では、その逆はおこりうるのか?
老聖闘士による試みがはじまる
「よかったのか? ミーメ。あの魔法少女とほとんど話もせずに立ち去ってきてしまったが」
「なに、どうせすぐまた出くわすことになる。それに、あの魔法少女、何か隠しているように感じるのだ」
「同感だな。あの状況で彼女が気にしていたのは、目の前の魔女ではなく、私達のことばかりだった。なぜ魔法少女や魔女について知っているのか。そしてなによりも、キュウべぇに対して警戒を促したときのあの反応。。」
「なぜ警戒しなければいけないのか、ではなく、どこまで知っているのか?という反応だな。あれは、自分が魔法少女や魔女、キュウべぇの秘密について知っているという自覚がなければ出てこない言葉だ」
「いずれまたあの少女とは接触せねばなるまい。ただ、今回の一件で彼女は私達に警戒心を抱いた可能性がある。拒絶されるようなことになれば面倒だ。一旦戻って作戦を練ることにしよ。。」
「。。。また、魔女、だな。」
「そうだ、ほんとうにこの街、見滝原には魔女が多い。いったいここはどうなっているのだ」
二人の神闘士は、気配をたどり魔女の結界へと向かった。
たどり着いた先は、人気のない廃工場だった。
結界の前に立ち、今まさに結界へ突入しようとする二人の肩に、誰かが手を置いた。
「。。。!」
「誰だっ!」
振り返ったそこに立っていたのは、一人の老人だった。
「なんだ、ハクレイ殿ではありませんか。。気配を完全に消して近寄ってくるとは、イタズラが過ぎませぬか。。」
「まぁまぁ、怒るな。さて、さっそくじゃが、ここには魔女が居るのだろう? ぜひワシも結界に連れて行ってくれぬかの?」
「それは構いませぬが。。では」
手慣れたふうに、ハクレイを伴って結界へと身を投じる二人の神闘士。
結界の中は、古びた本を模した使い魔が飛び交っている。それらは侵入者を察知したのか、さっそく彼ら三人の周りを旋回し始めた。
奥には、本棚のような形をした何かが立ちふさがっているのが見える。
「なるほど、この結界の主は、かつては本になんらかの縁か願望を抱いたものだったのであろうな。さて、わしは少々試さねばいけないことがある。おぬしらには、周りにいるこいつらの相手を任せてもよいかな?」
「任されましょう。それより、試さねばいけないこととは?」
ジークフリートは、この老人が何を仕掛けるつもりなのか、興味があるようだ。
手っ取り早く使い魔を片付け、ハクレイを見つめている。
「まぁ、見ておれ」
ハクレイは魔女と正対する。直立不動の彼に対し、魔女は攻撃をしかけることができない。ハクレイが放つ小宇宙に威圧されているのだ。
「積尸気 冥界波!」
魔女にむかって突きつけられた彼の指先からは青白い光が放たれた。まるで魂を糧に燃える鬼火のような、不気味な光。それはまるで人魂のように宙を舞い、光の矢となって魔女へと突き刺さった。魔女は何かうめき声をあげもがいているが、そんなことには構わずハクレイは小宇宙を高める。
「。。。!」
ハクレイが指を上に振り上げるとともに、魔女から何か黒い物体が抜け出してきた。黒い霧のようでいて、それは魔女と似たような形を保っている。
「ハクレイ殿、それはっ!?」
何が起こったのかわからず、説明を求めるミーメ。
「この魔女の魂、のようじゃな。積尸気冥界波は、生者から魂を引きずり出し、冥界への入り口、黄泉比良坂へと放り込む技。魔法少女が魔女へと姿を変えたのだとしたら、魔女の中にはもしかしたら魔法少女の魂が残っているのではと思ったのじゃが。。試しに引きずり出してみたらこのとおり、人の魂とは少々違う得体の知れぬものが顔を出したというわけじゃ」
「ハクレイ殿、それでは、魔女になってしまったらもう、魔法少女に戻る手段はない、ということなのか?」
