ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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鍛冶師とサポーター

ポーションを二本一気に飲み干して10階層を眺める。8~9階層の地形に深くはないが霧が立ち込めていた。ここまでくるまでになかった初めての視野の妨害。

これが10階層か・・・・。

これまでは主にゴブリンやキラーアントを倒してきたがここからは大型級のモンスターが出現する。更に迷宮の武器庫(ランドフォーム)という天然武器をモンスターが使ってくる。その為通常より倒しにくくなる。

だけど、そうでなくてはここまで来た意味がない。

強くなる為に私はここまで来たのだから。

階段を降りて10階層に足を踏み入れる。視野は悪いがざっと見たところモンスターは近くにいないことを確認して私は広間の方へ歩いて行くと奥の方から何かがぶつかり合う音が聞こえた。それに気になった私はその音を頼りに音がする方へ近づくと一人の赤髪の冒険者が多くのオークとインプに囲まれていた。

道理で私が来てもすぐにモンスターが来ないわけだ。

今来たばかりの獲物より弱っている獲物からいただくのは当然だもんな。

だけど、見捨てるわけにもいかないか・・・・。

私は囲まれている冒険者を助ける為、オークとインプの群れに突っ込んだ。

 

『ヒギャ!?』

 

突っ込んだ先にいたインプを背後から奇襲。奇襲されたインプは悲鳴を上げるとすぐに灰となる。そして、奇襲に気付いたモンスターは私の存在に気付く。

 

「助太刀します!」

 

「悪い!助かる!」

 

赤髪の冒険者にそう言って私はオークへと向かう。

大型級のモンスターであるオーク。ここで初めての大型級だが大して脅威は感じなかった。皮肉だがオッタルと向かい合った時の方が脅威を感じた。

 

『ブゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』

 

雄叫びを上げるオークは迎撃するように天然の武器である棍棒を高く振り上げる時に遅いと私は思った。オッタルと戦った影響だろうか?

いや、今は倒すことに集中するとしよう。

意識を切り替えた私は棍棒を振り上げるよりも早くオークの横腹を斬る。緑色の鮮血が飛び散り、オークは悲鳴を上げるが私は背後からオークの胸を夜桜で突き刺して斬り払うとオークは灰になり、続けてくるオークやインプ達に向かって私はひたすら斬り払った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ」

 

囲まれていたオークとインプ達を倒して周囲に他のモンスターがいないことを確認して私は一息入れる。

初めての大型級だったけど倒すことができた。特に危険もなかったししばらくはここでモンスターを倒していくとしよう。

そう考えていると先ほどオーク達に囲まれていた赤髪の冒険者が私の方へ寄ってきた。

 

「マジで助かったぜ。助太刀サンキューな、冒険者」

 

寄ってきた赤髪の冒険者。武器は見たところ大刀だけ。背は私より高いところを見ると年上だろう。ん?冒険者?ああ、なるほど。

 

「いえ、お気になさらず。鍛冶師(スミス)一人であの数はきついでしょう」

 

「嬢ちゃん、俺のこと知ってんのか?」

 

鍛冶師(スミス)と見抜いた私に怪訝するように聞いてくる。

 

「同職が冒険者とは呼ばないでしょう?」

 

そう、もしこの人が冒険者なら他の呼び方をしていたはず。そこを冒険者と言ってきたら自分は冒険者ではないと思って当然だろう。冒険者以外でダンジョンに来る必要があるのは素材狙いの鍛冶師(スミス)と予測したがどうやら正解だったみたいだな。

 

「ハハハハ!確かにな!嬢ちゃんの言う通り俺は下っ端鍛冶師(スミス)、ヴェルフ・クロッゾだ。嬢ちゃんの名前は?」

 

「柳田桜。桜でいいですよ。クロッゾさん」

 

高笑いしながら自己紹介してくるクロッゾさんに私も名前を教える。

 

「ヴェルフでいい。家名、嫌いなんだよ」

 

「わかりました。ヴェルフ」

 

ヴェルフ・クロッゾ。確か魔剣嫌いの鍛冶師(スミス)だったな。まさか、こんなにも早く会うことになるとは思いもしなかった。

まぁ、いずれは会うことになっているだろうし別にいいか。

 

「さて、桜。お前は俺の命の恩人だ。俺に出来ることなら何でも言ってくれ」

 

