神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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ずっと孤独に戦ってきた、ほむら。
だが、氷の黄金聖闘士と出会い、堅く凍り付いた彼女の心に変化が表れ始めていた。




雪解けの気配

小部屋でハクレイを待っていたのはデジェルだった。

 

「姿が見えなかったようじゃが」

「暁美ほむらとともに、見滝原まで行っておりました」

 

 

 

 

全ての魔女は自分が倒す。

そう言って見滝原に向かったほむら。

魔女の結界に着いてみると、そこでは3体の魔女と6人の聖闘士・神闘士たちが壮絶な戦いを繰り広げていた。結界は、戦いによって生じる衝撃波で激しく震えている。

そして少し離れたところに居る、三人の少女。

鹿目まどかと美樹さやかは、気を失っているようだ。

巴マミは絶望的な状況でも戦意を失わず、四方から降り注ぐ結界の破片や使い魔を完璧に防ぎとめているものの、疲労の色は隠しようがない。

 

まどかを守らなくては。まどかの前に降り立ったほむら。

そんな彼女を見つけて、四方から数匹の使い魔が襲い掛かってくる。

瞬く間に近づいてくる使い魔の速度、時間停止の操作すら間に合うかどうか。

 

これまでのほむらなら、誰が居ようとお構いなしに、自分だけでまどかを守ろうとしただろう。

誰も頼ることなどできない。頼ったところで結果は同じ。まどかを守れるのは自分だけ。

 

だが、ほむらがとった行動は、彼女自身にとっても意外なものだった。

 

 

「デジェル!お願い!まどかを守って!」

 

 

まるでその声を待っていたかのように、ほむらの傍らに現れた、デジェル。彼の右手が、静かに上がる。

それとともに、訪れた静寂。

結界の奥では凄まじい爆音が鳴り響いているが、まどか達の周りはまるで雪の日の朝のような静けさで包まれている。

 

静寂をもたらしたのは、まどかとさやかの周りを包む、黄金色に輝く氷の霧だった。使い魔はお構いなしに襲い掛かってきたが、氷の霧は使い魔が飛び込んだ瞬間、氷の壁と化した。

使い魔は氷壁に取り込まれ、動きを封じられている。

 

「。。金。。色。。。?」

茫然として見上げる巴マミ。

 

「フリージング・シールド。。もう大丈夫だ。わが師より受け継いだこの絶対零度の氷壁は、いかなる攻撃もはね返す」

「。。あなたは。。誰?」

金色の光に包まれた人影に、巴マミは問いかける。

「そうか、君とは初対面だったな? 私は黄金聖闘士、水瓶座のデジェル。向こうで戦っている青銅聖闘士たちと同じ、アテナの聖闘士だ」

穏やかだが凛とした声が響く。

 

「ありがとう、デジェル。感謝するわ」

「ほむらよ、礼にはおよばん。それより、使い魔はまだ居るぞ。氷壁に守られている限り、まどかたちに危険はないとはいえ、油断はせぬことだ」

「あとは大丈夫。それより、向こうの聖闘士たちの加勢に行かなくてもいいの?」

「彼らは青銅とはいえ、海神ポセイドンと渡り合ったほどの者たちだ。それに、私に勝るとも劣らぬかもしれない神闘士たちが二人もついているのだから、よほどのことがなければ遅れはとるまい」

「。。。神とも戦ったってさっき聞いたばかりだけど、彼らがそうなのね。。?」

 

 

そうこうしているうちに、氷壁の向こうでは聖闘士たちと3体の魔女との闘いに決着がつきつつあった。

「とりあえず危機は去ったようだな。私はここらで失礼するとしよう」

 

まどか達を守っていた氷壁は、淡雪のように消え去った。

魔女たちの断末魔の叫びとともに、結界は揺らぎ、消え去った。

 

 

「これでわかったでしょう? 巴マミ。まどかを守ってくれたことには感謝するけれど、魔法少女でもないまどかを結界に連れ込むのは、やめにすることね」

巴マミは、一言も発せず、うつむいている。ほむらはそんなマミから視線を逸らすと、その場を速やかに去った。

まどか達にかけよる、神闘士たち。

 

 

 

「。。。待って、デジェル」

結界から離れたデジェルを追いかけていたほむらは、彼をひどく慌てて呼び止める。

 

「どうした?まだ何か用があるのか?」

「。。。さっきは。。。ありがとう。おかげでまどかは無事で済んだわ。でも、あそこには私も巴マミも居たのに、何故まどかと美樹さやかだけを氷壁で守ってくれたのかしら?」

「君は、何に代えてでも自分の手で鹿目まどかを守ると言っていただろう。 だから、私は君と同じく"壁の外"に立った。それだけのことだ」

「。。。」

 

思ってもみなかったデジェルの言葉。

ほむらの心は、激しく揺さぶられていた。

 

