神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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因縁の二人

「呪いを振りまいて人々を襲う、それが魔女なんです。で、それを倒すのが魔法少女。あ、でもソレントさんはまだ魔法少女には会っていないんですよね?」

 

見滝原の街を見下ろす丘の上で、美樹さやかとソレントが話し込んでいる。

 

 

恭介やソレント、美樹さやか達が魔女に襲われた日の夜、思いもよらぬことが起きた。

 

恭介の病状が奇跡的に回復したというのだ。

リハビリが終わればすぐに退院できるという。

現代の医療では治癒不可とされた病の回復。まさに奇跡としかいいようがない。

彼にいったい何が起こったのか?

 

さやかなら、何か知っているのではないか?

彼女には魔女について情報を貰う約束になっている。

次の日、ソレントはそれにかこつけて、恭介の見舞いを終え帰り道につこうとしたさやかを呼び留めたのだ。、

 

 

「ソレントさんだって、すごいじゃないですか? 普通の人が魔女に立ち向かうだけでも、めっちゃすごいです」

「いえいえ、私の役目はジュリアンさまをお守りすること。あの状況では当然のことをしたまでです」

 

終始活発な中学生であるさやかと、青年ながらも老練さを感じられるほどに落ち着いているソレント。正反対に見えて、不思議と相性は良いようだ。

 

「魔法少女、私も会ってみたいものです。いったいどのような方たちなのでしょう?」

「この見滝原にも何人か居るんですよ。キュウべぇって動物?妖精?。。そういえばいったいあれ何なんだろう? とにかくキュウべぇに願いを叶えてもらうのと引き換えに、魔法少女にしてもらって魔女と戦うんです。この街の人たちを魔女から守る、正義の味方、みたいな感じ、かな?」

「願いを叶える、ですか。それはどのような願いでも?」

「はい、人によって素質の違いはあるらしいんですけど。病気を治したり、亡くなった人を生き返られたりもできるらしいです」

 

「(病気を、治す。。)」

 

やはり。

ソレントの脳裏には、恭介の姿が浮かぶ。

 

キュウべぇは、亡者を生き返らせることすらできるという。

たとえポセイドンのような神であっても、そんな奇跡は叶わない。出来るとしたら、冥府を統べる神、ハーデスくらいであろう。

キュウべぇとはいったい何なのか。

そして、そんな存在がなぜ自分で魔女と戦わず、わざわざ願いを叶えるという手間をとってまで魔法少女を生み出し戦わせるのか。

不可解なことが多すぎる。

 

「さやかさん、もしよかったら、知り合いの魔法少女を紹介していただ。。」

「やはり貴様だったかっ!」

 

 

和やかな雰囲気は、突如響き渡った怒声によって霧散した。

 

こちらに向かってゆっくり歩いてくる、一人の青年。

ファフニールを模した深い蒼の神闘衣。

ソレントがかつてアスガルドで相打ちになりかけ、かろうじて生を拾った相手。

アスガルドの神闘士、アルファ星ドゥベのジークフリートだ。

 

「先日からかすかに感じていた小宇宙、まさかと思っていたが、辿ってみて正解だったな」

ジークフリートはすでに臨戦態勢だ。

 

普段の落ち着いた振る舞いは消え去り、全身からは凄まじい小宇宙が怒りを帯びた闘気となって放たれている。

 

「ジークさん、どうしたんですか? この人はソレントさんといって、洪水の被害にあった世界中の人たちを力づけるために演奏旅行を。。」

「そうだ、ソレントで間違いない。美樹さやか、騙されてはいけない。この者の正体は、海皇ポセイドンに仕える7人の海将軍(ジェネラル)の一人、セイレーンのソレントなのだ」

「はいっ?」

「地上世界を滅ぼそうと洪水を引き起こし、我が祖国アスガルドではオーディーンの地上代行者たるヒルダさまを罠にはめ邪悪に変えた。諸悪の根源たる海皇ポセイドン、そしてこの者はその走狗なのだ。今度は何を企んでいるっ!?」

 

「信じられない。。本当なの? ソレントさん?」

 

にわかには信じられない。何かの勘違いであって欲しい。助けを求めるようにソレントを見つめる美樹さやか。

 