「いいんですか?」

 

「もちろんだ。恩は返さねえと俺の気が済まねえ」

 

義理堅い性格なんだな。まぁ、私にとってもありがたい話でもあるか。

 

「防具は作れますか?」

 

「もちろんだ。いい作品を作ってみせるぜ。ところでよ、恩人にこんなことを頼むのもどうかと思うんだが、桜の武器見せてくれねえか?」

 

「いいですよ。ですが、その前に」

 

武器をかまえる私の視線の先には数体のオーク。それを見たヴェルフも武器である大刀をかまえる。先ほどよりかは数は少ないが更に出てくる可能性も考慮してさっさと倒すとしよう。

 

「倒して後でゆっくり話しましょう」

 

「だな」

 

そして、私はヴェルフと一緒にオークを倒してダンジョンの外へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェルフと出会っていつもより早く切り上げた私はダンジョンの外に出た私はまずはギルドでエイナへと報告に向かった。

 

「良かった~、ちゃんと帰って来たんだね」

 

薄っすらと涙を流しながら安堵するエイナに私はここまで心配させてしまったと若干罪悪感を感じている。凄い心配してくれていたんだな・・・。

 

「でも、やけに早かったね?やっぱりまだ10階層は早かったかな?」

 

「いえ、特に問題はありませんでした。ただ10階層で出会ったヴェルフを助けまして早く出てきたんですよ」

 

「・・・・ヴェルフ?もしかしてヴェルフ・クロッゾさんのこと?」

 

「そうですが?ああ、もしかして私が魔剣でもヴェルフに要求するとでも思っているんですか?」

 

思案顔するエイナより先に私はハッキリと答えると意外そうな顔で私を見る。

 

「クロッゾのことについて知ってたの?」

 

「ある程度ではありますが」

 

うろ覚えの原作知識で、だけど。

まぁ、使いたくないと言えば嘘になるけど。それでも私には必要ない。

 

「私は特に魔剣には興味がありませんから」

 

「・・・・うん、わかった。でも、ダンジョンに潜る時は絶対に無事に帰ってきてね!」

 

「はーい」

 

最後に釘を刺されて魔石を換金して外で待っているヴェルフと合流した。

 

「お待たせしました。ヴェルフ」

 

「ああ、じゃ、俺の工房へついて来てくれ」

 

神妙な顔で歩き出すヴェルフ。恐らく私とエイナとの話を聞いていたのだろう。

まぁ、普通なら考えられないような。クロッゾの魔剣は富と名声をかき集められる魔法の剣。それを欲しがらない私に疑問を抱くのは仕方がないか。

軽く息を吐きながら私はヴェルフについて行くと北東のメインストリートを向けて都市の端にある工業地帯へと足を運んだ。

 

「ここが俺の工房だ」

 

ヴェルフの工房へ入るとそこはまさに鍛冶師(スミス)の仕事場。武器や防具を作るための炉や専用の道具が数多く並んでいた。

 

「悪いな、汚い場所で。少しだけ我慢してくれないか?」

 

「全然大丈夫ですよ」

 

本拠(ホーム)と大して変わらないから。むしろ、主神が汚すからこっちのほうがまだ綺麗に感じる。帰ったら掃除でもするとしよう。

 

「取りあえず、まずは採寸させてくれ。せっかくだからお前専用の防具を作ろうと思う」

 

「それは嬉しいですが、私はあまりお金は持っていませんよ?」

 

「恩人から金は取らねえよ。それにお前の相棒たちを見せてくれるんだ。金を取るようなみっともねえ真似はしねえ」

 

本当に義理堅いな。そう思いながら支給品のライトアーマーと上着を脱いで薄着になり、ヴェルフに採寸してもらう。

 

「そういや、桜はなんか希望はあるか?」

 

採寸しながらヴェルフはそう聞いてきて私は考える。

私は基本的に攻撃される前に攻撃することが多い。下手に重装備で防御を固めるより、動きやすさを重視したほうがいいだろう。

万が一のことも考えてプロテクターもあれば気休めの防御は出来るだろうし。

 

革鎧(レザーアーマー)にプロテクターが欲しいですね。動きやすさを重視にして次に防御力があればいいです。プロテクターも出来る限り軽量で気休め程度の防御力があればいいのですが、出来ますか?」

