ダンジョンに生きる目的を求めるのは間違っているだろうか   作:ユキシア

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正直になれ

今日は久々に開店して私は来る客に料理を作っていく。

昼間は一気に客が押し寄せてはきたが今は落ち着いて私は料理の仕込みをしていると店の扉が開いて視線を向ける。

 

「桜」

 

「いらっしゃい、姉さん」

 

ラキア王国と戦争中のはずの姉さんが店にやって来てカウンター席に座る。

 

「戻ってこれたってことはラキア王国との戦争は終わったの?」

 

「……ううん、敵の狙いが都市内みたいだから」

 

姉さんの話ではラキア王国は戦争を長引かせて都市内の何かを目的に動いているらしい。

そこで団長であるディムナさんが団旗だけ残して後は【フレイヤ・ファミリア】に任せて一時帰宅。

いや、任せたというより押し付けたんでしょう……ディムナさん。

爽やかな笑みの下に隠された腹黒い正体に若干戸惑う。

 

「桜は最近変わったこととかない?」

 

「んーないかな?」

 

問題児たちの面倒を見ていることぐらいしかしてないからな。

 

「何かあったら言って。お姉ちゃんが助けに行くから」

 

「はいはい、期待して待ってるよ。姉さん」

 

自分の身は自分で守れるけどそう言ったら落ち込むだろうな……。

やる気になっている姉さんの顔を見てそう思いつつ私は姉さんの料理を決めさせて調理を始める。

 

「………」

 

………。

 

「………」

 

………。

 

「………」

 

「……………姉さん、気が散るからジャガ丸くんでも食べてて」

 

じっと眺めてくる姉さんに私はジャガ丸くんを姉さんに渡す。

ずっと見られるとこっちが落ち着かない。

小、中学校の時の授業参観を思い出したぞ。

ジャガ丸くんを頬張りながらも私に視線を外さずにじーと見てくる姉さんに若干呆れつつ溜息を出す。

 

「あ、塩が切れてる。ティア、悪いけど塩を取ってきてくれ」

 

調理中に塩が切れている事に気付いた私は裏で働いているティアに声をかけると少ししてティアは塩を持っていてくれた。

 

「ありがとう」

 

塩を持って来てくれたティアの頭を撫でて礼を言っていると姉さんが急に椅子から立ち上がった。

突然のことにティアは驚いて私の後ろに隠れてしまう。

 

「姉さん、どうしたんだ?急に立つとティアが驚くんだけど」

 

「さ、桜………」

 

口をパクパクさせながら姉さんは私の後ろに隠れているティアを指して言った。

 

「いつの間に子供ができたの……?」

 

「おい」

 

「お姉ちゃん、結婚式に呼ばれてない………」

 

「おいこらそこの姉」

 

「相手は誰?ベル?」

 

「ハッ倒すぞ、この天然姉(バカ)ッッ!!」

 

姉さんの天然発言に思わず叫んでしまった。

子供も作ったことないし、結婚だってしてないわ!!

 

「……この子はティア。私達【ヘスティア・ファミリア】の仲間であり、【ファミリア】唯一の魔導士だ。ほら、ティア、お前も挨拶」

 

心の叫びを呑み込んで私はティアを姉さんの前に誘導させるとティアは俯きながら挨拶する。

 

「ティ、ティア・ユースティです………」

 

ペコリとお辞儀をするティアはすぐに私の後ろに隠れてしまう。

 

「ごめん、姉さん。ティアは人見知りが激しいから知らない人だとこうなんだ」

 

「ううん、気にしてない」

 

首を横に振る姉さんは本当に気にしていないようだ。

私はそっとティアの耳を見せると姉さんはすぐにティアがエルフだと気づいてくれた。

 

「エルフ……なんだ」

 

「そう、だからティアは私の子共じゃないから」

 

取り合えず勘違いを解くと姉さんもティアに挨拶する。

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン。桜のお姉ちゃんです」

 

「お姉さま……?」

 

「自称が前に付くけど」

 

「自称じゃないもん……」

 

怪訝そうに私達を見るティアに私はそう答えたら姉さんが頬を膨らませて異議を唱えた。

いや、自称だろう……。

というよりもんって……。

色々言いたいことはあるけど呑み込もう。

 

「ティアはこの通りまだ幼い。だから私が基本的に面倒を見ているんだ」

 

というより私以外にまともに面倒を見れるのが春姫ぐらいだな。

後は命か。

ヴェルフは面倒は見れるだろうが女の子相手だとやりずらいだろうし、ベルだと厄介事に巻き込まれる可能性が高い。

リリはリリで変な影響を与えそうだし、神ヘスティアは論外だ。

うん、どう考えても私が面倒を見て正解だったな。

そんなやり取りの中で私は料理を完成させて姉さんに渡す。

 

