神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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聖闘士の力を思い知った、ほむら。聖闘士達に連れられ、訪れた場所に居たのは。。


女神/魔法少女会談

「アテナさま、暁美ほむらを連れて参りました」

 

二人の聖闘士に連れられて、ほむらはとある場所へやってきていた。

 

 

シンプルながらも気品のある調度品、廊下に並ぶ古代ギリシャ様式の彫刻。

ここの住人がただ者ではないことは、門をくぐった瞬間からひしひしと伝わってきた。

 

アテナ? ここの主の名前だろうか?

デジェルたち黄金聖闘士は、アテナに仕える戦士だという。

魔法少女になる前、病院のベッドで読みふけっていたギリシャ神話の本で何度も目にした女神。

神話の世界がまさか実在していたとは。

にわかに信じがたい気持ちと、神話へと足を踏み入れることへの好奇心。

ほむらは、促されるままに部屋の中へと足を進めた。

 

 

重厚な扉が開くとそこには、清楚なドレスを纏った一人の少女が待っていた。

後ろには、美しい黄金の鎧を纏っている男が控えている。金色の長髪が美しい彼もまた、黄金聖闘士の一人なのだろう。

そして左右には、ほむらと同じくらいの年頃の少年が4人。

彼らの鎧は黄金色ではなく、白、赤、青、ピンクとカラフルで、黄金聖闘士のそれにくらべ、体を覆っている面積が狭い。

年若いことも考え合わせると、黄金聖闘士よりはやや位の低い聖闘士なのかもしれない。

 

 

「ハクレイ、デジェル、ご苦労さまでした。あなたが、暁美ほむらさんですね」

 

ドレスの少女が、二人の聖闘士をねぎらう。彼女もまた、年の頃はほむらと同じくらいだろうか。まだあどけない少女でありながら、威厳と高貴さを備えたその声。

ほむらはその少女に見覚えがあった。

まどかが可愛がっている野良猫エイミーが車に轢かれそうになったとき、その車に乗っていた少女。彼女は、グラード財団の総帥、城戸沙織と名乗っていた。

ほむらとほとんど同じ年頃ながら、世界有数の巨大企業体、グラード財団の総帥として全てを取り仕切っている少女。

城戸沙織こそがアテナだったのだ。

 

 

「さきほどはごめんなさい。でも、私達はどうしても、ほむらさんたち魔法少女とコンタクトをとりたかったのです」

「先に仕掛けたのは私ですから。どうかお気になさらず。戦って勝てる相手ではないことも、よくわかりましたし」

 

城戸沙織ことアテナは、こちらを威圧してくることなく、至極丁寧に話しかけてくる。誠実に向き合おうとしていることも、アテナの表情からひしひしと伝わってくる。

油断は禁物だが、必要以上に警戒する必要もなさそうだ。

 

「あなたたちがなぜ魔法少女や魔女と関わりたがるのかは、実のところまだよくわからないのだけれど。ただ、私の邪魔をしないと約束してくれるなら、手を組んでもいいかもと思っています。」

こちらの疑問を率直に伝えつつ、ほむらも極力友好的な態度で答えた。

 

 

幾たびも一ヶ月間を繰り返すうちに、ほむらが誰かに頼ることはほとんどなくなっていた。

最初のうちは他の魔法少女を頼ったり、手を組んだりしたこともあった。しかし、ある時は頼った相手に裏切られ、またある時はほむらの意図とは全く違った方向へと事が進み、まどかですらほむらの真意には気づくことなく、最後には決まって悲劇的な結末を迎えていた。

何度繰り返してもまどかを救うことが出来ない。周りが頼りにならないのなら、自分一人で全てを背負い込めば良い。いつしか、誰にも本心を明かすことなく、ほむらはただ一人で戦うようになっていた。

そんな中で出会った、人間の常識を遙かに超えた聖闘士や神闘士たち。彼らはほむらが邂逅した誰よりも強く、なによりまっすぐで誠実な戦士だった。

もしかしたら、彼らなら信じてもよいかもしれない、彼らとならばこの状況を変えられるかもしれない。

頑なだったほむらの心に、ほんのわずかながら希望の光が差し込み始めていた。

 

「私達がなぜ魔法少女や魔女、そしてキュウべぇと関わりを持つようになったのか。私から話すこともできますが、それはやはりアスガルドの神闘士たちに話してもらうのがよいでしょう。私達は、彼らの悲しみと決意を知り、彼らの力になるべく動いています。そしてほむらさん、私達はあなたの邪魔をするつもりなどありません。ほむらさんが何を求めて独りで戦っているのか、なぜ頑なに他の魔法少女と協力することを避けるのか、私はまだ思い至っていません。ただ、単に魔女を倒すというようなものではなく、もっと遠くをあなたが見つめていることはわかります。それに、内に秘めている何かは、地上の愛と平和を脅かすものでないであろうことも」