「まどかに守られる自分ではなく、まどかを守る自分でありたい」

まどかのために、何もかも自分独りで背負い込もうとしていた、ほむら。

誰もそんなほむらの心情も行動も理解してくれない。そう思っていた。

 

だがこの青年は、まだほとんど言葉を交わしていないにも関わらず、ほむらの決意を察したうえで、それに応えてくれているのだ。

魔法少女になって、1か月をひたすら繰り返すようになってから、初めて感じた何か。

冷たく凍てついていたほむらの心が、少しずつではあるが融け始めているような気がした。

 

 

 

 

「ハクレイ殿、よければもう数日、こちらの時間に留まらせていただくことはできませぬか?」

「あちらの状況は切迫しつつあることは、そなたも承知しているだろう?にも関わらずそれを望むということは、なにか理由があるのじゃな?」

 

デジェルは、243年前の聖域を守る黄金聖闘士の中でも、冷静で理知的な判断ができる男である。

彼の守護する宝瓶宮は無数の本で埋め尽くされており、任務の間など暇を見つけては本を読んでいる。

それゆえに彼は、知の聖闘士と呼ばれ、社交界への潜入、各国要人との接触など困難な任務を任されることが多いのだ。

それは現代に来てからも変わらない。

彼は時間があれば城戸邸の書庫や図書館を訪れ、現代の知識を取り入れることに余念がない。

それは、武器の知識や歴史、風俗にとどまらず、物理学や数学、医学、心理学、推理小説などにまで及んでいる。

ほむらの魔法、「時間停止」を見抜くことができたのも、得た知識と観察に基づいて、無数の可能性を科学的・論理的に絞り込むことが出来た故である。

そんな彼だからこそ、ハクレイの次に現代を訪れる聖闘士として選ばれたのであろう。

 

 

「わかった。デジェルよ、こちらでの滞在、あと数日延ばすことにしよう。ただ、再度の延長はない。やっておくべきことはしっかり終わらせておくのじゃぞ」

「はっ。お任せあれ」

 

許可を得たデジェルは、次の行動に移るべく、その場をすぐに去っていった。行先は、見滝原。

「(暁美ほむら、たしかにまだまだ多くの謎を秘めてはいるが。。なぜだろう。。とにかく何か気になるのだ)」

 

 

 

 

次の日の午後、見滝原中学校の生徒たちが、家路についている。

校門から出てきたのは、鹿目まどか、美樹さやか、そして志筑仁美。

彼女たちは同じ2年のクラスメイトで、しかも幼馴染なのだ。

 

「仁美は今日も習い事かぁ。2年になってから、一緒に遊びに行けないよね。さやかちゃん、寂しいぞ~。あ、もしかしてあたしの他に好きな女の子ができちゃったとか?」

「さやかさんったら、もぉっ! でもただでさえ習い事が多すぎるのに、受験勉強まで始まっちゃったらどうなってしまうんだろうって思うこと、ありますの。ほんとは以前みたいにさやかさんとまどかさんと楽しく過ごしていたいのに。。」

「わたしたちは変わらないのに、周りの状況がどんどん変わっていっちゃうと、なんだか焦っちゃうよね。でも、さやかちゃんと仁美ちゃんとわたし、ずっと友達だよ。それだけは絶対変わらないから!」

「もちろんだよ! 何があっても、この3人は友達だからね! 」

 

あたたかな日差しが、そんな3人を包んでいる。

 

「。。あ、そうだ、それならさぁ、3人いつまでも一緒って感じの何か、欲しくない?」

「うん、それ、すごくいいと思う。でも、何がいいかなぁ?」

さやかの提案に、まどかが応える。

 

「うーん。。花輪なんていいと思わない? たとえば、あたしたちがずっと通ってる通学路のそばで咲いてる、そのタンポポとか」

「さやかさん、それはとても素敵な考えだと思いますの。私たち3人が小さい頃から、毎年そこで咲いていて、ずっと見守ってくれてたタンポポですもの」

 

3人はその場にしゃがみ込むと、タンポポの花を集め始めた。集めた花で、仁美が器用に花輪を作っていく。やがて、3つの花輪が出来上がると、仁美はそれをまどかとさやか、そして自分の手首に付けてみる。

 

「お揃いの花輪、とっても素敵ですわね」

3人は、花輪を巻いた腕を嬉しそうに眺めている。

そして、3人向かい合うと、花輪を巻いた拳をおもむろに突き合わせてみる。

 

「不思議な感じだね!」

「なんだか本当に、ずっと仲良しで居られる気がしてきますわ!」

 

3人は拳を突き合せたまま、まるでフォークダンスのように、笑いながらその場をくるくるまわっている。

 

 