「やっぱり桜の料理は美味しい………」

 

「ありがとう、姉さん」

 

料理を満喫する姉さん。

 

「桜は本当に何でもできるね……」

 

「ただ経験が豊富なだけ。見栄を張れるほどじゃないし、料理ぐらい女ならできるようにならないと」

 

「うっ」

 

私の言葉に胸を押さえる姉さんに私は姉さんが料理が出来ないことを思い出した。

 

「……私、お姉ちゃんなのにお姉ちゃんらしいことができない」

 

暗い表情を浮かべて落ち込む姉さんは口から姉の威厳が……などと言っているが安心して欲しい。

初めから姉の威厳など姉さんにはないから。

 

「料理、教えようか?」

 

「………妹に教われない」

 

「はい、妙な意地を張らない」

 

姉の威厳を守りたいのか妙な意地を張る姉さんの為に今日はもう閉店させて私は姉さんに料理を教えることにした。

ああそうだ、ついでだ。

 

「ティア、ベルを呼んできてくれ」

 

「は、はい」

 

恋に頑張っているベルに姉さんの手料理を食べさせてやろう。

私は裏から予備の前掛(エプロン)を姉さんに手渡すと姉さんは苦悶な表情をしながらもしぶしぶと受け取った。

 

「さ、桜、どうし―――アイズさん!?」

 

「あ、ベル。今からお前に……どうした?」

 

姉さんの手料理を食べさせてやると言おうと思ったがベルの顔を見て止めた。

 

「ベル?」

 

姉さんも普段とは違うベルの様子に首を傾げる。

 

「ベル、悩み事があるなら話せ」

 

「え、えっとそれよりどうしてアイズさんがここに?」

 

「話せ」

 

「あ、はい」

 

私の言葉にベルは素直に応じてくれた。

 

「桜、怖い………」

 

隣で姉さんが何か呟いているが気にはしない。

ベルは素直に口を開いて悩み事を私達に話した。

驚くことにそれはリリの縁談。

しかもリリの縁談相手があのディムナさんだ。

同じ小人族(パルゥム)としての縁談なのだろうけど……なるほどな。

 

「それで?それをリリに言ったのか?」

 

「………うん」

 

それを聞いて私は呆れた。

 

「リリは怒っていただろう?」

 

「ど、どうして桜がそれを知ってるの!?」

 

リリの心境は最悪に等しいだろうな。

惚れた相手から他人との縁談を持ちかけられるなんて……断れないベルの性格も知っているから余計だ。

しかし、このままでは二人の仲がこじれてしまうな。

 

「まぁ、私はいいと思うぞ?相手は姉さんがいる【ロキ・ファミリア】でリリと同じ小人族(パルゥム)の中でも有名なディムナさんだ」

 

「桜……?」

 

「リリの過去を思い出してみろ、ベル。悲惨な生活を送って来たリリにとってまたのないチャンスだ。もう飢えを感じることも貧しい生活もすることもなくのんびりと豊かに生活ができる。ディムナさん自身も信用もできるから私も安心だ」

 

まぁ少々腹黒いところもあるけどそれを含めていい小人族(パルゥム)だからな、ディムナさんは。

 

「間違いなくリリは幸せになるだろう。だから私はリリが【ファミリア】を退団することになっても止めはしない」

 

「………」

 

「私がリリを引き止めるとでも思ったか?何かいい案でも出してくれると考えていたか?どうして私がリリの幸せを妨害しなければならない」

 

「……………桜、僕は」

 

「勿論ベルもそのつもりでリリに縁談を勧めたんだろう?なのに何でそんな顔をしているんだ?」

 

手鏡を取り出してベルに見せつける。

 

「どうしてお前がそんな感情を押し殺しているかのような顔をしている?」

 

手鏡をしまって私はベルの両頬を押さえて目を合わせる。

 

「正直になれ、ベル・クラネル。お前が本当にしたいことをしろ。我儘を貫いて周囲に迷惑を掛けたら説教して一緒に頭を下げてやる」

 

手を離すともうベルの目に迷いはなかった。

 

「桜……僕はリリを探しに行ってくる」

 

「今の気持ちをちゃんとリリに伝えろよ?」

 

ベルは勢いよく本拠(ホーム)を出て行った。

まったく、世話のかかる………。

 

「桜は凄いね………」

 

ベルを見送っていると姉さんが私の頭を撫でてきた。

 

「桜はお姉ちゃんの自慢の妹だよ」

 

頬を朱色に染めて褒めてくる姉さんに私は笑みを漏らして告げる。

 

「いくら褒めても手は抜かないから」

 

「……………」

 

そっと目を逸らす姉さんに私は溜息をつく。

意外に抜け目がないな、姉さんは………。

 


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