「そういってもらえると助かるわ。たしかに、その辺りを荒らしている魔女を倒すこと自体は私の目的ではないの。私が本当に。。」

 

そこまで言って、ほむらは口を閉ざした。

 

「本当に?」

「いえ、それをあなたたちに伝える必要はないわ。別に目的地がわからなくても、経路や手段に誤りがなければ、一緒に歩くことはできるでしょう?」

「たしかにそうではありますが。。」

 

もしそれがわかったならば、ほむらの本当に求めている何かにも協力できるかもしれない、そう言いかけてアテナは口をつぐんだ。

ほむらが頑なにそれを明らかにしないのには、理由があるのだろう。相手はまだ年端もいかない少女、しかも魔法少女とはいえ聖闘士たちとは違う普通の人間なのだ。

もしかすると、ほむらの隠している何かが、今回の一連の現象の核心に繋がっているかもしれない。

アテナはある種の直感でそう感じ取ってはいたが、とりあえず平和裏にほむらとの協力関係ができれば、あとはゆっくりと可能性を探ってゆけばよい、と思い直した。

 

その後は、聖域と聖闘士について、見滝原の魔法少女達について、そして同世代の少女たちならではの雑談、と和やかに情報交換と会話が続いた。

最初は様子を探りつつ言葉少なに対応していたほむらも、少しずつ警戒心を解いているように見える。

気がつくと、陽は傾き。夕暮れを迎えつつあった。

 

「ほむらさん、すっかり長居させてしまって、すみませんでした。今日は有意義な一日になりました。これから、よろしくお願いしますね」

アテナに送り出されて、ほむらが部屋を出ようとした、その時だった。

 

「暁美ほむらよ。。」

アテナの後ろに控える黄金聖闘士が、突然口を開いた。

 

「この世において形あるものは全て無常である。そなたが後生大事に仕舞いこんでいる何か、そしてそなた自身も、移ろいゆくのが必然なのだ」

 

彼は、ほむらが部屋に入ってきてからも、微動だにせずずっと目を閉じている。にも関わらず、ほむらの心のうちを見通すかのような視線を、ほむらはずっと感じていた。

デジェルともハクレイとも、マミたちと共に居る二人の神闘士とも違う。むしろアテナに近い神々しさすら感じさせるこの男は何者なのだろう?

 

考えてみれば、ほむらの中に居るまどかは、ほむらと共にワルプルギスの夜と戦い、魔女になりたくない、キュウべぇに騙された過去の自分を救って欲しいと懇願したあのときのまどか、そのままである。

一方で、今この時空に居るまどかは、そんなことは知るよしもない。「あのときのまどか」とは、同じまどかであるとはいえ、たどってきた道も、現在おかれている状況も必ずしも同じではない。

あの時のまどかの願いを、この時空のまどかは知らない。知らないはずなのだ。

果たして今自分がやっていることは、この時空のまどかにとって本当によい結果に繋がるのだろうか?

そして、まどかたちの1ヶ月は、ほむらが時間遡行するたびに本当にリセットされているのだろうか?

ループのたびごとに結末が悲惨さを増していくのは、もしかして、それまでのループを背負ったほむらの言動が影響しているのではないか?

 

幾たびも繰り返した1ヶ月、それを知っているのはほむら自身のみのはずである。自分以外には誰もそれを知らないゆえに、このような問いをこれまでに突きつけられたことはなかった。

 

「暁美ほむら、魂の輪廻から外れつつある者よ。そなたはいったいどこからやって来て、いずこかへ去ろうとしているのかね?」

 

「(!? この男、私の時間遡行に気がついている? まさか、そんなはずは。。)」

 

無言で自問自答しているように見えるほむらを見遣りつつ、その男は続ける。

 

「まぁよい。そなたがいつまで彷徨い続けるのか、それに決着をつけるのはそなた自身なのだからな? そうではありませぬかな? 鏡の中からこちらを覗きしお二方」

 

 

「鏡?」

そう言われて、皆は部屋の奥にある鏡に目をやった。

 

「やはり、ばれておりましたか」

 

部屋の中に居た誰とも違う、穏やかで高貴さに溢れた女性の声がするとともに、鏡が光を放つ。

部屋を覆い尽くすまばゆいばかりの光。それが消えると、鏡の前に二人の人物が立っていた。

一人は、アテナとほとんど同じドレスに身を包んでいるが、アテナよりもやや年上の女性。

もう一人は聖闘士のようだ。彼が纏っている鎧、それは部屋に控えていた四人の青年のうち一人のそれとよく似ている。

 

「あなたは?」

アテナは鏡から姿を現した女性へ声をかける。

 

「驚かせたこと、お詫びします。私は、アテナ。一つ前の聖戦を控えた聖域よりやってきました」


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