 

「もちろんだ。客の要望に応えるのも鍛冶師(スミス)の仕事だ」

 

了承を得てヴェルフは採寸を終わらせると炉に火を入れる。私は服を着なおして10階層で取れたオークの皮をヴェルフに渡す。

せっかく作ってくれるのに何もしないわけにもいかないしな。

火を調整してよくなったのかヴェルフは一呼吸しながら立ち上がる。

 

「炎の調子が良くなるまで少し時間がある。その間に見せてはくれねえか?」

 

「はい。いいですよ」

 

私は夜桜と紅桜を外してヴェルフに渡す。鞘から刀を抜いて興味深そうに見るその顔は職人の顔だった。

 

「すげえ・・・どっちも立派な武器だ。相当腕の立つ鍛冶師(スミス)が作ったんだろうな」

 

そうだろうな、と私も内心でそう思った。

支給の剣ではあっという間に刃こぼれするが、夜桜と紅桜はダンジョンに潜るたびに研いでいるとはいえ刃こぼれ一つすらしていない。

使っている私も満足する立派な相棒たちだよ、本当に。

ヴェルフはもう満足したのか鞘にしまい、私に渡してくる。

 

「もう十分だ。サンキューな」

 

「いえ、防具を作ってくれるんです。これぐらいはかまいませんよ」

 

夜桜と紅桜を受け取って腰に収める。すると、ヴェルフは申し訳なさそうに私に言ってきた。

 

「実はさ・・・桜とアドバイザーが俺のことを話しているところを盗み聞きしちまってよ。桜が俺のこと知って魔剣を要求してくるか疑っちまった。悪い」

 

「別にいいですよ、それぐらい。それに今までそういう人たちを相手にしていたら疑うのも無理はないですし」

 

私は職人ではないが、少なくとも同じ立場ならそういう奴らには絶対に作らない。

 

「・・・・聞いてもいいか?桜はどうして魔剣を欲しがらないんだ?」

 

問いかけてくるヴェルフの表情は真剣そのもの。まぁ、無理もないか。今までヴェルフの周りには鍛冶師(スミス)としてのヴェルフではなく魔剣が打てるクロッゾのヴェルフとして見てきた。そんな中でそいつらと逆の位置にいる私を疑い、疑問に感じるのは当然といえば当然か。

 

「一般的に考えたら確かに魔剣という存在は素晴らしいと思います。魔法が使えない冒険者にとっては猶更そうでしょう。私はクロッゾの魔剣がどのようなものかはわかりませんが、聞く限り凄いのでしょう」

 

「・・・・ああ、俺が言うのもどうかとは思うがな」

 

苛立っているのか頭を乱暴に掻きながら眉間に皺を寄せるヴェルフだけど私は気にせず続きを話す。

 

「だけど、最終的砕ける剣を欲しがる理由がないですね。少なくとも私はそう思います。」

 

私の言葉に目を見開くヴェルフ。いや、そこまで驚くことだろうか?

 

「私はヴェルフのように魔剣の存在を否定しません。砕けるとしても使い方や使い手次第で良くも悪くもなります。ただ、私的には砕ける魔剣より、長持ちする武器の方がいいですね。ダンジョン内で砕けてしまったらモンスターの餌食になってしまいますし、ああ、それに魔剣って確か高かったですよね?それなら魔剣に大金は使いたくないな」

 

むしろ、大金があれば今の本拠(ホーム)をリフォームする。それか生活費の足しにする。うちの主神はどうも散財癖があるから今でも油断が出来ないんだよな。

主神のことに頭を悩ませるとヴェルフが腹を抱えながら笑うことを堪えていた。

 

「く・・・・ハハ・・・・桜・・・・お前変わってんな」

 

「酷いですね。私は正直に答えただけですよ」

 

「悪い悪い」

 

笑みを浮かばせながら私の頭をポンポンと叩くヴェルフの表情はどこか吹っ切れたかのように清々しい顔をしながら壁に吊るされている槌を手に取る。

 

「よし!桜、明日また来てくれ!それまでには俺が打てる最高の代物を用意しといてやる!」

 

「楽しみしていますよ、ヴェルフ」

 

気合が入ったヴェルフを後に私は工房を出る。

しばらくしてから心地いい金属の打撃音が鳴り響いていた。

私は本拠(ホーム)へ帰って掃除でもしようと思っていると白髪が視界に入り、すぐにベルだと気づいた。

ベル、装備変えた?

