「ブラックドラゴンについて知りたい、と?」
日本の城戸沙織邸で、青銅聖闘士、紫龍は意外な人物に呼び止められた。
「敵として俺たちと初めて拳を交えた暗黒聖闘士の一人、なのだが、貴方が聞きたいのは恐らくそういうことではないのだろうな」
長身の青年は、黙ってうなずく。
「俺の知っている限りのことでよければ全て話すつもりだが、それにしてもなぜブラックドラゴンなのだ? 今回の件となにか関わりがあるのだろうか?」
ブラックドラゴン。
勝つためには手段を択ばず、しかも強大な力を持っていた暗黒聖闘士たち。
中でもブラックドラゴンの強さは目覚ましく、彼と紫龍の戦いはどちらが倒れてもおかしくないほどに壮絶なものだった。
ただ、戦いを終えて互いに死を待つばかりとなっていた状況で、ブラックドラゴンは紫龍の真央点を突いて自分の命を救ってくれた。
そして、共に戦っていた彼の兄、"伏龍"が倒れた時に見せた彼の激しい動揺は、友情など信じぬという彼の冷徹な言葉とは裏腹なものだった。。
生死を賭けた戦いの中でも、ブラックドラゴンは決して人の道を踏み外すことはなかった。
生きていればきっと、よき友となれたことだろう。
「そうか。悪逆の限りを尽くしアテナにすら見放された暗黒聖闘士の中にも、そのような者がいたのだな」
無表情な青年に、ほんの一瞬だが安堵の色が浮かぶ。
紫龍に礼を言うと、青年はいずこかへ去っていった。
「なんだい?いきなりやってきて、アステリオンについて聞きたいって」
ギリシャの聖域。
警備任務にあたっていた白銀聖闘士、鷲座の魔鈴は突然の訪問者に警戒しつつ聞き返す。
「答える義理はないけどさ、ただ、あんたがそれを聞いてくるってことはなにか意味があるんだろう? いいよ、教えてやるよ、あいつとは知らない仲でもないし」
猟犬座の白銀聖闘士、アステリオン。
星矢たち青銅聖闘士の討伐のために、偽りの教皇サガの命により派遣された聖闘士の一人だ。
戦いの中で魔鈴により倒されこそしたものの、紫龍に倒されたペルセウス座のアルゴルと共に、白銀聖闘士の中でも屈指の実力者であった。
聖域に対してどこまでも忠実であった彼。それ故に袂を分かつこととなったが、魔鈴にとっては信頼のおける大切な仲間だった。
「生きて聖域に帰還し事の次第を教皇に伝えるように」
魔鈴はそう言って、最期を迎えるばかりとなっていた彼に敢えてとどめを刺さず、送り出した。
それは、彼ならばたとえ力尽きようとも諦めずに聖域にたどり着くであろうと思っていたから。
そして、叶うことなら彼には聖域で生き延びていて欲しかったと、心のどこかで思っていたせいかも知れない。
淡々と事実を伝えながらも惜別の念が隠せない魔鈴の表情から、青年は生前のアステリオンに思いをはせる。
手短に礼を言うと、青年は歩き去っていった。
過去に生きた無数の聖闘士たちが眠る、聖域の墓地。
その片隅に、訪れる人も少なく草に深く埋もれつつある粗末な墓たちがある。
蟹座のデスマスク、山羊座のシュラ、魚座のアフロディーテ、水瓶座のカミュ、双子座のサガ…
ペルセウス座のアルゴル、蜥蜴座のミスティ、ケルベロス座のダンテ、ケンタウルス座のバベル…
サガの乱で倒れていった黄金聖闘士、白銀聖闘士たちのものだ。
荒れ果てたそれらの墓碑の前に丁寧に手向けられた、白薔薇たち。
アフロディーテの墓には、深紅に染まった白薔薇、ブラッディ・ローズ。
「魚座ってのはどうしてこうも気障なのかねぇ」
日差しを受けて輝く薔薇の花を見つめている、魔鈴。
「…でも、ありがとうと言わせてもらうよ」