「仁美さん!?」

自分を呼ぶ声に、仁美が振り返る。

いつの間にか、彼女たちの側に一台の車が止まっている。声の主は、止まった車の後部座席から降りて、3人のほうへ向かってくる少女だ。

その後ろには、声の主とよく似た雰囲気の少女がもう一人、続いている。

 

「まぁ、沙織さん!見滝原に来ていらっしゃいましたのね?」

「えぇ、たった今、着いたばかりですわ」

「もうっ、前もって連絡いただければ。。」

「急にこちらに来ることになったので、仕方がなかったのです」

 

「ええっと、城戸沙織さん、ですよね。。」

「そういうあなたはたしか、鹿目まどかさんでしたね」

「はいっ、この間はエイミーを助けていただいて、ありがとうございました」

「どういたしまして。その後、エイミーは元気にしていますか?」

「はい、相変わらずそそっかしいけど、とっても元気にしています!」

 

「ちょっと、まどかも仁美も、いつの間にか、すごい人と知り合いになってるんじゃん」

美樹さやかも、目の前に居る自分たちとほぼ同じ年齢の少女がグラード財団総帥であることは知っている。

 

「そちらのお方は?」

「わっ、私は、美樹さやかって言います。鹿目まどかさんと志筑仁美しゃんとは、とっても仲のよい友達。。ですます。。」

テレビでしか見たことのない雲の上の存在、凛とした美少女を目の前にして、緊張から敬語が怪しくなっているさやか。

 

「沙織さん、そちらのお方はどなたでございますの?」

沙織の後ろにいる少女のことが気になって、仁美が声をかける。

「紹介が遅れましたね。こちらはサーシャさん。遠い国から日本にやってきたばかりの、私にとってとても大切なお方なのです」

「はじめまして、志筑仁美さん、鹿目まどかさん、美樹さやかさん。ギリシャからやってきた、サーシャと申します」

 

初めて出会ったサーシャの穏やかで可憐で儚げで、それでいて包容力に満ちた雰囲気に、3人は自然と笑顔になる。

 

「みなさん、とても仲の良いお友達なんですね。私にも、とても大切な幼馴染と兄が居るんですよ。あなたたちの様子を見て、思わずその人たちを思い出していたのです」

右腕の花輪を見つめながら、応えるサーシャ。

 

「サーシャさんのお兄さんと幼馴染の人なら、きっと素敵な人なんだろうなぁって思います。。その花輪、大事なものなんですか?」

サーシャが腕に巻いている花輪に、まどかが気づく。

 

「これは、今からずっと前、3人がいつも一緒に居た頃につくったものなのですよ。今は兄とは離れ離れになっているけれど、いつかまた3人一緒に。。そういう祈りが込められているのです。あなたたちの、おそろいの花輪もとても素敵ですね」

「はい、わたしたち3人がずっと一緒に、仲良しで居られますようにって願いを込めて、さっき作ったんです」

サーシャからよく見えるように、花輪をつけた腕を差し出しつつ答えるまどか。

 

「それが、あなたたちにとっての、祈りの花輪なんですね。3人がその思いを大事にし続けていたら、あなたたちの友情もきっといつまでも続くことでしょう。もしよかったら、私も祈りを込めさせていただいてよいでしょうか?」

「それなら、私もお祈りさせていただきたいです。ささやかですが、あなたたちの友情、応援させてくださいね」

「わぁっ、サーシャさんと沙織さんにお祈りしていただけるなんて、とてもうれしいですっ」

2人からの思いがけない申し出に、すっかり舞い上がっている、まどか。

 

花輪を巻いた腕を差し出す3人。サーシャと沙織は、そっと目を閉じると、手のひらをかざして祈りを込めている。

花輪と腕がなにかあたたかいものに包まれていくのが、3人にもわかる。

それが2人のアテナの小宇宙であることは、3人は知るよしもない。

この2人が3人のために祈ってくれた、それだけでも、3人にとってはなにより嬉しかった。

 

「あなたたちの願い、きっと叶えてくださいね。私たちの祈りがそれを後押しできたら、どんなに素敵なことでしょう」

「私たち、そろそろ行かなければいけません。名残惜しいですけれど、きっとまた会えますよね」

二人のアテナ、沙織とサーシャは、そう言ってほほ笑むと、3人を残して、車でいずこかへ去っていった。

 

 

「城戸沙織さん、テレビではすごく切れ者っぽくてなんとなく怖そうだったけど、あんなに素敵な人だったんだね」

「サーシャさん、また会えるといいなぁ。もし女神さまが本当に居たら、あんな人なのかも」

楽し気に話している、まどかとさやか。

 

仁美は、笑顔でうなづきながらも、腕の花輪を見つめている。

 

「仁美、なにぼーっとしてるのさ!ほら、行くよ!」

「もうっ!さやかさん、せっかく素敵な心地でしたのに。待ってくださいですわ~っ!」

 

3人もまた、ひだまりに包まれた道を走り去っていった。

 


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