黒地のインナーにライトアーマー。左腕には緑玉色(エメラルド)のプロテクター。

明らかに前見た時とは違う装備。だけど、それ以上に気になるのはベルの隣にいる小人族(パルゥム)だ。

あれって、リリルカ・アーデ?

まさか一日で主人公に関わるキャラと会うとは。世の中何が起こるかわからないな。

 

「ベル。ダンジョンの帰りか?」

 

「あ、桜。うん、リリのおかげでいつもより多く稼げたんだ!」

 

「そんなことありません、全てはベル様の実力あってこそですよ。ところでベル様、こちらの方がベル様が仰っていた桜様でございますか?」

 

「うん、僕と同じファミリアの仲間だよ」

 

「そうですか」

 

ベルに私のことを聞くと私の前までやってくるりリルカ・アーデ。

 

「初めまして、桜様。リリの名前はリリルカ・アーデです。リリとお呼びください」

 

「柳田桜だ。桜でいい」

 

子供らしい笑顔の反対にリリの目は怪しく光っていた。いや、怪しくというより憎んでいるが正しいか?しかし、どうしようか。恐らくリリはもうベルからナイフを盗んでいる。

別にそれはいい。盗まれるベルが悪いだけだし、お人好しのベルにはいい薬だ。

この後が面倒なんだよな。リリのことを知った神ヘスティアがリリに目を付けるように言ってくる可能性がある。

神ヘスティア、女神だけど基本的子供だからな。はぁ~・・・・。

 

「いかがなさいましたか?桜様」

 

「いや、何でもない」

 

内心で溜息を吐いているとリリが私の様子を伺ってきたが何事もないように答えてリリの耳元でつぶやく。

 

「盗みはほどほどに。それとベルはお前を裏切ったりしないさ」

 

「ッ!?」

 

驚くリリの肩を軽く叩いて私はベルに視線を向ける。

 

「ベル。悪いけどしばらくはリリと二人でダンジョンに行ってくれ。私は私でやりたいことがある」

 

「うん、それはいいけど。今、リリになんて言ったの?」

 

「女同士の秘密だ。なぁ、リリ」

 

「そ、そうですよ、ベル様!リリと桜様の秘密です!」

 

「う、うん。ごめん・・・」

 

切羽詰まったように言うリリにベルは引きながら謝罪した。それに対してリリは怯えた目で私を見ているがそれは当然だろう。会ったばかりの奴に盗みがバレているのだから。

 

「じゃ、ベル。私は先に帰っているけどちゃんとエイナさんのところに寄ってから帰ってきなよ」

 

「うん。リリはどうする?」

 

「リリはこの後用事がありますので・・・」

 

その後、私達は別々に別れる。一足早く帰って来た私は本拠(ホーム)を見渡すとやはり汚れている。主に汚す原因は神ヘスティアのせいだが。

はぁ~、掃除するか・・・・。

私は溜息を吐きながら掃除に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

ベルと桜と別れたリリルカ・アーデはベルから盗んだ漆黒のナイフを持ったまま焦るように馴染みであるノームの店へと向かっていた。

 

「なんなんですか・・・なんなんですかあの人は・・・・」

 

思わず口に出してしまうぐらいリリは焦っていた、いや、恐れていた。その理由は先ほど会った柳田桜である。初めて会ったにも関わらず盗みがバレた。

しかも、それを同じファミリアであるベルにも告げず、黙秘した。

いったい何を考えているのかリリには理解できなかった。いや、それ以上にあの時の桜のつぶやきがリリの耳から離れなかった。

 

『盗みはほどほどに。それとベルはお前を裏切ったりしないさ』

 

裏切ったりしない。その言葉を思い出すたびにリリは首を横に振る。

リリルカ・アーデは冒険者が大っ嫌いだ。サポーターという理由で自分を卑下する。

当然のように金を奪われ、暴力を振るわれる。

一般人に成りすましても仕事にありつけてもすぐに連れ戻される。

小さな幸せさえも冒険者は壊す。

リリは・・・リリは信じません・・・・どうせ冒険者なんて一緒なんです・・・。

そう自分に言い聞かせるリリはノームの店まで走った。

 

 


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