「ジークフリートよ、まだあきらめるのは早いかも知れぬぞ。そもそも魂でなければ、積尸気冥界波で引きずり出すことは出来ないのじゃ。少なくとも、こやつが魂と何らかの関わりがあるのは間違いあるまい。そしてこの中には、かすかじゃが人の魂の存在を感じる。それを取り囲む分厚い鎧をどうにかして剥ぎ取ることができれば、人の魂をつかみ出すことが出来るやもしれぬ」
「。。。」
「ただ、問題はまだまだあってな。魂を引きずり出せたとしても、人として再びこの世に戻すには、魂の入れ物となる体が必要なのじゃ。魔法少女から魔女に姿を変えた直後であれば、本人の体が残っているからそれを使えば何の問題もないのじゃが、この魔女のように元々の体がどうなったかわからぬ場合、如何ともし難い。魔女の体に戻したりすれば、再び魔女として動き出すだけのこと。」
「そうなのですか。。ただ、とりあえず帰るべき体さえ確保できていれば、マリアや他の魔法少女を元に戻してやることは不可能ではない、ということなのですね」
「中に隠されているかも知れない魂には傷をつけずに、外側の得たいのしれないものだけを取り去る方法を見つけ出すことができれば、の話じゃが。その方法がわからぬ以上、今はまだ如何ともし難いな。それに。。」
「それに?」
「この時代では、積尸気冥界波を操れる聖闘士がいない、というか居なくなってしまった。まったく、いつの世もどうして聖域は仲間割れをやらかすのじゃ。。前聖戦の聖域ならば、ワシと教皇セージ、そして蟹座の黄金聖闘士マニゴルドが居るが、聖戦が始まってしまったらこちらに来れるかどうかわからぬ。しかも、早々と双子神が活動を始めている以上、奴らと因縁を持つワシとセージは早々に戦線に出ねばならぬだろう。なによりあの鏡では1度往復してしまえばもうこちらを訪れることはできなくなってしまう」
「。。。」
「もしかすると、生き残っている聖闘士の中に積尸気の適性を持っているものが居るかも知れぬし、なんなら適性持ちを新たに探し出す手もあるじゃろうて。気が急くのはわかるが、出来ることを一つ一つ片付けていこうではないか?ワシは一足先にアテナの元に戻るとしよう。この魔女のことはよろしく頼むぞ」
ハクレイはそう言い残すと、魔女の結界から消え去った。
ジークフリートは、無言で魔女に技を放つ。辺りを爆風が包むとともに、結界は消え去った。
しばし佇んで黙祷を捧げるかのような仕草を見せると、二人の神闘士もまたハクレイのあとを追った。
「暁美さん、さっきはありがとう。ごめんね。私、怖くて何もできなかった。。」
「ほむら、でいいわ。あなたはいいの、魔女を倒すのは、私たち魔法少女の役目なのだから」
「魔法少女。。ほむらちゃんは、魔法少女なんだよね? よかったら、もう少し詳しく教えて欲しいなって」
「魔法少女は、どうしても叶えたい願いを叶えてもらうのと引き替えに、命がけで魔女を倒す宿命を負わされた存在なの。ろくなものではないわ」
ほむらは、魔法少女の秘密の核心部には触れずに、まどかが魔法少女にならぬように話を打ち切ろうとする。
「でも。。魔法少女になれば、魔女からみんなを救うことが出来るんだよね。さっきみたいに何も出来ずに守られるだけの私から、誰かを守る私になれるのかなぁって」
「魔法少女は、願いを叶える代償に、他のなにもかも。。もしかすると自分の将来の希望すら放り出さなければならないかもしれないの。そんなものに、あなたはならなくてもいいの」
「そうなの。。。かなぁ?」
「あなたは今のあなたのままでいい。他の魔法少女から誘いをうけても、絶対に乗ってはダメ。もしあなたの前に、キュウべぇという存在が現れても、絶対に奴の言うことを聞いてはダメ。あいつはあなたのことを執拗に狙って、ことある事に誘いをかけてくるはずだから」
「うん、わかった。ありがとう、ほむらちゃん。さっきの二人も、キュウべぇには気をつけろ、って言ってたし。わたし、キュウべぇがなんなのかわからないけど、とにかく気をつけるね」
