神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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未来から来た男達

次に目を覚ました時、ジークフリートは粗末な小屋の中に横たわっていた。相変わらず傷は痛み、指一本動かすことすらままならない。ただ、自分の傍らに人が二人立っていることは、気配から感じることが出来た。傍らに立つ二人が何者なのか、自分がどのような状況にあるのか。ジークフリートはそっと目を開いてみた。

一人はまだ年端もいかぬ少女。開いた目に怯えながらも、じっとジークフリートを見つめている。もう一人は、淡い水色の髪の青年。その整った顔立ちから、ともすれば女性にも見間違えてしまいそうである。それよりも、ジークフリートが目を見張ったのは、彼が纏う黄金の鎧、そして彼から放たれ周囲を圧する何か、であった。ジークフリートはそれに覚えがあった。

 

「小宇宙(コスモ)」。彼がアスガルドで聖闘士達と拳を交えた時、ペガサス座や竜座、鳳凰座の青銅聖闘士たちが放っていた、それである。聖闘士達は、自らの体内に秘められたエネルギー、宇宙の一部とも言われる神秘的なエネルギーを感じ、修行にそれをより高め、燃焼させることで絶大な力を発揮するとするという。ジークフリート達神闘士もまた、仕える神こそ違えど、同じように小宇宙を高め、幾多の戦いを繰り広げてきたのである。黄金の鎧の彼から感じる小宇宙はしかし、青銅聖闘士達のそれとは明らかに異質であった。それはこれまでに出会った誰よりも強烈かつ巨大で、神々しさすら感じさせる。まるで、黄金が放つまばゆい輝きのような。

 

「アルバフィカさま! 聖闘士さんが目を覚ましたみたい。。あ、まだ動いちゃダメです!!」本能的に彼らから距離をとらんと全身をこわばらせたジークフリートに少女が叫ぶ。その声は心から彼を心配しているようである。

「アガシャの言うとうりだ。お前の体は動けるような状態ではない。怪我がもう少し回復したら色々調べさせてことになるが、とりあえず今ここでお前に危害を加えるつもりはない。無理をするな」。黄金の鎧を纏った青年は、静かに、しかし厳かにジークフリートに語りかけた。

 

「アルバフィカ、と言ったな。ここは聖域。。サンクチュアリ、なのか? よかったら、私の置かれているこの状況について教えてはくれぬか。。」

息も絶え絶えながら、ジークフリートは問いかける。

「確かにここは聖域、アテナの治める神聖なる場所だが。」余計な情報を与えぬよう、アルバフィカはジークフリートの問いに事実のみを淡々と答えた。

「お前がどこの誰なのか、アテナの結界で守られたこの聖域にどのようにしてたどり着いたのか、なにゆえにそのような深手を負っているのか、私は知るよしもない。ただ、お前から感じる小宇宙から察するに、お前もまたいずこかの神に仕える戦士なのだろう。我々が神話の時代より闘ってきた神々の戦士達とは違うようだが。何よりお前の小宇宙からは、邪悪さを微塵も感じない。おそらく聖域に仇なす者ではないだろう、と私はみている。」

彼の言うとおりならば、当面の危険はない。ジークフリートもまた少し落ち着きを取り戻しつつあった。

 

ジークフリートがなおも彼に声を掛けようとしたそのとき、小屋の扉が静かに開き、大柄の男が1人、小屋のなかに足を進めてきた。

彼もまた、黄金の鎧を纏い、ただならぬ小宇宙を放っている。それよりも、ジークフリートの目は、その男が抱きかかえている1人の男にくぎづけとなった。

「ミーメ。。」

そう、彼と同じくアスガルドを守るために戦い、散っていたエータ星ベネトナーシュの神闘士、ミーメであった。

「なんじゃ、お前の知り合いか?」 もう1人の黄金の青年は驚いたように言い放った。

「アルバフィカ、この男は白羊宮の傍らの花畑に倒れておったのじゃ。シオンが任務で不在じゃったのだが、たまたまワシが通りかかってな。悪いやつではなさそうじゃが、万が一ということもある。念のため、12宮から少し離れたここに連れてきたというわけじゃ。深手を負っているが、ここならまともな寝床もあるしな。」

