神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

4 / 46
傷の癒えつつ2人の神闘士。村でのつかの間の平和を楽しんでいた2人は、この時代に来てから感じていた違和感の正体と向き合うことになる。

※Pixivにも同名で投稿しています


魔女、そしてインキュベーターとの邂逅

教皇との会談からほどなくして、ジークフリートとミーメは聖域の麓にあるロドリオ村に移ることとなった。アルバフィカ曰く、山麓で気候のおだやかな村のほうが静養になるから、とのことだったが、おそらく他にも理由はあるのだろう。2人は敢えてそれ以上アルバフィカに聞かなかったが、聖闘士たちが12宮の補強や雑兵の訓練を慌ただしく行っているのを見るに、近いうちに大きな戦いが起こること、部外者である2人を好意と警戒の双方ゆえに聖域から遠ざけたことは察しがついた。2人は聖域の判断に黙って従った。

 

聖域のはからいか、ロドリオ村では雨風をしのぐのに十分な家を与えられた。村の医者が定期的に様子を見に来てくれるほか、この時代にやってきて最初に出会った少女、アガシャが仕事の合間をぬって食事などなにかと世話を焼いてくれる。これまで修行と戦いばかりに生きてきた2人にとって、体が完全に回復するまでのつかの間とはいえ久しぶりの平穏な日々であった。

 

動かなくては治る傷も治らない、ということか。ジークフリートはアガシャの家が営む花屋の配達や花畑の手入れを、ミーメは村の広場や病人の家で竪琴の演奏を、2人はそれぞれ自分が出来ることをして、村人達の厚意に答えようとしていた。

ただでさえ美形でしかも紳士的、礼儀作法も心得た2人である。村人達の注目を集めるのにそれほど時間はかからなかった。

ジークフリートは村のお年寄り達にすっかり気に入られ、集まりに呼ばれたり差し入れに野菜を貰ったりしている。ミーメが竪琴を弾き始めると村の少女達が我先にと集まってくる。少女達は皆目を輝かせて竪琴に聴き入っており、何人かはそれ以上の関心をミーメに向けているようだった。中でも、アガシャの友人であるという髪に赤いヒナギクの花をさした少女は、頻繁には来られないようだが時間を見つけてやって来て、人々の一番前で竪琴に聴き入っている。大工の娘だそうだが、父親が仕事で怪我をしたために毎日朝から夜まで働きづめであり、竪琴を聴くことを何よりも楽しみにしているとのことだった。その少女が来た時には、少しでも心を癒やせるよう、ミーメは普段よりもさらに優しく竪琴を奏でるのだった。

 

「ミーメ、この村で結婚相手が見つかりそうなくらいのモテようだな?」

「なんだ、妬いているのか?」

「そ。。。そんなわけがなかろう。私はただ。。」

「ふっ。冗談だ、わかっているとも。元の時代に帰れる可能性が万が一にでもあるのなら、私もそれに賭けたい。もしそうなったときに帰れない事情を自分でつくるわけにもいくまい」

「うむ。帰る方法がないか、聖域でも調べてくれているようだしな。体力さえ戻れば私達自らこの時代のアスガルドに向かって帰る手段を探すこともできよう。諦めさえしなければチャンスを拾うことが出来るのは、星矢たち青銅聖闘士たちが教えてくれたではないか。何があろうとも2人で元の世界へ、ヒルダさまのいるアスガルドに戻ろう。」

2人は、空に輝く北極星と北斗七星をみやりつつ、改めてアスガルドへの帰還を誓った。

 

「ところで、ジークフリート。聞きたいことがあるのだが」

「どうした、ミーメ」

「この時代に来てから、聖闘士とも神闘士とも違う、何か異様な気配をたまに感じるのだ。お前はそのようなことはないか?」

「確かに、それは私も聖域に居た頃から感じていた。この村に来てからも1度だけ、村の中から非常に強い気配を感じたことがある。まがまがしい気配が爆発的に現れ、次の瞬間には別の何かへと姿を変え、そして数日すると消え去ってしまった。」

「私が感じていた気配と同じもののようだな。聖闘士の小宇宙とも違う、何かこう、深い絶望のようなものだ。そして、話に聞くところでは、その気配が現れたのと同じ日に、村から少女が1人、姿を消していたそうだ。」

「ミーメ、それは捨て置けぬな。人さらいか隣国からのスパイか、冥王のさしがねか何かはわからぬが、調べてみる必要があろう。鈍った体を鍛え直すにもよい機会だろう。」

「聖域には伝えておくか?」

「そうだな、隠れて動いてもどうせ聖域にはつつぬけだろう。怪しまれぬためにもきちんと話しておくべきだろうな。明日、ピスケスとライブラが来るはずだ、ちょっと話をしておこう。」ジークフリートは戦士としての本能が甦ってきているのか、そう言うと拳を握りしめた。

 

 

 

