神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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暁美ほむらの新たなループが、再び始まる。

ただ、これまでと違うのは、魔法少女でも魔女でもない、謎の戦士が二人現れたこと。


狂い始めた軌道

「ずいぶん遠くまで来ちゃったね、紫龍。」

「魔女がなかなか見つからないのだから、仕方ないだろう、瞬」

 

4人の青銅聖闘士と2人の神闘士は、魔女と、全ての黒幕と疑っているキュウべぇを探して、城戸邸からずいぶんと遠くまで来てしまっていた。

アテナに仕え地上の平和を神話の時代から守ってきた戦士、聖闘士。12人の黄金聖闘士、24人の白銀聖闘士、48人の青銅聖闘士。

88人いるといわれる聖闘士の中でも、彼らはもっとも下の階級である青銅聖闘士だが、それでも最強クラスの戦士であることに違いはない。

そんな彼らにとても、あてのない捜索はやはりこたえるものらしい。

 

「この街に来るのは初めて、かもしれない。ここはなんという街なんだ?」

白鳥座(キグナス)の青銅聖闘士、氷河がジークフリートに問う。

 

「それを私に聞かれても。。お前達のほうが日本には詳しいのではなかったのか? 私もこの街は初めてだが、標識によればここは、”見滝原”という街らしい。」

「みたきはら。。たしか、沙織さんの幼なじみが住んでいる街も、見滝原、だったよな。ところで、この街に来てから、なにか妙な気配を感じないか?」

ペガサス座の聖闘士、星矢が、あたりの様子をうかがいながら答える。

 

「お前も感じていたか、星矢。聖闘士とも、これまで戦ってきた敵とも違う、なにかこう深い呪いを思わせるような気配だ。もしかして、これが「魔女」なのか?」

龍座(ドラゴン)の聖闘士、紫龍が言葉を返す。

 

「間違いない。これが「魔女」の気配だ。魔女は自らの魔力で結界をつくり、その中に潜んでいる。魔女に呼び寄せられた人間や、この街のどこかに居るはずの魔法少女、そしてそうした存在と接触をもった存在、たとえば私達のような者でなければ、魔女の結界には立ち入ることはできないのだ。さっそくだが、どうやらすぐ近くに結界があるようだぞ。ついてこい。」

 

そう言うと、ジークフリートは道路脇の空きビルに近づいていった。壁の前に立った彼は静かに小宇宙を高め始めた。

 

 

「私がまず結界に入り、それからお前達を結界に引っ張り込む。お前達は壁際に立っていてくれ」

ジークフリートは、まるで壁に溶け込んだかのように、壁の向こう側にある結界へ身を投じると、壁際に立っている青銅聖闘士達を一気に結界へと引きずり込んだ。ミーメも彼らに続く。

 

 

結界の中には机や椅子、化学の実験器具のような何かが無数に浮かんでいる。それらには目や口のようなものが付いており、結界への侵入者に気がつくとあからさまに威嚇を始めた。ビルの中に展開された異世界、見たこともない異様な物体に、さしもの青銅聖闘士達も言葉を失っている。

 

「これが魔女の結界だ。浮かんでいるコイツらは、魔女の使い魔だろう。魔女が生きている限り、いくら倒しても次から次へと現れる。攻撃されても君たちなら遅れを取ることはないだろうが、一応気をつけておけ」

 

侵入者に気づいた使い魔は次から次へと襲いかかるが、無数の光条のように空間を埋め尽くすミーメの光速拳を受けて、なすすべもなく引き裂かれ、消滅していく。ミーメは結界の奥へと足を進め、青銅聖闘士たちもまた、降りかかる火の粉を払うかのように使い魔をいなしつつ後を追いかけるが、結界の深部に近づくほど、使い魔はその数を増していく。四方八方から襲いかかる使い魔を仕留めながらでは、思うように前に進めない。

 

やがて彼らの前には、自転車を思わせるような形をした巨大な生き物が現れた。

「これが、魔女だ。こんななりをしているが、こうなる前は、笑ったり泣いたり怒ったり、夢に思いを馳せたりする、ごく普通の少女だったはずなのだ。あのおぞましいキュウべぇに騙され、魔法少女になってしまった少女はほぼ例外なく魔女へと墜ちることになってしまう。キュウべぇは魔女を少女に戻す方法は知らないと言うが、このような不条理が現実に起こりうるのなら、その反対もまた不可能ではないはず。私達が243年前の聖域に送られ、アスガルドの神のご加護によって再びこの時代に戻ってきたのは、そのためなのだと思っている」

 

ミーメは竪琴を構え、静かに魔女を見つめる。

 

「すまない。今の私達には、お前を倒すことしか出来ないのだ。せめてこれ以上の悲しみを積み重ねさせないために、安らかな終わりを与えよう。ストリンガー・レクイエム。。。」

 

