ… って! あなたは!」

 

星矢の肩に手をかけたその人物。

部屋に黄金の光が満ちている。

 

「あなたたちのことです。きっと聖域へ駆けつけようとするでしょうから」

 

いつのまにか、現れた一人の青年。

驚きを隠せない、星矢と瞬。

突然現れた青年に腰を抜かし、部屋の隅でへたりこんでいる、マミ。

 

「大丈夫です。シャカも、一輝も、死んだわけではありませんから」

「え? だって、二人の小宇宙はさっき大きく弾けて、消えて…」

「落ち着きなさい、星矢。思い出すのです、十二宮の戦いを。あの時も、一輝がセブンセンシズに目覚めて小宇宙を爆発させたことでシャカと一輝は粉々に吹き飛んで消滅しましたが、そのあと何事もなかったかのように戻ってきたではありませんか」

「そういえばそうだったな。焦って損したぜ」

 

納得して星矢は再び腰を下ろす。

 

「(粉々に吹き飛んで消滅したのに?)」

「(何事もなかったかのように戻ってきた?)」

「(どうして星矢さんはそれで納得してるの?)」

 

宇宙猫のような表情で、マミと杏子は困惑している。

 

「実は、一輝はとある場所に向かおうとしていたのです。ただ、そこは普通ならどうやってもたどり着けない場所。方法があるとすればただ一つ、十万億土の彼方からならば、時と空間のねじれを利用してそこに至れるかもしれない、だから…」

「兄さんは十万億土の彼方まで一旦吹き飛ぶために、シャカともう一度戦ったんだね」

「そうです。そしてまた、私はシャカをまたこの世に引き戻し、一輝はその足でとある場所へ向かったというわけです」

「兄さんの行先は、教えてくれないんだね」

「はい、男と男の約束ですから」

「…ムウからその言葉が出てくるの、なんだか妙な感じだけど、わかった。ところでせっかくだし、ちょっと休んでいったらどうだ?」

「そうですね、たまには聖域の外の空気を吸うのもよいものです… あ、ケーキ頂きますね」

 

「…えーと…」

「あ、申し遅れました。あなたが巴マミさん、そちらの方が佐倉杏子さんですね。はじめまして。私、聖域で白羊宮を守る、牡羊座の黄金聖闘士、アリエスのムウと申します、以後、お見知りおきを」

 

早くもその場の雰囲気に馴染んだのか、器用に正座すると、あたりまえのようにケーキを口にし、紅茶をたしなむ、ムウ。

ムウのマイペースさに戸惑いながらも、マミと杏子も歓談の輪に加わる。

 

「ところで巴さん、こちらには暁美ほむらさんはいらっしゃらないのですね」

「はい、同じ見滝原の魔法少女ですけど、暁美さんは私たちとはあまり関わりを持ちたくないようで…」

 

ムウの口から意外な名前が出てきたことに驚きを隠せない、マミ。

 

「そうですか、やはり彼女は…」

「(やはり? なに?)」

 

肝心なところをぼかして語らないムウ。

そんな彼にに呆れながらも、マミの心中に一つの疑問が浮かぶ。

 

「(そういえば暁美さん、今まで関わりがあったわけでもないのに、どうしてあんなに私への当たりがキツかったのかしら…)」。

 

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その頃、聖域では。

 

処女宮での出来事について報告を受けたアテナこと城戸沙織は、大きくため息をつく。

 

「どうしてこうもうちの聖闘士たちは…」

 

デジェルやハクレイ、セージ、レグルス、アルバフィカ、テンマ。

多少の個人差こそあれ、基本的には紳士的でまとも(に見える)243年前の聖闘士たちと比べ、今の聖域、特に黄金聖闘士たち、シャカ、ミロ、ムウ…どうしてこうもフリーダムな面子ぞろいなのか。

 

「あぁ、サーシャさんがちょっとだけ羨ましく… いえ決してそんなことは… でもやっぱりちょっとだけ」

 

城戸沙織は、そう思いたくなるのをどうにか振り払うかのように、首をブンブン振る。

まさにその時、机の上に置かれていたスクルドの鏡が輝きだした。

 

「アテナさま、未来のアテナさま、243年前の教皇、セージにございます」

 

慌てて居住まいを正す、城戸沙織。

 

「実は、そちらへまた一人、送り込みたい者が居るのです。よろしいですかな?」

「えぇ、あなたの選んだ者であれば、誰であれ私は歓迎いたします」

 

今度はどんな聖闘士が来るのだろう? デジェルやセージのような紳士か? レグルスやテンマのような明朗快活な青年か?

密かに期待する気持ちをセージに悟られないよう、アテナは厳かに、来客を待つ。

 

輝きを強める、鏡。

光に包まれて一人の影が次第に現れる。

 

わくわく…

 

やがて光が弱まっていくと、そこには…

 

 

小さな籠を手にした、一人の少女が立っていた。

 

 

 

 

「あなたがこちらの、未来のアテナさまですね! はじめまして、私、ロドリオ村のアガシャと申します!」

 

 

 

 

「……… ………     はい? 」

 


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