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「アスガルドの2人、ブラックドラゴン、そしてアステリオン。共通点があるか否か図りかねておりましたが、アルバフィカの働きによリ糸口が掴めてございます」
「セージ、日本から聖域に戻ってきて事の成り行きを報告したあとに行方知れずとなっていたアステリオン、そしてブラックドラゴンまで、まさか243年前の聖域にたどり着いていたとは。彼らを丁重に葬っていただき、ありがとうございます」
聖域、教皇の間。
先代、243年前の聖域にはサーシャと教皇セージ、その兄ハクレイ、当代の聖域には城戸沙織と蠍座の聖闘士ミロ、そして探索から戻ってきた、先代の黄金聖闘士魚座ピスケスのアルバフィカ。
彼らは、アルバフィカが行ってきた探索結果について、スクルドの鏡を介して意見を交わしている。
一か月おきに先代の聖域に突如として送られてきた、幾人もの戦士たち。アスガルドの2人以外は発見された時には死を迎えるばかりとなっていた。ために、かろうじて聞けた名前や身に着けていた聖衣以外に情報は得られず、身元になんの手がかりもなく無名の戦士として葬られた者も多い。
「教皇、皆、強さだけでなく心技体兼ね備えたひとかどの漢であった、ということでよろしいようですな」
「そして兄上、彼らがこちらで戦いを経て瀕死となった時期もまたおおむね1ヵ月ごと。ということは、送り込む側にも1か月ごとにならざるを得ない事情や制約があるのか、それとも時渡りのきっかけとなるなんらかの現象が一か月ごとに起きるのか。いずれにせよ、こちらで激しい闘いが続き戦士が命を落とし続けていたこともまた、一か月ごとの時渡りが成立する原因であったということなのでしょう」
どうやらセージとハクレイが抱いていた仮説は、アルバフィカの探索を経て確信へと変わったようだ。
「ハクレイどの、それなのだが…」
「ん?次代のスコーピオンか。どうした?」
それまで黙っていたミロが口を開く。
「そちらへ送られた戦士は、大半が手遅れの状態であったという。それは、送る側は送る者の状態を吟味できなかったということであろう? ということは…」
「より可能性が高いのは後者、時渡りのきっかけになる現象が一か月ごと、出来るのは優れた勇者を送ることまで、ということか」
ほう… とばかりに、軽い驚きをもって答えるハクレイ
当代のアテナ、城戸沙織もまた、そんなミロを口が半開きの状態で眺めている。
「アテナまで。私をいったいなんだと思っているのですか? 目的があるのなら、わざわざそれを達することができない状態で送りはしないだろう、そう思ったまでの事… やっ、アテナ、額に手を当てようとしないでください!」
当代の聖域で繰り広げられているコントを、サーシャたちは微笑ましそうな目で眺めている。
アルバフィカの表情も、いつになく少しだけ和らいでいるようだ。
「セージ、この平和、いつまでも続いてほしいものですね」
「はい、切にそう思います」
「さて、アルバフィカ、探索の目的はおおむね達せられたが、そなたにはもう一つ任務を頼みたい。よいか?」
「教皇、なんなりと」
「どうやら見滝原でハーデス軍が動いているようだ。そなたには引き続き、ハーデス軍について探ってもらいたい」
「確かに、これまでもかすかではありますが冥闘士らしき小宇宙を感じたことがあります。それにしてもなぜ聖域ではなく日本に…?」
アルバフィカの疑問は当然のことだった。聖戦の長い歴史において、ハーデス軍がはるか極東の日本に現れたという記録はない。
いったい、なぜ?
