神と、戦士と、魔なる者達   作:めーぎん

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アテナ像を前に対峙する、2つの時代の聖闘士。血の気の塊のような若者と、なにか仕掛けたくてたまらない老人。二つの拳がぶつかり合う。


雷光と星屑

老人の口から告げられた、あまりにも荒唐無稽な言葉。前聖戦を戦った聖闘士、しかも教皇の補佐を役目とする祭壇座の白銀聖闘士。

アテナも3人の黄金聖闘士も、その言葉をにわかに信じることができず、立ち尽くしている。

 

 

沈黙に耐えきれず最初に口を開いたのは、アイオリアだった。

「前聖戦と。。前々聖戦、だと!?ふっ、冗談にしては面白くない。何か証拠があるのならまだしも、どうせ口から出任せではないのか?」

アイオリアはまるで信じようとはしていない。ミロも、同じく老人の言を疑ってかかっている。

一方、ムウは何か考え込んでいる。老人の言葉に、なにか思い当たることがあるのか、自らの記憶をたどっているようである。

 

「ムウよ、そのような根も葉もない言い逃れに惑わされるとは。お前も存外お人好しだったようだな。」

アイオリアはムウに言葉をかけると、ゆっくりと構えをとる。

 

「今度は手加減なしだ。お前が本当に時の彼方からやってきたというなら、また時空の彼方に消し飛ばしてやるだけのこと。受けるがいい、我が渾身の拳を。」

「ライトニング・ボルト-っ!」

 

猛る獅子、アイオリアの全力の拳が老人を襲う。

 

「ほう、今度は本気なようじゃな。ではこちらも少しだけ本気を出すとしよう。ワシの技でもよいのじゃが、この分からず屋どもに信じさせるなら、こちらの技がよいじゃろう。我が弟子シオンの拳、まさかこのような形で振ることになろうとはの。」

老人はゆっくりと小宇宙を高める。。

 

「シオン? 弟子!?」

ムウがなにかに気づいたように老人のほうを振り向き、つぶやく。

 

「愚かな若者よ、その曇った目、星屑の眩き輝きで覚ましてやるとしよう。スターダスト。。。レボリューション!」

 

 

 

無数の光弾が老人の両手から放たれる。一つ一つの光弾は、ライトニング・ボルトの拳をはじき、そしてアイオリアの黄金聖衣にことごとくヒットする。何とか堪えていたアイオリアだったが、ついに受けきれなくなると、圧倒的な力の前にアテナ像の下の階段まで吹き飛ばされてしまった。

 

「その技は。。。」ムウとミロは、目の前で今まさに起きた出来事に呆然としている。

 

「何を驚いている。所詮は真似にすぎないが、アリエスには馴染みの深い技じゃろう? 前聖戦後に二百数十年にわたり聖域を支えていた教皇、そしてかつての牡羊座の黄金聖闘士、アリエスのシオンを鍛え上げたのは、このワシじゃ。」

 

「確かに、その技は牡羊座の聖闘士の魂に刻み込まれ、師から弟子へと受け継がれてきた拳。。シオンの師。。 我が師シオンの師であったという、ジャミールの長とは、あなた様でしたか。。これは大変失礼いたしました。数々のご無礼、どうかお許しください。」

 

「お前らのあまりの脳筋ぶりにくらくらしてしまったが、わかればよい。アテナ、これまでのご無礼、なにとぞご容赦を。これで信じて頂けましたかな?」

 

「私たちが今こうしてまた力を蓄え、新たな聖戦に臨むことが出来るのも、かつての聖域を支え、はるか神代からの道をここまでつないでくれた数知れぬ聖闘士あってのこと。感謝しますよ、ハクレイ。」

 

「もったいなきお言葉。少々寄り道はしましたが、信じていただけましたこと、感謝いたします。そなたらも、理解したか?」

ハクレイは、アテナ、ムウとミロ、そしてなんとか階段を這い上がってきたアイオリアに声をかける。

 