「わかってくれればいいの。あなたの人生はあなただけのものではない、あなたにとって大事な人、あなたのことを大事に思ってくれる人たちの存在を、絶対に忘れないで」
「。。うん。 あ、そうだ、さっきの二人の男の人、かっこよかったよね。まるで、映画の俳優みたいだったよね?」
「(!!っ) うん。。そうね。でも、私はあの二人のことはまだ信用していないの。確かに強いけれど、魔法少女でもないのに魔女の結界に入れたり、魔女を倒したりできるなんて。彼らが何者なのか、信用できる存在なのか、今はまだ全然わからないし。」
「わたし、あの人達は悪い人ではないと思うの。。また、会えるかなぁ? あ、でもほんとに男の人なのかなぁ?」
「また会える、かもねって、どうしてそう思うの?」
「だって、魔法少女っていうから、少女でないと魔女と戦う魔法少女にはなれないよね? 魔女を知ってるって事は、あの人達ももしかしたらすごくボーイッシュな女の人なのかなぁって」
「。。。保健室、いきましょ?」
「(言われてみたら確かにそうかも。宝塚、みたいな感じなのかしら。たしかに美形ではあったし。でもなんだか複雑な気分だわ。。。)」
ほむらは、淡々と答えつつも複雑な表情を浮かべ、保健室へと足を進めていった。
「アテナさま。ただいま戻りました。いきなりですが、生き残っている聖闘士の中で、積尸気に目覚めている者は居りませぬかな?」
「ごめんなさい、ハクレイ。デスマスクはすでにこの世を去り、彼に繋がる者も居ない今、残念ながら心当たりがありません。候補生の中にもそうしたものはまだ見当たらないようです」
「魂は死と生いずれにも連なり、輪廻転生を経て流転を繰り返すもの。積尸気使いは、そうした魂の本質を意識し、戦士であると同時に、魂のありように引きずられることなく俯瞰できる者、ともいえましょう」
「もしかして、魔女の魂を人間へと導くすべがみつかったのでしょうか?」
「そう、かもしれませぬ。どうやらあの”魔女”という存在の中には未だ人間の魂が埋もれておるようでしてな。いくつか解決せねばいけない問題はあれど、全く希望がない、というわけでもありませぬぞ」
「問題、それはどのような」
「魔女の中に潜んでいるかも知れぬ”魂”を、それを厚く包む得体の知れぬ何かから引きずり出す方法、そして、引きずり出した魂の入れ物となる体、ですな。そして、積尸気使い。この3つが欠かせませぬ」
「入れ物となる体。。人形とかでは、ダメなのですよね?」
「はい、それはあくまでも、肉体でなければなりませぬ。それも、当世で繋がっていた肉体、でございまする」
「そして、積尸気使い、ですね」
「はい。積尸気を操る素質を持つ者は、さまざまな形で冥界の入り口と繋がっていることがありましてな。たとえば、亡くなったものの魂が勝手にまとわりつく、当代の蟹座がそうだったようですな。また、当人に特段の落ち度があったわけでもないのに、ちょっとした勘違いや間の悪さから、結果として周囲の人々が不幸な結果に導かれてしまったり、はた迷惑な目にあったり、なんていうこともあるようです」
「(氷河とか。。もしかして素質あるのかしら)」
「アテナさま、心当たりでも?」
「いえ、なんでも」
「こちらでも手は尽くしてみますが、私もこちらにはあまり長居出来ませぬゆえ、なんとか見つけ出して頂かねば。では、私は少々調べ物をしてきますゆえ、失礼いたしまする」
「ぶつぶつ(。。。ムウは。。たぶん意図的としても。。そういう目で見たらみんな素質あるのかも)」
「(こちらのアテナもたいへんそうじゃな。。)」
「(ぶつぶつぶつ。。。)」
「あぁ、お腹へったなぁ。。あ、沙織さん、ただいま~!」
「(ぶつぶつぶつ。。) はっ! せ、積尸気冥界波っ! あ、星矢、違うのこれは、その。。 あ、氷河、蟹座になってみませんか?」
「は? アテナ、水瓶座ならともかく、なんで蟹。。」