「三巨頭を送り込むほど重要な何か、それが日本にあるということなのだろう。魔女と魔法少女の周辺に彼らが現れているのは気になるところだが…」
「教皇、そういえば我々の時代では、眠りの神ヒュプノスが魔女とキュウべぇを連れ去っております、もしや、彼らの狙いはそこにあるのでは?」
「日本におけるハーデス軍の隠密裏な行動、作戦の中心に慎重かつ周到なヒュプノスが居るのであれば、納得がいくというもの」
前聖戦の時代において、連れ去った魔女とキュウべぇからヒュプノスがなんらかの情報を得たうえで、この行動をとっているのだとしたら。
聖戦がまだ始まっていないこの時期に、魔女と魔法少女の周辺で彼らが行動しているということは重大な意味を持つ。
「アルバフィカよ、ハーデス軍が日本のどの地域に現れているかについても確認してもらいたい。日本の各地なのか、それとも見滝原周辺だけなのかを」
「わかりました。今のところ魔法少女に危害を加えていないようですが、これからもそうとは限りません。慎重に探索を続けます。ではアテナ、これにて」
アルバフィカはそう言い残すと、教皇の間を後にした。
「ところでセージ、たしか、獅子座のレグルスも探索任務にあたっているとのことでしたが…」
「城戸沙織さま、砂浜でたった一粒の水晶の欠片を探すような、と申しましょうか。極めて困難な任務ではありますが、レグルスなればこそ果たしうるもの。もう少々お待ちいただければと存じます」
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同じころ、見滝原の病院を一人の少女が歩いている。
見舞い客にしては、まるで何かを探しているように、そして人目につかぬように周囲の気配を探っている。
佐倉杏子だ。
やがて、医者も看護師も出払って無人になっている部屋を見つけた彼女は、周りに誰もいないことを確認し、おもむろに魔法少女に変身する。
防犯カメラの死角から素早く部屋に侵入すると、慣れた手つきでいくつかの薬を手にし、何事もなかったかのように廊下に戻ってくる。
「(人手不足かなにか知らないけど、不用心過ぎるんじゃないかい? 風見野のほうはすっかり警戒厳しくなったから、こっちがザルなのは助かるけどさ)」
用事は済んだ。あとは見とがめられる前に病院を去るだけだ。
そそくさとその場から去ろうとする彼女の耳に、ふと看護師たちの会話が飛び込んできた。
「はぁ、上条さん、やっと退院してくれるのね…」
「ほんと、ここ数日は別人のようにおとなしくなったけど、それまでは私たちに当たり散らすわ、自暴自棄になるわでキツかったよね~」
どうやら、問題のある患者がやっと退院してくれるらしい。気が緩んでいるのか、彼女らは言いたい放題患者の悪口を言っている。
「(ふん、よくもまぁそんなに陰口たたけるもんだね。何が"白衣の天使"だ)」
杏子は半ば呆れつつ、その場を離れようとする。
「でもさ、今の医学じゃ絶対に治らないはずだった上条さんの腕が、一晩明けたら完治してたなんて、今でも信じられないわ」
「そうそう、魔法でもあるまいし…いったい何がどうなってるのかしら? なんにせよ退院してくれるんだから、こんな有難いことはないけど」
「(…なんだって…?)」
何が起きたのか? 杏子には思い当たるところがある。
魔法少女の願い。
どんな願いでも、たとえ死人を蘇らせたいというものであっても叶えることが出来る奇跡。
「(ちっ、どいつもこいつも、願いを他人のために使いやがって…)」
苦虫を噛み潰したような表情になる、杏子。
いったいどこの誰が?