「さて、挨拶はここまで。さっそく本題に入るといたしましょう。ただ、夜風はアテナのお体にさわりましょう。ここではなんですので、主なき教皇の間へ場を移しましょうかの?」

ハクレイにうながされ、皆は教皇の間へと足をすすめた。

 

 

 

「なるほど、聖域の分裂は、私たちの時代にも、それ以前にもあったことです。少々情けなくもありますが、もはやお家芸といいましょうか。」

ハクレイは、アテナやムウの説明を聞き、半ば呆れつつ答える。

 

「双子座たちをお許しいただいたアテナの慈悲の心、きっと彼らにも届いておりましょう。黄金聖闘士が半減というのはさすがに私の記憶にもありませぬが、青銅たちもまた立派に聖闘士のつとめを果たしてくれているようですし、安泰とは言えぬまでも、冥界に遅れをとることはありますまい。」

 

「はい、ポセイドンとの戦いは本当にイレギュラーでしたが、青銅の少年たちのおかげで、冥界との聖戦の準備、順調に整いつつあります。彼らには本当に申し訳ないのですが。。。」

ムウがちょっとバツが悪そうに答える。

 

 

「まさかシオンめがそこまで見通していたとは思えませぬが、降りかかった運命の中で、きゃつなりの最善を尽くしたのでしょうな。あの世でまみえることがあれば、たまには褒めてやるとしましょう。」

双子座の黄金聖闘士サガの乱の経緯、その後のアスガルド、海界との戦いの経緯をひととおり聞き、ハクレイは、アテナや黄金聖闘士をねぎらう。

 

「ハクレイ、今度は私たちがお話を聞かせていただく番ですね。時渡りのこと、現代の聖域を訪れた目的、もちろんお聞かせ頂けますね?」

今度はアテナがハクレイに問いかける。

 

ハクレイは、243年前の聖域へと送られてきた2人の神闘士、それ以前にも1ヶ月ごとに聖域へと送られてきた聖闘士や暗黒聖闘士、魔法少女や魔女、キュウべぇのこと、時渡りがアスガルドの神々の助けによること、神々から託された「スクルドの鏡」による時渡りは、アテナ自身とアテナが認めた24人に限られること、今回の異常の原因が現代の日本にあること、過去と現在の聖域が力を合わせてこの異常の解決に臨むことが求められていること、など彼が知りうるすべてを話した。

 

 

 

「確かに、最近もなにかこう、呪いを思わせるような気配を感じることはありましたが、原因はつかめずにおりました。どうやら、ハクレイがおっしゃった魔法少女と魔女は現代もどこかで活動しているのでしょう。状況は理解しました。聖域としてできる限りを尽くしましょう。日本は私が幼少の頃過ごした国、そして青銅聖闘士達の多くが産まれた国ゆえ、馴染みはあります。私が統べるグラード財団を日本での拠点とすることを許可しましょう。冥界との聖戦を間近に控えているので限界はありますが、聖闘士たちによる支援もおまかせください。」

 

「感謝いたします、アテナ。ご協力いただけるとのこと、たいへん心強く思いまする。」

 

「ただ。。」

アテナの表情に、かすかながら不安が浮かぶ。

 

「この1週間ほど、アスガルドとの連絡が取れなくなっているのです。アスガルドとは、あの戦いのあと連絡をとりあい、極北の復興のために力添えをしていたのですが。。なにか強力な結界のようなものに阻まれて、声を交わすことができません。地上代行者ヒルダの小宇宙は感じますし、氷が解けてはいないのでワルハラ宮の機能は生きているようですが。。神闘士、ジークフリートとミーメはおそらくヒルダのもとに立ち寄ってから日本に向かおうとするでしょうけれど、彼らがアスガルドにたどり着けるのかどうか、私たちもわからないのです。」

 