「童虎よ、お前は相変わらず人がいいな。」

「なに、確かにこの男の小宇宙はワシらに匹敵するくらい強大じゃが、この瀕死の状態で、しかもワシら黄金聖闘士が守る聖域で、たった2人では何もできまい。相変わらず心配性じゃのぉ」 童虎と呼ばれた男は、威勢よくカラカラと笑いながら答える。

「ただ、冥王ハーデスが動き始めている時期でもあり、放ってはおけぬ。こやつらから感じる小宇宙から察するに、傷が少しでも癒えてきたら、青銅聖闘士や白銀聖闘士では太刀打ちできないかも知れぬしな。ワシは教皇に報告してくるから、お前は念のため見張っておいてくれぬかの? 頼んだぞ!」 アルバフィカが答える猶予も与えず、童虎は小屋から出て行ってしまった。

 

「やれやれ、相変わらずだな、童虎は。。」童虎がベッドに寝かせていったもう1人、ミーメと呼ばれた男を見つめつつ、アルバフィカは苦笑いをしている。

 

「聖域ということは、青銅聖闘士達、ペガサスの星矢やドラゴンの紫龍、フェニックスの一輝達。。彼らはもう戻ってきているのか?」本当に聖域であれば、自分の知る聖闘士達とコンタクトをとれるかもしれない。ジークフリートは、彼の知る聖闘士達の名前を挙げてみる。

「確かにペガサスの青銅聖闘士は居るが、彼の名はテンマだ。星矢という名ではない。。他の者達の名も私は聞いたことがないが。。」

「そうか。。ここは確かに聖域のようだが。。私の知る聖域とはどうにも違うようだ。。」ようやく理解できたかと思っていた状況がまたわからなくなり、ジークフリートは困惑した。自分は今どこにいるのか。。

 

その時、ジークフリートは小屋の窓の外で瞬く光に気がついた。月明かりではない。もっとかすかな光、星明かり。彼らの守護星であるおおぐま座の北斗七星と、北極星の光だ。しかし、ジークフリートは気がついた。ほんのわずかだが、星々の位置が違うのだ。常人では気づくことも無いであろうごくわずかな違いだが、ジークフリートがそれを見逃すことはなかった。

空の星々は、一つ一つが太陽と同じ恒星である。地球からとてつもない彼方にあるそれぞれの星々は、天球上で完全に静止しているわけでは無く、それぞれが銀河系の中を動いており、長い年月の間に、星々の集まりである「星座」は少しずつ形を変えていく。彼の視線の先にある北斗七星は、ほんとうにわずかだが、彼の知るそれとは違っていた。。

 

「アルバフィカよ、一つ尋ねてよいか?」

「私の答えられることであれば答えよう」

「今は、今年は何年だ?」

「なんだ、そんなことか」アルバフィカはこともなげに言う。

「今年は。。」

「1762年です!。怪我のおかげで忘れちゃったんですか?」アガシャと呼ばれる少女が不思議そうに答える。

「1762年、だと。。?2006年、ではないのか?」

「1762年で間違いない。。。。ん、たしか、お前の知るペガサスの聖闘士の名は、私の知るペガサスとは違っていたが。。

まさかお前は、243年後の未来からここへやってきたというのか。。?」

 

アルバフィカは、目の前に横たわっている男が、はるか未来からやってきたことに気がつき、驚きを隠しきれない。神でもない彼らには、なぜこのような状況が発生したのか、理由はわからない。ただ、本来なら決して出会うことのない、異なる時代に生きている彼ら。。彼らは実際に今こうして顔を合わせ、話をしているのだ。

 

そして、なぜ自分とミーメだけが、遙か昔の、しかもアスガルドから遠く離れた聖域に飛ばされることとなったのか?元居た時代に帰り、ヒルダやフレア、もしかすると自分達と同じように生き返っているかもしれない神闘士達に再び会うことは出来るのか? 自分の予想をはるかに超えた事態に困惑しつつ、まだ目を覚まさぬミーメをみやり、ジークフリートは思いをめぐらせていた。。。

 


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