「そういえば、さやかちゃん、今日はまだ来てないわね」
「珍しいよね、ほとんど毎日のように、学校帰りにお見舞いに来てるのにね」
つい最近耳にしたばかりの名前が耳に刺さる。
まさか。
「いったい上条さんのどこがいいのかしら? あの子、明るくて可愛いんだからもっといい人とくっついちゃえばいいのにね」
「私もそう思うけどさ、こればっかりは美樹さんの好みの話だから。でも将来絶対苦労しそう…」
「(あいつ…)」
あいつなら、美樹さやかならやりかねない。
「(ったく、何から何まで癇に障るヤツだ…)」
杏子はそそくさとその場を後にした。
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風見野に帰ってくると、そこには一人の少年が待っていた。
「おかえり、キョーコ!」
「あん? えーと、あんた…、レグルスだっけ? なんだ、また食べ物せびりにきたのか?」
「ひっどいなぁ、次はちゃんとお礼にくるって言ったじゃないか」
「えっ? そういえばそんなこと言ってたっけ わりぃわりぃ」
仏頂面だった杏子の表情が、少しだけ緩む。
とぼけながらもさらっと詫びを入れる杏子と、膨れっ面しつつもすぐに笑顔に戻るレグルス。
「食べ物のお礼だから、食べ物で返したいなって思ってるんだけどさ」
「いやいや、林檎一個だろ、そこまでしてくれなくてもいーよ。」
「それじゃ俺の気が済まないよ。今度はちゃんとお金も持ってきたから、何か美味しいもの食べに行こうよ、奢るからさ!」
「そこまで言うなら遠慮なく奢られるけどさ」
容赦なく追い払ったりしないのは、タダ飯を喰えるチャンスと思ったのか、それとも彼の屈託のない笑顔のせいか。
佐倉杏子は、一人で生きてきた。
いや、少し前までは家族が、暖かい家があった。
ある出来事をきっかけに、それらはことごとく失われてしまったが。
以来、彼女は誰の力を借りることも、誰かを頼ることもせず、魔法少女として独りきりで生きてきたのだ。
利己的に、冷徹に、己の欲望のままに。
そんな彼女の前に現れた、一人の少年。
「そんなこと言って、ほんとはレグルスが旨いもの喰いたいだけじゃねーの?」
「お礼したいのは本当だよ。それに、美味しいもの食べるなら、独りじゃなくて誰かと食べたほうが楽しいと思うんだ」
そう言って微妙にむくれるレグルスを、杏子はじっと見つめている。
「(独りじゃなく、誰かと、か…)」
ほんの一瞬何かに思いをはせるかのように目を閉じていた杏子。
「よーし、じゃぁレグルスの奢りでパーッといこうぜ! あたしの知ってる店、あるからさ」
「わーい、すっごく楽しみ! ありがとな! 」
しばらくして、風見野のとある古いファミレスに、佐倉杏子とレグルスの姿があった。
「どーだ、なかなかいい感じの店だろ? せっかくだから遠慮なく食べたいもの頼ませてもらうよ。えーと…」
杏子はメニューを眺め、ある品を探している。
どうやら、この店に来たら必ず頼むメニューがあるようだ。
「お、あったあった。しばらくぶりだから手間取ったけど、ちゃんと残っててよかったよ。あたしはハンバーグランチにするけど、レグルス、あんたはどうする?」
「なら俺もそれにしようかな? キョーコのお気に入りなら間違いないと思うんだ」
店の中に二人の賑やかな声が響く。
「うわー、美味しそう、いっただっきまー…」
運ばれてきた食事にさっそく手を出そうとしたレグルスだったが、目の前の杏子の様子に気が付き、神妙な面持ちになる
杏子が、食事を前に目を閉じて十字を切り、静かに祈りを捧げているのだ。
「アテナさま、今日のこの尊いご馳走に感謝をささげます… いただきます」
彼もまた、そっと目を閉じて祈りを捧げている。
「あ、つい昔の癖が出ちまった。わりぃなレグルス、待たせちゃって」
祈りを終えた二人、目の前の食事に舌鼓をうちつつ、賑やかな歓談を続けている。
「ハンバーグって初めて食べた。すごく美味しーね、これ!」
「そうだろそうだろって、ん? 初めて? …ま、いーか。そうやってすごく旨そうに食べてくれて、嬉しいよ。」
レグルスの言葉に何か気にかかったことがあるようだが、とりあえず気にしないことにした杏子。
一方、レグルスは何か小声で話している様子の厨房奥に気が付いたのか、視線をたまにそちらに向けている。
