神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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予期せず現れた双子神の介入により、魔女を連れ去られた神闘士たち。

しかし彼らは、ほんとうに守りたい、守らなければならない人々の存在に気がついていた。


守るべき人々

「その者は、確かに、ヒュプノス、と名乗ったのだな?」

 

聖域、教皇の間。黄金聖闘士が居並ぶ中、神闘士二人とテンマの報告をうけて、教皇セージは動揺を隠せない。

 

前聖戦では終局まで表立って動かなかった双子神。その片割れである眠りの神、ヒュプノスがすでに地上で活動しているとは。

 

 

その気配はあった。だからこそ、射手座のシジフォス、山羊座のエルシドと二人の黄金聖闘士を派遣してまで、その動向を探らせていたのだ。

 

 

双子神のうち、慎重で用意周到とされるヒュプノスが、これほど堂々とアテナ軍の前に姿を現してくる。

それは、聖戦の早い段階から双子神との衝突がおこることを意味している。

厳しい戦いとなるであろう来る聖戦を思い、教皇セージは緊張せずにはいられなかった。

 

そして、わざわざ自らの手で、魔女とキュウべぇを拉致していったこと。

魔法少女と魔女の存在に冥界がなんらかの関心を持っていることは確実だが、なぜわざわざヒュプノスみずから動いたのか。

 

 

アスガルド最強の戦士である神闘士として幾多の戦いをくぐり抜けてきた自分達ですら、全く歯が立たず軽くあしらわれてしまう、そんな眠りの神の介入。

魔女が彼の手にある以上、助け出すどころか、居場所をつかむことすら容易ではないだろう。

二人の神闘士とテンマは、この状況に不安を隠せないで居る。

 

 

「相手がヒュプノスであったのなら、その魔女はおそらく無事であろう。」

セージは、神闘士達の不安を慮って声をかける。

 

「ヒュプノスは恐ろしい敵には違いない。ただ、双子神のもう片方、命を奪うことになんの躊躇もない死の神タナトスと比べれれば、ヒュプノスは思慮深い行動をとる。」

「ヒュプノスは自ら魔女を連れて行った、それは彼が魔女を重要な手がかりと捉えているからであろう。」

「魔女は冥王軍の勢力下にあるどこかに囚われているに違いない。ヒュプノスは、聖戦をまず片付けたのち、捕らえた魔女とキュウべぇを使って、魔法少女と魔女の謎を解いていくつもりなのであろう。」

 

「でも、相手は冥王軍だぜ。。いくらヒュプノスが慎重でも、他の連中が。。」

 

「ペガサス、その心配はおそらくあるまい。ヒュプノスがわざわざ出てきたのは、冥闘士どもの関与を避けるためでもあろう。貴重な手がかりである魔女が粗暴な冥闘士によって殺されてしまっては困るだろうからな。」

「冥王軍において、ハーデスと双子神の力は絶対だなのだ。冥王軍を統べる三巨頭でさえ、双子神にとっては赤子同然、双子神の意向に逆らうような行動は、冥闘士達には不可能なのだ。」

 

「アスガルドの戦士よ。我々聖域は、こたびの聖戦においてどうしてもヒュプノスと決着をつけねばならぬ。双子神を倒すことは、この教皇と、ハクレイ、前聖戦から生き残った聖闘士の悲願でもある。」

「そなた達もヒュプノスを倒し魔女を取り戻したいであろう。しかし、そうすれば、そなた達もまた冥界と戦うこととなる。我々もそなた達も無事ではすむまい。」

「そなた達には、自分達の時代に戻り、日本において此度の一件を引き起こした原因を解き明かすという使命がある。気持ちはわかるが、あの魔女のことは、我々に任せてはくれぬか。」

 

 

「。。。」神闘士は沈黙している。

 

「まかせとけって。あんた達はあんた達にしか出来ないことを果たしてきてくれよ! あちらの時代で魔女を人間に戻す方法見つけてくれたら、あとはこっちでなんとかするからさ!」

テンマが努めて明るく言い放った。

 

二人の神闘士はなおも黙っていた。教皇の間を沈黙が包む。

が、やがて、ジークフリートは無言で立ち上がった。

無言のまま、彼はゆっくりと、アスガルドの神に授けられた鏡へと足を進めた。

それに促されるかのように、続いてミーメが、やはり鏡へと向かう。

 

 

「教皇、テンマ、そして聖域の聖闘士よ。マリアのこと、エルザのこと、この時代の魔法少女や魔女のこと。貴方がたに託します。」

ジークフリートはそう言うと、アスガルドの神から授けられた鏡を見つめている。

 

「私たちがこの時代に送られてきたのは、それが私たちに必要なことだと、世界が判断したからなのかも知れませぬ。」

 

 

二人は、この時代で出会った多くの人々のことを思い返していた。

 

聖域の聖闘士たち、アガシャやロドリオ村の人々。

 

村人たちから毎日のように届けられる、食べきれないほどの野菜の山。世話好きな老人たちから次々に寄せられる縁談に途方に暮れたこと。

村人たちに囲まれ竪琴を奏で、少女達の素朴な憧れの視線に当惑しつつも、村人たちが見せる笑顔に素直に喜びを感じていた日々。

ひたすらヒルダやアスガルドを守るために戦っていた日々には想像もつかなかった、一人の人間としての、ごく普通の日常。

人々の笑い声、酒場の喧噪、喜怒哀楽に満ちた平凡な日々。

すべてが二人にとってあたたかくも懐かしい思い出であった。

 

 

守るべきは誰なのか。

今までの自分たちには、アスガルドしか見えなかった。アスガルドのために、ヒルダのために生き、戦ってきた。

しかし、この時代で出会い、短い日々ながらも深い絆を結んだ人々。彼らもまたアスガルドの民と同じくこの地上に生きているのだ。

 

これまでも、これからも、自分達は、アスガルドの戦士、神闘士である。

アスガルドのため、ヒルダのために戦う戦士であることは、これからも揺るぎない。

ただ、この時代に来て自分達は、アスガルドの外にもまた、同じように人の営みがあること、遙か遠くからやってきた自分達に暖かく接してくれる人々が居ることを知った。

これからは、アスガルドだけでなく、この世界に暮らすすべての人々のために戦おう。

今居るこの時代、243年後の未来だけでなく、すべての過去と未来の人々のために。

少女たちが泣いたり笑ったりしつつも幸せな日々をおくり、魔女になることもなく自分達の未来に希望を持ち続けられるように。

 

鏡には、二人の神闘士の顔が映っている。

しかし、二人が鏡の中に見たのは、アスガルドの人々、聖域やロドリオ村、イタリア。。この時代に来てから出会った多くの人々の笑顔だった。

 

「聖域のこたびのご厚意、感謝します。私たちは、己の成すべき事を成すことで、それに報いましょう。」

「この時代の聖域、243年後の聖域、そして私たち。、力をあわせればきっと、あの白い獣の所行から少女たちを守ることが出来ましょう。」

「アガシャ、ロドリオ村のみなさん、私たちをあたたかく迎えてくれた人達にも、よろしくお伝えください。みなのおかげで楽しかったと。人の幸せに改めて気づくことが出来たと。」

 

 

言い終えると、彼らは黙って鏡と向き合う。

 

やがて、鏡からは穏やかな光が放たれ、二人を、そして教皇の間を明るく照らしていった。

やがて光が消えたとき、二人の姿は、教皇の間から消えていた。


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