「。。全て本当です、さやかさん。私はかつて、ポセイドンさまに仕える海将軍、セイレーンのソレントだった者です」

「そんな。。」

「欲望のおもむくまま大地を穢し、海界まで手に入れんとする地上の人類を粛清し、心清らかな人々のみからなる理想郷を実現する。そう決意されたポセイドンさまに従って戦ったのが私たちなのです」

「しかし、海底神殿におけるアテナの聖闘士たちとの戦いで、海将軍筆頭のシードラゴンとこのソレント以外の海将軍は皆命を落としました」

「闘いの中で私はアテナの大いなる愛に触れ、己の過ちに気づきました。ポセイドンさまも再び封印され、結果として地上は救われたのです」

 

黙ってソレントの話を聞いている、さやか。

聖闘士たちやジークフリートとも戦ったことがあるというのなら、確かに魔女をを倒すことも難しくはないだろう。しかし。。

 

 

「ポセイドンさまの依り代となっていたのが、ジュリアン・ソロさまです」

「依り代としての記憶を失ってもなお、洪水の被害に遭った人々の慰安のためと旅を始められたジュリアンさま」

「彼をお守りし、私たちの所業によって不幸になった人たちとこの命尽きるまで向き合うこと、それが、一介の音楽生に戻った私にとっての、せめてもの罪滅ぼしなのです」

 

あたりを包む沈黙。

 

 

「。。言いたいことは言い尽くしたか? ソレントよ」

 

静寂を破ったのはジークフリートだった。

 

「ちょっと待ってよ、ジークさん。ソレントさんの今の言葉聞いたでしょ? それでもまだ戦うつもりなの?」

「どれほど悔い改めようと、それは自己満足でしかない。洪水で命を落とした人々も、戦いで倒れていった神闘士たちも戻ってくることはないのだ」

 

言い終わるや否や、ジークフリートは無数の光速拳を放つ。

 

「ソレントさん!」

 

思わず魔法少女に変身し、ソレントの側に駆け寄るさやか。

 

「ぐっ!」

ジークフリートの拳がさやかをかすめていく。

それでもソレントを抱え、そのまま全力で走りジークフリートの拳をかろうじてかわす。

 

「(そうか、上条恭介の腕を治したのは。。)」

 

目の前の少女剣士を無言で見つめている、ソレント。

 

 

「邪魔をしないでくれ、美樹さやか」

「さやかさん、これは私とジークフリートの問題。戦わなければいけないのも私です。どうか私の事には構わず。。」

「どきません。ソレントさんは魔女に襲われた私や恭介を守ってくれました。今度はあたしがソレントさんを守る番です。あたしだって、戦える力をやっと手にしたんだから」

 

歴戦の勇士ジークフリートと、魔法少女になったばかりの美樹さやか。

まともにやりあえばさやかに勝ち目はない。

それでも。。

 

「あくまで邪魔をするか。ならば。。。むっ! これは。。」

ジークフリートの腕には、黄色いリボンが巻き付いている。

 

 

「ジークフリートさん! どうしたんですか! 無抵抗な人を一方的に攻撃するなんて、あなたらしくないです!」

「マミさん!」

 

さやかが思わず叫ぶ。

 

「なんだか異様な雰囲気が気になって来てみたら。。美樹さん、これいったいどういう状況なの?」

マミに聞かれて、状況について説明する美樹さやか。

 

「聞いただろう? この男は、我ら神闘士にとって許しがたい仇なのだ。ここで会ったのも何かの運命。止めないでくれ」

 

闘いをやめるつもりのないジークフリート。このままでは埒が明かない。

 

「美樹さん、ソレントさんを連れてこの場から逃げて。その間、私が時間稼ぎをするから)」

 

あらんかぎりのリボンを繰り出し、マミはジークフリートの動きを封じにかかる。

さしものジークフリートも、小宇宙で強化されたリボンを簡単には振りほどけない。

千載一遇のチャンス。さやかはソレントの手を引いて、その場から脱出しにかかる。

 

「逃げるか!」

 

アスガルドで、寸でのところで取り逃がした仇敵。

渾身の力をこめるジークフリート。マミのリボンが1本、また1本と千切れはじめる。

 

「逃さぬ! ドラゴン・ブレーベストブリザード!!」

 

ジークフリート最大の拳。

冷静さを完全に失ったジークフリートから放たれた極限の凍気が渦となってソレントを襲う。

海将軍にとって最強の守り、黄金聖衣にも匹敵するとされた鱗衣はここにはない。

生身の体でまともに喰らえば無事ではすまないだろう。

それでも、さやかに手を引かれて逃げだすことは、ソレントのプライドが許さなかった。

立ち上がり、フルートを手にさやかの前に出ようとするソレント。

 

「だめ。あたしが、守ります!」

 

ソレントを制すると、さやかは再びソレントの盾になるべく拳の前に立ちふさがる。

普通の人間に比べ強化されている魔法少女の身体ならば、少しは耐えられるだろう。

ここでソレント一人守れないようで、どうして恭介を守りきれるだろう?