何か聞きたそうなレグルスだが、やはり深く詮索することは敢えてせず、出会ったときのことなどを冗談交じりで楽しく話している。
「杏子ちゃん、よかったね。またおいで。待ってるからね」
食後のお祈りと会計を終えた二人は、店主の女性の笑顔に見送られ、店を後にした。
「えーと… レグルス、今日はありがとな、久々に旨いもの喰えて楽しかったよ。それじゃあたし、寄ってくとこあるから。じゃぁな」
一瞬何か躊躇した様子だった杏子だが、笑顔のレグルスに見送られその場を後にした
「よし、俺も仕事に戻らなきゃ。それにしても、どこを探せばいいんだろう?」
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「ちっ!面倒なことになったな…」
とある魔女の結界。無数の使い魔に囲まれ防戦一方になっている魔法少女がいる。
佐倉杏子だ。
食事からの帰り道、腹ごなしのつもりで立ち寄った結界。
いつもなら中の様子を慎重に探ったうえで、リスクが高いと判断したら無理せず立ち去っていたのだが、今日はどこか気が緩んでいたようだ。
さっさと魔女を倒してグリーフシードをせしめようと思ったが、あまりにも使い魔の数が多かった。
さらに、数を頼みにヒット&アウェイ戦法で攻めてくるここの使い魔は、槍を得物とし近接戦にはめっぽう強い杏子と相性は良くないようだ。
「こんな時、アイツなら…」
杏子はとある魔法少女のことを思い出している。
彼女の助けがあれば、数だけが頼みな使い魔など瞬く間に蹴散らされていただろう。
しかしそれは望むべくもない。
もうずいぶん前にその魔法少女とはコンビを解消しているのだ。杏子のほうから一方的に別れを告げる形で。
「チッ、なんであいつのことなんか」
どうしてこんな時に彼女のことを思い出してしまうのだろう?
自分だけではどうにもならないピンチのせいか?
他人のための願いで魔法少女になった彼女に心を乱されたせいか?
それとも、久々に独りでない、"少しだけ"楽しかった食事のせいか?
あたりが眩しい。疲労から視覚がおかしくなっているのだろうか?
独りで生きていくなんて言っていながら、結局はこのザマか、自業自得ってやつかもな… ハハっ…
「…た!」
ん? 人の声? こんなところに誰もいるわけない。誰もあたしを助けに来るはずなんて…
次に視界に飛び込んできたのは、凄まじい光とともに切り裂かれている使い魔たちの断末魔だった。
結界に、自分以外の誰かが居る。
「まさか… マミか!?」
すっかり余裕がなくなっていたせいか、ふと思ったことがそのまま言葉となって出てきてしまう。
「えーと、ゴメン、その人じゃないけど。待ってて、今なんとかするから!」
気が付くと、傍に誰か立っている。周りが眩しいのは、この"誰か"のせいか?
「って、キョーコ! よし、こっちは俺に任せて! キョーコは魔女をお願い!」
あぁ、こいつだったのか。そういえば、初めて会った時に言ってたっけ。
「言われなくてもやってやるよ! そっちこそ、しくじるなよなっレグルスっ!」
力が戻ってくる。魔女相手なら任せておけとばかりに、杏子は再び立ち上がる。
「キョーコをいじめるな! ライトニング・プラズマ!」
周囲の空間を走る、無数の稲妻。
数十、いや、数百は居たはずの使い魔は、瞬く間に切り裂かれていく。
目の前には、使い魔を剥がされて無防備な魔女。
ならば、あたしも。
渾身の力を振るって槍を繰り出す。
自由に動けるなら、こんな魔女に後れを取ることなんてない。
頭から縦一文字に切り裂かれ、消滅していく魔女。
あたりを包む爆風が消えたあとは、いつも通り小さなグリーフシードが残されていた。
「今度はこっちが助けられたわ、あんがとよ! 思い出したよ、あんた、黄金聖闘士って言ってたよな。それが何なのか、わかんねーけど」
「もー、ちゃんと覚えておいてよ。困ったときは助け合い、さ。キョーコこそ、魔法少女だったんだね」
「そーさ、調子に乗って使い魔に手こずる程度の、一匹狼気取りな魔法少女さ… って、あんた、魔法少女知ってるのかよ!」
レグルスが魔法少女を知っていたことに、驚きを隠せない杏子。
「うん、知ってるさ! だって、魔法少女を守るのが俺の任務だから」