竪琴を奏で始めるミーメ。空間を埋め尽くす使い魔は、もの悲しい竪琴の旋律に、まるで眠ってしまったかのように動きを止めていく。

竪琴から放たれた弦は魔女に巻き付き動きを拘束するが、魔女の抵抗はなかなかおさまらない。じわじわと魔女のほうに引き寄せられていく状況。

巨大な魔女との力比べを続けたなら、これ以上時間をかけるのは思わぬ結果を招きかねないだろう。

決着を急ぐべく、ミーメが竪琴の弦を弾く。

衝撃波は弦を伝って魔女へと届き、それと同時に結界を包んでいく凄まじい爆風。荒れ狂う煙と風が収まったあとには魔女の姿も結界も消滅し、あたりは何の変哲も無いビルの室内へと姿を変えていた。

 

「ミーメ! 以前よりもさらに強くなったんじゃないか? あっさり終わったな」

駆け寄る青銅聖闘士たちに囲まれながらも、ミーメの表情は硬いままである。

 

「そう見えるか? 今の魔女はこれまで出会った魔女と比べ、かなり手強いように感じる。たまたまこの魔女が強かったのか、それとも。。」

「そして、キュウべぇはここには居ないようだな。一刻も早く、ヤツを見つけ出してこんな悲劇に終止符を打たねばならないのだが。。。」

 

日本での闘いは、予想していたものよりも厳しいものになるかもしれない。

青銅聖闘士達の声をよそに、二人の神闘士の心は晴れない。

 

 

「すまんが俺たちはそろそろ戻らなければならない。お前達はどうする?」

「私達はもう少しこの街を調べてみようと思う。この街はあちこちに魔女や使い魔の気配が感じられる。」

 

申し訳なさそうな紫龍に言葉を返すと、ジークフリート達は、城戸邸へと引き返す星矢たちと別れ、引き続き見滝原の探索へと向かった。

 

「セージ殿たちもそうだが、この時代のペガサスたちもこれから冥界との闘いを控えている。なるべく私達で事をおさめたいところだが」

「同感だ。それにさきほどの闘いぶりを見ていると、たしかに青銅聖闘士たちはめざましく強くなっているが、海界との闘いで受けたダメージが完全に回復していないようだ。。ん?」

「どうした、ミーメ?」

「さっそくだが、また魔女だ。かなり近いところだぞ。急ぐぞ」

 

二人の神闘士は、あらたな戦場へと急いだ。

 

 

 

 

「ですからっ! ハンバーグにかけるのはケチャップですか?それともソースですか? はい、中沢君!」

「え!? えっと……ど、どっちでもいいんじゃないかと……」

「そのとおり!どっちでもよろしい! ところで今日はみなさんに転校生を紹介します! 暁美さん、いらっしゃい」

 

見滝原市中学校2年のとあるクラス、妙にテンションの高い女教師に促され、一人の少女が教室に入ってきた。

 

「暁美ほむらです。よろしくお願いします」

長髪でクールな雰囲気の少女は、言葉少なに自己紹介する。

 

(これで何度目の自己紹介かしら。でも、これを最後の自己紹介にしてみせる。。)

クラスの生徒に気取られないよう心の中で呟くと、暁美ほむらは軽くよろめいた。

 

「すみません、ちょっと緊張してしまったようで、めまいがしてしまいました。保健係はどなたかしら? 保健室へ連れて行ってくださる?」

(わざとらしかったかしら?でももう何度も繰り返してきたイベントだし、手間かけずにさっさと進めてしまいましょう。。)

どなたかしら?と言うわりに、暁美ほむらは、教室の真ん中付近に座っている一人の少女だけを見つめている。

 

「保健係。。あ、鹿目さん、いきなりだけど暁美さんをよろしくね」

先生に促されると、鹿目さんと呼ばれた少女は席を立ち、暁美ほむらに寄り添いつつ保健室へと向かった。

 

 

「鹿目まどかとの出会いをやりなおしたい。」

その願いを叶えるために、ほむらはキュウべぇと契約して魔法少女となった。

 

数え切れないほど繰り返してきた、鹿目まどかとの出会い。まどかが魔法少女にならぬよう、魔女にならぬよう、ほむらはこのシーンを、この1ヶ月を何度も何度も繰り返してきたのである。

 

まどかを大事に思う人達の存在を忘れないで欲しい。他人よりも自分を大事にして欲しい。魔法少女なんでろくなものではない。

まどかが軽率にキュウべぇと契約して魔法少女にならぬよう、手を変え品を変え、ほむらは繰り返しまどかに警告してきた。

しかしその思いは報われることはなく、まどかは最終的には魔法少女になってしまう。

 

今回はどのようにしてまどかに伝えるべきか?

どうすればキュウべぇの勧誘からまどかを守り切れるか?