翌日、アルバフィカと童虎が2人の家にやってきた。

「どうじゃ?体の具合は? 戦ぬきで村人とふれあうのもたまにはよいじゃろう。」ライブラの童虎が屈託なく笑う。

「お気遣い感謝する。2人とも確実に傷が癒えつつあるようだ。村人もよくしてくれるしな。聖域とこの村の人達にはどれだけ感謝してもしきれないと思っている。」

「相変わらず堅いのぉ。ところでミーメよ、お前は少女達にモテておるようじゃな?」

「アスガルドに居たころは、竪琴を聞いてくれるのは、動物たちや森の木々、凍て付いた風ばかりだったからな。ここに来て、こんな私の竪琴を多くの人が聴きに来てくれるのを見て、自分のためでなくまして戦いのためでなく、ほかの誰かのために奏でる音楽の美しさを思い出すことが出来た。うれしくないわけがあるまい。あ、聴衆に少女が多いということであって、特別な感情など持つつもりはないがな。」

ミーメは若干不機嫌そうに言う。

「ミーメ、お前も堅いのぉ。アルベリッヒ13世もそうだったが、どうして北の者達は堅いのじゃ。せっかくの平和、もう少し楽しんでもよかろうに。」

 

「ライブラよ」

ジークフリートが、話を切り替えるように童虎に問いかける。

「堅いのぉ、童虎、とアルバフィカでよいぞ」

「では、童虎よ。平和というが、それはほんのつかの間のこと。聖域は大きな戦いを控えているのであろう?」

「さすがじゃな、お前達には隠し事はできぬようだ。確かに聖域はまもなく大きな戦いを迎えることになる。243年ごとに起こる聖戦、冥王ハーデス軍との戦いじゃ。冥王軍はすでに動き始めておる。ワシやアルバフィカ、他の聖闘士達がたとえ全滅することになっても勝たねばならぬ戦いだ。ただ、お前達までも聖戦に身を投じなくてもよいからな。これはワシらの戦いじゃし、お前達が介入すれば冥王軍の手がアスガルドにも及びかねぬ。」

 

ジークフリートは、やはりという顔で童虎に答える。

「童虎、あなたのいうとおり、この時代のアスガルドを戦火に巻き込むことはできない。私たちはよほどのことがない限り、聖戦には関わらぬつもりだ。ただ。。私達がこの時代に来てから、聖闘士とも神闘士ともおそらく冥闘士とも違う、なんというか絶望に満ちた気配を感じることがあってな。先日もこの村の中でそれを感じたところだ。そして、それと同時に村の少女が1人、姿を消したらしい。童虎よ、聖域ではその事態、把握しているか?」

 

童虎が何か答えようとするのを遮って、アルバフィカが答える。

「あなたたちも気づいていたのか。確かに、小宇宙とは違う大きなエネルギーの発生と同時に村の少女が忽然と姿を消したこと、その後立て続けに村人が数人行方不明になったことは我々も察知している。ただ、どんなに調べても、それが何なのか手がかりすら得られずに居るのだ」

「童虎、アルバフィカよ、よければこの一件、私とミーメに調べさせてもらえぬか? 聖戦を控えた貴方達よりは、我々のほうが身動きもとれよう。」

「あいわかった。先日も冥闘士が1人、聖域に忍び込んだばかりじゃ。警戒をゆるめるわけにはいなんしな。ただ、お前達はまだ回復しきっていないことを忘れるな。何かあったらいつでもワシらを呼ぶのじゃぞ。教皇にもこの一件伝えておくでな。」

 

 

 

それから10日ほどたったある日、2人は隣村から異様な気配、絶望が爆発的に弾ける気配を感じた。隣村に駆けつけてみると、村には一見なにも起こっていないように見える。ただ、小宇宙を研ぎ澄ましてみると、村のどこかからかすかに不気味な気配があふれ出しているようだ。村はずれの廃屋に近づくほど、その気配は強まっていった。

木陰からその家の様子を伺っていると、まるで夢遊病者のように1人の村人が家に近づいてきた。次の瞬間、2人は自分の目を疑った。村人は扉ではなく、家の壁に吸い込まれるようにして姿を消したのだ。

 

2人はあわてて壁に近づいてみるが、扉どころか隙間すら見つからない。窓から覗いても家の中に変わった様子はない。ただ、壁の向こうには確かにあの、絶望の気配を感じる。

ミーメは静かに小宇宙を高めると、壁へと神経を集中させてみた。すると、わずかながら壁の周りの空間が歪み、その隙間の向こう側に異様な空間が見え隠れしている。2人は小宇宙を高めると一気に隙間をこじ開け、空間の内部へと足をすすめた。

空間の奥へと侵入した2人は言葉を失った。空間の中はさまざまな食べ物で満たされている。果物。。チーズ。。パン。。その奥にはブドウを思わせるような異様な姿の怪物が立っている。身長5mにもなろうかというその怪物は先ほどの村人をまさに掴もうとしていた。

 