それに、守らなきゃいけない人を見捨てることなんて、あたしにはできない。

さぁ、来るなら来い! あたしは正義の魔法少女なんだ!

思わず目を瞑りつつ、全身に力を込めてさやかは拳を受け止めにかかる。

 

 

 

・・・・

 

 

 

衝撃がこない。静かだ。いったいどうしたのだろう。

 

恐る恐る目を開けたさやかの視界に飛び込んできたのは、一人の少女。

さやかの前に仁王立ちとなり、凄まじい闘気を放っている、巴マミの姿だ。

マミの右腕は、前へと突き出されている。大きく開いた手のひらにまとわりついているのは、凍気。

ジークフリートの拳を受け止めたのか、右腕の袖はわずかに凍り付いている。。

 

「マミ。。さん?」

 

違う。

いつもの優雅さとはあまりにかけ離れている。

姿形こそ巴マミその人だが、むしろジークフリートや星矢たち聖闘士を思わせる、雄々しい闘気。

 

「マミさん、じゃない。あんた。。誰なの?」

 

"巴マミ"は、さやかの問いには答えず、ジークフリートを睨み付けている。

 

「ジークフリートよ。お前がアスガルドを愛する心、そしてそれを支える戦士としての矜持と信念、今も錆びついてはおらぬようだが、それゆえに本当に大事なことを見失ってしまう。アスガルドでの戦いでお前は何を学んだのだ?」

 

低く力強い声。巴マミではない誰か。

 

 

「誰だ。この私を知っているようなその言葉。。。いや、この小宇宙。覚えがある。まさか。。」

「俺やハーゲン達、そしてヒルダさまがいつ、お前に敵討ちを託した? それにこの者はすでに前非を悔い、自ら命を絶つよりも困難な贖罪の生をおくる覚悟をしている。なぜそのような者を討とうをするのだ」

「。。ならばどうしろというのだ。これは私の戦い。誰であろうと邪魔をすることはできないのだ。どかぬのなら力づくでどいてもらうまで。ドラゴン・ブレーベスト。。」

「。。この頑固者め! しかたない!」

 

"巴マミ"は静かに右腕を突き上げる。

まばゆいほどに輝いている右腕を後ろに引き、力強く突き出す。

先日、お菓子の魔女との戦いで見せた、"ティロ・フィナーレ・エーラクレ" か。

しかし腕から放たれる小宇宙は遥かに力強く雄々しい。

 

「目を覚ませ! タイタニック・ハーキュリーズっ!!」

 

巴マミの拳から、力の奔流が放たれる。

躊躇いをもって放たれたジークフリートの拳とぶつかり合ったその拳。

しばし燻っていたが、その均衡はやがて破れ、2つの拳は1つの衝撃波となってジークフリートを後ろへ弾き飛ばした。

 

「そうか。やはりお前は。。」

 

「そうだ。我こそはアスガルドにてお前と共にヒルダさまをお守りした神闘士、ガンマ星フェクダのトールだった者。目は覚めたか、アルファ星ドゥベのジークフリートよ」

「あの戦い、たしかにきっかけはポセイドンではあった。しかし、ヒルダさまの変貌を疑いもせず聖域に戦いを挑んで滅び去ったのは我らの過ち。この者。。セイレーンのソレントを討ったとて、我らの罪が消えることはないのだ」

「それに、お前は敵討ちのために生き永らえたのか? そうではあるまい」

 

ジークフリートの脳裏に、243年前のロドリオ村、魔法少女と魔女の姿が浮かぶ。

 

そうだ。私は。。

 

 

「すまなかった、美樹さやか、私はまたしても過ちを犯すところであった。トール、感謝する。再びこうしてまみえたこと、嬉しいぞ」

「あまりの強情さに頭を抱えたが、わかればよい」

 