 

それを考えながら廊下を歩いているほむらと、ほむらの体調を気遣いながらゆっくりと側を歩くまどか。

 

 

そんな二人を包む空間が突然揺らぎ、暗転する。

 

「えっ! なに、いったい何がどうなっちゃったの!?」

当惑するまどか。

 

「(これは。。魔女の結界! なぜ?今までこんなところに魔女が現れたことなんてなかったのに。。)」

状況に驚きつつも、ほむらは冷静に周りを見回している。

 

結界。今自分達が居るのは、間違いなく魔女の結界である。

これまでに経験したことのない事態だが、とにかくまどかを守らなければならない。

 

彼女たちのまわりには、早くも使い魔達が集まり始めていた。白い綿の塊にヒゲの生えた顔、そこからは細い手と羽根が生えている。

しかも数が多い。一瞬のうちに二人の周りは使い魔で埋め尽くされてしまった。

 

このままではまどかが危ない。ほむらが身構えたそのとき、あたりを無数の光条が包んだ。

音も無く結界を埋め尽くす光条。その一筋一筋は、全てが狙いを外すことなく使い魔を打ち抜いていく。

百。。いや、千は居たかもしれない使い魔は、ものの数秒で残らず消え去った。

 

 

「君たち、怪我はないかっ!」

 

その声に二人が振り向くと、そこには二人の男性が立っていた。

一人は深蒼色、もう一人は深紅の美しい鎧をまとっている。

 

「大丈夫、私達二人とも怪我はないわ。それより。。貴方たち。。」

そう答えたほむらの視線の先に、またしても使い魔が現れる。二人の男の後ろから、凄まじい速度で近づいてくる使い魔。

ほむらが二人に注意を促すよりも早く、深紅の鎧の男が後ろを振り返ることもなく拳を上げる。

拳から先ほどの無数の光条が放たれ、使い魔は先ほどのように跡形もなく四散した。

 

「怪我はないようでなによりだ。君たちは魔女の結界の中に居る。くわしいことは後ほど話すとして、まずはこの結界の主を倒さなくではならない」

深蒼の鎧の男はそう言うと、結界の奥を見つめている。

 

「貴方たち、何者? どうして魔女を知ってるの?」

ほむらは冷静に言い放つと、紫色の宝石をかざす。次の瞬間、ほむらの左手には丸い盾が現れ、紫色の制服のような衣装がその身を包んでいた。

 

 

「そうか、君は魔法少女だったのか。ならば話は早い。この結界の魔女は強力だ。君たちや他の生徒たちに被害が及ぶ前に倒さねばならぬ。もたついている間に、魔女のほうからこちらに寄ってきてしまったしな」

姿を突然変えたほむらに驚くこともなく、深紅の鎧の男は身構える。

目の前にはいつのまにか、異形の怪物が近づきつつあった。

薔薇のような、長い髪の人間のような、例えようのない異様な物体。二人の男やほむらはともかく、まどかは呆然とそれを見つめている。

 

「そうね。話はあとでゆっくり聞かせてもらうわ。この魔女のことは、よく知っている」

そう言いつつ、魔女のほうを向きなおった、ほむら。

 

「待て。魔力を無駄遣いすることはない。この魔女は私達に任せておけ。」

ほむらを制止すると、深蒼の鎧の男は魔女に拳を向ける

 

「どれだけ苦しんだのか。どのような道をたどって絶望に至ったのか。私達にはわからない。ただ、罪をこれ以上重ねずに済むよう、今すぐ楽にしてやるぞ。安らかに眠りにつくがいい。。」

「ドラゴン・ブレーヴェストブリザード!」

 

青くまばゆい光が男の両拳から放たれ、目の前の魔女の体へとヒットする。魔女はもがきつつも必死に耐えているが、拳圧にその体はしだいに歪んでいき、やがて歪みの中心を光が貫いた。

爆風が空間に充満し、魔女の体は四散した。小さな黒い宝石、グリーフシードをその場に残して。

 

 

「これは私達には無用のものだ。君が使うといい。」

拾い上げたグリーフシードをほむらに手渡すと、二人は立ち去ろうとする。

 

「待って、貴方たち、いったい何者?どうして魔法少女や魔女のことを知っているの?」

「話せば長くなる。君たちはまだ学校にいなければいけないのだろう? この街には魔女が多い。しかも強力な魔女ぞろいだ。私達もおそらくここを頻繁に訪れることになるだろう。いずれ時を改めて、じっくりと話をすることになるだろう」

「そうだ、一つ話しておくならば。。キュウべぇには気をつけろ、とだけ言っておこう」

「えっ? 待って、なぜそんなことを? 貴方たち、どこまで知っているの?」

 

この男達、ただ強いだけではなく、魔法少女や魔女の謎を熟知しているのでは?

ほむらはなおも呼び止めるが、二人の男達の姿は、一瞬のうちにその場から消えていた。

 


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