「アテナの小宇宙でさえ遮る結界とは。。そんなことが出来るのは神としか思えませぬが、海皇ポセイドンは封印されているはず。冥王がそんな手の込んだことをするとも思えませぬ。いったい何者がそのようなことを。。ただ、あの神闘士2人、どんなに我々が引き留めたとしても、必ずアスガルドには立ち寄ることでしょう。彼らにことの真相を確かめてきて貰うしかありますまい。」

ハクレイは、もしかすると神闘士2人が直面するかも知れない辛い運命に思いをはせつつ、静かに答えた。

 

「聖戦を控えたこの時期、聖域にあまり大きな負担をかけるのは、私も本意ではありませぬ。こちらの聖域もまもなく聖戦を迎えることとなりますが、様子をみつつこちらからも聖闘士の応援を出しましょうぞ。時渡りの枠は24人。早々に枠を使い切るのは得策ではありませぬが、必要とあらば黄金聖闘士をこちらに送り込むこともありましょう。ご承諾いただけますかな?アテナ。」

 

 

「教皇と黄金聖闘士の半数を失っている現状で、その申し出、心強い限りです。過去と現在を結ぶ連絡役はいかがしましょうか?」

 

「当面は私が務めましょう。そこな二人ほどではありませぬが、こちらの聖域もまた血気盛んすぎる聖闘士が多いゆえ。ただ、私もそう長居するわけにはいきませぬゆえ、追々こちらからの聖闘士がやってきた折りには、彼らに役目を引き継ぎまする。」

ばつが悪そうに目をそらしているミロとアイオリアを横目に、ハクレイは淡々と答えた。

 

「さて、では一つ実験を。。」

ハクレイは再び鏡の前へ足を進める。

 

「セージよ、聞こえるか・・・こちらは首尾良く成功じゃ。かねてよりの手はずどおり、神闘士をこちらの時代に戻してやることにいたそう。それと、聖闘士をこちらに送り込むことについても承諾いただけた。こちらからは随時情報を入れる故、人選を進めておくのじゃぞ。。」

 

「アテナ、過去の聖域、教皇の間に控える教皇セージと小宇宙を通して意識をつないでみる試みも、どうやら成功してございます。スクルドの鏡をとおせば、過去と現在に生きる者が小宇宙をつかって意識をつなぐことも出来るようですな」

 

「時空転送機能に通信機能。。便利な鏡ですね。アスガルドの神はオーディーンといいスクルドといい、私たちの常識を遙かに超える権能をお持ちのようで興味深いです。さっそくですが、私は明日より日本に戻り、溜まりに溜まった財団の仕事を片付ける予定です。ハクレイ、あなたもついてきて頂けますね? 今回の事件の鍵が日本にあるのならば、日本を探さないことには始まりませんからね。」

 

「よろこんでお供つかまつりましょう。ジャミールよりもさらに東の果て、かつては黄金の国と呼ばれ、私たちの時代には国を閉ざしていた神秘の国。今から楽しみですわぃ。」

 

 

「ところでハクレイ、途中にちょっとだけ寄り道したいと思うのですが。。?」

 せっかく日本に行くのなら、ちょっと途中で寄り道をしたい。なにか思いついたかのようにアテナが提案する。

 

 

 ハクレイは、この時代の聖域にやってきてすぐに、遙か東の彼方、五老峰に鎮座する懐かしい小宇宙に気がついていた。おそらく彼もまた、聖域に突然現れた馴染み深い小宇宙に気づいているはずだ。出来ることならぜひとも会ってみたい、二百数十年にわたる労をねぎらってやりたい、ハクレイは思った。

 

 ただ、未来を知りすぎることで、知らず知らずのうちにそれを踏まえた行動をとってしまい、聖域の運命を変えてしまう可能性もあるだろう、それに気がついたハクレイは、アテナにそれと悟られないよう、わざと軽口をたたきつつ、話をはぐらかした。

 

「前聖戦を生き残ったのは、シオンだけではないようですな。驚かして心臓発作でも起こされたりしたら、洒落になりますまい。この時代に居れば、いつか顔を合わせることもありましょう。まずは、日本へ。」

 


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