緊張から再会の喜び。

当面の危機は去ったようだ。

 

 

「今の状況について聞いておきたいことは山ほどあるが、今の私は自らの肉体を持たず巴マミに間借りしている身。あまり長時間活動できないのだ。またしばし眠ることにしよう。巴マミ、すまなかったな」

「そのあたりの事情はまたゆっくりと聞こう。それまでゆっくり身を休めるがよい、トールよ」

 

表に出ていたトールの意識が巴マミの体の奥底で再び眠りにつこうとしている。

 

 

「。。ちょっと待って。なんだかよかったみたいな雰囲気だけど、なんで私が蚊帳の外なの?。トールさん、まず、なんで貴方が私の中にいたのか、説明してもらえるかしら」

 

体の主導権を取り戻したマミは、トールを呼び止める。

 

「いや、私も実はよくわからないのだ。アスガルドで星矢たちと戦い、私は死んだはずだった。しかし、戦いで命を落とした戦士の向かう地、ヴァルハラはなぜか私を拒んだ。まだお前はここに来るべきではないと。気が付いたら私の意識は、はるか極東のこの国にあった」

「あてもなく漂っていたのだが、巴マミ、魔女と戦うそなたの姿を見かけたところで、私の意識はまるで吸い込まれるようにそなたの中に取り込まれたのだ」

 

「いつの間に、そんなことが。。もしかして、ミーメさんとの特訓の中で私に語り掛けて力になってくれたのは、あなたなのかしら」

「そうだ、そなたは素質を持ちながらも小宇宙の存在を意識できずにいた。私は自らの小宇宙を少しばかり使ってきっかけをつくったまで。まぁ、触媒のようなものと思ってくれ」

 

「"ティロ・フィナーレ・エーラクレ"。どこかで見たような構えだと思っていたが、今にして思えばタイタニック・ハーキュリーズそのものだったな」

 

「そうだ、マミはどうやらイタリア語が好きなようだから、技の名もそれっぽくアレンジさせてもらった。ハーキュリーズ。。ギリシャの英雄ヘラクレスはイタリア語ではエーラクレと呼ばれるそうだからな」

「トールさん、私がミーメさんと対等にまで渡り合えるようになったのはあなたのおかげだったのね。。ありがとう」

「巴マミ、そなたが誰かを救おうとするときにはまた力を貸そう。私がこうしてこの世に居場所を保つことができたのもそなたのおかげ。感謝するのはこちらのほうだ」

 

巴マミとトール。出自も立場も異なる2人は、なんとなく上手くやっていけそうだ。

 

 

 

「では今度こそ眠り。。」

「待って、トールさん」

 

いい感じの雰囲気に紛れて再び隠れようとするトールを再び引き留める、マミ。

 

「えーと、ちなみにあなた、男性ですよね。。 たとえば、私がお風呂に入っているときとか、あなた、どうされているのかしら?」

「。。zzz。。」

「どうしてそこで黙るんですか!?」

 

「トールは神闘士の中でも女っけのな。。いや紳士の振る舞いを身につけた者。おそらく必死に目を瞑っているだろう、たぶん」

「せめてそこは断言して欲しいのですけど、ジークフリートさん。。」

「まぁ、心配せずともトールなら大丈夫だろう。。先ほども、マミに負担がかからぬよう、魂のみとなった身にわずかに残された自らの小宇宙のみで戦っていたようだ。おそらく、一刻も早く眠りにつかねば消滅しかねない状況のはず。そのような気づかいの出来る男なのだ。 ところで、ソレントよ」

 

呼ばれ、無言でジークフリートを見つめるソレント。

 

「ポセイドンと海闘士たちの所業、私はやはり許すことはできない。ただ、美樹さやか達を守ってくれたことについては感謝する。改心したというそなたの言葉も、信じてみようとも思う。人はやりなおすことが出来るのか? そなたも、そして私も。。 巴マミ、美樹さやか、見極めてくれるな?」

 

無言で顔を合わせる二人。

ほんとうにやり直せるのか、そしてその先に待つのがどのような運命なのか。

神でもない二人にはわからない。

それでも、せめて背中を押すくらいなら。

 

巴マミは、わずかにほほ笑むと、ゆっくりと口を開く。

 

「。。えぇ、信じてますわ、きっと出来るはずです。あなたたちも、私たちも」

 


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