ミーメはとっさに竪琴からストリンガーレクイエムの弦を伸ばすと、村人を弦で自分達のもとへとたぐり寄せた。怪物の手からすんでの所で逃れることができた彼女は意識を失っているのか、そのまま彼らの足下に倒れ伏した。

 

「貴様!何をしている!」 ジークフリートが怪物に向かって叫ぶ。怪物は、ジークフリートの声に反応したのかこちらを向くと一声何か唸ったが、次の瞬間2人に向かって襲いかかってきた。この状況では応戦するほかない。村人の保護をミーメに任せ、ジークフリートは最初の一撃を難なくかわすと怪物の頭上へと飛び上がった。小屋の中のはずなのに、怪物の空間はどこまでも広がっているかのように広く高い。ジークフリートは怪物から十分に距離をとると、そのまま下の怪物へと彼の技を放つ。

「ドラゴン・ブレーヴェストブリザード!」

ジークフリートの両拳が青くまばゆい光に包まれる。ジークフリートは渾身の力を込めて、両拳を怪物に向けて放った。

怪物はその腕で攻撃を防ごうとしたが、ジークフリートの両手から放たれた拳は、激しく輝く光となって怪物の両腕を、そして胴体を貫き、怪物の体を木っ端微塵に打ち砕いた。爆風が空間に充満し、やがてそれが落ち着くと怪物はその姿を消していた。小さな、黒い宝石のような石をその場に残して。

 

 

 

「倒した。。のか。。」ジークフリートはあたりの気配を探るが、さきほどの異様な空間は怪物のまがまがしい気配とともにいつの間にか消え去っている。狭い廃屋の中に2人は立っていることに気がついた。狭い小屋の中で神闘士の技を放ったのにも関わらず、小屋のどこにもその痕跡は残されていない。

「我々の感じた気配の正体はあの怪物だったようだな。。いったい何者だったんだろうか?」ミーメがいぶかっていると、背後から突然甲高い声がした。

 

「やれやれ、魔女が現れたから来てみたら、君たち、魔法少女じゃないみたいだね。どこの誰だか知らないけど、魔法少女の取り分を横取りするなんて感心しないなぁ。」

 

2人が振り返ると、猫とも犬とも違う、小さな白い動物がそこにたたずんでいた。耳はウサギのように長く、目は大きく赤く、一見すると可愛らしいが、その顔は無表情で感情を読み取ることが出来ず、なんとも言えない不気味さすら感じさせる。何より驚くのは、その動物は人の言葉を話すのだ。口が動いているわけではないので、テレパシーで話しかけてきているようだが。

 

「君たち、魔法少女でもないのに僕の言葉が聞こえるのかい? まぁそんなことはどうでもいい。君たちが今倒しちゃったのは、魔女。結界の中に閉じこもり、街の人々をたぶらかしたり食糧にしているのさ。そして魔女を狩るのが魔法少女。希望を叶えることと引き替えに魔法少女になった彼女たちは魔女を倒し、君たちの前に落ちているそのグリーフシードを手に入れる。君たちは魔法少女の狩りをジャマしちゃったのさ。せめてそのグリーフシードはそのままそこに置いておくといい。魔法少女が手に入れられるようにね。」

 

「貴様、何者だ」

ミーメは、突然現れた生き物に警戒しつつ、問いただした。

 

「僕はキュウべえ。魔法の使者ってとこかな。少女たちの望みを叶えるのと引き替えに魔法少女になってもらう契約を結ぶ、それが僕の仕事さ。君たちこそ何者だい?」

 

「私は、アスガルドの神、オーディーンに仕える神闘士、アルファ星ドゥベのジークフリート」「同じくエータ星ベネトナーシュのミーメだ。」

「ふーん。まぁいいや。あんまり魔法少女のジャマをしないでくれるかな。彼女達が困っちゃうしね。」キュウべえはそう言い放つといずこかへ去って行った。

 

 

ようやく気がついた村人を送り出すと、ミーメとジークフリートは小屋をあとにした。村は、何事もなかったかのように静まりかえっている。

「あの動物は、魔女の結界、と言っていたな。どうやら私達がこの時代にやってきてから感じていた異様な気配は、さきほど出くわした魔女という怪物に関係していたようだな。そして今はあの気配は感じられない。この時代にはあの魔女がたびたび現れ、おそらく魔法少女という存在に倒されているのであろう。私達の技で対抗できるのはわかったことだし、もうしばらく内偵してみるか。」ジークフリートはミーメにそう語ると、ロドリオ村へと足を向けた。

 

2人が小屋から離れつつあったその時、彼らが去るのを待っていたかのように1人の少女が小屋に入るのを、ミーメは目にした。

「どこかで。。」

後ろ姿だったので確証はもてないものの、ミーメはその少女になんとなく見覚えがあった。ミーメが小屋に戻ろうとしたその時、騒ぎに気がついたのか、童虎がテレパシーで2人に呼びかけてきた。村から居なくなり、しかも戦いの場に身を投じていた2人を心配しているらしい。後ろ髪を引かれる思いで、ミーメはジークフリートとともにその場をあとにした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。